神奈川県保険医協会とは
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2025/6/5 政策部長談話「皆保険制度の医療に背を向ける 財政審『建議』に反対する」
皆保険制度の医療に背を向ける
財政審「建議」に反対する
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
◆地域医療を支え、安心・安全を保障する医療費総枠の拡大が必須
政府の経済財政諮問会議は5月26日、「骨太方針2025」の骨子案を示し、医療など「公定価格の引き上げ」を書きこんだ。医療現場の経営難、雇用難、人材流出の窮状を鑑みたものと解される、これへ、財政制度等審議会は翌5月27日、春の「建議」を発表し、医療費の更なる適正化を盛り込んだ。再診料の「外来管理加算」の包括化、「機能強化加算」の廃止など具体的に踏み込み、職員給与の「見える化」が公定価格の検討の要件だ、医療の将来理想像が大事、現役世代の保険料負担の抑制が必須など、論点のすり替えや現状の窮状の放置、一顧だにしない姿勢に終始した内容となっている。
医療法人の経常利益の最頻値は「0.0~1.0%」(R4年度・R5年度)にすぎず、全産業の賃上げ率4.1%(2024年度)に医療・福祉は2.5%で遠く及ばない(中医協2025.4.23)。
われわれは、医療費総枠を高齢化分に抑制する方針を転換し、物価・賃金上昇に対応し、経営安定と医療者の技量発揮に資するよう、診療報酬の引き上げを強く求める。
◆医療保険制度は保険料で支え、公費が補完する 医療が消失したら元も子もない 「目安」対応で10年
財政審「建議」も言うように、医療保険制度は相互扶助の仕組みである。主に保険料の拠出で支えられ、制度の財政基盤が脆弱な国民健康保険などへ公費(国費等)が支出され成り立つ「共有地」である。この医療費の規模により、医療内容、医療水準が規定され、地域の医療体制や存立が制約を受ける。
国庫負担は、医療費全体の1/4を占めるに過ぎない。しかし、予算編成で「社会保障関係費」として規模が決まり、これにより次年度の医療費規模が規定され、保険料の規模も決まる関係にある。
団塊世代の高齢化による当然増や技術進歩等の構造的要因により医療費増加となるが、2016年度以降は、「高齢化による増加分に相当する水準におさめる」ことを「目安」として歳出抑制、医療費抑制が連綿と図られてきた。その間、10年近く診療報酬はマイナス改定であり、累積で▲4.04%になる。
ここへ近年、物価・賃金の上昇が重なっている。医療現場へのシワ寄せ、経営苦境は火を見るより明らかである。2024年の医療機関の倒産は64件、休廃業・解散は722件となり、それぞれ過去最多を更新した。倒産、休廃業・解散ともに「診療所」と「歯科医院」が急増し過去最多となったことで全体を押し上げている(帝国データバンク)。公定価格の医療費総枠拡大は、社会状況から見て道理である。
「建議」は「現役世代の保険料負担の軽減」を錦の御旗とし、医療費抑制、社会保障関係費(国庫)の抑制を言い募るが、それでは更に「共有地」が枯渇する。保険あって医療なしでは本末転倒となる。
歳入の増加分や名目GDPの上昇分に比べ医療費の伸びは少ない。消費税収の上振れ分など工面の余地はある。
◆第一線医療を犠牲にすれば、医療のドミノ倒しが始まる 医療は経済波及効果が高い成長産業
財政審「建議」は全体の半分の紙幅を医療に割き、第一線医療を担う、診療所や中小病院の診療報酬の点数項目の改廃にも踏み込んでいる。再診料の「外来管理加算」の包括化や初診料の「機能強化加算」廃止をいうが、各々2,654億円、216億円の計2,870億円に相当(R5社会医療診療行為別統計より算出)し、実施されれば改定率▲0.6%に相当する。これはR6年度(2024年度)改定での、①生活習慣病管理料や処方箋料等の再編等による▲0.25%の倍以上であり、②ベースアップ評価料の+0.6%を帳消しにする規模となる。皆保険制度の医療の充実へ完全に背反している。
「建議」は保険料の上昇が賃金の伸びの範囲内にとどまると触れ、医療費抑制の「指標」化を暗に示唆しているが、目標の第一に掲げた「活力ある経済社会の実現」により、医療を支える保険料の増加を期すべきである。そのためにも、社会保険の医療制度の基盤を弱体化させず強靭化するのが本道である。
医療、社会保障は所得再分配機能を持ち、雇用効果・経済波及効果も高い。厚労白書など政府文書でも確認されてきている。いわば「灌漑施設」であり、「積極的に社会保障政策を展開することは、成長戦略」(権丈善一・慶應大学商学部教授)でもある。医療費総枠拡大、「目安」対応撤廃を改めて求める。
2025年6月5日
【参考資料】
①経常利益率の最頻値は「0.0~1.0%」―医療機関は地域に点在しており、多くの医療機関が経営苦境
〇医療法人経営情報データシステム(MCDB) 令和4年度・5年度の医療法人の利益率(経営する施設の類型別)
②2016(H28)年度以降の診療報酬の改定率の推移―累計▲4.04%
*(1+▲1.33%)×(1+▲1.19%)×(1+▲0.07%)×(1+▲0.46%)×(1+▲0.94%)×(1+▲0.12%)=1+▲4.04%(累計)
③医療機関の倒産は64件、休廃業・解散は722件と過去最多を更新
<出典>
・①②は中医協2025.4.23資料より
・③は帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)」より
④医療費・GDP・消費税収等の年度別推移―歳入の増加分や名目GDP上昇分に比べ医療費の伸びは少ない
作成・神奈川県保険医協会政策部
皆保険制度の医療に背を向ける
財政審「建議」に反対する
神奈川県保険医協会
政策部長 磯崎 哲男
◆地域医療を支え、安心・安全を保障する医療費総枠の拡大が必須
政府の経済財政諮問会議は5月26日、「骨太方針2025」の骨子案を示し、医療など「公定価格の引き上げ」を書きこんだ。医療現場の経営難、雇用難、人材流出の窮状を鑑みたものと解される、これへ、財政制度等審議会は翌5月27日、春の「建議」を発表し、医療費の更なる適正化を盛り込んだ。再診料の「外来管理加算」の包括化、「機能強化加算」の廃止など具体的に踏み込み、職員給与の「見える化」が公定価格の検討の要件だ、医療の将来理想像が大事、現役世代の保険料負担の抑制が必須など、論点のすり替えや現状の窮状の放置、一顧だにしない姿勢に終始した内容となっている。
医療法人の経常利益の最頻値は「0.0~1.0%」(R4年度・R5年度)にすぎず、全産業の賃上げ率4.1%(2024年度)に医療・福祉は2.5%で遠く及ばない(中医協2025.4.23)。
われわれは、医療費総枠を高齢化分に抑制する方針を転換し、物価・賃金上昇に対応し、経営安定と医療者の技量発揮に資するよう、診療報酬の引き上げを強く求める。
◆医療保険制度は保険料で支え、公費が補完する 医療が消失したら元も子もない 「目安」対応で10年
財政審「建議」も言うように、医療保険制度は相互扶助の仕組みである。主に保険料の拠出で支えられ、制度の財政基盤が脆弱な国民健康保険などへ公費(国費等)が支出され成り立つ「共有地」である。この医療費の規模により、医療内容、医療水準が規定され、地域の医療体制や存立が制約を受ける。
国庫負担は、医療費全体の1/4を占めるに過ぎない。しかし、予算編成で「社会保障関係費」として規模が決まり、これにより次年度の医療費規模が規定され、保険料の規模も決まる関係にある。
団塊世代の高齢化による当然増や技術進歩等の構造的要因により医療費増加となるが、2016年度以降は、「高齢化による増加分に相当する水準におさめる」ことを「目安」として歳出抑制、医療費抑制が連綿と図られてきた。その間、10年近く診療報酬はマイナス改定であり、累積で▲4.04%になる。
ここへ近年、物価・賃金の上昇が重なっている。医療現場へのシワ寄せ、経営苦境は火を見るより明らかである。2024年の医療機関の倒産は64件、休廃業・解散は722件となり、それぞれ過去最多を更新した。倒産、休廃業・解散ともに「診療所」と「歯科医院」が急増し過去最多となったことで全体を押し上げている(帝国データバンク)。公定価格の医療費総枠拡大は、社会状況から見て道理である。
「建議」は「現役世代の保険料負担の軽減」を錦の御旗とし、医療費抑制、社会保障関係費(国庫)の抑制を言い募るが、それでは更に「共有地」が枯渇する。保険あって医療なしでは本末転倒となる。
歳入の増加分や名目GDPの上昇分に比べ医療費の伸びは少ない。消費税収の上振れ分など工面の余地はある。
◆第一線医療を犠牲にすれば、医療のドミノ倒しが始まる 医療は経済波及効果が高い成長産業
財政審「建議」は全体の半分の紙幅を医療に割き、第一線医療を担う、診療所や中小病院の診療報酬の点数項目の改廃にも踏み込んでいる。再診料の「外来管理加算」の包括化や初診料の「機能強化加算」廃止をいうが、各々2,654億円、216億円の計2,870億円に相当(R5社会医療診療行為別統計より算出)し、実施されれば改定率▲0.6%に相当する。これはR6年度(2024年度)改定での、①生活習慣病管理料や処方箋料等の再編等による▲0.25%の倍以上であり、②ベースアップ評価料の+0.6%を帳消しにする規模となる。皆保険制度の医療の充実へ完全に背反している。
「建議」は保険料の上昇が賃金の伸びの範囲内にとどまると触れ、医療費抑制の「指標」化を暗に示唆しているが、目標の第一に掲げた「活力ある経済社会の実現」により、医療を支える保険料の増加を期すべきである。そのためにも、社会保険の医療制度の基盤を弱体化させず強靭化するのが本道である。
医療、社会保障は所得再分配機能を持ち、雇用効果・経済波及効果も高い。厚労白書など政府文書でも確認されてきている。いわば「灌漑施設」であり、「積極的に社会保障政策を展開することは、成長戦略」(権丈善一・慶應大学商学部教授)でもある。医療費総枠拡大、「目安」対応撤廃を改めて求める。
2025年6月5日
【参考資料】
①経常利益率の最頻値は「0.0~1.0%」―医療機関は地域に点在しており、多くの医療機関が経営苦境
〇医療法人経営情報データシステム(MCDB) 令和4年度・5年度の医療法人の利益率(経営する施設の類型別)
②2016(H28)年度以降の診療報酬の改定率の推移―累計▲4.04%
*(1+▲1.33%)×(1+▲1.19%)×(1+▲0.07%)×(1+▲0.46%)×(1+▲0.94%)×(1+▲0.12%)=1+▲4.04%(累計)
③医療機関の倒産は64件、休廃業・解散は722件と過去最多を更新
<出典>
・①②は中医協2025.4.23資料より
・③は帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)」より
④医療費・GDP・消費税収等の年度別推移―歳入の増加分や名目GDP上昇分に比べ医療費の伸びは少ない
作成・神奈川県保険医協会政策部