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TOP > 神奈川県保険医協会とは > 私たちの考え > 2025/11/28 政策部長談話「診療所(個人立)も経営悪化顕著 実質6割は赤字 歯科は貧困経営 病院は深刻 診療報酬の大幅引き上げは道理 」

2025/11/28 政策部長談話「診療所(個人立)も経営悪化顕著 実質6割は赤字 歯科は貧困経営 病院は深刻 診療報酬の大幅引き上げは道理 」

 

診療所(個人立)も経営悪化顕著 実質6割は赤字 

歯科は貧困経営 病院は深刻 診療報酬の大幅引き上げは道理


神奈川県保険医協会

政策部長  磯崎 哲男

 


◆医療崩壊に直面する惨状が改めて中医協で明確に 総合経済対策の「底上げ」措置を活かす改定へ

 診療報酬改定へ向け1126日、中医協は第25回医療経済実態調査の結果を公表した。概況は先に公表されている「医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)」による「医療法人の経営状況」と同様に、病院の深刻な経営悪化と赤字病院の多さ、診療所の経営悪化、歯科診療所の苦境となっている。総じて「減収減益」構造となっており、病院は損益差額が平均値も中央値も赤字で多額、診療所(全体)の3割は損益差額が赤字で最頻階級も赤字、歯科診療所(医療法人)は2割が赤字である。重層構造で診療連携と機能分担を図っている地域医療は早晩、地滑り的に崩落する危険性が高い

 高市内閣は所信表明どおり、1121日に総合経済対策を閣議決定し、「医療・介護等支援パッケージ」による緊急措置で、医療機関の賃上げ「プラス3%、半年分」を措置するとした。この補正予算措置は「診療報酬の底上げ」を意味すると田村・自民党政調会長代行が既に説いている。

 つまり、この土台を無にしないため、来年6月実施の診療報酬改定は「プラス3%以上」が必須となる。これに骨太方針2025が約束した「物価上昇分」と「医療経営の安定分」、「医療の高度化分」を加えた大幅プラス改定は道理となる。その実現をわれわれは改めて強く求める。

 

◆診療所は個人立も医療法人と同様に経営は厳しい 7割は経営悪化 損益差額1,500万円以下は4割

 財政制度等審議会分科会で診療報酬引き下げの標的とされた診療所に関し、既に1029日の中医協では反証されている。医療法人立に関しては、2024 年度医業利益が赤字の診療所は全体の約4割であり、本業以外の補助金を含んでも経常利益率は「0.0%~1.0%」が最頻値となっている。事業収入1億円で経常利益100万円に過ぎない。

 財務省は中医協の医療経済実態調査の個人立のデータを見て評価したいとしていたが、医療法人と同様に数字は酷い。個人立の損益額は事業体としての数字であり、そこには借入金返済や設備更新費用、税金の負担、そして院長報酬が含まれている。すべてが院長報酬ではない。

 個人立(無床)診療所の24年度の損益率は28.3%で23年度より4.0ポイント下落。損益差額2,656.4万円は、医療法人立(無床)診療所の院長給与2,871.6万円にも満たない。この平均値より内実は酷い。 

 最頻損益差額階級の損益状況では、個人立(無床)診療所の院長給与含む損益差額は749.1万円に過ぎない。損益率は13.4%しかなく23年度より3.9ポイント下落である。しかもこの数字は減収分を補うために給与費や減価償却費、委託費を少しずつ圧縮し、費用減の経営努力をした上での数字である。

 損益差額階級別施設数でみると、損益差額が病院勤務医の給与約1,500万円以下が全体の39.2%に上り、5.6%は赤字であり院長の給与すら捻出できない。実際は医療法人程度の院長給与2,500万円が最低限差し引かれるため、損益差額2,500万円以下は実質赤字であり、実に58.6%、約6割に及ぶ。

 23年度よりも24年度の損益率がマイナスとなった経営悪化は、個人立診療所の73.4%に上っており、医療法人立診療所の67.7%より広範囲に及んでいる。診療所の開設者は個人立が36.8%、医療法人立が45.3%の構成1となっており、両者で全体の8割超を占める。深刻である。

 

◆歯科診療所は個人立も医療法人立も最頻層は赤字のワーキングプア状態 

 歯科診療所(医療法人)は、損益率の変動はほぼないが24年度は5.5%と低い。個人立も同様に変動がほぼなく、24年度は損益率29.8%、院長報酬を含んだ損益差額1,562.2万円であった。医療法人立の歯科診療所の院長給与が1,458.4万円なので、仮にこれを差し引くと損益額は103.8万円しか残らず、損益率は1.9%と2%を割り込む。

 最頻損益差額階級の損益状況では、医療法人の損益差額▲1,408.7万円、損益率▲11.1%と酷い。23年度から倍化している。個人立は損益差額634.0万円、損益率21.9%であり、ここから院長給与と設備更新費用、税金等を捻出することになる。極貧のワーキングプア状態での経営水準にある。

 損益差額階級別施設数でみると、個人立は損益差額が医療法人立の院長給与水準以下が59.1%であり、医療法人立は33.6%で損益率が赤字である。これでは歯科医療の再生産は困難を極める。

 歯科診療所の開設者は個人立が75%、医療法人立は25%の構成1である。今回の結果は個人立の経営状況の酷さを浮き彫りにしている。自費診療収入2割の構造だが、そこに活路はないのである。

 疾病予防や健康管理が強調され、「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、良い睡眠」の標語で厚労省は健康増進を促している。口腔ケア、歯科治療は、その食事を支える土台であるが、歯科医療体制は覚束ない。

 

◆このままでは第一線医療も、持続可能性がなくなる 保険者は医療の確保が第一義

 診療所は初診患者の8割、外来患者の7割を診ている。疾病の早期発見や治療、重症化予防はじめ第一線医療を担っている。かかりつけ医機能を果たし、中小病院、大病院、基幹病院、大学病院などと連携し、「面」として地域医療を担っている。一次、二次、高次(三次)と、機能分担・役割分担の下、重層構造で地域医療は支えられている。今回の医療経済実態調査の結果は、病院と同様に、診療所の状況も看過できないことを示している。歯科診療所は殆どの外来患者を診ており、こちらも同様である。

 保険者は、被保険者の保険料の付託を受けて、医療提供(療養の給付)を約束し、自らは提供できない医療を、医療機関に準委任の形で依頼し、対価の診療報酬を審査支払機関経由で支払う関係にある。保険者の母体は企業や政府、自治体等である。被保険者への医療確保は第一義の役割である。

 田村・元厚労大臣は三重市の講演で「被保険者を考え、医療を受けられる環境を整えるのが保険者の役割の一つ。医療が実現可能なだけの、診療報酬改定を行うのが当たり前」と指摘した。至言である。

 

◆コロナ禍の尽力に冷や水を浴びせた前回改定、医療現場は限界

 1998年以降、診療報酬は実質マイナス改定の連続であり、累計▲16%強に及ぶ。これは2か月分の医業収入を吹き飛ばしたに等しい(∵1÷12<か月>=8.3%)。社会保障関係費(国費)を高齢化分の伸びに抑えた2016年以降でみても累計▲4.04%と半月分の医業収入が消失したことに匹敵する。

 開業医、開業歯科医の1/4は過労死ライン超で働いている2。報道や日医総研の論文引用もされている3。この下でも、コロナ禍、第一線医療は二次、三次医療とともに尽力し、先進諸国の中でコロナ死者数やコロナ死亡率を最小限に抑えた。しかも、コロナ禍の最中でも、医療者の尽力により、国民、県民の医療満足度は不変で向上もした4。英国のGP(一般医)は評価を激減させており、格段に異なっている。

 この経営努力と診療尽力を踏みにじり、診療所を標的に前回改定では生活習慣病管理料等を中心に▲0.25%の削減を重ねた。これでは医療の再生産、医療の質の向上は図れず、医療者の人心を荒廃させる。

 

◆消費税の機能強化分1%の上振れ分活用で大幅プラスは可能 ベースアップ評価料の廃止・見直しを

 社会保障・税一体改革で消費税5%分の増税となった際に、消費税1%分は使途を社会保障の機能強化分(充実分)とするとされた。当時の消費税収1%は2.8兆円だったが、最近は3.3兆円と5千億円上振れしている。25年度予算で機能強化分は3.3兆円超の4.1兆円が措置され各事業に充てられている。柔軟対応が図られている。ならば、上振れ分の5千億円を、医療体制強化分として診療報酬改定分に回せば、改定率プラス4%強となる。これに2014年改定以降、反故にされている中医協「建議」での「薬価引き下げ分の技術料(本体)振り替え」を復元すれば改定率1%程度はプラスでき、5%となる。医療機関が価格交渉の経営努力により薬価を引き下げ経営原資に回しているものであり無茶ではない。

 11月20日の参院財政金融委員会で医師の小林孝一郎議員(自民)がこの「上振れ」を取り上げ財務省は慎重姿勢を見せたが、再考すべきである。倒産、閉院で医療機関消失では「保険あって医療なし」となる。

 医療費は人件費の塊であり、50%を占める。人材確保、人材流出回避へ日々の経営で苦心している。前回改定で導入のベースアップ評価料の算定は病院が89.6%の一方、診療所が40.3%、歯科診療所35.9%と6割超が算定できていない5。届出内容が複雑、患者説明が困難、対象職種が限定など、実務上も全従業員のベアの均衡を図る上でも難点が多く不評である。財務省は算定の低さを難じているが、診療報酬を変質させた経営介入である。未算定の医療機関も院長給与を削り職員給与を引上げるなどの涙ぐましい苦労が今回の調査結果から見て取れる。改善が必要である。初再診料に連動し算定する点数なので、廃止して、賃金分の評価は初再診料を中心として上乗せすべきである。次善策はその上乗せ評価かベースアップ評価料の選択制である。平均給与478万円6、賃上げ率4.17も医療職種の殆どは届いていない。

 インフレ局面で2年分を見込み、「真水」での診療報酬の大幅プラス改定をわれわれは強く求める。

 

2025年1128

 

1:「令和6(2024)年医療施設(動態)調査」

2:神奈川県保険医協会「「開業医の働き方」調査の結果について(2019.1.18発表)」https://www.hoken-i.co.jp/outline/h/2019118.html

*3:日本医師会総合研究機構のワーキングレポート「50 代医師の将来のキャリアプラン調査―現在の働き方と 65 歳以降に想定するキャリア―」(2024.7.19https://www.jmari.med.or.jp/result/working/post-4420/

4:神奈川県保険医協会・医療政策研究室論考「首都圏の医療満足度 コロナ禍でも不変、若干増」(2023.11.28https://www.hoken-i.co.jp/outline/d67228109af792502edf1e1046051c9a9c1a8bd5.pdf

5:中医協・入院・外来医療等の調査・評価分科会(2025.9.25)資料「入-1参考4」 

6:国税庁「令和6年分民間給与実態統計調査」 

7:厚労省「令和7年 賃金引上げ等の実態に関する調査」

 

◆診療所(全体)の3割は損益率が赤字(左) 診療所(個人)の最頻損益階級の損益差額は約750万円(右)

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◆診療所(個人)の3割は損益率が赤字、損益差額が勤務医給与水準以下は7割弱

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◆一般診療所(個人) 経営悪化は73.4%

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◆歯科診療所の最頻損益差額階級の損益差額は個人立640万円弱、医療法人立は▲約1,400万円

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◆歯科診療所(個人)の損益差額は法人院長給与水準以下が約6割、医療法人は約3割弱が赤字

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<掲示資料について>

1)上記資料は全て、中医協第25回医療経済実態調査より。24年度分。一部改編。

2)個人立の損益差額は開設者の院長給与を含んだ数字。損益率も同様。医療法人立等との比較の際は、考慮して理解が必要。

3)表中の「全体」の数字は機械的な計算値。個人立の院長給与を含んだ損益差額のため、高い数字になることは留意が必要。

 

 

診療所(個人立)も経営悪化顕著 実質6割は赤字 

歯科は貧困経営 病院は深刻 診療報酬の大幅引き上げは道理


神奈川県保険医協会

政策部長  磯崎 哲男

 


◆医療崩壊に直面する惨状が改めて中医協で明確に 総合経済対策の「底上げ」措置を活かす改定へ

 診療報酬改定へ向け1126日、中医協は第25回医療経済実態調査の結果を公表した。概況は先に公表されている「医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)」による「医療法人の経営状況」と同様に、病院の深刻な経営悪化と赤字病院の多さ、診療所の経営悪化、歯科診療所の苦境となっている。総じて「減収減益」構造となっており、病院は損益差額が平均値も中央値も赤字で多額、診療所(全体)の3割は損益差額が赤字で最頻階級も赤字、歯科診療所(医療法人)は2割が赤字である。重層構造で診療連携と機能分担を図っている地域医療は早晩、地滑り的に崩落する危険性が高い

 高市内閣は所信表明どおり、1121日に総合経済対策を閣議決定し、「医療・介護等支援パッケージ」による緊急措置で、医療機関の賃上げ「プラス3%、半年分」を措置するとした。この補正予算措置は「診療報酬の底上げ」を意味すると田村・自民党政調会長代行が既に説いている。

 つまり、この土台を無にしないため、来年6月実施の診療報酬改定は「プラス3%以上」が必須となる。これに骨太方針2025が約束した「物価上昇分」と「医療経営の安定分」、「医療の高度化分」を加えた大幅プラス改定は道理となる。その実現をわれわれは改めて強く求める。

 

◆診療所は個人立も医療法人と同様に経営は厳しい 7割は経営悪化 損益差額1,500万円以下は4割

 財政制度等審議会分科会で診療報酬引き下げの標的とされた診療所に関し、既に1029日の中医協では反証されている。医療法人立に関しては、2024 年度医業利益が赤字の診療所は全体の約4割であり、本業以外の補助金を含んでも経常利益率は「0.0%~1.0%」が最頻値となっている。事業収入1億円で経常利益100万円に過ぎない。

 財務省は中医協の医療経済実態調査の個人立のデータを見て評価したいとしていたが、医療法人と同様に数字は酷い。個人立の損益額は事業体としての数字であり、そこには借入金返済や設備更新費用、税金の負担、そして院長報酬が含まれている。すべてが院長報酬ではない。

 個人立(無床)診療所の24年度の損益率は28.3%で23年度より4.0ポイント下落。損益差額2,656.4万円は、医療法人立(無床)診療所の院長給与2,871.6万円にも満たない。この平均値より内実は酷い。 

 最頻損益差額階級の損益状況では、個人立(無床)診療所の院長給与含む損益差額は749.1万円に過ぎない。損益率は13.4%しかなく23年度より3.9ポイント下落である。しかもこの数字は減収分を補うために給与費や減価償却費、委託費を少しずつ圧縮し、費用減の経営努力をした上での数字である。

 損益差額階級別施設数でみると、損益差額が病院勤務医の給与約1,500万円以下が全体の39.2%に上り、5.6%は赤字であり院長の給与すら捻出できない。実際は医療法人程度の院長給与2,500万円が最低限差し引かれるため、損益差額2,500万円以下は実質赤字であり、実に58.6%、約6割に及ぶ。

 23年度よりも24年度の損益率がマイナスとなった経営悪化は、個人立診療所の73.4%に上っており、医療法人立診療所の67.7%より広範囲に及んでいる。診療所の開設者は個人立が36.8%、医療法人立が45.3%の構成1となっており、両者で全体の8割超を占める。深刻である。

 

◆歯科診療所は個人立も医療法人立も最頻層は赤字のワーキングプア状態 

 歯科診療所(医療法人)は、損益率の変動はほぼないが24年度は5.5%と低い。個人立も同様に変動がほぼなく、24年度は損益率29.8%、院長報酬を含んだ損益差額1,562.2万円であった。医療法人立の歯科診療所の院長給与が1,458.4万円なので、仮にこれを差し引くと損益額は103.8万円しか残らず、損益率は1.9%と2%を割り込む。

 最頻損益差額階級の損益状況では、医療法人の損益差額▲1,408.7万円、損益率▲11.1%と酷い。23年度から倍化している。個人立は損益差額634.0万円、損益率21.9%であり、ここから院長給与と設備更新費用、税金等を捻出することになる。極貧のワーキングプア状態での経営水準にある。

 損益差額階級別施設数でみると、個人立は損益差額が医療法人立の院長給与水準以下が59.1%であり、医療法人立は33.6%で損益率が赤字である。これでは歯科医療の再生産は困難を極める。

 歯科診療所の開設者は個人立が75%、医療法人立は25%の構成1である。今回の結果は個人立の経営状況の酷さを浮き彫りにしている。自費診療収入2割の構造だが、そこに活路はないのである。

 疾病予防や健康管理が強調され、「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、良い睡眠」の標語で厚労省は健康増進を促している。口腔ケア、歯科治療は、その食事を支える土台であるが、歯科医療体制は覚束ない。

 

◆このままでは第一線医療も、持続可能性がなくなる 保険者は医療の確保が第一義

 診療所は初診患者の8割、外来患者の7割を診ている。疾病の早期発見や治療、重症化予防はじめ第一線医療を担っている。かかりつけ医機能を果たし、中小病院、大病院、基幹病院、大学病院などと連携し、「面」として地域医療を担っている。一次、二次、高次(三次)と、機能分担・役割分担の下、重層構造で地域医療は支えられている。今回の医療経済実態調査の結果は、病院と同様に、診療所の状況も看過できないことを示している。歯科診療所は殆どの外来患者を診ており、こちらも同様である。

 保険者は、被保険者の保険料の付託を受けて、医療提供(療養の給付)を約束し、自らは提供できない医療を、医療機関に準委任の形で依頼し、対価の診療報酬を審査支払機関経由で支払う関係にある。保険者の母体は企業や政府、自治体等である。被保険者への医療確保は第一義の役割である。

 田村・元厚労大臣は三重市の講演で「被保険者を考え、医療を受けられる環境を整えるのが保険者の役割の一つ。医療が実現可能なだけの、診療報酬改定を行うのが当たり前」と指摘した。至言である。

 

◆コロナ禍の尽力に冷や水を浴びせた前回改定、医療現場は限界

 1998年以降、診療報酬は実質マイナス改定の連続であり、累計▲16%強に及ぶ。これは2か月分の医業収入を吹き飛ばしたに等しい(∵1÷12<か月>=8.3%)。社会保障関係費(国費)を高齢化分の伸びに抑えた2016年以降でみても累計▲4.04%と半月分の医業収入が消失したことに匹敵する。

 開業医、開業歯科医の1/4は過労死ライン超で働いている2。報道や日医総研の論文引用もされている3。この下でも、コロナ禍、第一線医療は二次、三次医療とともに尽力し、先進諸国の中でコロナ死者数やコロナ死亡率を最小限に抑えた。しかも、コロナ禍の最中でも、医療者の尽力により、国民、県民の医療満足度は不変で向上もした4。英国のGP(一般医)は評価を激減させており、格段に異なっている。

 この経営努力と診療尽力を踏みにじり、診療所を標的に前回改定では生活習慣病管理料等を中心に▲0.25%の削減を重ねた。これでは医療の再生産、医療の質の向上は図れず、医療者の人心を荒廃させる。

 

◆消費税の機能強化分1%の上振れ分活用で大幅プラスは可能 ベースアップ評価料の廃止・見直しを

 社会保障・税一体改革で消費税5%分の増税となった際に、消費税1%分は使途を社会保障の機能強化分(充実分)とするとされた。当時の消費税収1%は2.8兆円だったが、最近は3.3兆円と5千億円上振れしている。25年度予算で機能強化分は3.3兆円超の4.1兆円が措置され各事業に充てられている。柔軟対応が図られている。ならば、上振れ分の5千億円を、医療体制強化分として診療報酬改定分に回せば、改定率プラス4%強となる。これに2014年改定以降、反故にされている中医協「建議」での「薬価引き下げ分の技術料(本体)振り替え」を復元すれば改定率1%程度はプラスでき、5%となる。医療機関が価格交渉の経営努力により薬価を引き下げ経営原資に回しているものであり無茶ではない。

 11月20日の参院財政金融委員会で医師の小林孝一郎議員(自民)がこの「上振れ」を取り上げ財務省は慎重姿勢を見せたが、再考すべきである。倒産、閉院で医療機関消失では「保険あって医療なし」となる。

 医療費は人件費の塊であり、50%を占める。人材確保、人材流出回避へ日々の経営で苦心している。前回改定で導入のベースアップ評価料の算定は病院が89.6%の一方、診療所が40.3%、歯科診療所35.9%と6割超が算定できていない5。届出内容が複雑、患者説明が困難、対象職種が限定など、実務上も全従業員のベアの均衡を図る上でも難点が多く不評である。財務省は算定の低さを難じているが、診療報酬を変質させた経営介入である。未算定の医療機関も院長給与を削り職員給与を引上げるなどの涙ぐましい苦労が今回の調査結果から見て取れる。改善が必要である。初再診料に連動し算定する点数なので、廃止して、賃金分の評価は初再診料を中心として上乗せすべきである。次善策はその上乗せ評価かベースアップ評価料の選択制である。平均給与478万円6、賃上げ率4.17も医療職種の殆どは届いていない。

 インフレ局面で2年分を見込み、「真水」での診療報酬の大幅プラス改定をわれわれは強く求める。

 

2025年1128

 

1:「令和6(2024)年医療施設(動態)調査」

2:神奈川県保険医協会「「開業医の働き方」調査の結果について(2019.1.18発表)」https://www.hoken-i.co.jp/outline/h/2019118.html

*3:日本医師会総合研究機構のワーキングレポート「50 代医師の将来のキャリアプラン調査―現在の働き方と 65 歳以降に想定するキャリア―」(2024.7.19https://www.jmari.med.or.jp/result/working/post-4420/

4:神奈川県保険医協会・医療政策研究室論考「首都圏の医療満足度 コロナ禍でも不変、若干増」(2023.11.28https://www.hoken-i.co.jp/outline/d67228109af792502edf1e1046051c9a9c1a8bd5.pdf

5:中医協・入院・外来医療等の調査・評価分科会(2025.9.25)資料「入-1参考4」 

6:国税庁「令和6年分民間給与実態統計調査」 

7:厚労省「令和7年 賃金引上げ等の実態に関する調査」

 

◆診療所(全体)の3割は損益率が赤字(左) 診療所(個人)の最頻損益階級の損益差額は約750万円(右)

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◆診療所(個人)の3割は損益率が赤字、損益差額が勤務医給与水準以下は7割弱

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◆一般診療所(個人) 経営悪化は73.4%

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◆歯科診療所の最頻損益差額階級の損益差額は個人立640万円弱、医療法人立は▲約1,400万円

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◆歯科診療所(個人)の損益差額は法人院長給与水準以下が約6割、医療法人は約3割弱が赤字

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<掲示資料について>

1)上記資料は全て、中医協第25回医療経済実態調査より。24年度分。一部改編。

2)個人立の損益差額は開設者の院長給与を含んだ数字。損益率も同様。医療法人立等との比較の際は、考慮して理解が必要。

3)表中の「全体」の数字は機械的な計算値。個人立の院長給与を含んだ損益差額のため、高い数字になることは留意が必要。