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2014/8/29 政策部長談話「入院治療で月収の1/3が飛び、紹介状なし大病院受診は7割負担へ 療養権を侵害する、飽くなき『患者』負担増路線に反対する」

入院治療で月収の1/3が飛び、紹介状なし大病院受診は7割負担へ

療養権を侵害する、飽くなき「患者」負担増路線に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 医療・介護一括法が成立し、県単位の地域医療ビジョンの策定と新たな基金の事業者交付へと、医療提供体制再編の重心が移っているが、これと並走し、次期通常国会に向けて、社会保障審議会医療保険部会で医療保険制度の改定案作成へ審議が重ねられている。焦点は(1)大病院への紹介状なし受診への定額負担導入、(2)入院の食事療養費の自己負担の引き上げ、(3)市町村国保の県単位化の3つである。とりわけ際限のない、今回の「患者」負担増は療養権を大きく侵害し、将来へ禍根を残す。われわれはこの策動に反対する。

◆定額「5千円負担」で実質7割負担! 

 「紹介状なし」の大病院外来受診の定額負担の導入は、「定率負担」に重ねるもので、病診の機能分担、軽症患者の集中の是正を理由とされている。現在でも、200床以上の病院は自己判断で紹介状のない受診に関し、差額料金を別途、「選定療養」名目で上乗せ徴収できるが、これとは別に全国共通で一律に定額負担を患者に課すとしている。

 過日、その定額負担の水準に関し、厚労省は「病院外来受診時の一定定額自己負担制度導入に関する調査研究」の結果を公表。下限を5,000円とすると軽症者の行動変容を促すとされた。

 これを基に平均像を試算すると、病院の1件あたり診療費は20,493円(H25年「社会医療診療行為別調査」)で3割負担は6,147円、平均実日数1.61日に定額負担5,000円を積算すると8,050円。実に合計で14,197円となり負担割合は69.2%と7割に及ぶ。これだと事実上、受診はできない。ちなみに、「長瀬指数」であてはめると、医療需要の27.2%しか満たせない。

 「患者負担」という経済障壁で、受診を「抑制」してきたが、これを新たな武器として性格を持たせ、「受療行動」の「変容」を促す施策は、邪道である。

 現実には、近隣に患者の疾患の該当科目の診療所がなかったり、明らかな重症や容態の急変もあり、「紹介状」を踏絵とする高い経済障壁は、療養権を大きく侵害する。基本は患者教育による、「交通整理」であるべきだ。

*紹介状なし大病院外来受診への定額負担導入による患者負担(上段)と実質負担率(下段)

 20,493円(診療費)×0.3(3割負担)+1.61日(実日数)×5,000円(定額負担)=14,197円

 14,197円(患者負担額)÷20,493円=69.2%(≒7割負担)

◆「受診時定額負担」の焼き直し、1.1兆円削減の財政調整策

 この紹介状なし上乗せ「定額負担」の問題は、これだけにとどまらない。かつて民主党政権下、2011年秋に、すべての患者の「受診時定額負担」100円が検討され、全国の医療関係者の反発で頓挫した。その際、代替案として紹介なし大病院受診の初診時7,000円負担が医療保険部会(2011.9.16)に出され、「外来受診の適正化」を名目に同規模の財源確保(給付費削減)が策された。今回の定額5,000円負担は、この再燃、焼き直しである。

 試算すると、200床以上の大病院の初診・再診は併せて約2.7億日、病院の紹介率が19.6%なので、紹介なし受診は約2.2億日。定額負担5,000円で積算し1.1兆円となる。これを全患者の初診・再診の外来受診延べ日数の約20.6億日で割り算をすると、約500円となる。この水準は、上乗せ定額負担として提案された2010年の当初案水準と同じである。

*紹介状なし大病院外来受診への定額負担導入の財政効果(上段)と全患者で均霑した額(下段)

 5,000円(定額負担)×2.7億日(大病院初診・再診)×0.814(1-0.196:紹介なし率)=1.1兆円

  1.1兆円(財政効果額)÷20.6億日(全患者の初診・再診)=533円(≒500円)

 この定額負担による軽症者の受療行動の変化については、病院関係団体からもその効果に懐疑的であり、その実効性よりは、以上にみる財政的理由が本音だと思われる。

 更には、かつての受診時定額負担と同様に、この仕組みは「上乗せ免責」の先鞭となる。定額負担分を給付からはじき、定率負担をかけるのと違い、定率負担をかけて残りから定額負担を課した方が給付額の削減効果が大きく、しかも前者の仕組みのために現物給付を療養費支給の制度に転換させる根本的な法改正を伴わない。この「上乗せ免責」の導入は、診診連携、主治医制などへの展開も危険視される。

◆食事の保険給付外しの最終段階 入院は月12万円強で収入の3割負担!が現実に

 入院時食事療養費の自己負担額に関しては、260円から460円への引き上げが提案されている。これに関し、田村厚労相は8月24日、「引き上げが必要」との認識を示した。これで食事療養費640円のうち460円が患者負担となり、負担率は71.8%で7割超となり、食事の保険外しの一歩手前となる。この場合、ひと月の入院の食事負担は23,400円から41,400円へと76.9%増と大きく跳ね上がる。しかもこれは家計調査の世帯人員一人当たりの食料費の最大37,831円(単身)を大きく上回る。また、この食事療養費は高額療養費の対象とならないため、定率の患者負担の限度額と併せ月12万3千円強に上ることになる。

 民間の平均給与(国税庁)は月額換算で34万円である。この患者負担額は給与の36.1%と1/3を超え過重なものとなる。負担金の支払い遅延、未収、余儀なき退院など、入院治療が成立しなくなる危険性が高い。かつて懸念された、医療費ではなく、「収入」の3割負担が現実となる。

*食事負担増による入院医療費(月額)(上段)と所得に占める割合(下段)

 460円(食事負担額)×3(食数)×30日+81,000円(入院負担限度額)=123,000円

 123,000円(入院負担月額限度)÷34万円(平均給与月額)=36.1%

◆国保も苛斂誅求か

 市町村国保の県単位への統合では、県が財政運営を担い、市町村は今まで通り、保険料徴収や資格確認や給付決定を行う方針だ。つまり、市町村は県から保険料徴収に関し割り当て目標が示され、滞納者への資格証や短期証の発行、督促や分納相談の実務を県の手足となって遂行することとなる。今以上に滞納制裁の強化がされ、柔軟な誓約書による分納などは難しくなると懸念される。

◆皆保険を守るため、患者負担増路線の撤回を

 総じて、療養権の侵害が強まる危険性が高い。一括法により、医療・介護の市場化に向け布石がうたれたが、新設の「医療介護総合確保促進会議」に経団連常務理事が就任する変化もでている。皆保険制度を守り、療養権を充実するため、飽くなき患者負担増路線の撤回をわれわれは強く求める。

2014年8月29日

入院治療で月収の1/3が飛び、紹介状なし大病院受診は7割負担へ

療養権を侵害する、飽くなき「患者」負担増路線に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 医療・介護一括法が成立し、県単位の地域医療ビジョンの策定と新たな基金の事業者交付へと、医療提供体制再編の重心が移っているが、これと並走し、次期通常国会に向けて、社会保障審議会医療保険部会で医療保険制度の改定案作成へ審議が重ねられている。焦点は(1)大病院への紹介状なし受診への定額負担導入、(2)入院の食事療養費の自己負担の引き上げ、(3)市町村国保の県単位化の3つである。とりわけ際限のない、今回の「患者」負担増は療養権を大きく侵害し、将来へ禍根を残す。われわれはこの策動に反対する。

◆定額「5千円負担」で実質7割負担! 

 「紹介状なし」の大病院外来受診の定額負担の導入は、「定率負担」に重ねるもので、病診の機能分担、軽症患者の集中の是正を理由とされている。現在でも、200床以上の病院は自己判断で紹介状のない受診に関し、差額料金を別途、「選定療養」名目で上乗せ徴収できるが、これとは別に全国共通で一律に定額負担を患者に課すとしている。

 過日、その定額負担の水準に関し、厚労省は「病院外来受診時の一定定額自己負担制度導入に関する調査研究」の結果を公表。下限を5,000円とすると軽症者の行動変容を促すとされた。

 これを基に平均像を試算すると、病院の1件あたり診療費は20,493円(H25年「社会医療診療行為別調査」)で3割負担は6,147円、平均実日数1.61日に定額負担5,000円を積算すると8,050円。実に合計で14,197円となり負担割合は69.2%と7割に及ぶ。これだと事実上、受診はできない。ちなみに、「長瀬指数」であてはめると、医療需要の27.2%しか満たせない。

 「患者負担」という経済障壁で、受診を「抑制」してきたが、これを新たな武器として性格を持たせ、「受療行動」の「変容」を促す施策は、邪道である。

 現実には、近隣に患者の疾患の該当科目の診療所がなかったり、明らかな重症や容態の急変もあり、「紹介状」を踏絵とする高い経済障壁は、療養権を大きく侵害する。基本は患者教育による、「交通整理」であるべきだ。

*紹介状なし大病院外来受診への定額負担導入による患者負担(上段)と実質負担率(下段)

 20,493円(診療費)×0.3(3割負担)+1.61日(実日数)×5,000円(定額負担)=14,197円

 14,197円(患者負担額)÷20,493円=69.2%(≒7割負担)

◆「受診時定額負担」の焼き直し、1.1兆円削減の財政調整策

 この紹介状なし上乗せ「定額負担」の問題は、これだけにとどまらない。かつて民主党政権下、2011年秋に、すべての患者の「受診時定額負担」100円が検討され、全国の医療関係者の反発で頓挫した。その際、代替案として紹介なし大病院受診の初診時7,000円負担が医療保険部会(2011.9.16)に出され、「外来受診の適正化」を名目に同規模の財源確保(給付費削減)が策された。今回の定額5,000円負担は、この再燃、焼き直しである。

 試算すると、200床以上の大病院の初診・再診は併せて約2.7億日、病院の紹介率が19.6%なので、紹介なし受診は約2.2億日。定額負担5,000円で積算し1.1兆円となる。これを全患者の初診・再診の外来受診延べ日数の約20.6億日で割り算をすると、約500円となる。この水準は、上乗せ定額負担として提案された2010年の当初案水準と同じである。

*紹介状なし大病院外来受診への定額負担導入の財政効果(上段)と全患者で均霑した額(下段)

 5,000円(定額負担)×2.7億日(大病院初診・再診)×0.814(1-0.196:紹介なし率)=1.1兆円

  1.1兆円(財政効果額)÷20.6億日(全患者の初診・再診)=533円(≒500円)

 この定額負担による軽症者の受療行動の変化については、病院関係団体からもその効果に懐疑的であり、その実効性よりは、以上にみる財政的理由が本音だと思われる。

 更には、かつての受診時定額負担と同様に、この仕組みは「上乗せ免責」の先鞭となる。定額負担分を給付からはじき、定率負担をかけるのと違い、定率負担をかけて残りから定額負担を課した方が給付額の削減効果が大きく、しかも前者の仕組みのために現物給付を療養費支給の制度に転換させる根本的な法改正を伴わない。この「上乗せ免責」の導入は、診診連携、主治医制などへの展開も危険視される。

◆食事の保険給付外しの最終段階 入院は月12万円強で収入の3割負担!が現実に

 入院時食事療養費の自己負担額に関しては、260円から460円への引き上げが提案されている。これに関し、田村厚労相は8月24日、「引き上げが必要」との認識を示した。これで食事療養費640円のうち460円が患者負担となり、負担率は71.8%で7割超となり、食事の保険外しの一歩手前となる。この場合、ひと月の入院の食事負担は23,400円から41,400円へと76.9%増と大きく跳ね上がる。しかもこれは家計調査の世帯人員一人当たりの食料費の最大37,831円(単身)を大きく上回る。また、この食事療養費は高額療養費の対象とならないため、定率の患者負担の限度額と併せ月12万3千円強に上ることになる。

 民間の平均給与(国税庁)は月額換算で34万円である。この患者負担額は給与の36.1%と1/3を超え過重なものとなる。負担金の支払い遅延、未収、余儀なき退院など、入院治療が成立しなくなる危険性が高い。かつて懸念された、医療費ではなく、「収入」の3割負担が現実となる。

*食事負担増による入院医療費(月額)(上段)と所得に占める割合(下段)

 460円(食事負担額)×3(食数)×30日+81,000円(入院負担限度額)=123,000円

 123,000円(入院負担月額限度)÷34万円(平均給与月額)=36.1%

◆国保も苛斂誅求か

 市町村国保の県単位への統合では、県が財政運営を担い、市町村は今まで通り、保険料徴収や資格確認や給付決定を行う方針だ。つまり、市町村は県から保険料徴収に関し割り当て目標が示され、滞納者への資格証や短期証の発行、督促や分納相談の実務を県の手足となって遂行することとなる。今以上に滞納制裁の強化がされ、柔軟な誓約書による分納などは難しくなると懸念される。

◆皆保険を守るため、患者負担増路線の撤回を

 総じて、療養権の侵害が強まる危険性が高い。一括法により、医療・介護の市場化に向け布石がうたれたが、新設の「医療介護総合確保促進会議」に経団連常務理事が就任する変化もでている。皆保険制度を守り、療養権を充実するため、飽くなき患者負担増路線の撤回をわれわれは強く求める。

2014年8月29日