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緊急企画「75歳以上 医療費窓口負担2割化 当事者に聞く!」

 2020年12月、75歳以上の医療費窓口負担について年収200万円以上について「2割化」とすることで政府・与党が合意し、閣議決定がなされました。コロナ禍で国民生活が逼迫する中、当事者である75歳以上の方はどう受け止めているのか。全日本年金者組合・神奈川県支部の伍淑子さんにお話を伺いました(インタビュアー:二村 哲・協会医療運動部会長)。

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神奈川は年金平均額全国1位 「2割」当てはまる人多い

 

――2020年12月9日に75歳以上の医療費窓口負担について、「単身世帯の収入で200万円以上」を2割とすることで与党合意され、閣議決定されました。これに対して当事者としての率直な感想をお聞かせください。

 

伍さん:私たち年金者組合の組合員は年金だけで暮らしている人が圧倒的に多いです。中には年金以外の所得がある人や少し余裕のある2人世帯の方もいますが、単身世帯は暮らしが厳しい。その中で、ほとんどの方は病院通いをしています。高血圧、糖尿病で服薬している方が周りに多いですね。今は1割だから1回あた

りの金額を負担に感じないからなのか、2割といっても『そりゃ大変だ』とピンと来ていない。でも積み重なると相当な負担になると思うんです、病気はずっと続くものだから。組合内では「今は2割と言っているけど、すぐに3割に引きあがる。高齢者が増えたという口実で保険料も、窓口負担も増えていく」と。

 

――「年収200万円以上」とは具体的にどういう層でしょうか。

 

伍さん:国民年金だけの人はもちろん該当しませんが、継続して厚生年金・共済年金を収めてきた人はほとんどが当てはまってしまいます。神奈川県は平均年金額は全国トップ。国は2割の対象となる人を「概ね上位30%(「現役並み」の3割負担の方を含む)」と言っていますが、県内で当てはまる人はかなり多いでしょう。2人世帯は合計320万円ですので、相当多いといえます。

 

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受診控えはまず歯医者から

 

――医療提供側であるわれわれは、患者さんの財布の中身を覗くことはできないので、「200万円」という数字が実感として湧きづらい部分です。そういう人たちが2割になることで医療へのハードルはやはり上がるのでしょうか。200万円のボーダーラインで暮らす人たちが受診を我慢するケースは出てくるでしょうか。

 

伍さん:出てくると思いますよ。200万円は月額にすると16~17万円で、収入水準として決して高くない。十分な収入のない子世代を扶養しているケースもあり、それなりの支出がある中で医療費の1割を確保しています。年金は毎年切り下げられています。よく聞くのは「税負担が過重だ」という声。年金が毎年切り下げられる一方で、税や保険料の負担は重くなっていますので。だから医療費負担が大きくなるほど、受診を控えていくでしょうし、どこを優先してかかるかといえば、まずは内科なので、歯医者さんは後回しになるでしょうね。

 

――やはり、受診先の優先順位が頭によぎるのでしょうね。

 

伍さん:はい、かなりあると思います。自分でもそうするでしょう。

 

――医療の必要度は、本来収入どうこうではないはずなのですが。

 

伍さん:(2割化の問題は)医療とはどういうものかが問われている気がするんです。20年ほど前に欧州にいったとき、医療の窓口負担がないのは普通だと現地の人に聞きました。税率だけでみるともちろん日本よりは高いのですが、日本のように貯蓄はたくさんしていないという方が多かった。高齢になり体調が悪くなっても、国がきちんと手当してくれると。日本は年を取るとどうなるかわからないという不安が大きいですよね。

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分断にのらず 若い人も自分の問題としてとらえて

 

伍さん:2割化反対の宣伝を始めたころは、「高齢者が増えているんだから仕方ないよ」と文句を言ってくる人が必ずいて、風当たりが強かったんですよね。でもコロナ禍で、そういう人はいなくなり、逆に「よくこのコロナの大変な中で宣伝してくれている」、「やっぱり頭に来ますよね」と声を掛けられるようになった。私たちはいつも年金改善の署名活動を行っているのですが、今回「医療費2倍化反対」の一点に絞ると、具体的な意見が様々出てきました。いつも高齢者は攻撃の対象にされることが多いのですが、今回もまさに高齢者を(所得ラインによって)分断しようとしている。その手に乗らず、みんなの問題だと訴えていこうと話しています。

 

――確かに今回ニュースで大々的に「200万円以上 2割」と出てほとんどの人が知ることになった。今までは患者さんに話しても「本当に負担が増えるの?」という反応で、高齢者も当事者意識がない人もいましたが、まさしく自分のことになってきたので声を上げなきゃという人たち増えていると思うのです。

 

伍さん:若い人たちにも浸透してほしいと思っています。

 

――宣伝行動では、若い人で署名協力してくれる人もいました。聞くと、親の分(医療費)を自分も負担していると。後期高齢者当事者だけでなく世帯全体にも関わってくる問題で、若い世代含め皆に関心を持ってもらわないといけない問題だと思います。

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言わないだけで、40代の非正規・ひきこもりを抱える高齢者は意外と多い

 

――このコロナ禍での変化というのはあったのでしょうか。高齢者本人やご家族が働けなくなったとか。

 

伍さん:コロナ禍で、というのは掴んでいませんが、70代の親と40代の子が同居していて、子が非正規で働いているというケースは周りでよく聞きます。70代の高齢者が、年金から一緒に住む子の食費なども負担しているというのです。さらに深刻なのは、子どもが引きこもりやうつ病でまともに働けていないケース。活動仲間から「子どもが家にずっと居り、長時間家を空けられない」と言われ、そういうケースが身近に意外と多いことに驚きました。高齢者本人はそういう話はしたがらないので、明らかにならないけれども意外と多い。少ない年金から子の生活費も負担し、税や保険料を払わなければならないので、結果的に税負担が重く感じるのでしょう。

 

 

珍しくない慢性疾患薬の“飲み延ばし” 女性は年金も少なく雇用悪化の影響も受けやすい

 

――年金収入だけでは厳しい状況もある中、働く高齢者はどれくらいいらっしゃいますか。

 

伍さん:団体内で詳しい調査をしていないのですが、働く高齢者は確実に増えている印象です。

 

――このコロナ禍で、飲食店で働く人が職を失ったケースはかなり多いですよね。医療費負担が厳しくなって通院が途絶えてしまったのではと思われるケースが当院でもあります。

 

伍さん:かなりあると思います。周囲には慢性疾患の高齢者が多いですが、高血圧の薬2日分を3日に分けて飲んでいるという“飲み延ばし”の例はよく聞きます。働き方は多様でなかなか調査が難しいのですが、働いているのは圧倒的に女性が多いですね。平均寿命からいうと夫に先立たれ、夫の遺族年金だけでは食べていけずに働いているケースが多い。年金の平均額も、男性の平均が月約16万円に対して、女性は約10万円程度と低いのです。そして飲食店や清掃の仕事をしているのは圧倒的に女性が多いでしょう。2~3時間など細切れで働いているので、コロナ禍での雇用悪化の影響を受けやすいのです。

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コロナ禍で家事や孫の世話も過重に 受診控えによる「重症化」起こってからでは遅い

 

――社員食堂で働いていた人が、企業のリモート化が進んだため仕事がなくなったという話も聞きます。働くことにやりがいを持っている高齢者もいると思うので、精神面での影響も心配です。

 

伍さん:働き方のリモート化による高齢者への影響は少なからずあると思います。働き盛りの息子・娘夫婦が在宅で仕事することにより、家事労働の負担が増えたという声、休校期間中は孫の面倒をみなければならず大変だったという声も寄せられました。高齢者に一気にそういう負担がのしかかってきた。在宅ワークで家人に部屋を占領され、高齢者の居場所がなくなってしまったという声もありました。

 

――確かに休校期間中は「孫の面倒をみないといけないから」とか「家人の世話をしないといけないから」といわれ、通院を先延ばしされる患者さんがいました。

 話は変わりますが、今回の「2倍化」では開始から3年間『配慮措置』も予定されていますが、複数の医療機関にかかっている場合は償還払いになる見込みが大きいです。

 

伍さん:立て替えるお金がないから受診を控えるんですよ。償還払いの手続きをきちんとする高齢者は少ないのではないでしょうか。高齢社会が進み、安心してかかれる医療体制を作っていかなければならないのに、なぜ足元を崩すことをするのでしょう。受診控えで不幸な事例が起きてからでは遅いのですよ。

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高齢者の“寄り合い”が困難な中、医療者からの発信は効果絶大

 

――受診控えについては日本医師会も危惧しているし、与党内でも「2割」合意前には異論もありました。協会も多くの人に知らせ、世論高めていくことが重要だと思っていますが、高齢者の方は「若い人に負担をかけてはいけない」とおっしゃる奥ゆかしい方が多い。高齢者へ発信する有効な場所やツールはあるでしょうか。

 

伍さん:「お上の言うことは仕方ない」という方は確かに(戦争経験者の)80代以上には多い。でも70代はまだ切り込む余地があるのではと個人的には思います。知らせる場所やツールは難しいですね。高齢者は目が悪くて新聞は読まない方多いから、テレビ、ラジオの効果は大きい。つまり話すのが一番手っ取り早い。

 ただこのコロナ禍で、みんなで集まっておしゃべりをする機会が持てないのが最大の困難です。高齢者はスマホなど持っていない方の方が多いから、最新機器を持ち出されることに“差別されている”という感情を持つ方もいます。

 病院の窓口のポスターやCMなどはいいですね。イセサキモールで協会の先生方が白衣を着て宣伝行動していると「お医者さんたち、何やってるの?」と聞いてくる人がいる。そういう意味では医療者からの発信というのは効果絶大なんです。年金者組合の支部からも「宣伝行動にお医者さん来てもらえないかしら」という要望がありました。

 

 

社会保障は繋がっている 孫世代のためにもしっかり土台を築くとき

 

――欧州では、社会保障は税や保険料を納めた分だけ受ける権利がある国民の権利だと認識されていますね。それが当たり前と認識されている社会がある一方、日本では『自己責任』といわれると納得してしまう部分がある。権利意識が薄い。

 

伍さん:声を上げ続けるしかないのでしょうね。心配なのは、孫世代が年金を受け取る側になった頃、生活ができる年金額になっているのかということ。若い世代の働く環境が今、非常に悪くなっています。Wワークや派遣労働を助長するような法改正が行われる。Wワークは非正規が想定されているでしょうが、厚生年金はどうなるのか。医療の負担はどうなっているのかを考えると、お先真っ暗になります。今、後退を食い止めて、社会保障の土台をしっかり築いておかないと。孫世代が高齢期になったときに安心して生きられる時代になっているか、そこが気がかりです。働き方と年金問題が直結しているということ、もっと訴えていかないといけないと思います。

 

――社会保障は全て繋がっているということですね。「高齢者の問題」「医療の問題」と限局せず、社会保障がセーフティネットとして機能しているかという視点で、いろんな制度変更を注視していく必要がありますね。ありがとうございました。

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全日本年金者組合神奈川県本部:

県内49支部、10650人の組合員が所属(20016年3月31日現在)。個人尊重、平和の裡に生存する権利を保障する憲法の理念を守り発展させることを目的とし、思想・信条の違いをこえ様々な活動を行う。近年は、年金の引き下げが多くの高齢者に一層の生活難をもたらしているとして「年金引き下げ違憲訴訟」に取り組むほか、後期高齢者医療制度に関しては『高すぎる保険料』への不服審査請求を通じ、改善運動を展開。

 

 

<関連動画>

75歳以上医療費“2倍化”ストップリレートーク① 伍淑子さん(年金者組合神奈川本部)

 2020年12月、75歳以上の医療費窓口負担について年収200万円以上について「2割化」とすることで政府・与党が合意し、閣議決定がなされました。コロナ禍で国民生活が逼迫する中、当事者である75歳以上の方はどう受け止めているのか。全日本年金者組合・神奈川県支部の伍淑子さんにお話を伺いました(インタビュアー:二村 哲・協会医療運動部会長)。

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神奈川は年金平均額全国1位 「2割」当てはまる人多い

 

――2020年12月9日に75歳以上の医療費窓口負担について、「単身世帯の収入で200万円以上」を2割とすることで与党合意され、閣議決定されました。これに対して当事者としての率直な感想をお聞かせください。

 

伍さん:私たち年金者組合の組合員は年金だけで暮らしている人が圧倒的に多いです。中には年金以外の所得がある人や少し余裕のある2人世帯の方もいますが、単身世帯は暮らしが厳しい。その中で、ほとんどの方は病院通いをしています。高血圧、糖尿病で服薬している方が周りに多いですね。今は1割だから1回あた

りの金額を負担に感じないからなのか、2割といっても『そりゃ大変だ』とピンと来ていない。でも積み重なると相当な負担になると思うんです、病気はずっと続くものだから。組合内では「今は2割と言っているけど、すぐに3割に引きあがる。高齢者が増えたという口実で保険料も、窓口負担も増えていく」と。

 

――「年収200万円以上」とは具体的にどういう層でしょうか。

 

伍さん:国民年金だけの人はもちろん該当しませんが、継続して厚生年金・共済年金を収めてきた人はほとんどが当てはまってしまいます。神奈川県は平均年金額は全国トップ。国は2割の対象となる人を「概ね上位30%(「現役並み」の3割負担の方を含む)」と言っていますが、県内で当てはまる人はかなり多いでしょう。2人世帯は合計320万円ですので、相当多いといえます。

 

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受診控えはまず歯医者から

 

――医療提供側であるわれわれは、患者さんの財布の中身を覗くことはできないので、「200万円」という数字が実感として湧きづらい部分です。そういう人たちが2割になることで医療へのハードルはやはり上がるのでしょうか。200万円のボーダーラインで暮らす人たちが受診を我慢するケースは出てくるでしょうか。

 

伍さん:出てくると思いますよ。200万円は月額にすると16~17万円で、収入水準として決して高くない。十分な収入のない子世代を扶養しているケースもあり、それなりの支出がある中で医療費の1割を確保しています。年金は毎年切り下げられています。よく聞くのは「税負担が過重だ」という声。年金が毎年切り下げられる一方で、税や保険料の負担は重くなっていますので。だから医療費負担が大きくなるほど、受診を控えていくでしょうし、どこを優先してかかるかといえば、まずは内科なので、歯医者さんは後回しになるでしょうね。

 

――やはり、受診先の優先順位が頭によぎるのでしょうね。

 

伍さん:はい、かなりあると思います。自分でもそうするでしょう。

 

――医療の必要度は、本来収入どうこうではないはずなのですが。

 

伍さん:(2割化の問題は)医療とはどういうものかが問われている気がするんです。20年ほど前に欧州にいったとき、医療の窓口負担がないのは普通だと現地の人に聞きました。税率だけでみるともちろん日本よりは高いのですが、日本のように貯蓄はたくさんしていないという方が多かった。高齢になり体調が悪くなっても、国がきちんと手当してくれると。日本は年を取るとどうなるかわからないという不安が大きいですよね。

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分断にのらず 若い人も自分の問題としてとらえて

 

伍さん:2割化反対の宣伝を始めたころは、「高齢者が増えているんだから仕方ないよ」と文句を言ってくる人が必ずいて、風当たりが強かったんですよね。でもコロナ禍で、そういう人はいなくなり、逆に「よくこのコロナの大変な中で宣伝してくれている」、「やっぱり頭に来ますよね」と声を掛けられるようになった。私たちはいつも年金改善の署名活動を行っているのですが、今回「医療費2倍化反対」の一点に絞ると、具体的な意見が様々出てきました。いつも高齢者は攻撃の対象にされることが多いのですが、今回もまさに高齢者を(所得ラインによって)分断しようとしている。その手に乗らず、みんなの問題だと訴えていこうと話しています。

 

――確かに今回ニュースで大々的に「200万円以上 2割」と出てほとんどの人が知ることになった。今までは患者さんに話しても「本当に負担が増えるの?」という反応で、高齢者も当事者意識がない人もいましたが、まさしく自分のことになってきたので声を上げなきゃという人たち増えていると思うのです。

 

伍さん:若い人たちにも浸透してほしいと思っています。

 

――宣伝行動では、若い人で署名協力してくれる人もいました。聞くと、親の分(医療費)を自分も負担していると。後期高齢者当事者だけでなく世帯全体にも関わってくる問題で、若い世代含め皆に関心を持ってもらわないといけない問題だと思います。

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言わないだけで、40代の非正規・ひきこもりを抱える高齢者は意外と多い

 

――このコロナ禍での変化というのはあったのでしょうか。高齢者本人やご家族が働けなくなったとか。

 

伍さん:コロナ禍で、というのは掴んでいませんが、70代の親と40代の子が同居していて、子が非正規で働いているというケースは周りでよく聞きます。70代の高齢者が、年金から一緒に住む子の食費なども負担しているというのです。さらに深刻なのは、子どもが引きこもりやうつ病でまともに働けていないケース。活動仲間から「子どもが家にずっと居り、長時間家を空けられない」と言われ、そういうケースが身近に意外と多いことに驚きました。高齢者本人はそういう話はしたがらないので、明らかにならないけれども意外と多い。少ない年金から子の生活費も負担し、税や保険料を払わなければならないので、結果的に税負担が重く感じるのでしょう。

 

 

珍しくない慢性疾患薬の“飲み延ばし” 女性は年金も少なく雇用悪化の影響も受けやすい

 

――年金収入だけでは厳しい状況もある中、働く高齢者はどれくらいいらっしゃいますか。

 

伍さん:団体内で詳しい調査をしていないのですが、働く高齢者は確実に増えている印象です。

 

――このコロナ禍で、飲食店で働く人が職を失ったケースはかなり多いですよね。医療費負担が厳しくなって通院が途絶えてしまったのではと思われるケースが当院でもあります。

 

伍さん:かなりあると思います。周囲には慢性疾患の高齢者が多いですが、高血圧の薬2日分を3日に分けて飲んでいるという“飲み延ばし”の例はよく聞きます。働き方は多様でなかなか調査が難しいのですが、働いているのは圧倒的に女性が多いですね。平均寿命からいうと夫に先立たれ、夫の遺族年金だけでは食べていけずに働いているケースが多い。年金の平均額も、男性の平均が月約16万円に対して、女性は約10万円程度と低いのです。そして飲食店や清掃の仕事をしているのは圧倒的に女性が多いでしょう。2~3時間など細切れで働いているので、コロナ禍での雇用悪化の影響を受けやすいのです。

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コロナ禍で家事や孫の世話も過重に 受診控えによる「重症化」起こってからでは遅い

 

――社員食堂で働いていた人が、企業のリモート化が進んだため仕事がなくなったという話も聞きます。働くことにやりがいを持っている高齢者もいると思うので、精神面での影響も心配です。

 

伍さん:働き方のリモート化による高齢者への影響は少なからずあると思います。働き盛りの息子・娘夫婦が在宅で仕事することにより、家事労働の負担が増えたという声、休校期間中は孫の面倒をみなければならず大変だったという声も寄せられました。高齢者に一気にそういう負担がのしかかってきた。在宅ワークで家人に部屋を占領され、高齢者の居場所がなくなってしまったという声もありました。

 

――確かに休校期間中は「孫の面倒をみないといけないから」とか「家人の世話をしないといけないから」といわれ、通院を先延ばしされる患者さんがいました。

 話は変わりますが、今回の「2倍化」では開始から3年間『配慮措置』も予定されていますが、複数の医療機関にかかっている場合は償還払いになる見込みが大きいです。

 

伍さん:立て替えるお金がないから受診を控えるんですよ。償還払いの手続きをきちんとする高齢者は少ないのではないでしょうか。高齢社会が進み、安心してかかれる医療体制を作っていかなければならないのに、なぜ足元を崩すことをするのでしょう。受診控えで不幸な事例が起きてからでは遅いのですよ。

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高齢者の“寄り合い”が困難な中、医療者からの発信は効果絶大

 

――受診控えについては日本医師会も危惧しているし、与党内でも「2割」合意前には異論もありました。協会も多くの人に知らせ、世論高めていくことが重要だと思っていますが、高齢者の方は「若い人に負担をかけてはいけない」とおっしゃる奥ゆかしい方が多い。高齢者へ発信する有効な場所やツールはあるでしょうか。

 

伍さん:「お上の言うことは仕方ない」という方は確かに(戦争経験者の)80代以上には多い。でも70代はまだ切り込む余地があるのではと個人的には思います。知らせる場所やツールは難しいですね。高齢者は目が悪くて新聞は読まない方多いから、テレビ、ラジオの効果は大きい。つまり話すのが一番手っ取り早い。

 ただこのコロナ禍で、みんなで集まっておしゃべりをする機会が持てないのが最大の困難です。高齢者はスマホなど持っていない方の方が多いから、最新機器を持ち出されることに“差別されている”という感情を持つ方もいます。

 病院の窓口のポスターやCMなどはいいですね。イセサキモールで協会の先生方が白衣を着て宣伝行動していると「お医者さんたち、何やってるの?」と聞いてくる人がいる。そういう意味では医療者からの発信というのは効果絶大なんです。年金者組合の支部からも「宣伝行動にお医者さん来てもらえないかしら」という要望がありました。

 

 

社会保障は繋がっている 孫世代のためにもしっかり土台を築くとき

 

――欧州では、社会保障は税や保険料を納めた分だけ受ける権利がある国民の権利だと認識されていますね。それが当たり前と認識されている社会がある一方、日本では『自己責任』といわれると納得してしまう部分がある。権利意識が薄い。

 

伍さん:声を上げ続けるしかないのでしょうね。心配なのは、孫世代が年金を受け取る側になった頃、生活ができる年金額になっているのかということ。若い世代の働く環境が今、非常に悪くなっています。Wワークや派遣労働を助長するような法改正が行われる。Wワークは非正規が想定されているでしょうが、厚生年金はどうなるのか。医療の負担はどうなっているのかを考えると、お先真っ暗になります。今、後退を食い止めて、社会保障の土台をしっかり築いておかないと。孫世代が高齢期になったときに安心して生きられる時代になっているか、そこが気がかりです。働き方と年金問題が直結しているということ、もっと訴えていかないといけないと思います。

 

――社会保障は全て繋がっているということですね。「高齢者の問題」「医療の問題」と限局せず、社会保障がセーフティネットとして機能しているかという視点で、いろんな制度変更を注視していく必要がありますね。ありがとうございました。

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全日本年金者組合神奈川県本部:

県内49支部、10650人の組合員が所属(20016年3月31日現在)。個人尊重、平和の裡に生存する権利を保障する憲法の理念を守り発展させることを目的とし、思想・信条の違いをこえ様々な活動を行う。近年は、年金の引き下げが多くの高齢者に一層の生活難をもたらしているとして「年金引き下げ違憲訴訟」に取り組むほか、後期高齢者医療制度に関しては『高すぎる保険料』への不服審査請求を通じ、改善運動を展開。

 

 

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