神奈川県保険医協会

医療情報部長談話 「医療を梃子にしたカード普及策 マイナンバーカードでのオンライン資格確認の導入に強く反対する」

医療を梃子にしたカード普及策

マイナンバーカードでのオンライン資格確認の導入に強く反対する

 

神奈川県保険医協会

医療情報部長  田辺 由紀夫


 政府は2月15日、「医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律案」を国会に提出した。とりわけ法案の柱となる「医療保険のオンライン資格確認の導入」については、健康保険証とマイナンバーカードを使える仕組みとしている。つまり、マイナンバーカードの保険証としての代替利用が整備されることになる。

 我々は医療現場にマイナンバーが持ち込まれる状況を望まない。カードの院内での紛失など、患者と医療者の無用な関係悪化を招く火種になる。また、医療をマイナンバーカードの普及の梃子とする企図が強く、受け入れがたい。ウェブ上では「必要ない」、「漏洩のほうが心配」、「税金の無駄遣い」など、批判の声が溢れている。国民はマイナンバーカードへの嫌悪感が強い。

 我々は医療に混乱を与えるマイナンバーカードによるオンライン資格確認の導入、マイナンバーカードの普及策に強く反対する。

 

医療保険のオンライン資格確認とは

 医療保険のオンライン資格確認とは、医療機関の窓口が保険証で被保険者資格の有無等を確認する作業を、オンラインで電子的に確認するというもの。これにより、転居や転職等による資格過誤を削減することを目的としている。具体的には、保険証の番号やマイナンバーカードの符号等を読み込み、被保険者資格の管理先(支払基金・国保中央会)にネット経由で送信し照会する。管理先は受信した番号・符号等を確認・照合し、当該被保険者の資格情報を当該医療機関に返信する。

 オンライン資格確認には、(1) 現行の世帯単位の被保険者番号に2桁を追加し、個人単位化した被保険者番号、(2) マイナンバーカードのICチップ内に収載された「電子証明書」―の2つが使われる。ただ、患者は保険証、マイナンバーカードのいずれかで受診することになる。*参考:オンライン資格確認の仕組み

 政府の予定では、▽マイナンバーカードによるオンライン資格確認の開始が2021年3月、▽同年4月から新規発行の保険証に個人単位の被保険者番号の記載(2桁の番号追加)、▽同年5月から保険証によるオンライン資格確認を開始するとしている。

 政府はこの初期導入経費の補助を目的とする「医療情報化支援基金」創設のため、300億円(時限的措置で1回のみ)を計上している。

 

医療機関にマイナンバーを近づけるべきではない

 「マイナンバーを医療の中に導入しない」、「医療情報については、独自の番号(医療等ID)を創設・導入する」。これは、番号制度の法案審議の段階から確認した政府と医療界との約束である。医療情報とは非常に機微性の高い個人情報だからである。

 マイナンバーを医療に使わないのであれば、医療機関に“持ち込まない”、“近づけない”ようにするのが道理だ。当たり前のことだが、マイナンバーカードの券面にはマイナンバーが印字されている。保険証の代替利用となれば、医療機関の中にマイナンバーが持ち込まれることになる。「本人認証にマイナンバーを使わないから問題ない」というのは詭弁だ。

 この間の報道では、マイナンバーとカードを混在した不正確な見出し記事が相次ぎ、国民に誤解を与えている (*1) 。その上、“マイナンバーカード”の呼称がマイナンバー(番号制度)と電子証明書(公的個人認証)の峻別を困難にしている。正しい理解がない中でのカード普及は、国民に番号制度が広く浸透したという誤認と錯覚を起こさせ、マイナンバーでの個人情報の一元管理を拡大したい政府・経済界にとって都合のいい空気を醸成することになる。

 すでに政府は特定健診情報や予防接種履歴などの医療情報をマイナンバーとの紐付けの対象とするなど、当初の約束を順守していない。しかも、レセプト情報を給付額情報として、マイナンバーの紐付けと医療保険者での活用が現行法でも可能だとする政府の国会答弁もある (*2) 。レセプトには傷病名や治療内容、検査名などが記載されており、間違いなく医療情報である。

 医療機関でのマイナンバーカードの活用は、マイナンバーと医療情報の紐付け・利活用へ先鞭をつけることになり、認められない。

 

医療現場を知らない政府案 マイナンバーカードは患者・医療者に不幸を招く

 法案資料では、マイナンバーカードでのオンライン資格確認について、患者本人が医療機関に設置されたカードリーダー等に読み込ませ手続きする仕組みとしている。医療機関がマイナンバーと接触しないと言いたいのだろうが、現実社会はそうはならない。

 受診のたび必要になれば、マイナンバーカードは医療機関での使用頻度が最も高くなり、カードの院内での紛失等のトラブルが増える。いまでも保険証の院内紛失トラブルは少なくない。また、高齢患者など自力ではカードを読み込む手続きができない方もいる。当然、医療機関の職員がカード読み込みを介助・代行せざるを得ず、マイナンバーとの接触は避けられない。患者のマイナンバーの漏洩・悪用等が起これば、医療機関は真っ先に疑いをかけられる立場になる。このように、マイナンバーカードが患者と医療者の信頼関係を壊す火種になることを強く懸念している。

 オンライン資格確認は個人単位化した被保険者番号、つまり保険証の使用で何ら不都合はない。医療現場での混乱等も起こらない。マイナンバーカードも使えるようにする必要性は何もない。

 

相次ぐ漏洩事故やシステム障害、番号制度の信頼は短期間で崩壊

「マイナンバーカードはいらない」 国民は明確に意思表示している

 番号制度の運用開始からわずか3年のうちに、▽日本年金機構の入力業務の委託業者の“無断”再委託、▽自治体による住民税通知書の全国規模での“誤送付”、▽国税庁等の入力業務の委託業者の“無断”再委託―など、「漏洩」事故が頻発している。すでに多くのマイナンバーが流出しており、番号制度の安全性・信頼性は崩壊していると言わざるを得ない。

 現在、番号制度は憲法13条(プライバシー権、自己情報コントロール権)を侵害するとし、国を相手に個人番号の収集・利用停止などを求める「マイナンバー違憲訴訟」が全国8地裁で係争中だ。こうした実態を顧みれば、現状はマイナンバーカードの普及・利活用を拙速に進める状況になく、番号制度そのものの見直しや再検討を最優先すべきだ。

 最新のマイナンバーカードの交付数は約1500万枚(交付率12%強)と、政府の当初目標(19年3月末までに8700万枚)に遠く及ばい。また、昨年11月末発表の内閣府の世論調査では、「今後も取得する予定はない」が53.0%で、取得しない理由は「必要性が感じられない」が57.6%、「身分証明書は他にある」が42.2%、「個人情報の漏洩が心配」が26.9%であり、これが国民の声である。

 閣議決定と同日に報じた時事通信のネットニュース(Yahoo!ニュース)には、実に4000件を超えるコメントが寄せられ、「保険証が使えるなら必要ない」、「カードの利便性を感じない」、「セキュリティなどリスクのほうが多い」、「政府に不信感があるのに個人情報を一元管理されたくない」、「何でもかんでも1つにするのはリスクもある」、「税金の無駄遣い」など、批判的な意見が大勢を占めている。

 Tポイントカードの個人情報や購買履歴が無断で捜査当局に提供されている問題が発覚するなど、国民は個人情報の取り扱いに対する懐疑、危機意識を高めている。国民の感覚・感情を無視したマイナンバーカード普及策が国民に受け入れられるはずもなく、国民生活の利便性に資するはずもない。

 

 以上、我々はマイナンバーカードによるオンライン資格確認の導入に強く反対する。

2019年2月22日

 

(*1)

(*2)

  

  

【参考】オンライン資格確認の仕組み (2019.1.17 厚労省・社会保障審議会医療保険部会の資料抜粋)

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