神奈川県保険医協会

政策部長談話 「かかりつけ医の初診評価と歯科初診料への施設基準導入 医療機関の格差づけと診療報酬体系の評価転換を警鐘する」

かかりつけ医の初診評価と歯科初診料への施設基準導入

医療機関の格差づけと診療報酬体系の評価転換を警鐘する

                           神奈川県保険医協会

                                政策部長 桑島 政臣


 2018年度診療報酬改定を巡り「議論の整理」がまとめられ、改定骨子が示された。今次改定では医科・歯科ともに「初診料」の見直しにポイントが置かれている。医科は「かかりつけ医機能」の初診料での評価、歯科では初診料に患者ごとのハンドピースの滅菌体制の施設基準導入と、政策的ならびに診療報酬体系再編での問題を孕んでいる。われわれは、以下に問題点を指摘し警鐘するとともに、医療界の分断、医療者と患者の分断、医師の裁量権の狭隘化、患者の不利益に連鎖しないよう強く要望する。

 

◆「かかりつけ医機能」に着眼した「初診」の評価 「機能強化加算」が新設 歯科初診に施設基準

 医科の初診料は、「外来医療のあり方に関する今後の方向性を踏まえ、外来医療における大病院とかかりつけ医との適切な役割分担を図るため、より的確で質の高い診療機能を評価する観点から、かかりつけ医機能を有する医療機関における初診を評価する」とされ、初診料への「機能強化加算」を新設すると示された。要件は地域包括診療料等の「かかりつけ医機能」に係る診療報酬の届出である。外来の「基本診療料」の加算に「特掲診療料」の診療報酬点数(実質は「施設基準」)を重ねる異質の作りとなっている。

 一方、歯科では歯科初診料と歯科再診料に院内感染防止対策に関する「施設基準」が新設されることになる。これは患者ごとにガス圧式ハンドピースの交換・滅菌等の体制であり、届け出のない医療機関は初診料と再診料は減算となる。これまで必ず算定できた初診料・再診料が、初診・再診行為で自動的な算定とはならず、「施設基準」を満たした歯科医療機関でのみ「スタンダード(標準)」の初診料算定となる。これを欠く歯科医療機関は点数で「格差」がつけられる。外来の「基本診療料」に「施設基準」が初めて重ねられたのである。

 つまり医科、歯科ともに、「基本診療料」と「施設基準」による、「異質」で「初めて」の、従来とは一線を画する点数設定を特徴としており、歯科は医科の「先行型」の感が強い。いずれ、外来機能の再編、「かかりつけ医機能」評価は、その延長線上でかつての「外来基本料」構想に収斂すると思われる。それは、包括・定額点数と施設基準で「標準的」な診療機能を規定し、そこへ諸要件を重ねることで医療機関の類型化、「格付け」評価へと連動していくことが懸念される。

 

◆「基本診療料」の「施設基準」導入での格差づけは「療養の給付」原則に矛盾 階層化の懸念も

 とりわけ、歯科での「基本診療料」への「施設基準」導入は、医療提供の対価を医療機関に支払う「療養の給付」原則に矛盾し、診療報酬の「基本診療料」+「特掲診療料」の建てつけを変貌させる。

 それはこれまでの初診・再診という「診療行為」への経済評価が、「施設基準」による「機能」評価へと変容することを意味し、また機能類型により初診料・再診料が「一物二価」、「一物多価」となることを意味する。初診・再診行為の優劣評価となり「療養の給付」原則と衝突することになる。

 診療の出発点の初診料・再診料に施設基準を重ねると、全医療機関が対応を余儀なくされ、医療機関の「標準型」への政策誘導が容易となる。しかも、医療機関の「基本診療料」に「異なる」施設基準を「複数」重ねることで、医療機関の類型化が可能となり、政策的な選別淘汰のツールとなる。

 導入予定の院内感染防止体制の施設基準は歯科医療機関の半数程度がクリアする見込みであり、大きな‘投網’が仕掛けられることとなる。「基本診療料」の施設基準は行政の「適時調査」を通じたチェック・コントロールだけでなく、それ以上に、ほかの施設基準の届け出すべての前提、起点となるだけに、「欠格」状態が医療機関経営の帰趨に甚大な影響を与えることとなる。

 ただ、初診・再診料への施設基準による点数格差づけは政策企図に反し、患者にとってみれば患者負担の格差となり、経済原則で「安い方」の選択となり逆の結果を生む可能性がある。また経済的余力のある患者は機能の「高い方」を選ぶことも想定され、医療機関と患者双方の階層化も懸念される。

 従来、外来の基本診療料では「機能」評価はあっても「基本点数」への「加算」であり、原則は「特掲診療料」での点数項目設定である。無用な混乱を回避するためにも、従来を踏襲すべきである。

 

◆「機能強化加算」は施設基準の援用型 透ける深謀遠慮 

 医科の初診料の「機能強化」加算は、要件を「かかりつけ医」関連の診療報酬の届け出という、入れ子細工的な「特掲診療料」の施設基準の「援用」の仕組みをとっている。中医協では初診の「かかりつけ医機能」を、(1)気軽な相談機能、(2)専門医療機関への紹介機能、(3)より的確で質の高い診療機能をあげ、(3)に関しては資料等から、ⅰ)24時間対応やⅱ)生活指導、ⅲ)院内処方、ⅳ)服薬指導、ⅴ)介護認定支援、ⅵ)ケアマネとの連携、ⅶ)在宅医療の提供などが「指標」となると見られていたが、少ない改定財源のため援用手法を用い「かかりつけ医初診料」などの独立点数としなかった。

 この「加算」に、屋上屋との疑問が支払側から出されたが、「基本診療料」に援用で施設基準を絡めた点に深謀遠慮が見てとれる。

 

◆「か初診」の復活か 初診料の施設基準化は全体への影響は甚大

 医科、歯科ともに今回の初診料・再診料の見直しは、2000年導入の「かかりつけ歯科医初診料」を想起させる。これは、補綴物維持管理料の届け出や他の保健医療関係機関との連携確保などを「施設基準」とし、更に複数の要件を課した患者一人に対し1医療機関の算定の点数である。270点と一般の歯科初診料186点より大幅に高い、「かかりつけ」を冠した初の点数であった。「一物二価」、「継続管理」の強要、「囲い込み」の温床などの批判を浴び2006年に廃止となるが、患者の一生涯管理の路線は踏襲され、形を変えながら現在に至っている。今回の歯科での動きはこの復活の布石となる。これは医療機関「類型」に応じた治療コースの「類型化」の問題も重なり、患者にも影響が大きい。

 

◆「外来基本料」構想が下地 初診・再診料再編と外来の機能分化で「格付け」評価の懸念

 更には、1999年1月に医療福祉審議会「診療報酬体系見直し作業委員会」報告書が提案した「外来基本料」が浮上する。これは、診療報酬を「定額包括+部分的積み上げ」方式とし、「入院基本料」と「外来基本料」に再編することを提唱したもので、入院基本料は現実に導入され後者は頓挫している。「外来基本料」とは、かかりつけ医、プライマリーケア体制を評価し、初診料と再診料を再編した包括点数である。評価の指標として①連携体制の確保、②連携先の公開、③救急当番医、④紹介率、⑤在宅医療の実績とされ、この指標を欠く場合は「減算」としていた。これを施設基準化すれば、「実績」主義となり、届出や定例報告の際、数値的明示が求められ、当初構想通り機能評価は明確になる。

 初診料・再診料は究極の包括・定額点数である。今回の医科の初診料の「機能強化」加算の施設基準の援用、歯科初診料・再診料への施設基準の設定は、その点数構造が「かかりつけ歯科医初診料」、その先の「外来基本料」と同形であり評価指標の重なりも多い。これが源流にあり、終着点となると考えるのは自然である。「機能強化」加算も、いずれかかりつけ医機能が初診料の施設基準とされ、標準形に落着するとすれば、屋上屋の批判・疑問も氷解する。

 つまり、今次改定は外来機能の再編に主軸が置かれ、医科歯科ともにその「橋頭堡」が築かれることになる。今後、「外来基本料」的な定額包括点数が導入されると、初診・再診は部分的な「加算」式のものとなり、「標準的」は診療所機能をベースに、諸要件、施設基準により、「加算」「減算」のみならず「類型化」となり、「格付け」評価への連動も懸念されることとなる。

 

◆重複・頻回受診は全体の2%、紹介なし大病院受診は1.4% 言説・神話への翻弄から脱却を

 定額・包括点数は、技術・労働の個別的な経済評価を曖昧にさせ、わかりにくくする。更には医療費抑制、医療費コントロールを容易にする。2020年度以降の財政健全化へ社会保障費のこれまで以上の自然増の抑制を財務省は掲げており、これへの武器としても作用する。

 社会保障制度改革国民会議報告書の掲げた「緩やかなゲートキーパー機能」は、開業医による大病院への「適切な橋渡し」、やみくもな「大病院志向」の是正、医療資源の有効活用を狙ったものとし理解できる。

 多科受診、重複受診が巷でいわれるが、実際は患者数全体の2%(協会けんぽ調査)~0.9%(神奈川県における頻回・重複受診調査<H26年度>)に過ぎない。

 また全国の初診患者の8割は診療所が診ており、残り2割は病院だがすべてが大病院(200床以上)ではない。また1994年以降、大病院での紹介なし患者への自費での定額負担(差額負担)が導入され多くが実施している。更には、特定機能病院(大学病院)や地域医療支援病院などの基幹病院は、高い紹介率が病院の承認要件であり、また診療報酬上の施設基準でもあり、地域の診療所との連携関係を構築してきている。

 よって、前回改定で500床以上の大病院での紹介のない初診患者は5,000円以上の徴収としたが、その問題となる該当患者は外来の1.4%に過ぎないことが中医協(17.5.31)の調査で判明している。

 そもそも、救急患者、難病患者、HIV感染者、がん検診で精密検査となった患者などは紹介状がなくとも定額負担を求めない、問題とされない患者である。

 数字は冷厳に事実を語っており、巷の神話で右往左往することは厚労省も医療界も改めるべきである。事実に立脚が要諦であり、木を見て森を見ない硬直的政策は、角を矯めて牛を殺すに等しい。

 

◆ゆるやかなゲートキーパーの実効は、柔軟な点数要件と社会的な患者教育で実現を

 中医協資料から、内科の「かかりつけ医」が透けているが、高血圧、糖尿病、白内障、中耳炎、膝関節痛、喘息、うつ病と、内科で全ては対応できない。患者の多くは診療科目に応じ「複数」の「かかりつけ医」を持っている。住居の近隣と職場・通勤途上で、病気に応じ風邪症状と高血圧で各々、「かかりつけ医」を持っているケースも往々にある。入学、就職、転勤、転居、離別など居住や職場の変転に応じ、「かかりつけ医」「かかりつけ歯科医」も変転していくのが常である。

 医科の初診料での「かかりつけ医機能」の評価では、外来の役割分担で、「かかりつけ医以外」と「中小病院」は陰に隠れている。大病院への患者集中の整理を軸においているが現実には、診療所専門医への診診連携、中小病院への外来受診など、連携も多様である。

 医療制度の改革は現実社会が出発点である。一律に「患者と診療所」の「1対1」的な、かかりつけ医機能の評価ではなく、複数の「かかりつけ医」を念頭に、施設基準で縛った固定的ではない流動性のある「加算」方式の、診療報酬評価が合理的、実際的である。

 歯科においては一生涯の継続管理に拘泥せず、患者の理解や納得、受診行動や希望に応じ柔軟に診療報酬の設定に方向転換をすべきである。

 それとともに、医療機関の受診の仕方に関し、初等教育や新聞広告、厚労大臣の会見など、派手さはなくとも地道に、社会的な患者教育等で、患者の交通整理をはかるほうが混乱は生じない。

 

 われわれは「初診料」の在り方を「機能」に応じ改変し、診療報酬体系の変容、医療体制と連動した医療の標準化の企図や危険を内包する、医科・歯科の初診料見直しに慎重さを強く求める。

2018年1月26日