神奈川県保険医協会

政策部長談話 「健保3割負担『限度』の形骸化を図る 大病院選定療養の乱用を警鐘する 受診時定額負担の新機軸 『中間報告』の深謀遠慮を衝く」

健保3割負担「限度」の形骸化を図る大病院選定療養の乱用を警鐘する

受診時定額負担の新機軸 「中間報告」の深謀遠慮を衝く

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 政府の「全世代型社会保障検討会議」は昨年12月19日に「中間報告」を公表した。後期高齢者医療への原則2割自己負担の導入は、一律2割は見送られ、「一定所得以上」への導入とトーンダウンした。また市販薬のある医療用医薬品の保険外しの記載はなかった。ただ一方で、受診時定額負担を粉飾、改変し新機軸とすることが透ける、大病院の選定療養(差額徴収)の乱用拡大を盛り込んでいる。この仕組みは診療所への転用含みであり、ここに深謀遠慮を衝くとともに、関係方面に広く警鐘する。

 

執拗な受診時定額負担へのこだわり 

 「中間報告」は医療に関し、「(1)医療提供体制の改革」と「(2)大きなリスクをしっかり支えられる公的保険制度の在り方」の二つの柱立てをし、後者で「①後期高齢者の自己負担割合の在り方」と「②大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大」を挙げた。

 ここでいう「定額負担」とは、医療保険の「枠内」の負担ではなく、保険外の選定療養(差額徴収)である。2016年の法改定で本来「任意」徴収のものを、医療連携等の「責務規定」を設け療養担当規則で徴収を「義務」化し、金額を最低5,000円以上と定めたのであり、制度常識を破る”荒業”である。 

 報道では「中間報告」で受診時定額負担は見送られたとされているが、記述はそうなっていない。該当部分は次のとおりである。

 「外来受診時定額負担については、医療のあるべき姿として、病院・診療所における外来機能の明確化と地域におけるかかりつけ医機能の強化等について検討を進め、平成14年の健康保険法改正法附則第2条を堅持しつつ、大病院と中小病院・診療所の外来における機能分化、かかりつけ医の普及を推進する観点から、まずは、選定療養である現行の他の医療機関からの文書による紹介がない患者の大病院外来初診・再診時の定額負担の仕組みを大幅に拡充する」である。ポイント部分を下線で示したが繋げ読むと企図が浮き上がる。

 続く具体策では、文書での紹介のない大病院の外来受診の初診5,000円・再診2,500円以上の負担額について、「機能分化の実効性が上がるよう、患者の負担額を増額し、増額分について公的医療保険の負担を軽減するよう改めるとともに」、「対象病院を病床数200床以上の一般病院に拡大する」としている。

 つまり、健保法附則第2条の「医療の給付割合は将来にわたり百分の七十」は与党要望や厚労大臣の言を尊重するが、大病院の紹介なし初再診の差額徴収の仕組みを拡充し、差額分の「増額分」を保険給付から引き下げる、裏返すと保険給付を減額縮小し選定療養(差額徴収)で補填することになる。

 

患者負担3割突破の新機軸

 大病院での紹介状のない初再診の差額徴収(選定療養)の「義務化」は、2016年の法改定と療養担当規則改定で①特定機能病院、②地域医療支援病院(一般病床500床以上)に導入され、2018年度に地域医療支援病院の対象を一般病床400床以上へと拡大し、いま2020年度改定で200床以上へとさらに拡大する方向にある。

 これに先行する形で2013年度からは、<紹介率40%未満かつ逆紹介率30%未満>の①特定機能病院と②地域医療支援病院(一般病床500床以上)で、紹介状のない患者の初診料は、通常の270点(1点=10円)ではなく70点減額した200点を算定することが診療報酬改定で導入されている。

 その後、2014年度改定では、①この適用対象の紹介率が、<紹介率50%未満かつ逆紹介率50%未満>と水準が上がり、②新たに許可病床500床以上の病院(<紹介率40%未満かつ逆紹介率30%未満>、一般病床200床未満除く)が追加。点数も通常の初診料282点に比し減額73点の209点の算定とされ、2015年度から適用が開始。2018年度改定では、地域医療支援病院(400床以上)と許可病床400床以上病院に対象を広げ、現在は通常の初診料より74点減額の214点の算定となっている。

 これらの病院は、紹介状のない患者には特別料金の差額徴収を選定療養とし徴収しており、保険給付の減額分を差額徴収で補填する形となっている。

 「中間報告」は、この『給付縮小・差額徴収補填』の仕組みの対象を、紹介率要件を外し一気に無条件で200床以上の一般病院へ拡大することを提起している。それは、①5,000円プラス「増額分」の徴収を最低ラインとして「義務化」、②200床以上の一般病院を対象、③「増額分」相当を保険給付から減額設定、となる。200床以上は紹介状の有無で初診料に格差がつくことになる。

 これは、①差額補填を前提とする点や、②初診行為の経済評価に差がつく点で、「療養の給付」原則に反し、③差額の固定化・拡大、④保険給付の低質固定化の「装置」となり、皆保険制度を揺るがす。また中規模病院が事実上の紹介制となり患者のアクセスを制限し、地域医療や地域包括ケア構築にも混乱と支障を来たすことになる。

 

乏しい財政効果 本丸は診療所への「給付減額・差額補填」の仕組みの転用

 果たして財政効果はどれ程なのか。仮に差額徴収の「増額分」が1,000円とすれば、初診料は現行214点が114点となる。現在、義務化された5,000円以上の差額徴収の対象は、該当病院の初診患者の16.5%(平成30年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査報告書)であり、200床以上病院の初診(平成30年社会医療診療行為別統計)にこの仕組みを機械的に当てはめると、約52億円が医療保険の給付減額となる。「中間報告」のいう公的医療保険の「負担軽減」である。

 再診に関しても同様に仮置きで、差額徴収2,500円を500円増額すると、外来診療料(再診)74点が24点となる。現在、差額徴収義務化の対象は0.7%なので約6億円強となる。

 つまり、公的医療保険の負担軽減は最大でも約60億円程度であり、差額「増額分」を2,000円とし保険給付を14点と最低水準にしても約100億円に過ぎない。ここに力点はない。「見せ球」である。

 狙うのは200床以上病院は紹介制と「機能」を明確化することと、そのツールとしての「給付縮減・差額補填」の仕組みの社会的流通、認識化、親和化、制度的許容である。

 これは、「給付縮減・差額補填」の仕組みの診療所の外来受診への転用、援用の布石となる。かかりつけ医の「機能」の有無で、初診料・再診料に格差をつけ、差額徴収を「義務化」する、となる。これは形を変えた、外来受診時定額負担となる。選定療養の大病院の定額負担の呼称と類似となる。

 「かかりつけ医」を地域包括診療料・同加算を算定している医療機関とし「機能」の明確化を図れば、全国の診療所と200床未満の病院の95%は算定していないので、「かかりつけ医以外」の受診となる。この際に再診料を10点下げ100円の差額徴収の義務化とすれば、約1,200億円の減額となる。しかも、日常診療の医療需要に影響し、「長瀬式」で試算すれば数千億円規模の需要抑制も見込まれる。

 

2022年以降の社会保障費抑制、医療費抑制が構造的問題

 受診時定額負担は、2001年以降何度も浮上し、導入理由も変転し、頓挫してきた。①難病公費の対象拡大の財源、②高額療養費の上限額引き下げの財源、③外来受診の適正化、④病診の機能分担、⑤勤務医の負担軽減、⑥かかりつけ医の普及、そして今また「外来機能の明確化・機能分化」、である。

 実は団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向け、2022年より社会保障費の圧縮圧力が厳しくなることとなっている。執拗な受診時定額負担導入の裏には、構造的な財政問題が横たわっている。

 この選定療養の大病院の定額負担の義務化について、当協会では導入企図当初より、勤務医の負担軽減に実効性が乏しく、収束局面の機能分担の現実をみない問題のすり替え、診療所への転用の布石と指摘をしてきた1。事実、問題となる紹介無し患者は大病院の外来患者の1%に過ぎず、施策導入後も外来患者数に影響はない。勤務医の多忙さの問題解決は働き方改革など別施策が必要である。

 「中間報告」は、変形亜種の受診時定額負担の導入を念頭にしている。日医の横倉会長も、「受診時定額負担的なもの」が文言に残っていると指摘し、「最終報告」まで予断は禁物と説いている2

 われわれは、健保法附則第2条を換骨奪胎する受診時定額負担の実質的導入を警鐘し強く反対する。

2020年1月15日

 

<参 考>

◆ 受診時定額負担による保険財政への影響(イメージ)

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◆ 「中間報告」が提唱する受診時定額負担のイメージ

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◆ 大病院の選定療養(差額徴収)を増額し200床以上病院に拡大した際の、保険給付の減額分

▽現行:大病院で紹介状のない初診・再診の場合

  1. 選定療養(差額徴収):初診5,000円 再診2,500円 (対象は①②)

  2. 初診料2,140円(214点)(低紹介率)(対象は①②③)<参考>通常 2,880円(288点)

  3. 外来診療料(再診) 740円(74点) *紹介状なしでの減額措置はなし

 

* 大病院=①特定機能病院、②地域医療支援病院(400床以上)、③許可病床400床以上

 

1. 初診料の減額分の試算(「増額分」=1,000円と仮定)

①増額分に係る減額分

(2,011,811回×12ヵ月)×16.5%×1,000円=約39.8億円

②対象拡大に係る減額分

(848,333回×12ヵ月)×16.5%×740円=約12.4億円

③合計 ①+②=約52.2億円

2. 再診の減額分の試算(「増額分」=500円と仮定)

(14,608,439回×12ヵ月)×0.7%×500円=約6億円

3. <総合計> 1+2=約58.2億円

 

注)「平成30年社会医療診療行為別統計」と「平成30年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査報告書」より 300~399床の数値は「300~499床」の数値を350:450で按分したものを使用

 

◆ 「かかりつけ医」以外を選定療養・義務化(=変形「受診時定額負担」100円仮定)の際の試算

▽「かかりつけ医」=地域包括診療料・同加算の算定医療機関

{(92,380,904回×12ヵ月)+(12,883,196回×12ヵ月)}×95%×100円=約1,200億円

 

注)「平成30年社会医療診療行為別統計」より

 

◆ 選定療養(差額徴収)義務化による患者負担の実質「上乗せ」による受診抑制での給付縮減影響

選定療養

負担額

患者負担額

(A)

減額後医療費

(B)

患者負担率

(A/B)

医療需要

充足度

医療保険給付

削減額

100円の場合 3,222円 10,221円 31.5% 57.5% ▲約2,130億円
200円の場合 3,332円 10,065円 33.1% 55.8% ▲約4,260億円
500円の場合 3,659円 9,597円 38.1% 50.7% ▲約1兆650億円

注1)「診療所(外来)」の医療費10,377円(実日数1.56日)<H30年社会医療診療行為別統計>を基に粗い推計

注2)患者負担額A:(10,377円-定額負担×1.56日)×0.3+定額負担額×1.56日

減額後医療費B:10,377円-定額負担×1.56日 患者負担率:A÷B

注3)長瀬式(Y=1-1.6X+0.8X2) Y:医療需要充足度 X:患者負担率 3割負担の際の医療充足度59.2%

注4)医療保険給付削減額は各々の医療充足度と3割負担のそれとの縮小比率を外来医療費(H30国民医療費)に投影 外来医療費8.477兆円 うち保険給付87.5%で計算

 

◆ 文中の注

1)選定療養の義務化の内包する問題点を指摘した当協会政策部長談話の主なもの

2)2020.1.7 メディファクス