神奈川県保険医協会

政策部長談話 「診療報酬改定 全体▲0.46%に抗議する マイナス改定に終止符を」

診療報酬改定 全体▲0.46%に抗議する

マイナス改定に終止符を

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 2020年度の診療報酬改定の改定率が12月17日、加藤厚労相より公表された。診療報酬本体は0.55%(①0.47%<医科0.53%、歯科0.59%、調剤0.16%>、②特例的対応分0.08%)、薬価等▲1.01%(薬価▲0.99%、材料▲0.02%)とされ、全体(ネット)では▲0.46%のマイナス改定となった。

 しかも、診療報酬の「本体」表現はなくなり、全体(ネット)改定率を示さなかった。この改定率は、中医協医療経済実態調査で示された、診療所の3割、歯科診療所の2割が損益率赤字で、双方とも経営悪化が5割の現状に応えたものとは言えない。われわれは、マイナス改定に抗議する。

 

◆ 繰り返された財務省の改定率▲2.5%以上アナウンス、諮問会議では暴論も

 次年度予算も明らかとなり、診療報酬のマイナス改定や介護保険の総報酬割により、社会保障関係費は自然増5,300億円から1,200億円を削減し、当初想定の4,100億円とされることとなった。

 前回改定と同様に、「改定率▲2.5%以上」とのアナウンスが財務省からなされ、診療報酬本体のマイナス改定が財政審等で強く要請されていただけに、医療界や関係方面の直接的な尽力は多としたい。

 ここに至るまでに、経済財政諮問会議では、赤字病院の多さは診療報酬の引き上げの理由とならないとする暴論も展開され、財務省からは「医療機関の収入増は国民の負担増」との歪曲も発信された。改定率発表にあたり一部報道で、「マイナス改定で、患者負担が軽減される」とも出ている。

 しかし、公定価格の診療報酬で皆保険、国民医療を担う医療機関にとって、赤字経営の多さは引き上げの十分な理由であり、経済財政諮問会議のいう経営改革は、1998年以降の累積▲15%に上るマイナス改定の下、限度・限界がある。医療機関の収入増は、その存立と医療人材・医療の質の確保、医療の再生産の保障である。また医療費増、給付増は負担増と確かに一対であるが、「安かろう、悪かろう」では、医療は立ち行かないのである。

 その点で、社会保障審議会・医療保険部会で改定の「基本方針」が12月10日に示され、「将来を見据えた課題」に、診療報酬の構成財源の説明責任、国民の医療制度の理解の深化への普及啓発に関し医療関係者、行政等の役割について新たに触れられたことは変化であり、国民合意形成、無理解是正の一歩である。

 

◆ 消費税財源活用での一時的な政策目的別枠改定 「本体」表示なしの意味

 改定率での特例的対応分の0.08%は、救急病院の勤務医の働き方改革に資するものとし、通常分とは別枠で設けられた。消費税財源を活用し公費(国費と地方)126億円を充てる。2024年までに勤務医の時間外労働を年1,860時間以下に縮減することとなっており、これへの支援となる。ただ、今回改定のみの対応(財務省)の模様である。この政策目的での別枠改定率は異例である。2010年度改定で、外来・入院の枠決めをし、急性期入院医療に概ね4,000億円を配分とされた過去はあるが、より踏み込み、しかも消費税財源による一時的財源投入となる。

 改定率は「本体」表示がないことに、保険局医療課は、①表示は慣行で定義はなく、②消費税財源による特例的対応を理由に挙げた(12/18当協会が課長補佐に照会)。恒常的な財源投入ではなく、将来にわたり財源保障がされないのだから、よく考えれば当然である。今後の改定率計算が問題となる。

 改定率とは別に、勤務医の働き方改革へは、医療介護確保基金で公費143億円を措置する。これも消費税財源の活用であり、消費税1%分2.7兆円の「社会保障の充実分」からである。

 この特例的対応枠を別と考えれば、本体0.47%、薬価等▲1.01%で実質▲0.54%となる。

 意外にも報道はされていないが、前回の湿布薬剤のような花粉症薬の保険外しは取り沙汰されたものの財源上は措置されておらず、恒常化していた薬価の外枠改定も、なされてはいない。

 

◆ 分散化された医療界の運動 与党内の見識と厚労省の努力への正当な評価も

 医療界にとって焦眉の課題は、診療報酬改定であった。しかし、政府の検討会により、後期高齢者2割負担導入の前倒し、受診時定額負担導入の執拗なアナウンスが重ねられた。これにより、医療界の意識や、耳目、要望が分散され、倒錯が起きたきらいがある。

 そもそも来年は介護保険、年金保険の改定法案が上程予定であり、ここに医療保険の改定法案を重ねるのは無理筋である。骨太方針でさえ、後期高齢者2割負担導入は2021年としていた。

 さすがに与党内でも見識が発揮され、診療報酬のネットプラス改定を求めた自民党の医療政策研究会に続き、12月4日に「国民医療を守る議員の会」が前回を上回る改定率と受診時定額負担を絶対に導入しないことを首相に要望。自民党政策調査会も、患者負担増は「国民の理解が得られない」とし、「人生100年時代戦略本部」はとりまとめにあたり、受診時定額負担は「導入理由が不明確」とし、後期高齢者の2割負担導入は記載を見送っている。公明党も2割負担導入は慎重姿勢で一貫している。

 加藤厚労相も受診時定額負担は健保法の3割原則に反すると公の場で否定し、診療報酬本体のプラス改定の上積みに閣僚折衝で理解を求めるなどしている。これらは評価されるものである。

 日医会長は総決起大会で、一連の「患者負担増」提案が国民生活への影響を精査されず議論されていると指摘し、診療報酬本体のマイナス改定では倒産する医療機関が出てくると警鐘を鳴らしている。

 

◆ マイナンバーカード端末の普及財源でネットプラス改定は可能

 しかしながら、マイナス改定は依然と、終止符が打たれない。次年度は保険証の代替利用が可能なマイナンバーカードでの保険資格のオンライン確認のため、医療機関への端末普及の費用768億円が計上される。現在、人口の14%程度のカード普及率の伸張策だが、保険資格確認を毎回リアルタイムで行う必要もなく、月1回の現在の保険証の目視確認で十分である。資格なし返戻で問題となるのは年間に全請求件数の0.1%に過ぎない。回線利用となるオンライン請求も医科医療機関の60%、歯科診療所の17%に過ぎず、ここに無理を重ね、取り扱いリスクの高いカードを持ち込むことは無用な混乱を医療現場に持ち込むだけである。この国費分を改定財源に投入すれば、0.7%強の改定率の上乗せとなり、ネットプラス改定は可能である。

 行政事務は共通番号の付番と情報連携で支障はなく、カードの民間利用・社会的利用を期しているが、複雑な強硬策を重ねず、立ち止まることも必要である。過ちは改めるに如かず、である。

 

◆ 本体と薬価は不可分一体 薬価の毎年改定に留意 応能負担は保険料と税金で

 診療報酬は、本体と薬価は不可分一体であり、薬価引き下げ財源の本体充当を、医療界は今次改定で求めた。中医協でも日医は、その点を強く主張し、診療報酬プラス改定は負担増議論を乗り越え、「国が国民にどのようなレベルの医療を提供するのかという国民との約束や責任・使命を果たすための費用である」と展開した。至言である。

 薬価は引き下げ財源の技術料(本体)振り替えが、1972年の中医協で「建議」されているが、2014年度改定以降、財務省の「フィクション」論で反故にされてきている。しかし実際には、卸との価格交渉での経営努力分は医療経営の原資になっており、「現実」である。

 実は、薬価は2021年度より毎年改定となる。4閣僚合意の「薬価制度の抜本改革に向けた基本指針」(2016.12.20)に基づく。よって、今後は、診療報酬改定は2年に一度は薬価改定と重なるが、毎年の薬価改定は定型的行政実務となり、引き下げ財源は丸まる「召し上げ」となっていく。今回、診療報酬改定で「本体」の明示がないこと、ネット改定率に言及しないことは、これで合点がいく。

 改定率が決まり配分へと議論が移るが、経営基盤を支える再診料などの基本診療料や、医療の質に影響する医学管理料への十分な配点が強く望まれる。患者負担増議論も社保審医療保険部会で来年早々、議論となるが、応能負担原則は、保険料と税金で行うべきものである。

 われわれはマイナス改定に終止符を打ち、プラス改定への転換を改めて強く求める。

2019年12月20 日