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2013/4/19 政策部長談話「保険商品の"直接支払い"は、事実上の現物給付 報告書のみで「民間版『健康保険』」に道開く金融庁に断固抗議する」

保険商品の"直接支払い"は、事実上の現物給付

報告書のみで「民間版『健康保険』」に道開く金融庁に断固抗議する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 医療や介護の現物給付商品を検討してきた金融庁は事実上の解禁で報告書作成に入っている。当会との4月18日の懇談で明らかにしており、医療界が危険視してきた「民間版『健康保険』」誕生に大きく道を開くものとなる。この間議論を重ねてきた「保険商品ワーキング・グループ(WG)」での異論や反対を封殺し、公的医療保険の形骸化を招く金融庁の一連の策動に断固抗議するともに、この解釈「解禁」方針の撤回を強く求める。

 保険商品WGは当初から保険商品への物・サービスの現物給付ニーズにどのように応えるかを検討してきた。そして、その仕組みを、保険金をサービス提供者に支払う「直接支払い」として落着させ、現行法の下でもこれは支払先の変更にすぎず可能であるとの解釈で結論づけたのである。

 つまり、健康保険で保険者が診療報酬を医療機関に支払う仕組みに着目し、保険会社が保険金を医療機関に支払うとして応用したに過ぎない。これは、事実上の現物給付であり、われわれは「民間版『健康保険』」の誕生に大きく道を開くものだと考えている。

 それが証拠に、4月4日の保険商品WGへの金融庁提示の資料では、この直接支払いに関し、「これに、保険会社が、提携する財・サービスの提供事業者を契約者に紹介するサービスを、契約者に併せて提供することにより、契約者が一時的な支払いをすること無しに、財・サービスを受けることができ、現物給付に近い方法で財・サービスを提供することが可能となる」と堂々と記している。

 金融庁は、この支払先の変更となる直接支払いを保険商品の「付加的サービス」と整理し現行でも可能だとし、提供事業者の紹介を「付帯的サービス」と位置づけ新たな商品認可は不要だと懇談の席で回答した。

 つまり、この5月、6月でまとめられる報告書に盛り込まれてしまえば、当初予定の2014年4月以降、現在の保険商品にこれが適用されることになる。また、医療機関へも提携事業者としての勧誘がなされ「囲い込み」が始まり、テレビ・新聞広告も打たれ周知・普及へと展開していくことになる。

 医療に限らず、事実上の現物給付の解禁になることに関し4月4日の保険商品WGでは広告と期待の落差による苦情、サービスの質の担保などの疑問や異論が続出している。これらに関し金融庁は懇談の席上、監督指針で保険会社への情報提供と体制整備の義務を課すとしているが法令上の強制力は何もなく、その内容に踏み込みもせず監督責任に関しても否定的で、被害の際は「私人間の問題」と突き放している。

 金融庁は、この事実上の現物給付商品に関し、「保険商品WG」での議題設定はもうないとし、あとは保険募集や不妊治療保険などの多くの論点をまとめた「報告書」の議論のみとしている。なし崩し的に、事実上の現物給付の解禁を図ろうとしており、秒読み段階に入っている。

 実は、この直接支払い方式は自動車保険・自賠責保険の一括払いで用いられており非常に似ている。この仕組みでは保険会社の優位の運営や不払いが頻発しており、米国の管理医療と酷似してさえいる。医療事故全般への拡大適用が予想される産科医療補償制度も自賠責保険を下地にしていると目されており、社会保障制度全般を自動車保険の論理で浸蝕、駆逐していくかのように思える。

 保険商品の保険金の支払い先の変更、医療機関の囲い込みはいずれ保険会社にとって旨味のある、医療内容による商品開発へといきつく。産業競争力会議などで議論されている公的医療保険の給付範囲の縮小や疾病ごとの給付割合の減少は、その市場拡大と連動する。保険適用外の医療を担う保険商品と公的医療保険の併用、公・民保険の併用が医療現場で常態化すれば混合診療の全面解禁とあいまって皆保険は瓦解し、貧富による医療格差を決定的にする。

 すでに重粒子線治療などの先進医療(保険外併用療養)は、これをカバーする民間保険の先進医療特約が販売され、この活用を医学界の権威が薦め公的保険と民間保険の併用が一般化しはじめている。かつて生活習慣病の自由診療(保険外診療)を対象とした保険商品の開発が計画されていただけにわれわれの懸念は現実味を帯びてきている。

 厚労省は現物給付商品に反対しているが、次年度の診療報酬改定の際、規制緩和・成長戦略勢力に圧され、保険外併用療養の「選定療養」(=保険導入を前提としないもの)のメニュー拡大を呑まされる可能性も否定できない。その場合に保険商品の開発余地が広がり、公的保険と民間保険の併用のバリエーションが増えることとなる。

 この金融庁の描く成長戦略は、国民の医療不安を増し、社会制度を壊し、内需喚起にはつながらない。タコが自分で手足を食べているような話で、生損保企業のみが栄えるに過ぎない。トラブルの多発は容易に想像できる。医療、介護のこの商品に関する規制策はほとんど何も検討もされていない。

 われわれは、解釈変更で何の痛痒も感じず、事実上の現物給付解禁を強引にすすめる金融庁を指弾するともに、その方針の撤回を改めて求める。

2013年4月19日

 

保険商品の"直接支払い"は、事実上の現物給付

報告書のみで「民間版『健康保険』」に道開く金融庁に断固抗議する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 医療や介護の現物給付商品を検討してきた金融庁は事実上の解禁で報告書作成に入っている。当会との4月18日の懇談で明らかにしており、医療界が危険視してきた「民間版『健康保険』」誕生に大きく道を開くものとなる。この間議論を重ねてきた「保険商品ワーキング・グループ(WG)」での異論や反対を封殺し、公的医療保険の形骸化を招く金融庁の一連の策動に断固抗議するともに、この解釈「解禁」方針の撤回を強く求める。

 保険商品WGは当初から保険商品への物・サービスの現物給付ニーズにどのように応えるかを検討してきた。そして、その仕組みを、保険金をサービス提供者に支払う「直接支払い」として落着させ、現行法の下でもこれは支払先の変更にすぎず可能であるとの解釈で結論づけたのである。

 つまり、健康保険で保険者が診療報酬を医療機関に支払う仕組みに着目し、保険会社が保険金を医療機関に支払うとして応用したに過ぎない。これは、事実上の現物給付であり、われわれは「民間版『健康保険』」の誕生に大きく道を開くものだと考えている。

 それが証拠に、4月4日の保険商品WGへの金融庁提示の資料では、この直接支払いに関し、「これに、保険会社が、提携する財・サービスの提供事業者を契約者に紹介するサービスを、契約者に併せて提供することにより、契約者が一時的な支払いをすること無しに、財・サービスを受けることができ、現物給付に近い方法で財・サービスを提供することが可能となる」と堂々と記している。

 金融庁は、この支払先の変更となる直接支払いを保険商品の「付加的サービス」と整理し現行でも可能だとし、提供事業者の紹介を「付帯的サービス」と位置づけ新たな商品認可は不要だと懇談の席で回答した。

 つまり、この5月、6月でまとめられる報告書に盛り込まれてしまえば、当初予定の2014年4月以降、現在の保険商品にこれが適用されることになる。また、医療機関へも提携事業者としての勧誘がなされ「囲い込み」が始まり、テレビ・新聞広告も打たれ周知・普及へと展開していくことになる。

 医療に限らず、事実上の現物給付の解禁になることに関し4月4日の保険商品WGでは広告と期待の落差による苦情、サービスの質の担保などの疑問や異論が続出している。これらに関し金融庁は懇談の席上、監督指針で保険会社への情報提供と体制整備の義務を課すとしているが法令上の強制力は何もなく、その内容に踏み込みもせず監督責任に関しても否定的で、被害の際は「私人間の問題」と突き放している。

 金融庁は、この事実上の現物給付商品に関し、「保険商品WG」での議題設定はもうないとし、あとは保険募集や不妊治療保険などの多くの論点をまとめた「報告書」の議論のみとしている。なし崩し的に、事実上の現物給付の解禁を図ろうとしており、秒読み段階に入っている。

 実は、この直接支払い方式は自動車保険・自賠責保険の一括払いで用いられており非常に似ている。この仕組みでは保険会社の優位の運営や不払いが頻発しており、米国の管理医療と酷似してさえいる。医療事故全般への拡大適用が予想される産科医療補償制度も自賠責保険を下地にしていると目されており、社会保障制度全般を自動車保険の論理で浸蝕、駆逐していくかのように思える。

 保険商品の保険金の支払い先の変更、医療機関の囲い込みはいずれ保険会社にとって旨味のある、医療内容による商品開発へといきつく。産業競争力会議などで議論されている公的医療保険の給付範囲の縮小や疾病ごとの給付割合の減少は、その市場拡大と連動する。保険適用外の医療を担う保険商品と公的医療保険の併用、公・民保険の併用が医療現場で常態化すれば混合診療の全面解禁とあいまって皆保険は瓦解し、貧富による医療格差を決定的にする。

 すでに重粒子線治療などの先進医療(保険外併用療養)は、これをカバーする民間保険の先進医療特約が販売され、この活用を医学界の権威が薦め公的保険と民間保険の併用が一般化しはじめている。かつて生活習慣病の自由診療(保険外診療)を対象とした保険商品の開発が計画されていただけにわれわれの懸念は現実味を帯びてきている。

 厚労省は現物給付商品に反対しているが、次年度の診療報酬改定の際、規制緩和・成長戦略勢力に圧され、保険外併用療養の「選定療養」(=保険導入を前提としないもの)のメニュー拡大を呑まされる可能性も否定できない。その場合に保険商品の開発余地が広がり、公的保険と民間保険の併用のバリエーションが増えることとなる。

 この金融庁の描く成長戦略は、国民の医療不安を増し、社会制度を壊し、内需喚起にはつながらない。タコが自分で手足を食べているような話で、生損保企業のみが栄えるに過ぎない。トラブルの多発は容易に想像できる。医療、介護のこの商品に関する規制策はほとんど何も検討もされていない。

 われわれは、解釈変更で何の痛痒も感じず、事実上の現物給付解禁を強引にすすめる金融庁を指弾するともに、その方針の撤回を改めて求める。

2013年4月19日