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2012/4/5 政策部長談話「感染症の専門家不在で、なぜ新型インフル対策法案が出るのか? 臨床現場の医師から疑問が続出する、拙速の不可思議」

感染症の専門家不在で、

なぜ新型インフル対策法案が出るのか?

臨床現場の医師から疑問が続出する、拙速の不可思議

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 新型インフルエンザ等対策特別措置法案が3月28日衆院内閣委員会、30日衆院本会議で賛成多数で可決され参院に送られた。感染症専門家が不在の関係省庁対策会議で、1時間足らずの議論で提出となったこの法案は、あまりにも唐突、不自然であり、普通に考えれば既に準備されていた、と考えるのが自然である。衆院で附帯決議が11項目もついたことは、拙速さの表れである。感染予防や医療提供体制、憲法との関係など十分な論議と国民周知はいまだない。われわれは、今後、政府の発する「緊急事態宣言」の下、基本的人権の大幅な制約を伴う、この「有事法制」の制定に関し、撤回、廃案を強く求める。

 

 この法案に関し、元厚労省医系技官や自治医科大学の感染制御部長や医療現場の医師などから、政府が想定している新型インフルエンザ等のパンデミック(爆発的大流行)に対し、基本的人権の侵害や、実際的な有効性、はたまたそもそもの必要性について、多角的に疑問が提示されている。

 

 日弁連も会長声明を出し、基本的人権の過剰な制限についての指摘とともに、「性急な立法を目指すことには反対」と明確な姿勢を示している。

 

 この法案の骨格はこうだ。新型インフルエンザ並びに未知の新感染症の大流行に際し、国民生活、経済活動に及ぼす影響を最小とすることを目的に、政府が緊急事態宣言を発し、対策本部が設置される。あらかじめ策定された行動計画にもとづき、対処方針が定められるというものである。モデルは災害対策基本法のようだが、この法案では基本的人権が制約される。

 

 法案では、医療関係者の新型インフルエンザへの診療の従事要請・指示(強制)のみならず、集会の禁止、報道規制、国民の外出の制限が規定されている。また緊急の医療施設として国が一般の建物や土地を接収することが規定されており、場合によっては所有者の同意なしで接収が可能となっている。

 更には「指定公共機関」に位置付けられる日本銀行、日本赤十字、医療機関などは、政府の「行動計画」に準じ、各々、事前に業務計画の策定が義務付けられる。

 SARSのような発生と自覚症状が同時期の感染症と違い、自覚症状がなく潜伏期間がある新型インフルエンザに、水際作戦、封じ込め作戦の有効性は医学常識的に大きな疑問符がつく。

 政府はいま病院病床の強力な削減政策をとっており、この対策新法との整合性は見られない。一般建物を転用した緊急時の医療施設は医療機能、衛生管理は病院に比べ格段に劣る。疑問だらけである。

 

 感染症に対しては、感染症法、感染予防法でこれまで対応してきている。

 

 法案の「たたき台」へのパブリックコメントは135件が寄せられたが、既存の法律改定で対応可能であること、既存の法律との関係が不明瞭などの指摘がなされている。また言論の自由や集会の自由への侵害を懸念する声、緊急事態への国会の関与が災害対策基本法にはあるのに欠落しているとの指摘などもあり、国民的不安が多々、示されている。

 

 議論が不十分なのは歴然としている。感染症対策を管轄する健康局の下にある「新型インフルエンザ専門家会議」では、新法制定は全く議論されていない。にもかかわらず、今年1月18日に突如、関係省庁対策会議を管掌する内閣官房・小杉参事官がこの専門家会議に出席し、たかだか2枚の法案「たたき台」をもとに説明したに過ぎない。さすがに席上、専門家会議の委員に「突然こういうものが出てきた」と指摘され、経緯について説明を求められたものの不問に付し、制定の方向性だけが確認されたのである。

 

 折しもこの前日の1月17日に、内閣官房の関係省庁対策会議で、新法制定の結論を僅か30分の議論で出している。ここには厚労省から、健康局長、技術総括審議官、医薬食品局長、食品安全部長が出席しているが、この会議に感染症の専門家は不在である。

 

 この日、内閣官房の関係省庁対策会議の議長(内閣危機管理監)の締めくくり発言は、大流行の際の「行動計画」の機能化のため、席上で指摘された「訓練」の必要性に触れ、イメージトレーニング、「心の準備」が必要と説き、法制化を武器にし「万が一発生した場合の被害を少なくしていきたい」という、雲つかむようなものであった。

 

 インフル新法では政府の緊急事態宣言の下、政府、地方自治体に対策本部が設置される。しかし、副本部長などの指揮権限をもつポストに日医や郡市医師会など医療団体や専門家を配置することは、なぜか想定されていない。ここでも専門家は不在である。非常に、奇妙な話である。

 

 奇しくも、三菱総合研究所はこの新型インフルエンザのパンデミックを想定した、「行政版業務継続計画(大規模感染症編)」策定を数百万円単位のビジネスとして売り出している。同社は既に「国民保護マニュアル策定支援」や武力攻撃・大規模テロ等にかかわる調査も、商品化している。

 

 有事法制、国家総動員法の色彩とともに、この陰に隠れたビジネス展開も虎視眈々としている。

 

 09年の新型インフル騒動では、地域の医療連携と専門家の知見、見識が有効に機能したのである。政治の冷静な議論を期待したい。

2012年4月5日

 

感染症の専門家不在で、

なぜ新型インフル対策法案が出るのか?

臨床現場の医師から疑問が続出する、拙速の不可思議

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 新型インフルエンザ等対策特別措置法案が3月28日衆院内閣委員会、30日衆院本会議で賛成多数で可決され参院に送られた。感染症専門家が不在の関係省庁対策会議で、1時間足らずの議論で提出となったこの法案は、あまりにも唐突、不自然であり、普通に考えれば既に準備されていた、と考えるのが自然である。衆院で附帯決議が11項目もついたことは、拙速さの表れである。感染予防や医療提供体制、憲法との関係など十分な論議と国民周知はいまだない。われわれは、今後、政府の発する「緊急事態宣言」の下、基本的人権の大幅な制約を伴う、この「有事法制」の制定に関し、撤回、廃案を強く求める。

 

 この法案に関し、元厚労省医系技官や自治医科大学の感染制御部長や医療現場の医師などから、政府が想定している新型インフルエンザ等のパンデミック(爆発的大流行)に対し、基本的人権の侵害や、実際的な有効性、はたまたそもそもの必要性について、多角的に疑問が提示されている。

 

 日弁連も会長声明を出し、基本的人権の過剰な制限についての指摘とともに、「性急な立法を目指すことには反対」と明確な姿勢を示している。

 

 この法案の骨格はこうだ。新型インフルエンザ並びに未知の新感染症の大流行に際し、国民生活、経済活動に及ぼす影響を最小とすることを目的に、政府が緊急事態宣言を発し、対策本部が設置される。あらかじめ策定された行動計画にもとづき、対処方針が定められるというものである。モデルは災害対策基本法のようだが、この法案では基本的人権が制約される。

 

 法案では、医療関係者の新型インフルエンザへの診療の従事要請・指示(強制)のみならず、集会の禁止、報道規制、国民の外出の制限が規定されている。また緊急の医療施設として国が一般の建物や土地を接収することが規定されており、場合によっては所有者の同意なしで接収が可能となっている。

 更には「指定公共機関」に位置付けられる日本銀行、日本赤十字、医療機関などは、政府の「行動計画」に準じ、各々、事前に業務計画の策定が義務付けられる。

 SARSのような発生と自覚症状が同時期の感染症と違い、自覚症状がなく潜伏期間がある新型インフルエンザに、水際作戦、封じ込め作戦の有効性は医学常識的に大きな疑問符がつく。

 政府はいま病院病床の強力な削減政策をとっており、この対策新法との整合性は見られない。一般建物を転用した緊急時の医療施設は医療機能、衛生管理は病院に比べ格段に劣る。疑問だらけである。

 

 感染症に対しては、感染症法、感染予防法でこれまで対応してきている。

 

 法案の「たたき台」へのパブリックコメントは135件が寄せられたが、既存の法律改定で対応可能であること、既存の法律との関係が不明瞭などの指摘がなされている。また言論の自由や集会の自由への侵害を懸念する声、緊急事態への国会の関与が災害対策基本法にはあるのに欠落しているとの指摘などもあり、国民的不安が多々、示されている。

 

 議論が不十分なのは歴然としている。感染症対策を管轄する健康局の下にある「新型インフルエンザ専門家会議」では、新法制定は全く議論されていない。にもかかわらず、今年1月18日に突如、関係省庁対策会議を管掌する内閣官房・小杉参事官がこの専門家会議に出席し、たかだか2枚の法案「たたき台」をもとに説明したに過ぎない。さすがに席上、専門家会議の委員に「突然こういうものが出てきた」と指摘され、経緯について説明を求められたものの不問に付し、制定の方向性だけが確認されたのである。

 

 折しもこの前日の1月17日に、内閣官房の関係省庁対策会議で、新法制定の結論を僅か30分の議論で出している。ここには厚労省から、健康局長、技術総括審議官、医薬食品局長、食品安全部長が出席しているが、この会議に感染症の専門家は不在である。

 

 この日、内閣官房の関係省庁対策会議の議長(内閣危機管理監)の締めくくり発言は、大流行の際の「行動計画」の機能化のため、席上で指摘された「訓練」の必要性に触れ、イメージトレーニング、「心の準備」が必要と説き、法制化を武器にし「万が一発生した場合の被害を少なくしていきたい」という、雲つかむようなものであった。

 

 インフル新法では政府の緊急事態宣言の下、政府、地方自治体に対策本部が設置される。しかし、副本部長などの指揮権限をもつポストに日医や郡市医師会など医療団体や専門家を配置することは、なぜか想定されていない。ここでも専門家は不在である。非常に、奇妙な話である。

 

 奇しくも、三菱総合研究所はこの新型インフルエンザのパンデミックを想定した、「行政版業務継続計画(大規模感染症編)」策定を数百万円単位のビジネスとして売り出している。同社は既に「国民保護マニュアル策定支援」や武力攻撃・大規模テロ等にかかわる調査も、商品化している。

 

 有事法制、国家総動員法の色彩とともに、この陰に隠れたビジネス展開も虎視眈々としている。

 

 09年の新型インフル騒動では、地域の医療連携と専門家の知見、見識が有効に機能したのである。政治の冷静な議論を期待したい。

2012年4月5日