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医療運動部会長談話 「荒唐無稽 財政審の開業医報酬 引き下げ方針 必要なのは全体の底上げ」

荒唐無稽 財政審の開業医報酬

引き下げ方針 必要なのは全体の底上げ

神奈川県保険医協会

医療運動部会長 池川 明 


 医療崩壊から医療再建、医療再生をするため、医療費総枠の拡大は、もはや論をまたない。しかし、5月18日、財政制度等審議会は、次回診療報酬改定にあたり、開業医の診療報酬を引き下げることを方針化した。6月上旬にまとめる「建議」に盛り込む予定となっているが、病院勤務医の年収と診療所の収支差額を比較、つまり個人の収入と事業所の所得という全くの別物を比較し、勤務医の年収が開業医の半分と結論。過重労働を強いられている病院勤務医の待遇改善のため、開業医の診療報酬を引け下げ、その財源を勤務医に重点配分するという、論理的にも実態的にも荒唐無稽で杜撰な議論で方針化を決定している。われわれは、これに抗議するとともに、事実に立脚した議論と、医療現場の改善に資する国家財政の議論を強く求めるものである。

 

 財政審の議論内容を検証してみたい。財政審が用いた07年度の医療経済実態調査は速報値を採用しているが、示されていない数値も含め確定値は次のようになっている。

 

【常勤職員1人あたり平均給与(給料+賞与)/月額】

◆個人・診療所 院長 ― (*不明)    勤務医113万3,827円

◆法人・診療所 院長 208万5,899円 勤務医129万2,523円

◆病院(全体) 院長 219万9,855円  勤務医119万5,921円

 

【収支差額】(月額・平均)

◇個人・診療所 222万7,560円  *最頻値100万円~150万円中央値185.9万円

◇法人・診療所  97万3,911円  *最頻値0円未満(詳細未公開)中央値70.9万円

◇病院(全体) ▲293万683円  *医業収支差額▲758万4,765円 <階級別数値未公開>

 

【1施設あたり 負債/設備投資/住民税/所得税・法人税】(負債は年額、それ以外は月額)

◇個人・診療所 負:3,872万7,881円 設:30万6,650円 住:19万1,266円 所:47万1,424円

◇法人・診療所 負:5,181万6,960円 設:64万9,641円 住:5万2,941円 所:21万3,794円

◇病院(全体) 負:17億2,935万4,551円 設:1,347万1,311円 住:24万73,921円 所:111万3,621円

 

 さて、「収支差額」とは、1診療所や1病院において、医業収入から医業費用を差し引いた、医療機関としての事業所所得のことを指しているのである。診療所の7割を占める個人立の診療所の院長収入というのは、この「収支差額」から、流動負債や固定負債の借入返済や設備投資、事業所の所得税などを差し引いた残余となる。

 それは上記の数字から勘案すれば百数十万程度であり、財政審が強調する2倍などにはなっていない。しかも、収支差額は正規分布しておらず、最頻値や中央値から考えればもっと低い水準にあることは明らかである。日医は手取り年収を、勤務医804万円(平均年齢41.2歳)、個人開業医1,067万円(平均年齢59.1歳)と試算しているが、これとて中医協調査の平均値に基づくものである。

 問題の根本は、長期固定化した低医療費政策にある。中医協・医療経済実態調査で、病院全体の医業収支差額は赤字である。つまり、医療の再生産ができないどころか、医療で経営が成立たないことを示している。また、診療所の41.5%が収支差額100万円未満であり、0円未満が17.0%となっており、設備・医療機器の更新や、専門職の配置、安全管理など、医療の再生産が不可能な状態にあることが示されているのである。この事実に財政制度等審議会は真摯に向き合うべきである。

 

 社会保障国民会議の最終報告以降、社会保障費抑制の転換が政府の基調となる中、吉川・経済財政諮問会議議員はこの間、日医とのシンポジウムで「医療崩壊は医療費配分の問題」と医療費増を無条件では認めていない姿勢を見せ、中味を徹底的に見直すことを要望するなど前哨戦が繰り広げられてきた。

 折りしも、経済危機による大企業の赤字決算、大幅減益がはっきりし、次回診療報酬改定のプラス幅をどれだけ抑えるかに重心が移動しはじめている。改定のプラス幅を1%程度とし、病院への財源移転により医療崩壊に手当てしたという"免罪符"を得、医療費総枠増に連動する企業保険料を低く押さえ込みたいという思惑が透けている。

 また、前回改定の再診料引き下げ同様、早々に総枠拡大の要求を冷え込ませ、開業医と勤務医の無用な対立構造を描き、小局の問題に医療界の力の傾注させ、力を殺ごうという意図も見て取れる。

 

 診療報酬とは医療機関へ支払われるものであり、勤務医個人に支払われるものではない。患者への医療提供を評価し患者単位で支払われる。しかも医療法によって患者数対比で医師数、看護師数の最低必要数が決められており、収入上の患者増は医師確保を求められる関係にあり経営上の限界がある。つまり、診療報酬の勤務医への重点配分など仕組み上、荒唐無稽であり、百歩譲って、病院関係の診療報酬を上げても勤務医の待遇改善に直結はしないのである。実際、前回、勤務医の負担軽減策としてとられた診療報酬上の様々措置は、中医協・検証部会の調査で、勤務状況の「改善」は16.8%に留まり、「悪化」が40.8%と、全く効を奏しておらず、財源移転のため入った外来管理加算「5分ルール」は、診療所ばかりか、中小病院にも経営的悪影響さえ与えているのである。病院医療の改善は、診療報酬のほか総合的な施策が必要である。

 医療は大病院の急性期医療のみで成立していない。一次医療、二次医療、三次医療と重層構造で、軽症、慢性疾患、初期救急、急性期入院、慢性期入院、救急救命などの疾病・負傷を、診療所、中小病院、基幹病院、大学病院、救命センターなどが機能分担をしているのである。第一線医療を蔑ろにすれば、全体の構造バランスが崩れ、患者は病院に流入し、病院崩壊に拍車がかかるのである。

 診療所・開業医は全国の外来患者の7割(67.9%)を診ている現実をきちんと理解すべきである。

 

 財政制度等審議会の委員には企業のトップクラスが顔を揃えている。ちなみに西室会長が会長を務めた、東芝の役員の平均年収は3,817万円、ほか各委員の所属母体の新日本製鉄は1億1,024万円、住友商事1億300万円、関西電力3,885万円、トヨタ自動車1億2,200万円等である。

 医療者は、人の命を助け治療をし、生活の糧を得ている。社会的貢献度をきちんと評価し、医療の再生産を保障する国の姿勢がなければ、この国の将来の医療は非常に心もとないものとなっていく。

 

 医療の専門家が、財政審の中には1人もいない。どうして医療の中身や制度の議論を門外漢の方々平気な顔でできるのかはなはだ不思議である。

 西室会長は、政府が医師不足を正式に認めたにもかかわらず、ドイツの医師定数制の日本での導入、自由開業医制の規制を言及。また、専門医が開業していることに無知な委員から、米国では専門医が家庭医より給与が高いのだから日本でも病院に手厚く配分すべきと、妄言が出されている。これらの資料を準備した財務省は犯罪的でさえある。

 欲張り村の村長による、国家財政論議をやめ、真に国民に資する議論を心より切望する。

2009年5月26日