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2010/11/12 政策部長談話「実は、混合診療の全面展開に向けたインフラ整備 日本のお産を潰す、産科の出産一時金直接支払制度の撤回を」

実は、混合診療の全面展開に向けたインフラ整備

日本のお産を潰す、産科の出産一時金直接支払制度の撤回を

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 法律に根拠がない出産育児一時金の直接支払制度の"暴走"がとまらない。産科の医会や学会など関係者の合意を盾に通知1本で作られたこの制度は、もはや合意が破綻したにもかかわらず、次年度以降の定着に向け山場を迎えている。11月15日の社会保障審議会の医療保険部会が実質的議論の最後となり、(1)この制度と(2)受取代理制度(対象施設は限定)、(3)法律に沿った償還払いの3案併用、及びに法令化が用意される模様だ。われわれは日本の産科専門施設を潰し、混合診療の全面展開の梃の役割を持つ、この直接支払制度の撤回を改めて強く求める。

 問題の直接支払制度は、産婦に保険者が現金給付で直接支払っていた出産育児一時金を医療保険の審査支払システムに乗せるもので、出産費用の当月入金で運営していた産科専門施設を、突如、2ヵ月後入金とし経営的な苦境に陥れ、それとともに正常分娩(自由診療)の出産費用を管理統制するものである。

 昨年10月の導入以降、産科24施設の閉院等により全国で9,000件の分娩が不可能となり、制度存続なら今後21施設がお産取り扱い中止の意向であり、この分娩数は8,000件に達する事態となっている。

 そればかりか混合診療の全面展開のインフラ整備の危険性が高い。現金給付の一時金を、国保連合会を介在させ審査支払システムを乱用することで、現金給付を「現物給付方式」で提供している介護保険と同様の制度になる。介護保険は、現金を利用者に給付し足らない分は利用者が足して介護を購入するというのが制度の基本である。ただ、医療が現物給付なので給付形態を準拠したに過ぎない。健康保険の保険給付は医療だけが現物給付であり、それ以外は現金給付である。

 よって、ドミノ式に医療保険の現金給付へ転換、実態は同じだが似て非なるものへの発展は想像に難くない。これこそが、混合診療といわれるものの本質である。法の基本は現金の給付、足らない分は患者が持ち出しして医療を購入するということである。

 医療保険部会のこれまでの議論で、厚労省は国保連合会の介在に拘泥している。この制度は産科専門施設から分娩費用の内訳費目を明示した「専用請求書」の提出が義務付けられている。この理由を、異常分娩の際に診療報酬明細書との突合としていたが、実際は保険者に送付されるため連合会での突き合わせは不可能である。またこの制度は保険者サイドでの資格点検、国保連合会への送金など、実務的にもしわ寄せが大きい。しかも、国保連合会への審査・支払の委託事務手数料が、診療報酬明細書の2倍となっており、内容明細の審査が不要な産科の専用請求書の方が高いという倒錯した状況にもある。にもかかわらず、である。つまりこの国保連合会の介在は「環」なのである。

 これにより混合診療の管理統制が可能となり、かつての歯科差額のような料金不明や法外な料金設定などの社会問題化は回避される。既に、国保連合会、支払基金とも法律により全ての診療報酬明細書のデータベースが作成されている。これに加えて、基金側はメタボ健診の審査支払を担いデータベース化を行っているが、国保連合会は分娩をはじめ自由診療領域、混合診療領域のデータベース化を担うことになる。

 11月15日の医療保険部会に提出予定の3案のうち、復活予定の受取代理制度は分娩数により対象医療機関を限定するとの噂がある。分娩収入が大半を占める産科専門施設は、分娩数が多いところもある。分娩収入の比率の多寡で論ずるべきと、前々回の部会で出されており、これだとまったく議論のすりかえとなる。この分娩数上限は将来的にはラインを下げ、受取代理制度を廃止するだろうことは常套手段であり先が見えている。お産を守るなら、無条件が筋である。

 各方面から法律無視、法的不備、法的欠陥を指摘され続けたため、さすがに法令の整備を行うようだが、非常に心もとない。省令で出産育児一時金の前述3案の手続きを定めるとなると、根拠が法律にないので、また脱法を重ねることになる。指摘した国保連合会の介在も、"業務規定がないから可能だ"と極めて怪しいが、これも省令では対応できないと思われる。

 法律改定は、ねじれ国会の下、難しくなっているが、来年の通常国会は高齢者確保法、健康保険法、国民健康保険法と介護保険法が上程される。"木は森に隠せ"とばかりに、法律改定も視野に入っているかにみえる。

 現行法の産婦の請求による保険者からの直接支払の下、事前申請制や受取代理制度の活用で、妊産婦の経済負担は解消される。産科専門施設も十分にお産を取り扱うことができる。

 覆水盆に返らず。直接支払制度は日本のお産を潰し、混合診療の全面展開を準備する。撤回が法に基づく本来の姿である。現場と患者の声に真摯に耳を傾けることを強く望む。

2010年11月12日

 

実は、混合診療の全面展開に向けたインフラ整備

日本のお産を潰す、産科の出産一時金直接支払制度の撤回を

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 法律に根拠がない出産育児一時金の直接支払制度の"暴走"がとまらない。産科の医会や学会など関係者の合意を盾に通知1本で作られたこの制度は、もはや合意が破綻したにもかかわらず、次年度以降の定着に向け山場を迎えている。11月15日の社会保障審議会の医療保険部会が実質的議論の最後となり、(1)この制度と(2)受取代理制度(対象施設は限定)、(3)法律に沿った償還払いの3案併用、及びに法令化が用意される模様だ。われわれは日本の産科専門施設を潰し、混合診療の全面展開の梃の役割を持つ、この直接支払制度の撤回を改めて強く求める。

 問題の直接支払制度は、産婦に保険者が現金給付で直接支払っていた出産育児一時金を医療保険の審査支払システムに乗せるもので、出産費用の当月入金で運営していた産科専門施設を、突如、2ヵ月後入金とし経営的な苦境に陥れ、それとともに正常分娩(自由診療)の出産費用を管理統制するものである。

 昨年10月の導入以降、産科24施設の閉院等により全国で9,000件の分娩が不可能となり、制度存続なら今後21施設がお産取り扱い中止の意向であり、この分娩数は8,000件に達する事態となっている。

 そればかりか混合診療の全面展開のインフラ整備の危険性が高い。現金給付の一時金を、国保連合会を介在させ審査支払システムを乱用することで、現金給付を「現物給付方式」で提供している介護保険と同様の制度になる。介護保険は、現金を利用者に給付し足らない分は利用者が足して介護を購入するというのが制度の基本である。ただ、医療が現物給付なので給付形態を準拠したに過ぎない。健康保険の保険給付は医療だけが現物給付であり、それ以外は現金給付である。

 よって、ドミノ式に医療保険の現金給付へ転換、実態は同じだが似て非なるものへの発展は想像に難くない。これこそが、混合診療といわれるものの本質である。法の基本は現金の給付、足らない分は患者が持ち出しして医療を購入するということである。

 医療保険部会のこれまでの議論で、厚労省は国保連合会の介在に拘泥している。この制度は産科専門施設から分娩費用の内訳費目を明示した「専用請求書」の提出が義務付けられている。この理由を、異常分娩の際に診療報酬明細書との突合としていたが、実際は保険者に送付されるため連合会での突き合わせは不可能である。またこの制度は保険者サイドでの資格点検、国保連合会への送金など、実務的にもしわ寄せが大きい。しかも、国保連合会への審査・支払の委託事務手数料が、診療報酬明細書の2倍となっており、内容明細の審査が不要な産科の専用請求書の方が高いという倒錯した状況にもある。にもかかわらず、である。つまりこの国保連合会の介在は「環」なのである。

 これにより混合診療の管理統制が可能となり、かつての歯科差額のような料金不明や法外な料金設定などの社会問題化は回避される。既に、国保連合会、支払基金とも法律により全ての診療報酬明細書のデータベースが作成されている。これに加えて、基金側はメタボ健診の審査支払を担いデータベース化を行っているが、国保連合会は分娩をはじめ自由診療領域、混合診療領域のデータベース化を担うことになる。

 11月15日の医療保険部会に提出予定の3案のうち、復活予定の受取代理制度は分娩数により対象医療機関を限定するとの噂がある。分娩収入が大半を占める産科専門施設は、分娩数が多いところもある。分娩収入の比率の多寡で論ずるべきと、前々回の部会で出されており、これだとまったく議論のすりかえとなる。この分娩数上限は将来的にはラインを下げ、受取代理制度を廃止するだろうことは常套手段であり先が見えている。お産を守るなら、無条件が筋である。

 各方面から法律無視、法的不備、法的欠陥を指摘され続けたため、さすがに法令の整備を行うようだが、非常に心もとない。省令で出産育児一時金の前述3案の手続きを定めるとなると、根拠が法律にないので、また脱法を重ねることになる。指摘した国保連合会の介在も、"業務規定がないから可能だ"と極めて怪しいが、これも省令では対応できないと思われる。

 法律改定は、ねじれ国会の下、難しくなっているが、来年の通常国会は高齢者確保法、健康保険法、国民健康保険法と介護保険法が上程される。"木は森に隠せ"とばかりに、法律改定も視野に入っているかにみえる。

 現行法の産婦の請求による保険者からの直接支払の下、事前申請制や受取代理制度の活用で、妊産婦の経済負担は解消される。産科専門施設も十分にお産を取り扱うことができる。

 覆水盆に返らず。直接支払制度は日本のお産を潰し、混合診療の全面展開を準備する。撤回が法に基づく本来の姿である。現場と患者の声に真摯に耳を傾けることを強く望む。

2010年11月12日