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2010/11/10 医療情報部長談話「訴訟結果を反故にし、管理医療に道開く『レセプト、カルテの電子化の義務化』検討の撤回を求める」

訴訟結果を反故にし、管理医療に道開く

「レセプト、カルテの電子化の義務化」検討の撤回を求める

神奈川県保険医協会

医療情報部長  田辺 由紀夫


 内閣府は10月19日、IT戦略本部の下に「情報通信技術利活用のための規制・制度改革に関する専門調査会」(以下『専門調査会』)を設置し初会合を開催。こともあろうか検討項目に「レセプト、カルテの電子化の義務化」を盛り込んだ。

 周知の通り、レセプトについては完全電子化を前提としたオンライン請求義務化を巡り、医療界のみならず政治を揺り動かす訴訟が昨年起こり、結果的に09年11月25日の請求省令改正(以下『改正省令』)によって義務化が撤回。書面によるレセプト請求の継続の道が開かれたのである。政府のこの英断は、ベテラン医師が現実に支えている地域医療を守るためのものであった。

 しかし、これをあっさりと反故にするこの検討は、医療現場の声や地域医療の実態を無視し愚弄したものであり、我々は怒りを禁じえない。また後述するように、この検討は国や民間企業等による国民の医療・健康情報の商業利用の目的が色濃く看過できない。我々は地域医療を崩壊に導く専門調査会での「レセプト、カルテの電子化の義務化」の検討の撤回を求める。

 

 この専門調査会では46の検討項目が提示され、それらは(1)以前からの継続項目、(2)新たなIT戦略等に記載があるもの、(3)各府省からの提案、(4)内閣府ホームページに設置した「国民の声」への寄稿―の4つに類型されている。この中で「レセプト、カルテの電子化の義務化」は、(4)の「国民の声」の寄稿によると提示されている。しかも資料を紐解くと、レセプト電子請求の義務化は改正省令によって"縮小した"と評価し、「省令を再度改正し義務化対象の一部除外を撤廃する」としている。また、患者の同意なしに匿名化した医療情報の2次利用ができるようガイドラインを改正することも検討項目として挙げられている。

 

 しかし、「国民の声」の寄稿で検討項目に位置付けたというのは詭弁である。事実、専門調査会の資料にあるように、「国民の声」への寄稿は約100件(2010年1月~10月)であるが、この中で改正省令の撤廃を提案しているのはただの1件のみである。では誰の声なのか。既に決定された、政府の新成長戦略やIT戦略本部の情報通信技術戦略では、医療IT化を優先課題に位置付け、(1)患者・国民自らが医療・健康情報を管理・活用する『どこでもMY病院』の導入、(2)匿名化したレセプト情報等のデータベース化を進め、医療費適正化、医学研究、医薬品の安全対策への活用、民間企業等の活用―等を検討に挙げ、早期実現に向けた体制、ルール等について「本年度中に結論を得る」としている。

 そもそも専門調査会は、政府の新成長戦略やIT戦略の"阻害要因"の洗い出しと抜本的見直し(排除)を目的に設置されたものであり、この「医療IT化」と位置付けているものは産業界が求めてきたものである。

 

 「医療IT化」で語られる重点は、何故か『レセプト』(医療費用の明細)である。医療IT戦略は国民一人ひとりの医療情報の電子化とその収集、管理が必要不可欠だとしているが、インフラ整備のためレセプトの電子請求義務化が必須要件なのである。電子カルテの普及・統一化が進展しない今日、レセプトのカルテ並み記載への変更要望もこの策動と連動関係にさえある。

 これらの行きつく先は、米国型の保険者による医療費統制の"管理医療"であり、医療費情報、医療情報の目的外使用、民間保険商品開発などの商業利用である。訴訟で医療界が勝ち取ったレセプト電子請求義務化の免除・猶予措置は、医療費抑制と医療・健康産業の創出を狙う国や民間企業にとって"阻害要因"に過ぎず、訴訟の意味合いを一顧だにさえしていないのである。

 

 この訴訟は、2011年4月からのレセプトの完全電子化、オンライン請求義務化を前に、過重な費用や労力等により対応できず、"廃業"を余儀なくされる開業医が全国で2割弱もいることが顕在化したことを踏まえ地域医療を守るために全国の医師・歯科医師約2,300名が立ち上がったものである。行政訴訟を中心としたこの運動はマスコミも取り上げ、秘匿性の高い個人の医療情報の漏洩・悪用等、患者・国民にも問題性が理解され、賛同が多数寄せられる義務化撤回へと結実したのである。いわば開業医と国民が共に声を上げて勝ち取った、社会的な果実である。

 

 この専門調査会のメンバーは生保・IT・マーケティング企業の役員、大学教授、弁護士で構成され、医師・歯科医師はもとより、医療関係者は1人もいない。医療現場や地域医療の実情を知らないメンバーが、国や民間企業の利潤だけを追求して"机上の議論"を繰り広げている感が非常に濃い。

 

 我々は医療IT化の全てを否定するものではない。事実、医療現場では画像診断や手術等でのIT機器の活用範囲は広がり、近年では目覚ましい成果も多く残している。また、医療事務の効率化のためにレセプトコンピュータ等を利用する医療機関も増加している。今後、医療情報が国民同意の下に正しく使われ、臨床研究等に活用されることで、新たな医療技術や医薬品の開発等、IT技術が医学の発展に寄与することも期待している。

 しかし、医療費抑制や医療の産業化のためのIT化は、公的医療保険を捻じ曲げ開業医と国民に負担を強要し不幸にするだけである。

 

 「いつでも、どこでも、誰もが」安心して医療を受けられる日本型医療、皆保険はいま「医療IT化」の美名の下、その姿を大きく変質されようとしている。第一線医療の充実があってこそ、大病院の高度な医療が存在する。地域医療は長年開業医がその技術と経験、そして患者に対し精一杯向きあい支えてきた。専門調査会は、現実を見据え検討項目を撤回するよう強く要望する。

2010年11月10

 

訴訟結果を反故にし、管理医療に道開く

「レセプト、カルテの電子化の義務化」検討の撤回を求める

神奈川県保険医協会

医療情報部長  田辺 由紀夫


 内閣府は10月19日、IT戦略本部の下に「情報通信技術利活用のための規制・制度改革に関する専門調査会」(以下『専門調査会』)を設置し初会合を開催。こともあろうか検討項目に「レセプト、カルテの電子化の義務化」を盛り込んだ。

 周知の通り、レセプトについては完全電子化を前提としたオンライン請求義務化を巡り、医療界のみならず政治を揺り動かす訴訟が昨年起こり、結果的に09年11月25日の請求省令改正(以下『改正省令』)によって義務化が撤回。書面によるレセプト請求の継続の道が開かれたのである。政府のこの英断は、ベテラン医師が現実に支えている地域医療を守るためのものであった。

 しかし、これをあっさりと反故にするこの検討は、医療現場の声や地域医療の実態を無視し愚弄したものであり、我々は怒りを禁じえない。また後述するように、この検討は国や民間企業等による国民の医療・健康情報の商業利用の目的が色濃く看過できない。我々は地域医療を崩壊に導く専門調査会での「レセプト、カルテの電子化の義務化」の検討の撤回を求める。

 

 この専門調査会では46の検討項目が提示され、それらは(1)以前からの継続項目、(2)新たなIT戦略等に記載があるもの、(3)各府省からの提案、(4)内閣府ホームページに設置した「国民の声」への寄稿―の4つに類型されている。この中で「レセプト、カルテの電子化の義務化」は、(4)の「国民の声」の寄稿によると提示されている。しかも資料を紐解くと、レセプト電子請求の義務化は改正省令によって"縮小した"と評価し、「省令を再度改正し義務化対象の一部除外を撤廃する」としている。また、患者の同意なしに匿名化した医療情報の2次利用ができるようガイドラインを改正することも検討項目として挙げられている。

 

 しかし、「国民の声」の寄稿で検討項目に位置付けたというのは詭弁である。事実、専門調査会の資料にあるように、「国民の声」への寄稿は約100件(2010年1月~10月)であるが、この中で改正省令の撤廃を提案しているのはただの1件のみである。では誰の声なのか。既に決定された、政府の新成長戦略やIT戦略本部の情報通信技術戦略では、医療IT化を優先課題に位置付け、(1)患者・国民自らが医療・健康情報を管理・活用する『どこでもMY病院』の導入、(2)匿名化したレセプト情報等のデータベース化を進め、医療費適正化、医学研究、医薬品の安全対策への活用、民間企業等の活用―等を検討に挙げ、早期実現に向けた体制、ルール等について「本年度中に結論を得る」としている。

 そもそも専門調査会は、政府の新成長戦略やIT戦略の"阻害要因"の洗い出しと抜本的見直し(排除)を目的に設置されたものであり、この「医療IT化」と位置付けているものは産業界が求めてきたものである。

 

 「医療IT化」で語られる重点は、何故か『レセプト』(医療費用の明細)である。医療IT戦略は国民一人ひとりの医療情報の電子化とその収集、管理が必要不可欠だとしているが、インフラ整備のためレセプトの電子請求義務化が必須要件なのである。電子カルテの普及・統一化が進展しない今日、レセプトのカルテ並み記載への変更要望もこの策動と連動関係にさえある。

 これらの行きつく先は、米国型の保険者による医療費統制の"管理医療"であり、医療費情報、医療情報の目的外使用、民間保険商品開発などの商業利用である。訴訟で医療界が勝ち取ったレセプト電子請求義務化の免除・猶予措置は、医療費抑制と医療・健康産業の創出を狙う国や民間企業にとって"阻害要因"に過ぎず、訴訟の意味合いを一顧だにさえしていないのである。

 

 この訴訟は、2011年4月からのレセプトの完全電子化、オンライン請求義務化を前に、過重な費用や労力等により対応できず、"廃業"を余儀なくされる開業医が全国で2割弱もいることが顕在化したことを踏まえ地域医療を守るために全国の医師・歯科医師約2,300名が立ち上がったものである。行政訴訟を中心としたこの運動はマスコミも取り上げ、秘匿性の高い個人の医療情報の漏洩・悪用等、患者・国民にも問題性が理解され、賛同が多数寄せられる義務化撤回へと結実したのである。いわば開業医と国民が共に声を上げて勝ち取った、社会的な果実である。

 

 この専門調査会のメンバーは生保・IT・マーケティング企業の役員、大学教授、弁護士で構成され、医師・歯科医師はもとより、医療関係者は1人もいない。医療現場や地域医療の実情を知らないメンバーが、国や民間企業の利潤だけを追求して"机上の議論"を繰り広げている感が非常に濃い。

 

 我々は医療IT化の全てを否定するものではない。事実、医療現場では画像診断や手術等でのIT機器の活用範囲は広がり、近年では目覚ましい成果も多く残している。また、医療事務の効率化のためにレセプトコンピュータ等を利用する医療機関も増加している。今後、医療情報が国民同意の下に正しく使われ、臨床研究等に活用されることで、新たな医療技術や医薬品の開発等、IT技術が医学の発展に寄与することも期待している。

 しかし、医療費抑制や医療の産業化のためのIT化は、公的医療保険を捻じ曲げ開業医と国民に負担を強要し不幸にするだけである。

 

 「いつでも、どこでも、誰もが」安心して医療を受けられる日本型医療、皆保険はいま「医療IT化」の美名の下、その姿を大きく変質されようとしている。第一線医療の充実があってこそ、大病院の高度な医療が存在する。地域医療は長年開業医がその技術と経験、そして患者に対し精一杯向きあい支えてきた。専門調査会は、現実を見据え検討項目を撤回するよう強く要望する。

2010年11月10