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2010/10/12 政策部長談話「医療保険再編と医療『商品化』の梃、直接支払制度の廃止を求める」

医療保険再編と医療「商品化」の梃、

直接支払制度の廃止を求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 現在、健康保険の保険給付見直し議論と高齢者医療の新制度の検討議論が併走している。両者は健保法等「改正」案として来年の通常国会に上程される。その中でも出産育児一時金「直接支払制度」の法制化は単に産科の問題ではなく、医療保険制度全体を揺るがす大きな問題を孕んでいる。われわれは、いま現在、法的根拠が全くない直接支払制度の廃止を改めて求める。

 

 この制度は現金支給の出産育児一時金を、国保連合会を介在させ医療保険の支払システムに乗せたものである。本来、医療保険の支払システムは医療を現物給付した医療機関へ、その対価を保険者が支払うための仕組みである。これを乱用し、現金支給を妊産婦にではなく医療機関へとし、出産費用の補填として代理受領方式で国保連合会を通じて支払っているのが、この制度の問題の本質である。

 

 昨年10月からの制度導入により、出産当月の医療機関への入金が2ヶ月遅延し、突如、その資金繰りを強要される事態となり、既に産科24施設の閉院等により全国で9,000件の分娩が不可能となっている。さらにこの制度が続くなら今後21施設がお産の取り扱いをやめると考えており、そこで扱う分娩は8,000件に達する。そればかりか、自費診療の料金明細の国保連合会への提出をこの制度は要件とし、診療収入の6割を自費診療が占める産科の、管理・統制を可能とした。また、社会実勢に応じて増額されてきた出産育児一時金を、保険者と妊産婦から保険者と医療機関の関係に置き変えることでその抑制を容易とした。

 

 問題はこれにとどまらない。この医療保険システムの現金支給への乱用はいずれ、現物給付の医療保険を現金支給への転換に発展する危険性が大きい。なぜならば、医療と連動性の強い介護保険は現金支給の制度でありながら、既に国保連合会を介在させ、「現物給付」方式を採用しているからである。

 

 健康保険は疾病、傷病休業、出産、死亡に対応し、医療給付、傷病手当、出産育児一時金、埋葬料の保険給付を行っているが医療給付のみ現物給付、それ以外は直接、保険者から被保険者への現金支給である。「現物給付」というのは医療に特有の給付方法である。介護保険は、社会的混乱を回避するため、本来、被保険者の申請による償還払いの現金支給を、医療に準拠する方式としたにすぎない。またサービス施設の管理・統制には国保連合会を介在させることが医療の経験から有効だからである。

 

 この間、財界が求めてきた混合診療とは、現金支給に制度を転換することである。つまり、支給された現金に自腹を足して医療を購入することであり、結果的に保険と保険外の混合診療になる。混合診療は保険外診療(自由診療)に対応した民間医療保険商品、医薬品や医療機器の開発・販売などのビジネスチャンスの拡大を企業側が目論んできたものだが、現物給付する制度では不可能なのである。

 よって、現金支給の出産育児一時金を、現物給付の対価支払いのための医療保険システムへ載せたということは、このシステムの変質の"蟻の一穴"であり、最終的には医療の現金支給となる。

 

 出産育児一時金の直接支払制度に国保連合会が介在している根拠は乏しく、支払基金と違い法で業務規定がなされておらず「妨げ規定がない」と厚労省は強弁している。が、この国保連合会の介在は、医療保険の現金支給化と医療機関の管理・統制を結合させる"肝"となっているのである。

 

 一方、併走する高齢者医療は新制度案が公表されたが、市町村国保の都道府県単位統合そのものである。これは2003年3月28日の閣議決定、医療保険の都道府県再編の着実な履行であり、県単位化の先行した高齢者医療の、包摂組み換えにすぎない。運営主体は前回同様の迷走が必至だが、そもそもこの都道府県再編は提案当初、坂口厚労相試案では生保・損保を母体とした公法人への運営委譲であった(朝日新聞02年9月16日)

 

 少し外れるが、これに関連し、電子レセプト請求はもはや病院で98.9%、診療所で86.2%に達し、全数の電子データ把握、DRG/PPSや「医療標準」も射程に入ってきている。紙を含めた全てのレセプトとメタボ健診の全レセプトは昨年4月より、支払基金と国保連合会を通じ、「医療費適正化計画」のためのナショナルデータベースとして既に国、厚生労働省に蓄積されている。その上、この学術・研究利用や商業利用などの目的外使用についての、10月5日より審議会での検討が始まっている。

 

 生保・損保の公的医療保険の運営の隘路は、8,000項目に及ぶ膨大な診療報酬点数の設定といわれていた。しかし、請求電子データの全数把握、ナショナルデータベースの商業利用も視野に入った現在、点数の大胆な包括化や、項目数の2,000項目程度への削減も可能となった。

 このことは、生保・損保の公的保険の運営を確実なものとさせ、民間医療保険商品の開発・販売を促進し、いわゆる混合診療を前提とした「二階建て保険」を確固としたものとさせていく。
頓挫はしたが、2007年9月に浮上した、民間保険の「現物給付」商品の開発を認める保険法改定は、この先取りを彷彿させるものであった。

 

 健康保険の医療給付の現金支給化は、その債権化、資金運用(クレジットカード)、商品化を活発化させる。いわゆる医療の商品化、市場化を加速させることとなる。

 

 以上、産科の直接支払制度、つまり医療保険システムを乱用した現金支給は、いずれ本家の医療保険の現金支給への転換の梃となり、生保・損保による二階建て保険化に連動する懸念が非常に強い。

 

 この制度は2011年4月以降の継続は未定である。それ以降を検討中の社保審医療保険部会では9月8日、制度の法的不備、違法性について多角的な疑義、指摘が委員からなされた。しかし、座長は法律論を脇に置き、法的検証をなおざりにし、制度定着に向けた議論が進められている。

 

 日本は法治国家である。直接支払制度を廃止し出産育児一時金は法令に則った扱いとすべきである。出産費用の支払が困難な妊産婦には、出産育児一時金の事前支払いの新設や、国保連合会を介在しない従前の医療機関代理受取払いの復活で十分対応が可能である。

 

 この制度の帰趨は社会保障全体を左右する分水嶺となる。社会保障審議会の良識を求めるとともに、多くの医療者のこの問題への理解と、関心、発言と行動を期待したい。

2010年10月12日

 

医療保険再編と医療「商品化」の梃、

直接支払制度の廃止を求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 現在、健康保険の保険給付見直し議論と高齢者医療の新制度の検討議論が併走している。両者は健保法等「改正」案として来年の通常国会に上程される。その中でも出産育児一時金「直接支払制度」の法制化は単に産科の問題ではなく、医療保険制度全体を揺るがす大きな問題を孕んでいる。われわれは、いま現在、法的根拠が全くない直接支払制度の廃止を改めて求める。

 

 この制度は現金支給の出産育児一時金を、国保連合会を介在させ医療保険の支払システムに乗せたものである。本来、医療保険の支払システムは医療を現物給付した医療機関へ、その対価を保険者が支払うための仕組みである。これを乱用し、現金支給を妊産婦にではなく医療機関へとし、出産費用の補填として代理受領方式で国保連合会を通じて支払っているのが、この制度の問題の本質である。

 

 昨年10月からの制度導入により、出産当月の医療機関への入金が2ヶ月遅延し、突如、その資金繰りを強要される事態となり、既に産科24施設の閉院等により全国で9,000件の分娩が不可能となっている。さらにこの制度が続くなら今後21施設がお産の取り扱いをやめると考えており、そこで扱う分娩は8,000件に達する。そればかりか、自費診療の料金明細の国保連合会への提出をこの制度は要件とし、診療収入の6割を自費診療が占める産科の、管理・統制を可能とした。また、社会実勢に応じて増額されてきた出産育児一時金を、保険者と妊産婦から保険者と医療機関の関係に置き変えることでその抑制を容易とした。

 

 問題はこれにとどまらない。この医療保険システムの現金支給への乱用はいずれ、現物給付の医療保険を現金支給への転換に発展する危険性が大きい。なぜならば、医療と連動性の強い介護保険は現金支給の制度でありながら、既に国保連合会を介在させ、「現物給付」方式を採用しているからである。

 

 健康保険は疾病、傷病休業、出産、死亡に対応し、医療給付、傷病手当、出産育児一時金、埋葬料の保険給付を行っているが医療給付のみ現物給付、それ以外は直接、保険者から被保険者への現金支給である。「現物給付」というのは医療に特有の給付方法である。介護保険は、社会的混乱を回避するため、本来、被保険者の申請による償還払いの現金支給を、医療に準拠する方式としたにすぎない。またサービス施設の管理・統制には国保連合会を介在させることが医療の経験から有効だからである。

 

 この間、財界が求めてきた混合診療とは、現金支給に制度を転換することである。つまり、支給された現金に自腹を足して医療を購入することであり、結果的に保険と保険外の混合診療になる。混合診療は保険外診療(自由診療)に対応した民間医療保険商品、医薬品や医療機器の開発・販売などのビジネスチャンスの拡大を企業側が目論んできたものだが、現物給付する制度では不可能なのである。

 よって、現金支給の出産育児一時金を、現物給付の対価支払いのための医療保険システムへ載せたということは、このシステムの変質の"蟻の一穴"であり、最終的には医療の現金支給となる。

 

 出産育児一時金の直接支払制度に国保連合会が介在している根拠は乏しく、支払基金と違い法で業務規定がなされておらず「妨げ規定がない」と厚労省は強弁している。が、この国保連合会の介在は、医療保険の現金支給化と医療機関の管理・統制を結合させる"肝"となっているのである。

 

 一方、併走する高齢者医療は新制度案が公表されたが、市町村国保の都道府県単位統合そのものである。これは2003年3月28日の閣議決定、医療保険の都道府県再編の着実な履行であり、県単位化の先行した高齢者医療の、包摂組み換えにすぎない。運営主体は前回同様の迷走が必至だが、そもそもこの都道府県再編は提案当初、坂口厚労相試案では生保・損保を母体とした公法人への運営委譲であった(朝日新聞02年9月16日)

 

 少し外れるが、これに関連し、電子レセプト請求はもはや病院で98.9%、診療所で86.2%に達し、全数の電子データ把握、DRG/PPSや「医療標準」も射程に入ってきている。紙を含めた全てのレセプトとメタボ健診の全レセプトは昨年4月より、支払基金と国保連合会を通じ、「医療費適正化計画」のためのナショナルデータベースとして既に国、厚生労働省に蓄積されている。その上、この学術・研究利用や商業利用などの目的外使用についての、10月5日より審議会での検討が始まっている。

 

 生保・損保の公的医療保険の運営の隘路は、8,000項目に及ぶ膨大な診療報酬点数の設定といわれていた。しかし、請求電子データの全数把握、ナショナルデータベースの商業利用も視野に入った現在、点数の大胆な包括化や、項目数の2,000項目程度への削減も可能となった。

 このことは、生保・損保の公的保険の運営を確実なものとさせ、民間医療保険商品の開発・販売を促進し、いわゆる混合診療を前提とした「二階建て保険」を確固としたものとさせていく。
頓挫はしたが、2007年9月に浮上した、民間保険の「現物給付」商品の開発を認める保険法改定は、この先取りを彷彿させるものであった。

 

 健康保険の医療給付の現金支給化は、その債権化、資金運用(クレジットカード)、商品化を活発化させる。いわゆる医療の商品化、市場化を加速させることとなる。

 

 以上、産科の直接支払制度、つまり医療保険システムを乱用した現金支給は、いずれ本家の医療保険の現金支給への転換の梃となり、生保・損保による二階建て保険化に連動する懸念が非常に強い。

 

 この制度は2011年4月以降の継続は未定である。それ以降を検討中の社保審医療保険部会では9月8日、制度の法的不備、違法性について多角的な疑義、指摘が委員からなされた。しかし、座長は法律論を脇に置き、法的検証をなおざりにし、制度定着に向けた議論が進められている。

 

 日本は法治国家である。直接支払制度を廃止し出産育児一時金は法令に則った扱いとすべきである。出産費用の支払が困難な妊産婦には、出産育児一時金の事前支払いの新設や、国保連合会を介在しない従前の医療機関代理受取払いの復活で十分対応が可能である。

 

 この制度の帰趨は社会保障全体を左右する分水嶺となる。社会保障審議会の良識を求めるとともに、多くの医療者のこの問題への理解と、関心、発言と行動を期待したい。

2010年10月12日