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2008/8/21 医療運動部会見解「裁量権侵害の外来管理加算『通知』の撤回を強く求める」

裁量権侵害の外来管理加算「通知」の

撤回を強く求める

 

神奈川県保険医協会

医療運動部会


 今次診療報酬改定で意義付けが歪曲された「外来管理加算」は、「5分ルール」導入により、待ち時間の増加、診察回数の減少、診察患者数の減少と、医療現場に悪影響を与えている。影響額も診療所全体で▲200億円強との厚労省説明とは異なり、各種調査から▲800億円前後と観測され、第一線医療にとって経営的にも打撃は深刻である。しかも、「外来管理加算」通知は、「診察」を極めて狭義に解釈し、臨床医学や医療実態を無視した規定をするなど、医療現場の裁量権侵害、診療介入の色彩が濃く、医療者の士気を奪いつつある。この医療現場を蹂躙する通知規定を今年10月からの厚労省の指導強化方針との関連でわれわれは非常に危険視しており、即時の撤廃を強く求める。

 

 外来管理加算は今次改定で、内科系診療所の総合調整トータルフィーだったものを、「丁寧な診察」の評価と突如変更し、「丁寧=5分以上」と定義された。しかし、技量の優れた医師は短時間で診察・診断ができることを想起すれば自明なように、医療の質、無形技術は「時間量」での評価は無理な話である。その上、「時間をかければ良い治療」との誤解を患者に広げる弊害も大きい。時間は医療の必要度や患者の理解力により異なるのであり、この医療実態を無視した経済評価は論外である。

 よって改定4カ月で早くも、患者の待ち時間の延長、労働時間の増加による医療者の過労状態、はては患者負担を考慮した診察拒否や時間短縮要望などの歪んだ状況が現場で生じている。

 

 しかも、厚労省はこれに乗じて、通知(別掲)で「診察」概念を勝手に捻じ曲げ「患者が診察室に入室した時点を診察開始時間、退室した時点を診察終了時間とし、その間一貫して医師が患者に対して問診、身体診察、療養上の指導を行っている場合の時間に限る」と規定をし、看護師の予診や待合室でのトリアージなどを無視し限定的に解釈。コメディカルの技術や労働の経済評価やチーム医療の実態も否定した。

 

 より重大なのは、「提供される診療内容の事例」として仔細に通知に規定した点である。問診・総括、医学的説明、療養指導、疑問・不安の解消と、医師が患者に話す内容を台詞仕立てで例示するという異例な内容となっている。このような規定は診療報酬の歴史上、これまでなく初めてである。

 診療の経済評価が診療報酬であり、その算定通知に診療内容の規定を盛り込むこと自体が、そもそもおかしなことである。だからこのような通知は存在しなかったのである。

 通知は医療機関の診療報酬の審査や個別指導の際の論拠であり、金科玉条のごとく杓子定規的に運用されている。ゆえに通知規定が現場に与える影響は大きく看過できないのである。

 

 今通知の例示は急性症状のみに偏った内容であり、病状が安定した慢性疾患の場合は全く別ものとなり、一般的に正しくない。また事例の内容は、医学生向けの教育で講義されるものであり、医療現場は医学の日進月歩の発展を取り入れ、様々な診療実態に応じ変遷している現実を理解していない。若年層や妙齢の女性患者など、胸の聴診のため下着の着脱に抵抗感を示す昨今の事情も全く理解しておらず、毎回、このような身体診察を行なうことは国民的な理解も得られない。

 

 医師の裁量に委ねられている診療の内容を明文で逐次規定すること自体、医学常識的に外れている。そもそも診療報酬は臨床医学のガイドラインでも何でもなく、繰り返すが診療の経済評価である。

 

 昨今の厚労省保険局の医療現場への介入は度を過ぎている。既に、リハビリは急性期を過ぎた維持期リハビリは医療ではないと、介護保険に強引に誘導され、今次改定で歯周病はガイドライン化が図られた。更には、後期高齢者について、慢性疾患やガンの終末期の病態像を前提に報酬評価がなされ、急性疾患は捨象されているなど、臨床医学的にも偏向しており問題が多すぎる。

 以上にみるように、今回の外来管理加算の通知は、医療実態や医療の本質を無視し、医療の変質、統制医療、管理医療を図る厚労省の本格的な嚆矢である。

 

 この10月より社会保険事務局から地方厚生局に、保険医療機関への指導・監査業務が移管されるとともに大幅に強化される。個別指導は全国2,900件から8,500件へと約3倍化、新規個別指導は4倍化し全数実施が目標とされており、最重点は包括点数と位置付けられている。外来管理加算は、包括点数の最右翼、基本診療の加算であり、予断を許さない。

 このような通知規定は指導・監査を強化し、医療者をがんじがらめに縛りつける労働強化でしかない。医療崩壊の下、自律的な医師の自由裁量権を否定し、医師のモチベーションを極端に低下させるこの外来管理加算の通知を直ちに、廃止することを関係方面に強く求める。

2008年8月21日

 

●<厚生労働省通知>(抜粋)

 

4) 外来管理加算

ア 外来管理加算は、処置、リハビリテーション等を行わずに計画的な医学管理を行った場合に算定できるものである。

 

イ 外来管理加算を算定するに当たっては、医師は丁寧な問診と詳細な身体診察(視診、聴診、打診及び触診等)を行い、それらの結果を踏まえて、患者に対して症状の再確認を行いつつ、病状や療養上の注意点等を懇切丁寧に説明するとともに、患者の療養上の疑問や不安を解消するため次の取組を行う。

 

[提供される診療内容の事例]

1 問診し、患者の訴えを総括する。

「今日伺ったお話では、『前回処方した薬を飲んで、熱は下がったけれど、咳が続き、痰の切れが悪い。』ということですね。」

2 身体診察によって得られた所見及びその所見に基づく医学的判断等の説明を行う。

「診察した結果、頸のリンパ節やのどの腫れは良くなっていますし、胸の音も問題ありません。前回に比べて、ずいぶん良くなっていますね。」

3 これまでの治療経過を踏まえた、療養上の注意等の説明・指導を行う。

「先日の発熱と咳や痰は、ウイルスによる風邪の症状だと考えられますが、○○さんはタバコを吸っているために、のどの粘膜が過敏で、ちょっとした刺激で咳が出やすく、痰がなかなか切れなくなっているようです。症状が落ち着くまで、しばらくの間はタバコを控えて、部屋を十分に加湿し、外出するときにはマスクをした方が良いですよ。」

4 患者の潜在的な疑問や不安等を汲み取る取組を行う。

「他に分からないことや、気になること、ご心配なことはありませんか。」

 

ウ イに規定する診察に要する時間として、医師が実際に概ね5分を超えて直接診察を行っている場合に算定できる。この場合において、診察を行っている時間とは、患者が診察室に入室した時点を診察開始時間、退室した時点を診察終了時間とし、その間一貫して医師が患者に対して問診、身体診察、療養上の指導を行っている場合の時間に限る。
また、患者からの聴取事項や診察所見の要点を診療録に記載する。併せて、外来管理加算の時間要件に該当する旨の記載をする。(――以下、略)

裁量権侵害の外来管理加算「通知」の

撤回を強く求める

 

神奈川県保険医協会

医療運動部会


 今次診療報酬改定で意義付けが歪曲された「外来管理加算」は、「5分ルール」導入により、待ち時間の増加、診察回数の減少、診察患者数の減少と、医療現場に悪影響を与えている。影響額も診療所全体で▲200億円強との厚労省説明とは異なり、各種調査から▲800億円前後と観測され、第一線医療にとって経営的にも打撃は深刻である。しかも、「外来管理加算」通知は、「診察」を極めて狭義に解釈し、臨床医学や医療実態を無視した規定をするなど、医療現場の裁量権侵害、診療介入の色彩が濃く、医療者の士気を奪いつつある。この医療現場を蹂躙する通知規定を今年10月からの厚労省の指導強化方針との関連でわれわれは非常に危険視しており、即時の撤廃を強く求める。

 

 外来管理加算は今次改定で、内科系診療所の総合調整トータルフィーだったものを、「丁寧な診察」の評価と突如変更し、「丁寧=5分以上」と定義された。しかし、技量の優れた医師は短時間で診察・診断ができることを想起すれば自明なように、医療の質、無形技術は「時間量」での評価は無理な話である。その上、「時間をかければ良い治療」との誤解を患者に広げる弊害も大きい。時間は医療の必要度や患者の理解力により異なるのであり、この医療実態を無視した経済評価は論外である。

 よって改定4カ月で早くも、患者の待ち時間の延長、労働時間の増加による医療者の過労状態、はては患者負担を考慮した診察拒否や時間短縮要望などの歪んだ状況が現場で生じている。

 

 しかも、厚労省はこれに乗じて、通知(別掲)で「診察」概念を勝手に捻じ曲げ「患者が診察室に入室した時点を診察開始時間、退室した時点を診察終了時間とし、その間一貫して医師が患者に対して問診、身体診察、療養上の指導を行っている場合の時間に限る」と規定をし、看護師の予診や待合室でのトリアージなどを無視し限定的に解釈。コメディカルの技術や労働の経済評価やチーム医療の実態も否定した。

 

 より重大なのは、「提供される診療内容の事例」として仔細に通知に規定した点である。問診・総括、医学的説明、療養指導、疑問・不安の解消と、医師が患者に話す内容を台詞仕立てで例示するという異例な内容となっている。このような規定は診療報酬の歴史上、これまでなく初めてである。

 診療の経済評価が診療報酬であり、その算定通知に診療内容の規定を盛り込むこと自体が、そもそもおかしなことである。だからこのような通知は存在しなかったのである。

 通知は医療機関の診療報酬の審査や個別指導の際の論拠であり、金科玉条のごとく杓子定規的に運用されている。ゆえに通知規定が現場に与える影響は大きく看過できないのである。

 

 今通知の例示は急性症状のみに偏った内容であり、病状が安定した慢性疾患の場合は全く別ものとなり、一般的に正しくない。また事例の内容は、医学生向けの教育で講義されるものであり、医療現場は医学の日進月歩の発展を取り入れ、様々な診療実態に応じ変遷している現実を理解していない。若年層や妙齢の女性患者など、胸の聴診のため下着の着脱に抵抗感を示す昨今の事情も全く理解しておらず、毎回、このような身体診察を行なうことは国民的な理解も得られない。

 

 医師の裁量に委ねられている診療の内容を明文で逐次規定すること自体、医学常識的に外れている。そもそも診療報酬は臨床医学のガイドラインでも何でもなく、繰り返すが診療の経済評価である。

 

 昨今の厚労省保険局の医療現場への介入は度を過ぎている。既に、リハビリは急性期を過ぎた維持期リハビリは医療ではないと、介護保険に強引に誘導され、今次改定で歯周病はガイドライン化が図られた。更には、後期高齢者について、慢性疾患やガンの終末期の病態像を前提に報酬評価がなされ、急性疾患は捨象されているなど、臨床医学的にも偏向しており問題が多すぎる。

 以上にみるように、今回の外来管理加算の通知は、医療実態や医療の本質を無視し、医療の変質、統制医療、管理医療を図る厚労省の本格的な嚆矢である。

 

 この10月より社会保険事務局から地方厚生局に、保険医療機関への指導・監査業務が移管されるとともに大幅に強化される。個別指導は全国2,900件から8,500件へと約3倍化、新規個別指導は4倍化し全数実施が目標とされており、最重点は包括点数と位置付けられている。外来管理加算は、包括点数の最右翼、基本診療の加算であり、予断を許さない。

 このような通知規定は指導・監査を強化し、医療者をがんじがらめに縛りつける労働強化でしかない。医療崩壊の下、自律的な医師の自由裁量権を否定し、医師のモチベーションを極端に低下させるこの外来管理加算の通知を直ちに、廃止することを関係方面に強く求める。

2008年8月21日

 

●<厚生労働省通知>(抜粋)

 

4) 外来管理加算

ア 外来管理加算は、処置、リハビリテーション等を行わずに計画的な医学管理を行った場合に算定できるものである。

 

イ 外来管理加算を算定するに当たっては、医師は丁寧な問診と詳細な身体診察(視診、聴診、打診及び触診等)を行い、それらの結果を踏まえて、患者に対して症状の再確認を行いつつ、病状や療養上の注意点等を懇切丁寧に説明するとともに、患者の療養上の疑問や不安を解消するため次の取組を行う。

 

[提供される診療内容の事例]

1 問診し、患者の訴えを総括する。

「今日伺ったお話では、『前回処方した薬を飲んで、熱は下がったけれど、咳が続き、痰の切れが悪い。』ということですね。」

2 身体診察によって得られた所見及びその所見に基づく医学的判断等の説明を行う。

「診察した結果、頸のリンパ節やのどの腫れは良くなっていますし、胸の音も問題ありません。前回に比べて、ずいぶん良くなっていますね。」

3 これまでの治療経過を踏まえた、療養上の注意等の説明・指導を行う。

「先日の発熱と咳や痰は、ウイルスによる風邪の症状だと考えられますが、○○さんはタバコを吸っているために、のどの粘膜が過敏で、ちょっとした刺激で咳が出やすく、痰がなかなか切れなくなっているようです。症状が落ち着くまで、しばらくの間はタバコを控えて、部屋を十分に加湿し、外出するときにはマスクをした方が良いですよ。」

4 患者の潜在的な疑問や不安等を汲み取る取組を行う。

「他に分からないことや、気になること、ご心配なことはありませんか。」

 

ウ イに規定する診察に要する時間として、医師が実際に概ね5分を超えて直接診察を行っている場合に算定できる。この場合において、診察を行っている時間とは、患者が診察室に入室した時点を診察開始時間、退室した時点を診察終了時間とし、その間一貫して医師が患者に対して問診、身体診察、療養上の指導を行っている場合の時間に限る。
また、患者からの聴取事項や診察所見の要点を診療録に記載する。併せて、外来管理加算の時間要件に該当する旨の記載をする。(――以下、略)