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2008/3/13 理事会声明「医療崩壊を決定づける外来管理加算『5分ルール』の撤回を求める

医療崩壊を決定づける

外来管理加算「5分ルール」の撤回を求める

 

神奈川県保険医協会 理事会


 今次診療報酬改定で「外来管理加算」の見直しが図られ、「診察」時間5分と要件化された。しかも「診察」を極めて狭義に解釈し、看護師の問診時間は含めないとされた。3月5日にこの内容が通知で示されて以降、現場では困惑が広がり、現場実態無視の施策に怒りが渦巻いている。われわれはこの、いわゆる「5分ルール」が医療崩壊を更に加速させ、医療者と患者の溝を決定的にしていくと考えており、即時の撤回を強く求める。

 

 現在、医師ひとりでの診療というのはありえず、受付事務、看護師、検査技師、放射線技師、薬剤師など、多職種によるチーム医療が、あたりまえの姿である。診療所でも複数職種の連携で診療が行われる。患者が初めて診療所の受付を通ると「新患」となり、看護師の問診、医師の診察、採血、検査、投薬、そして会計を済ませて初診の「診療」が終了する。そして再来した場合が、再診である。

 この診療現場を報酬評価したものが、初診料2700円、再診料710円である。しかし、新患の疾病を複数診ても初診料は複数倍にはならず、再来時に急性症状の別疾病が初診であっても、初診料は算定できずに再診料のみであり、診療の出発点から不合理な報酬評価となっている。

 

 問題となっている「外来管理加算」(520円)とは再診料への加算評価であり、1992年に「診療所の外来機能を評価する」との理由で設定された。これは旧・内科再診料が名称を変えたものであり、設定理由にそって40円アップとなり、各科バランスに配慮した内科系調整点数、無形技術の分割評価の性格は継承された。実質的な再診料の構成要素であることには変化がなかった。しかも92年には再診料がそれまでの「診察料」の部から、「基本診療料」の部へと意義づけ、範疇が変更され、概念が大きく拡大されている。これは全く報酬評価がなかった外来看護師料の新設を求める医療界の声に、当時の保険局長が「初診料にコミコミである」と国会で発言したことが背景にある。つまり、文字通り「基本診療料」として医師、外来看護師、医療事務の労働や施設維持費、光熱費などの診療所のトータルフィーとしての性格を、初診料と再診料が公式に持ったのである。過日、現医療課長の原氏も、「再診料はイニシャルコストも含んでいる」と明確に発言している。よって、外来機能評価のために設定された「外来管理加算」は、そもそも「丁寧な診察」の評価などではないのである。

 

 今回「丁寧な診察」の評価と突然、「外来加算」の意義付けを勝手に変え、診察5分をルール化したが、その根拠となる中医協提出の資料は診察「以外」の時間を含んだ医療機関単位の平均「診療」時間のヒストグラムであり、決して患者一人あたりの「診察」時間の分布ではない。5分の規定には何ら根拠もなく、いまもってエビデンスは明らかにされていない。

 しかも、最大の問題は「診察」概念を勝手に捻じ曲げた点である。保助看法に基づき看護師は診療の補助を行い、診察の補助として問診をしている。これは診察の構成要素であり、チーム医療の実態や、それを推奨・促進してきた厚労省の施策にも合致している。これを「患者が診察室に入室した時点を診察開始時間、退室した時点を診察終了時間とし、その間一貫して医師が患者に対して問診、身体診察、療養上の指導を行っている場合の時間に限る」と、医療実態や医療法規を無視して規定をした。

 

 内科や小児科などは、低医療費政策のもとこの外来管理加算の算定を前提に、経営基盤をなりたたせ地域医療を担ってきた。この5分ルールで1日に診る患者数のマックスは必然的に決まると厚労官僚は言い放つが、これにより患者数が制限され、経営基盤は揺らぐ。今次改定で緊急課題とした小児科、勤務医対策は、5分ルールの導入ですでに小児科や公立病院では年間1千万円減収との試算(青森県保険医協会調査)も報告され、意味をなさなくなっている。内科の影響も大きく、地域から医療機関が消えていくことになりかねない。

 

 診察室も混乱する。医師への問診の強要により、これまで各診療所が工夫を重ねて、効率的に多くの患者を診てきた診療の流れやスタイルが崩されていく。

 しかも患者本人への直接診察を要件としており、乳児や認知症患者に5分説明すれば評価されるが、家族に説明しても評価がないことになっており、愚の骨頂である。

 

 医療機関は患者への管理責任や指導責任を負っており、医師がその裁量の範囲で患者の診察時間の長短を考え診療している。例えば、小児科は1分で診察を終え、看護師等に薬疹の説明や栄養指導を任せ多くを診ている。内科の投薬のみ再診も、診察時の危険予見性と再診時の看護師による患者観察によりなされているのであり、この5分ルールは医療の実態や本質を全く理解していない。

 

 患者にとっても5分の診察は5分の診療を意味しない。採血、注射など診療は5分以上となり、待ち時間が長くなる。また、長い診察を嫌う患者も診察室に5分とどまることを強いられる。憲法13条との抵触のおそれさえある。5分未満は安いなどとの誤解と消費者意識が助長される懸念もある。

 

 外来加算の要件はこれだけにとどまらない。カルテに逐次、診察時間を計測し記入し、大病院なみにSOAPカルテ(問題解決型カルテ)を作成することも要件づけられており、医師も記録に時間を割かれ、いわば「書面医療」となる。

 

 そもそも、診察の「丁寧さ」は時間で評価することがおかしい。診察は「的確」であり患者が「納得」することが評価の指標である。ベテラン医師や優秀な医師ほど、短時間で的確に診察する。時間は指標にならない。また5分を要件化し、5分未満を評価しないとした点も不合理である。時間で評価するなら1分単位の報酬設定で比例倍とすべきである。

 

 日本の医療政策は、診療報酬による点数誘導、つまり価格政策で行われてきた。人工透析や在宅医療の普及、病院病床の削減など枚挙にいとまがない。診療報酬を無視しての医療はできない。この5分ルールは、財源の辻褄合わせや、投薬のみ再診の是正などという話ではすまない。

 診察の根幹と診療現場への直接的介入、医師の裁量権の否定である。今次診療報酬改定は、精神科の通院療法や糖尿病のフットケアなどでも時間要件が入り、指導・監査のための「書面医療」や、一般医療への研修要件化などが随所にちりばめられている。歯科では同様の施策が訪問歯科診療などで実施され、非常に窮屈な診療を強いられることにより、一部で赤貧化経営に陥っていることは周知である。

 

 われわれは医療崩壊にとどめをさす「確信犯」の、この5分ルールの撤回を、痛切にもとめるものである。

2008年3月13日

 

医療崩壊を決定づける

外来管理加算「5分ルール」の撤回を求める

 

神奈川県保険医協会 理事会


 今次診療報酬改定で「外来管理加算」の見直しが図られ、「診察」時間5分と要件化された。しかも「診察」を極めて狭義に解釈し、看護師の問診時間は含めないとされた。3月5日にこの内容が通知で示されて以降、現場では困惑が広がり、現場実態無視の施策に怒りが渦巻いている。われわれはこの、いわゆる「5分ルール」が医療崩壊を更に加速させ、医療者と患者の溝を決定的にしていくと考えており、即時の撤回を強く求める。

 

 現在、医師ひとりでの診療というのはありえず、受付事務、看護師、検査技師、放射線技師、薬剤師など、多職種によるチーム医療が、あたりまえの姿である。診療所でも複数職種の連携で診療が行われる。患者が初めて診療所の受付を通ると「新患」となり、看護師の問診、医師の診察、採血、検査、投薬、そして会計を済ませて初診の「診療」が終了する。そして再来した場合が、再診である。

 この診療現場を報酬評価したものが、初診料2700円、再診料710円である。しかし、新患の疾病を複数診ても初診料は複数倍にはならず、再来時に急性症状の別疾病が初診であっても、初診料は算定できずに再診料のみであり、診療の出発点から不合理な報酬評価となっている。

 

 問題となっている「外来管理加算」(520円)とは再診料への加算評価であり、1992年に「診療所の外来機能を評価する」との理由で設定された。これは旧・内科再診料が名称を変えたものであり、設定理由にそって40円アップとなり、各科バランスに配慮した内科系調整点数、無形技術の分割評価の性格は継承された。実質的な再診料の構成要素であることには変化がなかった。しかも92年には再診料がそれまでの「診察料」の部から、「基本診療料」の部へと意義づけ、範疇が変更され、概念が大きく拡大されている。これは全く報酬評価がなかった外来看護師料の新設を求める医療界の声に、当時の保険局長が「初診料にコミコミである」と国会で発言したことが背景にある。つまり、文字通り「基本診療料」として医師、外来看護師、医療事務の労働や施設維持費、光熱費などの診療所のトータルフィーとしての性格を、初診料と再診料が公式に持ったのである。過日、現医療課長の原氏も、「再診料はイニシャルコストも含んでいる」と明確に発言している。よって、外来機能評価のために設定された「外来管理加算」は、そもそも「丁寧な診察」の評価などではないのである。

 

 今回「丁寧な診察」の評価と突然、「外来加算」の意義付けを勝手に変え、診察5分をルール化したが、その根拠となる中医協提出の資料は診察「以外」の時間を含んだ医療機関単位の平均「診療」時間のヒストグラムであり、決して患者一人あたりの「診察」時間の分布ではない。5分の規定には何ら根拠もなく、いまもってエビデンスは明らかにされていない。

 しかも、最大の問題は「診察」概念を勝手に捻じ曲げた点である。保助看法に基づき看護師は診療の補助を行い、診察の補助として問診をしている。これは診察の構成要素であり、チーム医療の実態や、それを推奨・促進してきた厚労省の施策にも合致している。これを「患者が診察室に入室した時点を診察開始時間、退室した時点を診察終了時間とし、その間一貫して医師が患者に対して問診、身体診察、療養上の指導を行っている場合の時間に限る」と、医療実態や医療法規を無視して規定をした。

 

 内科や小児科などは、低医療費政策のもとこの外来管理加算の算定を前提に、経営基盤をなりたたせ地域医療を担ってきた。この5分ルールで1日に診る患者数のマックスは必然的に決まると厚労官僚は言い放つが、これにより患者数が制限され、経営基盤は揺らぐ。今次改定で緊急課題とした小児科、勤務医対策は、5分ルールの導入ですでに小児科や公立病院では年間1千万円減収との試算(青森県保険医協会調査)も報告され、意味をなさなくなっている。内科の影響も大きく、地域から医療機関が消えていくことになりかねない。

 

 診察室も混乱する。医師への問診の強要により、これまで各診療所が工夫を重ねて、効率的に多くの患者を診てきた診療の流れやスタイルが崩されていく。

 しかも患者本人への直接診察を要件としており、乳児や認知症患者に5分説明すれば評価されるが、家族に説明しても評価がないことになっており、愚の骨頂である。

 

 医療機関は患者への管理責任や指導責任を負っており、医師がその裁量の範囲で患者の診察時間の長短を考え診療している。例えば、小児科は1分で診察を終え、看護師等に薬疹の説明や栄養指導を任せ多くを診ている。内科の投薬のみ再診も、診察時の危険予見性と再診時の看護師による患者観察によりなされているのであり、この5分ルールは医療の実態や本質を全く理解していない。

 

 患者にとっても5分の診察は5分の診療を意味しない。採血、注射など診療は5分以上となり、待ち時間が長くなる。また、長い診察を嫌う患者も診察室に5分とどまることを強いられる。憲法13条との抵触のおそれさえある。5分未満は安いなどとの誤解と消費者意識が助長される懸念もある。

 

 外来加算の要件はこれだけにとどまらない。カルテに逐次、診察時間を計測し記入し、大病院なみにSOAPカルテ(問題解決型カルテ)を作成することも要件づけられており、医師も記録に時間を割かれ、いわば「書面医療」となる。

 

 そもそも、診察の「丁寧さ」は時間で評価することがおかしい。診察は「的確」であり患者が「納得」することが評価の指標である。ベテラン医師や優秀な医師ほど、短時間で的確に診察する。時間は指標にならない。また5分を要件化し、5分未満を評価しないとした点も不合理である。時間で評価するなら1分単位の報酬設定で比例倍とすべきである。

 

 日本の医療政策は、診療報酬による点数誘導、つまり価格政策で行われてきた。人工透析や在宅医療の普及、病院病床の削減など枚挙にいとまがない。診療報酬を無視しての医療はできない。この5分ルールは、財源の辻褄合わせや、投薬のみ再診の是正などという話ではすまない。

 診察の根幹と診療現場への直接的介入、医師の裁量権の否定である。今次診療報酬改定は、精神科の通院療法や糖尿病のフットケアなどでも時間要件が入り、指導・監査のための「書面医療」や、一般医療への研修要件化などが随所にちりばめられている。歯科では同様の施策が訪問歯科診療などで実施され、非常に窮屈な診療を強いられることにより、一部で赤貧化経営に陥っていることは周知である。

 

 われわれは医療崩壊にとどめをさす「確信犯」の、この5分ルールの撤回を、痛切にもとめるものである。

2008年3月13日