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医療運動部会長談話 「事実上の登録医制 外来主治医・医学管理料の導入撤回を求める」

 

事実上の登録医制

外来主治医・医学管理料の導入撤回を求める

  

神奈川県保険医協会

医療運動部会長  池川 明


 1月6日、「後期高齢者医療制度:75歳以上に外来主治医 医療費抑制狙い―厚労省、4月導入 患者1人に1人」(毎日新聞)と報じられた。75歳以上の患者が複数の医療機関にかからないように原則、患者1人に1人の「外来主治医」(仮称)とする制度の全容が固まったとした。

 

 既に昨年11月の中医協にこの原型は示されているが、この外来主治医制は登録医制の事実上の導入であり、医療内容の薄い診療計画作成を前提にした低廉な包括制報酬とセットとなって提案されている。この外来主治制は日本医療の特性であるフリーアクセス(いつでも、どこでも、だれでも)を奪い、医療保障の必要十分原則を崩し、医師の裁量権を奪い、更なる医療崩壊、健康破壊を招来させるものである。われわれはこの撤回を強く求める。

 

 登録医制は一昨年12月の国保中央会の提案を機に、昨年1月の宮島厚労省総括審議官の「登録料」「コーディネーター料」の着想披露、全国社会保険連合会の側面支援、3月の厚労省特別部会での基本的考え方案の公表、9月の健保連の提言と、連綿と唱えられ続けてきた。ポイントは(1)複数疾患を持つ高齢者を"総合的に診る医師"、(2)頻回受診と検査・投薬の重複是正である。耳ざわりのよい理由を表看板にしているが、内実は複数医療機関受診を規制し「総合的」に1人の医師が診る、重複是正のため1人の医師が検査・投薬を管理・実施する、つまり患者と医療機関を「1対1」の関係性に縛り一元管理をする制度導入である。

 

 昨年4月5日、当協会は「日本医療の特性を破壊する登録医制導入に反対する」との政策部長談話を発表、厚労省と懇談し直接撤回を求めた。また医療界こぞって撤回を求めてきたが、基本的な考え方は微塵も変わっていない。

 

 一連の動きは非常に象徴的である。最初に提案した国保中央会の多田理事長は元厚労省事務次官、エールを送った全社連の伊藤理事は元健政局長、記者会見した健保連の椎名理事は元関東信越地方医務局長と、いわば"チーム厚労省"による、80年代に頓挫した「かかりつけ医」構想の復活、意趣返しの総力戦の感がある。

 

 諸外国の登録医制は「1対1」にくわえ、患者の登録数に応じて診療報酬を人頭払い(定額)し、法的に担保されている。この点を踏まえ、厚労官僚は「登録医制とは異なる」と否定に躍起となっている。しかし、中医協の提示案では全ての75歳以上の患者外来主治医を持つことを前提に、患者が医療機関を選択し「高齢者総合診療計画書」に同意署名することを想定しており、実態上は「登録医制」に他ならない。

 ヨーロッパの登録医制は高い医療水準と開業医報酬および患者負担無料を原則としており、医療文化や制度環境の異なる日本に機械的に導入しようとしても無理があり、現場が混乱するだけである。

 事実、昨年11月発表の健保連の調査でも国民の約8割が登録医制に不安を感じていると明らかになっている。

 

 外来主治医制の具体的内容の問題点に言及する。

 中医協で診療報酬は、医学管理、検査、画像診断、処置を包括した定額の「管理料」が提案されている。これとセットとなる「高齢者総合診療計画書」(案)をよく見ると1年間に2回の血液検査と1回の胸部レントゲンと、極めて貧相な医療内容しか想定されていない。

 つまり、包括予定項目の診療報酬合計は7,716円(平成18年社会医療診療行為別調査:ちなみに老人患者1人あたりは16,329円)であるが、実際は極めて低い報酬となる危険性が高い。事実、昨年12月に厚労省医療課と懇談した際、この金額水準の担保は確約していない。後期高齢者医療制度の保険料は老人医療費の実績値を基に算出されているだけに最低限、この水準は確保されるべきである。

 

 そもそも後期高齢者は免疫力や自然治癒力の減退のため全身状況が急速に低下、急変する特性をもっている。ゆえに予定調和的な年間計画は必ずしも成りたたないし、急変時には積極的治療が必要となる。しかし、提示されている案では急性増悪時はCTや超音波検査など高額な4桁の金額の検査のみ出来高算定が認められるだけで、事実上、他の検査や処置は何も出来ない仕組みとなっている。

 

 また外来主治医は4日間の研修終了を要件に行政に届出をする。"高齢者を総合的に診る医師の研修"と厚労省は称しているが、現場の診療を愚弄している感もあり疑問がつきない。要は「高齢者総合診療計画書」の作成実務と「お薬手帳」を活用した重複投与のチェック方法の徹底講習にすぎない。

 

 健保連は昨年の提言で、外来主治医(「総合診療医」)の普及・定着のためこれを経ない大病院受診の際の差額負担や健診・保険指導の委託要件化、患者選択のための患者負担軽減の誘引づけを提案。地域医療の「要」としての位置付けをもたすことも強調した。11月の記者会見では外来主治医の普及・定着した段階での「登録医制度のステップアップ」に言及してもいる。

 

 医療「改革」の主眼は高齢化で増大する老人医療費の抑制であり、後期高齢者医療制度、特定健診、在宅死4割、医療費適正化計画など一連の施策は、ここに集約される。

 

 後期高齢者医療の診療報酬は当初は別建ての独自設定であったが、75歳を境に区切る必然性がないと路線転換され、外来主治医制の前期高齢者、若年者への適用も視野に入ってきている。昨年段階で健保連の提唱した「総合診療医」の名称は、中医協で変更され「高齢者総合担当医」、「高齢者顧問医」、「地域担当医」、「包括連携医」と複数候補が挙げられたが、結局「外来主治医」と元に戻ったことに深謀遠慮がみてとれる。

 

 在宅重視、療養病床削減の下、外来主治医は計画書に基づく患者の生涯管理、予防から終末までを担わされる。またゲートキーパーとして振り分け機能も期待されている。病院の機能分担が終わり、外来主治医、専門医、在宅療養支援診療所と、開業医・診療所の機能分化・類型化に向けた大きな布石という構図になっている。

 

 日本はフリーアクセス、出来高診療報酬、皆保険により、早期発見・早期治療を可能としうる世界一の健康度を達成してきた。この外来主治医制は、「姥捨て山」制度(堤修三・元老健局長)の後期高齢者医療制度の「肝」として機能しようとしている。

 

 われわれは診療報酬による外来主治医制の導入に断固反対するとともに、高齢者にふさわしい治療が可能な出来高制報酬の堅持を強く要望するものである。

2008年1月15日