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基本診療料に関する提言 「医療再生のために基本診療料を大幅に引き上げ、時間・人員・空間の加算評価を求める」

(基本診療料に関する提言)

医療再生のために基本診療料を大幅に引き上げ、

時間・人員・空間の加算評価を求める

 

神奈川県保険医協会

医療運動部会


■混乱を逆手にとった見直し議論

 08年度診療報酬改定で導入された外来管理加算「5分ルール」を巡り根拠不在と過大な影響力が明るみとなり、その正当性が問われ、撤回要求が高まる中、これを逆手にとり厚労省は基本診療の「水準」、「在りかた」の見直しが行われている。08年6月4日に中医協は初・再診料を議論。検証部会の調査結果をまって、基本診療料「全体」を対象に検討すると08年11月19日に中医協で確認されている。

 既に、外来管理加算の調査結果が示され、患者の55.8%が時間の目安は「必要でない」とし、懇切丁寧な説明を通院ごとに全項目「希望する」患者は12.4%にとどまることが判明。遠藤・中医協会長も、再検討に前向きな姿勢を示しているものの、基本診療料の見直しそのものは、08年改定答申書の附帯意見。いわば規定路線であり、外形基準としての「時間」指標の要件化に関し厚労省は意義を強調してきただけに予断を許さない。また、90年代末の「外来基本料」構想が、在宅医療、24時間対応、病診連携を要件化し減算措置を組み込んでいたことや、昨今の改定時にバリアフリーやリフト設置などの要件化が噂されてきたことを想起するならば、更なる医療側の裁量権否定や診療介入が懸念される。

 これら現場無視の机上プランを方向転換させ、現場に即した評価体系の確立が喫緊の課題となっている。

 ここに当会医療運動部会の考える「基本診療料」試案を提言するものである。

 

■診療実態に診療報酬を合わせる、が本筋

 日本の医療は診療報酬の点数操作、つまり「価格政策」により、長年、政策誘導がなされてきた。よって診療報酬の諸規定が診療実態に優先するかのような主客転倒した錯覚に、医療関係者も陥らされてきた。しかし、本来は医師法、医療法などを遵守した医療提供を、診療実態を踏まえながら、どのように「合理性」のある経済評価を保険診療(診療報酬)によってするかが、本筋である。この点で、基本的事実の確認とともに、基本診療のかかえる現在の問題点を明らかにし、その矛盾の解決のための評価体系を提示する形で論を進めたい。

 

■医療機関単位のチーム医療が医療提供の基本形

 医療は受付からはじまって、看護師の予診、医師の診察、検査、処置、院内薬局での投薬、会計で終わるというのが、基本的な診療の流れである。このプロセスに医療機関の複数の医療者や事務スタッフがチームでかかわり、医療機関の施設・設備を用い、医療機関が人的・物的に総体として医療を提供しているのである。つまり、経済評価は医師の技術・労働のみで判断されるべきものではなく、医療機関チームの技術・労働、施設・設備、管理(患者・施設)の費用も含めて評価がなされるべきものである。

 また「診療=診察」ではないことは、以上より自明である。診察は医師による専権的業務であり、この診察情報に基づく診療計画の下、実施される診療行為(有形・無形を問わず)の諸々と付随する診療外行為の総体が診療となる。

 

■診療の根幹を支える基本診療料 実態と経済評価の乖離

 外来における基本診療料は「初診料」と「再診料」で構成される。診療所においてこの初診料と再診料で診療報酬全体の22.8%(07年)を占めている。

 診療報酬は初診時、再診時に一律的に支払われるこの「基本診療料」と、特殊な診療行為の費用である「特掲診療料」を合算した額で算定されており、基本診療料は経済評価の根幹をなしている。通則の上でも「初診、再診の際に原則として必ず算定できる」とされており、「初診若しくは再診の際に行なわれる診察行為の費用のほかに、通常初診若しくは再診の際に行なわれる基本的な診療行為の費用も一括して基本診療料金として支払うという方式をとっている」と規定されている。

 つまり、「基本診療料≠診察料」であり、決してイコールの関係として、そもそも設計されていないのである。

 先にみたように、診療は医療機関総体として提供しているが、その人員、施設・設備、空間・面積などの診療環境が一様では無い。また患者の疾病状態により、診療時間や関与するスタッフ数も違う。無形技術の重要視される内科系診療所と、有形技術が経済評価(点数化)されている外科系診療所とでの相違もある。

 これを一律的、一括的に初診料2,700円、再診料710円で評価をしている不合理が、矛盾となって現れてくるのである。しかも、そもそもこの水準は米国の初診料12,000円、再診料8,500円と比べ桁違いに低いのである。

 診療所の維持、経営の観点でみると、スタッフが多いところで費用が嵩み、また患者が多いほどスタッフを要し、逆に患者が少ないところはスタッフを減らし、それに伴い医療の中身も変容する。

 つまり、診療行為単価が変わらない中で、患者の多寡により診療の仕組みを個々の医療機関では変えている。よって、医療機関ごとに相当の開きがある。最近の病院外来のサテライト化では、ますます、診療所規模の乖離は大きく、単価の成り立ちも違い一律ではないのである。

 また、医療法基準に則った、入院基本料と違い、合理的な尺度が一切ないのが、外来の初・再診料の世界である。

 

■診療の根底 初診料評価の問題点

 初診は時間を往々にしてかけじっくりと診察、診療にあたる。病態により千差万別ではあるが、診察に要する時間についての時間に応じた加算評価がない。これは問題になっている外来加算の「5分ルール」の時間指標とは次元が別である。「5分ルール」は、5分を超えないと一切評価しない、つまり0円となる時間の「要件化」が問題である。 

 逆に、実際、スタッフの多さなど労働密度の濃さにより、診察時間が短いというケースもあり、この適切な評価をどうするかという問題や、とはいえ診療の質の担保から患者数の上限があるべきであるとの指摘もある。

 また、慢性疾患患者の場合に、疾患のコントロール以外に、風邪や心筋梗塞、胃がんなどの疾患が発症しても実質、無料で診ている。各々の疾病には初診行為であり十分な診察が要るにもかからず初診料は発生しない。更には、ガンの見落としのないよう日常の不断の努力も無償であり、見逃しで訴訟により法的責任を問われ敗訴した際の損害賠償の発生を鑑みても矛盾は大きいのである。

 

■最悪の仕組み再診料 

 新患と再来では、1:4の割合で患者の多くは再来、つまり再診料の算定患者が占める。その実態の下で、究極の無料の世界が再診料である。先にふれたように継続患者の場合に、新たな疾病が発生しても初診料が算定できない仕組みとなっている。この事実は、ほとんど国民には知られていない。

 外来診療は多くは開業医が担っているが、CT、MRIが日本ほど保有している国(世界シェアの4割)はなく、これら高度機器を診療所で備えている。そのような環境の中で医師1人で、急性疾患、慢性疾患の治療や、重症患者、救急患者の病院との専門連携を含め開業医は行っている。

 これを支える土台の再診料が極めて低廉である。再診の診療は、専門的知識、質の向上、個人の向上、それ以外にも技術、技能がものをいう世界であり、その経済保障が無ければ、医療の再生産はありえないのである。

 

■医療現場の未来を作る基本診療料の提案 

 医療の再生産を保障する医療費規模について当会では「人件費+管理費+外部購入費用+医業再生産費用」と合理的計算式をもとに41.4兆円と試算し、現在の33.1兆円と8兆円のギャップが存在することを明らかにしている。このことは全産業の人件費の半分で医療が行われていることを意味している。基本診療料が診療報酬の代表的な基礎点数であることから、その是正をここに代表させる。つまり、初診料・再診料をまず2倍にし、医療機関の人的保障の土台を築く。

 その上で、初診料については全くの新患と治療歴のある新患にわけ、前者には加算評価をつける。時間比例を入れる。また再診料については別疾病を発症した場合に、疾病ごとに初診料の算定に代替する。

 更には、初診料・再診料ともに医師数、スタッフ数に応じた比例とし、施設規模についての加算評価を導入する。

 

 以上は、基本診療料のそもそもの性格を分析し、診療実態との矛盾を踏まえ、そこから導いた「考え方」の提示である。医療再生と現場の裁量の発揮、医療者の士気の高揚のためには、現行診療報酬体系の中で、必要最低限の必須の「考え方」である。その水準や加算方法などは関係者の多くの叡智と議論によるが、この提言が未来に向けた診療報酬への一石となることを期待したい。 

2009年11月4日