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2007/12/18 医療運動部会長談話「無念 医療崩壊を決定づける4回連続マイナス改定 補正予算で現場に真摯に応えるよう強く要望する」

無念 医療崩壊を決定づける4回連続マイナス改定

補正予算で現場に真摯に応えるよう強く要望する

 

神奈川県保険医協会

医療運動部会長  池川 明


 12月17日夜、政府は08年度診療報酬「改定率」を▲0.82%(本体+0.38%、薬価・材料▲1.2%)と方針決定した。"医療崩壊"の阻止が政治的課題に浮上する中、4回連続となるマイナス改定の断行は、まさに無間地獄であり、われわれはこれに断固抗議する。

 

 4回連続だが、実は00年改定がプラス0.2%と"さざ波"改定であり、98年の初のマイナス改定▲1.3%の回復には全く影響がないため、実質は6回連続のマイナス改定となる。しかも、今回はジェネリック転換で880億円減(▲0.28%)を織り込んでいるため、実質は▲1.0%である。

 

 われわれはこの間、財務省、厚労省に医療現場が医療者の献身と善意、誠実さで、かろうじて支えられている一方、産科、小児科、歯科など医療空白や体制の脆弱化、倒産と、地域医療の変貌と医療崩壊が確実に進行していることを訴えてきた。医療機関倒産は既に昨年の2倍であり、医療者のモチベーションの低下、イギリスの轍を踏むと警鐘を強く鳴らしてもきた。あわせて厚生労働委員諸氏とも懇談を重ね、理解を求めてきた。

 さすがに、中医協は「本体のマイナス改定回避」の意見書を出し、与党もプラス改定を決議するなど見識を発揮し「本体プラス0.38%」となったことは関係者の努力を多としたい。

 

 しかし、マイナス改定が冷厳な事実である。

 5割超の医薬分業の下でも、現場では注射薬、処置薬、検査薬と薬剤は使う。本体と薬価を合わせたものが現場の改定率である。これでは現場は「希望」がない。

 

 医療費は初めてマイナス改定となった98年から06年までほとんど増えていない。医科外来は0.8兆円増(11.3兆円→12.1兆円)と年間1千億円増にすぎない。歯科は全く増えておらず(2.5兆円→2.5兆円)、歯科医師5人に1人は年収300万円以下のワーキングプアである。医科入院は2.9兆円(10.1兆円→13.0兆円)と増えているものの高齢化によるものであり、医療崩壊にとって焼け石に水程度の増え方でしかない。

 高齢化で増える患者の医療費を累計改定率▲7.35%で強力に抑制した結果である。

 

 診療報酬とは、医療の価格であり改定率は総医療費の規模を対前年比で規定するものである。また医師、歯科医師、看護師、薬剤師、検査技師などの医療者のみならず、製薬、医療機器、給食、リネンなど関係産業に経済分配されるものである。いわば「医療費用」である。

 

 連続するマイナス改定により、患者1人の「医療費用」は医科外来で14,875円(98年)が12,358円(06年)と▲16.9%、歯科で15,443円(98年)が12,558円(06年)と▲18.7%と、深刻な数字となっている(「社会医療診療行為別調査」)。つまり、進歩・高度化・複雑化している医療を10年以上前の医療費用で行っているのであり、患者、医療機関双方にとって質・安全の保障は覚束ないどころか、昨今の医療崩壊は推して知るべしなのである。

 しかし「医療費用」が減っていても、この「医療費用」の一部を患者が負担する割合が、この間、2割から3割に増え、負担金が2,975円から3,707円(医科外来)と増加しているため、重い負担感から国民の間に、医療費を抑制すべきとの錯覚が生じているのである。
本道は患者負担を解消し、応能原則による保険料と公費負担を引き上げ、医療費規模を引き上げることである。

 

 マイナス改定の連続は、医療機関の経営難と医療者の士気を奪う。また、「医療費用」の縮小として患者の受ける治療を制限し、質・安全の充実と相反する。余裕のない現場は、患者と医療者の信頼関係をも破壊する。複合的な負の連鎖は、一刻も早く寸断すべきである。

 

 これから具体的な改定内容の論議になっていくが、非常に危険視している。最大の目玉、勤務医の負担軽減を錦の御旗に掲げるが、勤務医の願いは交代勤務可能な体制であり、検討されている診療所による準夜帯(午後6時?8時)のカバーではない。また一旦は封印したが、診療所の初診料・再診料を政策配分の原資とする企図も、第一線医療の苦境に拍車をかけ、結果的に病院医療の負担を過重にするだけである。前回、診療所は初診料・再診料ともに引き下げられており、病院も再診料を引き下げられている。この事実を忘却したかのような論議は慎むべきである。

 更には、軽度な処置の事実上の保険外しや、外来管理加算への時間要件導入による患者数の統制、高齢患者の生涯管理の登録医制と、「患者本位」を口実にした厚労省のご都合主義が目に余る。

 

 90年代半ばの改定率0%台の「ゼロサム・ゲーム」型改定を経て、00年代のマイナス%の中での「分断・ダメージ格差」型の改定になって久しい。英国は医療費抑制の愚を反省し、軌道修正をしたが回復はできていない。今、日本に必要なことはプラス改定による医療界全体の浮揚である。

 

 夏の閣議決定2200億円の社会保障費削減の制約の下、改定率は決まった。われわれは、この改定率の現場への影響を非常に憂慮している。現場の声に真摯に耳を傾け、現場が「希望」を抱けるよう補正予算でプラス改定が実現するよう強く要望するものである。

2007年12月18日

 

無念 医療崩壊を決定づける4回連続マイナス改定

補正予算で現場に真摯に応えるよう強く要望する

 

神奈川県保険医協会

医療運動部会長  池川 明


 12月17日夜、政府は08年度診療報酬「改定率」を▲0.82%(本体+0.38%、薬価・材料▲1.2%)と方針決定した。"医療崩壊"の阻止が政治的課題に浮上する中、4回連続となるマイナス改定の断行は、まさに無間地獄であり、われわれはこれに断固抗議する。

 

 4回連続だが、実は00年改定がプラス0.2%と"さざ波"改定であり、98年の初のマイナス改定▲1.3%の回復には全く影響がないため、実質は6回連続のマイナス改定となる。しかも、今回はジェネリック転換で880億円減(▲0.28%)を織り込んでいるため、実質は▲1.0%である。

 

 われわれはこの間、財務省、厚労省に医療現場が医療者の献身と善意、誠実さで、かろうじて支えられている一方、産科、小児科、歯科など医療空白や体制の脆弱化、倒産と、地域医療の変貌と医療崩壊が確実に進行していることを訴えてきた。医療機関倒産は既に昨年の2倍であり、医療者のモチベーションの低下、イギリスの轍を踏むと警鐘を強く鳴らしてもきた。あわせて厚生労働委員諸氏とも懇談を重ね、理解を求めてきた。

 さすがに、中医協は「本体のマイナス改定回避」の意見書を出し、与党もプラス改定を決議するなど見識を発揮し「本体プラス0.38%」となったことは関係者の努力を多としたい。

 

 しかし、マイナス改定が冷厳な事実である。

 5割超の医薬分業の下でも、現場では注射薬、処置薬、検査薬と薬剤は使う。本体と薬価を合わせたものが現場の改定率である。これでは現場は「希望」がない。

 

 医療費は初めてマイナス改定となった98年から06年までほとんど増えていない。医科外来は0.8兆円増(11.3兆円→12.1兆円)と年間1千億円増にすぎない。歯科は全く増えておらず(2.5兆円→2.5兆円)、歯科医師5人に1人は年収300万円以下のワーキングプアである。医科入院は2.9兆円(10.1兆円→13.0兆円)と増えているものの高齢化によるものであり、医療崩壊にとって焼け石に水程度の増え方でしかない。

 高齢化で増える患者の医療費を累計改定率▲7.35%で強力に抑制した結果である。

 

 診療報酬とは、医療の価格であり改定率は総医療費の規模を対前年比で規定するものである。また医師、歯科医師、看護師、薬剤師、検査技師などの医療者のみならず、製薬、医療機器、給食、リネンなど関係産業に経済分配されるものである。いわば「医療費用」である。

 

 連続するマイナス改定により、患者1人の「医療費用」は医科外来で14,875円(98年)が12,358円(06年)と▲16.9%、歯科で15,443円(98年)が12,558円(06年)と▲18.7%と、深刻な数字となっている(「社会医療診療行為別調査」)。つまり、進歩・高度化・複雑化している医療を10年以上前の医療費用で行っているのであり、患者、医療機関双方にとって質・安全の保障は覚束ないどころか、昨今の医療崩壊は推して知るべしなのである。

 しかし「医療費用」が減っていても、この「医療費用」の一部を患者が負担する割合が、この間、2割から3割に増え、負担金が2,975円から3,707円(医科外来)と増加しているため、重い負担感から国民の間に、医療費を抑制すべきとの錯覚が生じているのである。
本道は患者負担を解消し、応能原則による保険料と公費負担を引き上げ、医療費規模を引き上げることである。

 

 マイナス改定の連続は、医療機関の経営難と医療者の士気を奪う。また、「医療費用」の縮小として患者の受ける治療を制限し、質・安全の充実と相反する。余裕のない現場は、患者と医療者の信頼関係をも破壊する。複合的な負の連鎖は、一刻も早く寸断すべきである。

 

 これから具体的な改定内容の論議になっていくが、非常に危険視している。最大の目玉、勤務医の負担軽減を錦の御旗に掲げるが、勤務医の願いは交代勤務可能な体制であり、検討されている診療所による準夜帯(午後6時?8時)のカバーではない。また一旦は封印したが、診療所の初診料・再診料を政策配分の原資とする企図も、第一線医療の苦境に拍車をかけ、結果的に病院医療の負担を過重にするだけである。前回、診療所は初診料・再診料ともに引き下げられており、病院も再診料を引き下げられている。この事実を忘却したかのような論議は慎むべきである。

 更には、軽度な処置の事実上の保険外しや、外来管理加算への時間要件導入による患者数の統制、高齢患者の生涯管理の登録医制と、「患者本位」を口実にした厚労省のご都合主義が目に余る。

 

 90年代半ばの改定率0%台の「ゼロサム・ゲーム」型改定を経て、00年代のマイナス%の中での「分断・ダメージ格差」型の改定になって久しい。英国は医療費抑制の愚を反省し、軌道修正をしたが回復はできていない。今、日本に必要なことはプラス改定による医療界全体の浮揚である。

 

 夏の閣議決定2200億円の社会保障費削減の制約の下、改定率は決まった。われわれは、この改定率の現場への影響を非常に憂慮している。現場の声に真摯に耳を傾け、現場が「希望」を抱けるよう補正予算でプラス改定が実現するよう強く要望するものである。

2007年12月18日