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2013/1/7 政策部長談話「社会保障を壊し、民間版『健康保険』を作る新計画 世論誘導図る日経の『現物給付解禁』報道を糺(ただ)す」

社会保障を壊し、民間版「健康保険」を作る新計画

世論誘導図る日経の「現物給付解禁」報道を糺(ただ)す

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 1月15日、日本経済新聞は1面トップで「生保の現物給付解禁/金融庁 介護や葬儀など/保険金受給と選択」と見出しを打ち、医療・介護サービスそのものを提供する「保険商品」の認可に向け大きく動き出した印象を与える報道をした。しかし、現在議論中の金融審議会では結論も方向性もまだ何も決まっておらず、とりまとめの報告書は5月か6月の予定である。連休、成人式、大雪で新聞各紙の1面トップが全て異なる「凪」の日を狙った、この不自然な報道は世論誘導以外の何物でもない。生保・損保は08年の「失敗」を踏まえ、民間版「健康保険」導入に向け審議会に裏ワザを駆使した新機軸を提案しており、このお先棒を担ぐ記事は言語道断である。われわれは社会保障を壊し、保険商品市場を拡大・成長させる、この路線に断固反対し、業界・報道の蜜月を厳しく指弾する。

 問題の記事への当会の照会(1/15)に対し、金融庁の担当者は「当惑」「困惑」の色を隠さず、事実の錯誤も指摘した。そのひとつは関連報道で「消費者団体も容認へ/生保現物給付 金銭と選択 評価」と報じられた全国消費生活相談員協会の姿勢である。この理事長の丹野美絵子氏は、07-08年の法制審議会での保険法改定論議の際の委員を務め、いままた金融審議会の担当委員として、保険商品の現物給付に一貫して反対している。それは議事録で一目瞭然である。当会の照会(1/16)に丹野氏は、宗旨変えはしておらず、保険商品は保険金支払いであるべきで現物サービス提供はトラブルを招くと、いささかもブレていない。

 日経の記事は、(1)保険会社本体に現在、禁じられている現物給付は認めない、(2)子会社や提携先から医療・介護・葬祭などのサービスを提供する、(3)そのサービス提供先に保険会社が保険料を原資に対価を支払う、(4)サービスの価値の下落や上昇の可能性があるので保険金との選択が契約者は可能―と、ある意味、「現物給付商品」の仕組みをわかりやすく解説した。生保・損保が狙う法律改定を前提とせずに実現できる方策そのものだ。直近の12月21日の金融審議会(保険商品WG第8回)ではこの議論がなく、保険商品はその2回前の11月12日で議論があっただけに記事の不自然さは否めない。

 おりしも政権党に返り咲いた自民党が総選挙の政策集で、「Ⅲ.経済成長」(名目3%以上)の施策として「ビジネスクラスの介護の促進」を盛り込み「多様な民間サービスを民間保険の活用を含め支援する」としていることを、「追い風」として意識した感もある。

 しかしながら民間保険の成長とは、社会保障の弱体化、社会保障の充実の放置とウラオモテの関係にある。2003年の健保3割で、生保・損保の第3分野(医療保険・介護保険)解禁に弾みがつき市場を拡大、06年の保険外併用療養費制度の誕生により先進医療特約を開発・販売、08年の病院の領収明細書義務化に対応した医療費連動型商品の登場、そしていま、健康保険の疾病治療にまで浸食しようとしている。終着点は映画『シッコ』(マイケル・ムーア監督)に見る米国型「管理医療」(HMO)だ。

 保険「商品」を開発・販売し、金融市場を拡大し経済の活性化を図っても、国民の将来不安や健康格差は増長されていくだけだ。逆に、保険「商品」の購入の費用を、社会保障に投入することで医療内容の拡充・充実や患者負担の解消が図られ、将来不安が払拭される。それが内需拡大の梃となり経済活性の好循環が形成される。金融資産1,500兆円の6割強は老後不安の高齢者が保有している。

 生存権保障の憲法25条の第二項が謳う社会保障の向上へ国の責務を果たす舵取りを強く望む。

2013年1月17日

 

社会保障を壊し、民間版「健康保険」を作る新計画

世論誘導図る日経の「現物給付解禁」報道を糺(ただ)す

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 1月15日、日本経済新聞は1面トップで「生保の現物給付解禁/金融庁 介護や葬儀など/保険金受給と選択」と見出しを打ち、医療・介護サービスそのものを提供する「保険商品」の認可に向け大きく動き出した印象を与える報道をした。しかし、現在議論中の金融審議会では結論も方向性もまだ何も決まっておらず、とりまとめの報告書は5月か6月の予定である。連休、成人式、大雪で新聞各紙の1面トップが全て異なる「凪」の日を狙った、この不自然な報道は世論誘導以外の何物でもない。生保・損保は08年の「失敗」を踏まえ、民間版「健康保険」導入に向け審議会に裏ワザを駆使した新機軸を提案しており、このお先棒を担ぐ記事は言語道断である。われわれは社会保障を壊し、保険商品市場を拡大・成長させる、この路線に断固反対し、業界・報道の蜜月を厳しく指弾する。

 問題の記事への当会の照会(1/15)に対し、金融庁の担当者は「当惑」「困惑」の色を隠さず、事実の錯誤も指摘した。そのひとつは関連報道で「消費者団体も容認へ/生保現物給付 金銭と選択 評価」と報じられた全国消費生活相談員協会の姿勢である。この理事長の丹野美絵子氏は、07-08年の法制審議会での保険法改定論議の際の委員を務め、いままた金融審議会の担当委員として、保険商品の現物給付に一貫して反対している。それは議事録で一目瞭然である。当会の照会(1/16)に丹野氏は、宗旨変えはしておらず、保険商品は保険金支払いであるべきで現物サービス提供はトラブルを招くと、いささかもブレていない。

 日経の記事は、(1)保険会社本体に現在、禁じられている現物給付は認めない、(2)子会社や提携先から医療・介護・葬祭などのサービスを提供する、(3)そのサービス提供先に保険会社が保険料を原資に対価を支払う、(4)サービスの価値の下落や上昇の可能性があるので保険金との選択が契約者は可能―と、ある意味、「現物給付商品」の仕組みをわかりやすく解説した。生保・損保が狙う法律改定を前提とせずに実現できる方策そのものだ。直近の12月21日の金融審議会(保険商品WG第8回)ではこの議論がなく、保険商品はその2回前の11月12日で議論があっただけに記事の不自然さは否めない。

 おりしも政権党に返り咲いた自民党が総選挙の政策集で、「Ⅲ.経済成長」(名目3%以上)の施策として「ビジネスクラスの介護の促進」を盛り込み「多様な民間サービスを民間保険の活用を含め支援する」としていることを、「追い風」として意識した感もある。

 しかしながら民間保険の成長とは、社会保障の弱体化、社会保障の充実の放置とウラオモテの関係にある。2003年の健保3割で、生保・損保の第3分野(医療保険・介護保険)解禁に弾みがつき市場を拡大、06年の保険外併用療養費制度の誕生により先進医療特約を開発・販売、08年の病院の領収明細書義務化に対応した医療費連動型商品の登場、そしていま、健康保険の疾病治療にまで浸食しようとしている。終着点は映画『シッコ』(マイケル・ムーア監督)に見る米国型「管理医療」(HMO)だ。

 保険「商品」を開発・販売し、金融市場を拡大し経済の活性化を図っても、国民の将来不安や健康格差は増長されていくだけだ。逆に、保険「商品」の購入の費用を、社会保障に投入することで医療内容の拡充・充実や患者負担の解消が図られ、将来不安が払拭される。それが内需拡大の梃となり経済活性の好循環が形成される。金融資産1,500兆円の6割強は老後不安の高齢者が保有している。

 生存権保障の憲法25条の第二項が謳う社会保障の向上へ国の責務を果たす舵取りを強く望む。

2013年1月17日