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2011/11/10 政策部長談話「地域医療を瀬戸際で支えている、4段階税制の存続を求める」

地域医療を瀬戸際で支えている、

4段階税制の存続を求める

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 11月8日、政府税制調査会で診療報酬の所得計算の特例に係る租税特別措置(4段階税制)に関する資料が提出され、今後、改廃を含めた見直し議論が始まった。会計検査院の「平成22年度決算報告」に基づく財務大臣あての「意見書」を発端とするこの再検討は、4段階税制の政策的役割を矮小化、歪曲するものであり、われわれは認められない。過日の中医協の医療経済実態調査にみるように診療所、歯科診療所の「連続倒産の危機」が明白ないま、短絡的な議論は、地域医療の瓦解をもたらしかねない。われわれは、10年間にわたる診療報酬マイナス改定の下、経営基盤を瀬戸際で下支えしてきた4段階税制の存続およびに法制化を強く求める。

 

 4段階税制とは、診療報酬に係る医療機関の事業所得(保険診療収入)の所得税の計算に関し、概算経費率を適用する仕組みである。年間の保険診療収入5,000万円以下の場合に、所得階級区分毎に設けた4段階の概算経費率(72%、70%、62%、57%)を乗じた額が必要経費とできることとなる。

 この税制は、「低診療報酬を税制面で補完する制度」として1954年に採られ、法案成立の際、その旨が附帯決議に明記されている。いわば政策税制である。

 本来であれば、適正水準に診療報酬を引き上げ、暫定措置とした4段階税制の「解除」とすべきところを、この税制を逆に口実にし、診療報酬の改善を図ってこなかったのが歴史である。

 それどころか、周知の通り、1980年代、1990年代と「世界一の医療費抑制策」(二木立氏/日本福祉大教授)が日本ではとられ、1998年からは診療報酬のマイナス改定の連続(累計3兆円削減)となっている。その結果、ついには「医療崩壊」が問題とされる事態を招いているのである。

 このもとでも、地方ばかりではなく都市部であっても、零細な医療機関の存立基盤を下支えしてきたのが4段階税制である。それが証拠に、会計検査院報告でも実に38%の医療機関が4段階税制を採用しており、その多く9割近くは医業収入(保険診療と自費診療の収入計)が5,000万円以下である。

 

 検査院の「意見書」では、4段階税制の目的の一側面、"事務負担軽減"のみをとらえ、自費診療収入の依存度の高い、「一部」の高額な医業収入の医療機関の存在を理由に、見直しを求めている。

 しかし、例として出された医業収入1億円超、自費収入割合67%の医療機関は、集計表の6人は延べ人数で、実質3人(歯科2、皮膚科1)であり極めて異例な存在である。

 また、4段階の不適切な適用として問題視された、医業収入5,000万円超の医療機関は1割強でしかなく、しかも自費診療収入割合が40%~70%と、多くの医療現場の実感とかけ離れている。そのことは医業収入5,000万円以下の医療機関の自費収入割合が数%台であることが如実に示している。

 このことは実地調査対象となった54税務署の多くが大都市部に偏在しており、全国の実態を反映していないことと無関係ではない。調査対象の医療機関に地方は20%しか含まれていないのである。仔細な地域別・階級別分布なども全く不明である。

 

 よって、このような調査結果をもって4段階税制の改廃を短絡づけることに非常に強い疑問をもつ。医療機関経営は年々、厳しくなってきていることは論を待たない。財務省は、経費の実額計算と概算の乖離が230億円と試算しているが、この金額で地域の医療基盤を支援しているということである。

 TPP交渉参加を前に、社会的基盤の医療は危機に瀕している。近視眼的な議論に埋没せず、大局的見地から医療の公共性を鑑み、4段階税制の存続ならびに本法に組み入れた措置を切望する。

2011年11月10日

 

地域医療を瀬戸際で支えている、

4段階税制の存続を求める

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 11月8日、政府税制調査会で診療報酬の所得計算の特例に係る租税特別措置(4段階税制)に関する資料が提出され、今後、改廃を含めた見直し議論が始まった。会計検査院の「平成22年度決算報告」に基づく財務大臣あての「意見書」を発端とするこの再検討は、4段階税制の政策的役割を矮小化、歪曲するものであり、われわれは認められない。過日の中医協の医療経済実態調査にみるように診療所、歯科診療所の「連続倒産の危機」が明白ないま、短絡的な議論は、地域医療の瓦解をもたらしかねない。われわれは、10年間にわたる診療報酬マイナス改定の下、経営基盤を瀬戸際で下支えしてきた4段階税制の存続およびに法制化を強く求める。

 

 4段階税制とは、診療報酬に係る医療機関の事業所得(保険診療収入)の所得税の計算に関し、概算経費率を適用する仕組みである。年間の保険診療収入5,000万円以下の場合に、所得階級区分毎に設けた4段階の概算経費率(72%、70%、62%、57%)を乗じた額が必要経費とできることとなる。

 この税制は、「低診療報酬を税制面で補完する制度」として1954年に採られ、法案成立の際、その旨が附帯決議に明記されている。いわば政策税制である。

 本来であれば、適正水準に診療報酬を引き上げ、暫定措置とした4段階税制の「解除」とすべきところを、この税制を逆に口実にし、診療報酬の改善を図ってこなかったのが歴史である。

 それどころか、周知の通り、1980年代、1990年代と「世界一の医療費抑制策」(二木立氏/日本福祉大教授)が日本ではとられ、1998年からは診療報酬のマイナス改定の連続(累計3兆円削減)となっている。その結果、ついには「医療崩壊」が問題とされる事態を招いているのである。

 このもとでも、地方ばかりではなく都市部であっても、零細な医療機関の存立基盤を下支えしてきたのが4段階税制である。それが証拠に、会計検査院報告でも実に38%の医療機関が4段階税制を採用しており、その多く9割近くは医業収入(保険診療と自費診療の収入計)が5,000万円以下である。

 

 検査院の「意見書」では、4段階税制の目的の一側面、"事務負担軽減"のみをとらえ、自費診療収入の依存度の高い、「一部」の高額な医業収入の医療機関の存在を理由に、見直しを求めている。

 しかし、例として出された医業収入1億円超、自費収入割合67%の医療機関は、集計表の6人は延べ人数で、実質3人(歯科2、皮膚科1)であり極めて異例な存在である。

 また、4段階の不適切な適用として問題視された、医業収入5,000万円超の医療機関は1割強でしかなく、しかも自費診療収入割合が40%~70%と、多くの医療現場の実感とかけ離れている。そのことは医業収入5,000万円以下の医療機関の自費収入割合が数%台であることが如実に示している。

 このことは実地調査対象となった54税務署の多くが大都市部に偏在しており、全国の実態を反映していないことと無関係ではない。調査対象の医療機関に地方は20%しか含まれていないのである。仔細な地域別・階級別分布なども全く不明である。

 

 よって、このような調査結果をもって4段階税制の改廃を短絡づけることに非常に強い疑問をもつ。医療機関経営は年々、厳しくなってきていることは論を待たない。財務省は、経費の実額計算と概算の乖離が230億円と試算しているが、この金額で地域の医療基盤を支援しているということである。

 TPP交渉参加を前に、社会的基盤の医療は危機に瀕している。近視眼的な議論に埋没せず、大局的見地から医療の公共性を鑑み、4段階税制の存続ならびに本法に組み入れた措置を切望する。

2011年11月10日