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2012/8/20 政策部長談話「無謀な『准看護師』養成の"廃止"に医療現場は95%が『反対』 深刻な看護職員不足に無理解な黒岩県知事に『撤回』を求める」

無謀な「准看護師」養成の"廃止"に医療現場は95%が「反対」

深刻な看護職員不足に無理解な黒岩県知事に「撤回」を求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 黒岩知事が突然打ち出した准看護師の養成廃止を巡り神奈川県の医療現場がいま揺れている。知事の方針は県立衛生看護専門学校の准看学科は新入生の募集を2014年度で打ち切り、准看護師を養成する4つの専門学校の補助金(年間約3,200万円)を廃止するというもの。深刻な看護職員不足の下、需給状況や就労実態などの現実を無視したこの養成廃止に、第一線医療が崩壊するとの危機感に満ちた声が各地で広がっている。われわれは知事の廃止方針の撤回を強く求める。

 

 「看護師」と「准看護師」をあわせた「看護職員」は全国で5万6千人が不足(厚労省「需給見通し」)しており、実にその1/4(1万6千人)を神奈川県が占めている。また人口10万対比の看護職員数は神奈川県が全国最下位(693人:全国1030人)である。全国で看護師は95万2千人、准看護師は36万8千人が就労しているが、神奈川は看護師5万1千人、准看護師1万1千人の就労となっており、看護師と准看護師の比率は全国が約5:2なのに対し神奈川は約5:1と准看護師の少なさが際立っている。全国最低の看護職員数の下、需給計画、養成計画も不十分、不透明なもと准看護師の養成が途絶えると、看護職員が継続的に医療現場に供給されなくなり、医療体制が瓦解していくことは火を見るより明らかである。

 

 准看護師は実際、病院に46%、診療所に33%、介護施設に17%が就労し医療現場、高齢者介護の現場を支えている。看護師が病院に74%、診療所に12%、介護施設に6%とその就労構成を異にしているのは、その役割が違うということである。

 90年代以降、急性期入院を大病院に担わせる「選択と集中」を厚労省が敷き、診療報酬による経済誘導により、そこへの看護師の偏在集中、病院の選別淘汰がなされてきた。極めつけは7:1看護の導入であり、入院基本料を高額設定したため、市中病院からの看護師の引き抜き合戦という異常事態さえ生んだのである。

 高次機能病院と、慢性期入院を主とする療養型病床、外来を主とする診療所と役割や機能が違い、職種や人員配置も違ってくる。准看護師は看護師と同様に保健師助産師看護師法に規定された法的な担保をもつ職種である。診療報酬上も、一般病院は3割の准看護師、療養病床は8割の准看護師の配置を前提に価格設定・経済評価がされている。また在宅医療の一部で看護職員の経済評価はなされているが、外来は看護職員の配置は全く評価がされていない。この医療制度の下で、実際の医療が展開されているのである。

 

 准看護師は、国が看護師養成に責任を十分に果たさない下で、地域医療を守る観点で医師会などが自主的に学校をつくり教員を担い、就労支援を経済的・物的に行い、その養成を担ってきた歴史的経緯がある。身分待遇面での看護師との差は、医療費政策上、その配置に経済評価がない、ないしは不十分な中、限界があり、その中でも医療機関個々は最善を尽くしてきている。現に、看護師の平均賃金は383,594円(月額)で、准看護師は340,673円とその9割程度となっている。

 

 看護職員不足は医療費抑制策に起因する、昔からの慢性的な構造的な問題である。外国からの看護師・准看護師候補の受け入れにみるように、准看護師廃止の話は国政レベルでは無い。過去の厚労省の報告書での看護師と准看護師の一本化・統合の提言は、21世紀初頭に看護職員の過剰供給となるとの推計の下、関係者との合意形成により、国が看護職員の供給体制の整備・確立に責任をもつべきとしたものであり、「地域医療の現場に混乱を生じさせないようにすることが不可欠」としている。

 既にみたように、看護職員の過剰供給などは水泡に帰しており、看護職員養成への国の責任も十分ではなく、一本化に向けた諸条件は全く整っていない。

 

 この現実を踏まえない、准看護師養成の廃止は医療現場を混乱に陥らせるだけである。看護職員がいなければ手術はできず、入院療養も成り立たない。准看護師養成廃止により、新卒看護師をはじめとした、就労看護職員の獲得競争の激化、看護職員の確保困難から、手術数の制限、病棟の閉鎖、病院の消失が起きる。また経営体力の弱い診療所、有床診療所、中小病院に矛盾はより集中し、看護力の低下から第一線医療の「底割れ」が非常に懸念される。現実は診療所での准看護師の求人に応募がない、欠員補充困難が実態である。当会会員の切実な声は、ここに集約されている。調査回答の95%の会員が准看護師養成の廃止に「反対」である。

 

 医療崩壊は、医師の過重労働もさることながら、看護職員不足も大きいのである。

 

 看護職員を巡る社会環境は大きく変化し、准看護師に関しかつての「お礼奉公」は殆ど影をひそめ、大卒社会人の第2キャリアとしての選択肢に准看護師が位置付き、格差社会の下、安定した高収入の職種となっている。現実に相模原や川崎の医師会立准看学校の倍率は5~6倍の「狭き門」である。

 一方、看護師に関しては、これまでの「診療の補助」を超えて、医師の指示の下で一定の医療行為の実施を認める「特定看護師」の法制化が俎上に上ってもおり、看護職員の中での新たな資格の階層化の動きも活発となっている。

 医療の高度化や急性期対応は、すべての医療機関に同じように求められているわけではない。役割分担、機能分担と身分保障、教育時間・カリキュラムの見直しなど、医療崩壊を踏まえた各職種間相互の見直し議論が起きている中、准看護師の在り方は全体的に総合的に議論していく必要がある。

 

 短兵急に、養成廃止ありきでは、医療現場の秩序が壊れるだけである。黒岩知事の賢明な判断を改めて強く求める。

 2012年8月20日

無謀な「准看護師」養成の"廃止"に医療現場は95%が「反対」

深刻な看護職員不足に無理解な黒岩県知事に「撤回」を求める

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 黒岩知事が突然打ち出した准看護師の養成廃止を巡り神奈川県の医療現場がいま揺れている。知事の方針は県立衛生看護専門学校の准看学科は新入生の募集を2014年度で打ち切り、准看護師を養成する4つの専門学校の補助金(年間約3,200万円)を廃止するというもの。深刻な看護職員不足の下、需給状況や就労実態などの現実を無視したこの養成廃止に、第一線医療が崩壊するとの危機感に満ちた声が各地で広がっている。われわれは知事の廃止方針の撤回を強く求める。

 

 「看護師」と「准看護師」をあわせた「看護職員」は全国で5万6千人が不足(厚労省「需給見通し」)しており、実にその1/4(1万6千人)を神奈川県が占めている。また人口10万対比の看護職員数は神奈川県が全国最下位(693人:全国1030人)である。全国で看護師は95万2千人、准看護師は36万8千人が就労しているが、神奈川は看護師5万1千人、准看護師1万1千人の就労となっており、看護師と准看護師の比率は全国が約5:2なのに対し神奈川は約5:1と准看護師の少なさが際立っている。全国最低の看護職員数の下、需給計画、養成計画も不十分、不透明なもと准看護師の養成が途絶えると、看護職員が継続的に医療現場に供給されなくなり、医療体制が瓦解していくことは火を見るより明らかである。

 

 准看護師は実際、病院に46%、診療所に33%、介護施設に17%が就労し医療現場、高齢者介護の現場を支えている。看護師が病院に74%、診療所に12%、介護施設に6%とその就労構成を異にしているのは、その役割が違うということである。

 90年代以降、急性期入院を大病院に担わせる「選択と集中」を厚労省が敷き、診療報酬による経済誘導により、そこへの看護師の偏在集中、病院の選別淘汰がなされてきた。極めつけは7:1看護の導入であり、入院基本料を高額設定したため、市中病院からの看護師の引き抜き合戦という異常事態さえ生んだのである。

 高次機能病院と、慢性期入院を主とする療養型病床、外来を主とする診療所と役割や機能が違い、職種や人員配置も違ってくる。准看護師は看護師と同様に保健師助産師看護師法に規定された法的な担保をもつ職種である。診療報酬上も、一般病院は3割の准看護師、療養病床は8割の准看護師の配置を前提に価格設定・経済評価がされている。また在宅医療の一部で看護職員の経済評価はなされているが、外来は看護職員の配置は全く評価がされていない。この医療制度の下で、実際の医療が展開されているのである。

 

 准看護師は、国が看護師養成に責任を十分に果たさない下で、地域医療を守る観点で医師会などが自主的に学校をつくり教員を担い、就労支援を経済的・物的に行い、その養成を担ってきた歴史的経緯がある。身分待遇面での看護師との差は、医療費政策上、その配置に経済評価がない、ないしは不十分な中、限界があり、その中でも医療機関個々は最善を尽くしてきている。現に、看護師の平均賃金は383,594円(月額)で、准看護師は340,673円とその9割程度となっている。

 

 看護職員不足は医療費抑制策に起因する、昔からの慢性的な構造的な問題である。外国からの看護師・准看護師候補の受け入れにみるように、准看護師廃止の話は国政レベルでは無い。過去の厚労省の報告書での看護師と准看護師の一本化・統合の提言は、21世紀初頭に看護職員の過剰供給となるとの推計の下、関係者との合意形成により、国が看護職員の供給体制の整備・確立に責任をもつべきとしたものであり、「地域医療の現場に混乱を生じさせないようにすることが不可欠」としている。

 既にみたように、看護職員の過剰供給などは水泡に帰しており、看護職員養成への国の責任も十分ではなく、一本化に向けた諸条件は全く整っていない。

 

 この現実を踏まえない、准看護師養成の廃止は医療現場を混乱に陥らせるだけである。看護職員がいなければ手術はできず、入院療養も成り立たない。准看護師養成廃止により、新卒看護師をはじめとした、就労看護職員の獲得競争の激化、看護職員の確保困難から、手術数の制限、病棟の閉鎖、病院の消失が起きる。また経営体力の弱い診療所、有床診療所、中小病院に矛盾はより集中し、看護力の低下から第一線医療の「底割れ」が非常に懸念される。現実は診療所での准看護師の求人に応募がない、欠員補充困難が実態である。当会会員の切実な声は、ここに集約されている。調査回答の95%の会員が准看護師養成の廃止に「反対」である。

 

 医療崩壊は、医師の過重労働もさることながら、看護職員不足も大きいのである。

 

 看護職員を巡る社会環境は大きく変化し、准看護師に関しかつての「お礼奉公」は殆ど影をひそめ、大卒社会人の第2キャリアとしての選択肢に准看護師が位置付き、格差社会の下、安定した高収入の職種となっている。現実に相模原や川崎の医師会立准看学校の倍率は5~6倍の「狭き門」である。

 一方、看護師に関しては、これまでの「診療の補助」を超えて、医師の指示の下で一定の医療行為の実施を認める「特定看護師」の法制化が俎上に上ってもおり、看護職員の中での新たな資格の階層化の動きも活発となっている。

 医療の高度化や急性期対応は、すべての医療機関に同じように求められているわけではない。役割分担、機能分担と身分保障、教育時間・カリキュラムの見直しなど、医療崩壊を踏まえた各職種間相互の見直し議論が起きている中、准看護師の在り方は全体的に総合的に議論していく必要がある。

 

 短兵急に、養成廃止ありきでは、医療現場の秩序が壊れるだけである。黒岩知事の賢明な判断を改めて強く求める。

 2012年8月20日