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政策部長談話 「レセプト流用に伴う人権侵害の危険性を問う 個人の医療情報のビジネス利用は『あたりまえ』なのか」

レセプト流用に伴う人権侵害の危険性を問う

個人の医療情報のビジネス利用は「あたりまえ」なのか

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 8月3日、厚労省は保険局、医政局、医薬食品局の3局の総務課長連名で、レセプト情報等の個人情報の取扱いに関する通知を発出した。これは専門紙の「(保険者委託の)レセプトデータ横流し」報道(7月25日)の直後に、急遽、出されたものである。3局の連名も、発出までの迅速さも、極めて異例であり、厚労省が事態を重く見た証左である。しかし、この横流しの事実は、厚労省、日医、健保連いずれでも、確認されておらず、不明朗感や懸念は未だ残る。われわれは、レセプトに関し、(1)守秘義務の徹底、(2)目的外利用の禁止、(3)現行法に根拠のないナショナルデータベースの構築の解消を改めて求めるとともに、今回の横流し疑惑に関し、厚労省に対し実態調査・解明と適切な指導、勧告、関係省庁への事業者の監督強化要請をするよう強く求める。

 

 事の発端は「レセプト情報等の提供に関する有識者会議」(6月20日)での石川日医常任理事の"レセプトから色々な情報を新たに分析している方たちが既にいる"らしいとの発言である。これを踏まえ、健保連の白川専務が7月22日の健保連総会の席上、レセプト点検や医療費分析を外部委託したレセプトデータが、その業者から一部が流れ製薬メーカーの営業活動に使われているケースがあるようだ、と注意喚起。このレセプトデータの「目的外利用」に関し、医薬経済社のRISFAXが「レセプトデータ横流し、製薬企業が利用 白川専務が注意喚起『営業活動に使われている』」と報道し明るみになったというのが経緯である。

 

 そもそもレセプトとは、医療機関が行った診療に関し保険者に対価請求をする際に、患者ごとにひと月単位で作成する「請求明細書」であるが、患者名、生年月日、診療開始日、病名、薬剤名、検査名、注射名など秘匿性の極めて高い情報が記載されているものである。

 

 このレセプトに関し、個人情報保護の文脈で最近は語られるきらいがあるが、実は「守秘義務」が保険者には課せられている。また、患者同意なしにこの個人データを第三者に提供することは法律(個人情報保護法)で禁じられており、第三者提供に該当しない事例として厚労省のガイドラインで(1)レセプト点検、(2)医療費分析、(3)保健指導、等と示され委託については制限されている。

 この3事例とてわれわれは問題が大きいと考えているが、これらは「健保組合における個人情報保護の徹底について」(保保発第1225001号)や、「健康保険組合等における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドラインについて」(保発第1227001号)などで明確となっており、守秘義務に関しても外部業者にその遵守が求められ、健保組合も監督責任を負うとされている。

 

 当然ながら、委託先業者による二次利用は、法令や通知から完全に外れている。

  

 レセプト点検等の外部委託に際し、患者氏名などを削除する「マスキング」について当会が健保連に9月2日照会したところ、「マスキングは行っていない、したら意味がない」と答え、報道の白川専務発言をあっさり訂正。委託先とは秘密保持契約を締結し、違反の際は損害賠償請求となるとしており、このデータの二次利用は、人権問題としても非常に由々しいことである。

 

 レセプトの目的外利用は、かつて04年4月に「保険者機能を推進する会」(大企業健保78組合で構成)が生活習慣病管理料の算定患者に「反面調査」を実施したことが発覚。また、06年4月にはNTTデータが保険者の管理するレセプトを基に処方された医薬品をジェネリックへ経済誘導する個別通知を作成するサービスを事業化。これらに関し、当会はレセプトの目的外利用、守秘義務違反に関し、厚労省に照会や懇談を重ねたが、いずれも「問題性なし」との立場に終始している。

 保険者機能を推進する会は「保険者として統計処理の一環」と詭弁を弄していた。

 

 有識者会議での日医側の発言は、厚労省保険局に集積された15億件に上るレセプトのナショナルデータベースに関し、その二次利用を牽制し、その関連で人権擁護の観点から出されたものである。これに対し、厚労省の城医療費適正化対策推進室長は、「保険者が所有のレセプトデータを研究者に提供し、それを利用して分析をしたりする状況は、既に昔からあると認識している」と発言。また、「国が管理するナショナルデータベースと違い、民間所有の個人情報は法的規制が一段階緩い。保険者所管の情報管理は個人情報保護法の適用であり、所管の役所は別になる」と、濁した旨を返答。業を煮やした日医が、人権を守る側面で極めて大事な問題と説き、個人情報がきちんと保護されるよう法整備を強く求める一幕があったのである。

 

 かつて、02年に神奈川社会保険事務局からレセプト情報のパンチ入力を受託した会社が、その顧客であるシステム開発会社にテスト用データとして「不正に提供」。この流出問題に関し社会保険庁がホームページで謝罪掲載し、守秘義務の徹底を指導している。

 

 厚労省の3局連名通知は、レセプトに記載された個人情報を、「本人の同意を得ないで営利目的等のために第三者へ売却又は譲渡している事例がある、との情報が複数寄せられている」と認めている。

 まずは、厚労省は所管官庁として実態調査と解明が急務である。

 

 既に㈱日本医療データセンターは3,300万件のレセプト情報保有をセールスポイントとし、製薬企業、保険者、生保・損保向けに、市場調査用のデータ提供、医療費抑制策の提案などを商品化、事業化している。また特定健診の導入と軌を一にし、オムロン・損保ジャパン・NTTデータによる合弁会社「ヘルスケア・フロンティア・ジャパン」が、レセプト分析による生活改善プログラムを商品化しているなど、レセプトの目的外利用、レセプトの流用が疑わしい実例は数少なくない。健保組合とこれら会社との委託契約内容の照会や調査など、厚労省は健保組合の監督責任を果たすべきである。

 

 厚労省通知は、"事業者から「患者等の氏名や生年月日を削除していればレセプト情報であっても個人情報に該当しないため、第三者へ販売または譲渡しても問題ない」との趣旨の説明がなされる場合があるが、他の情報と照合することにより患者鑑別が可能な場合は、個人情報に該当する場合がある"、と非常に歯切れが悪い。

 

 レセプトのナショナルデータべースは、情報を匿名化するとしているものの、名寄せ・連結は可能としており、複数医療機関での受診の把握、一生涯の受診履歴の把握が可能なデータである。しかも医療機関コード、都道府県番号、保険者番号、患者の「生年月」は匿名化の対象外である。

 

 このような状況下で、いま、そもそもデータベース構築の法的根拠が存在していないナショナルデータベースの、民間活用、民間利用について議論が着々と進んでいる。商業利用に当初は一定歯止めがかかっても、なし崩し的な状況が出現することは想像に難くない。われわれは、この人権侵害に通じる一連の策動を非常に憂えている。

 

 今秋の臨時国会には共通番号制の法案審議が予定されている。法案が成立した場合に2014年6月に個々の番号が記載され、健康保険証等の機能をまとめたICカードが全国民に配布される。医療の保険給付情報もこのカードで把握され、いずれ健康情報もここに集約されていくことが想定されている。

 

 個人の医療情報、レセプトの目的外利用、民間利用、商業利用を撤回するよう強く要望する。

2011年9月16日