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2011/7/7 政策部長談話「将来の消費税率は20%!? 機能強化を反故にした改革案に反対する」

将来の消費税率は20%!? 

機能強化を反故にした改革案に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 政府・与党は6月30日、「社会保障・税一体改革成案」を社会保障改革検討本部でまとめ閣議報告とした。その内容は「集中検討会議」の「社会保障改革案」と大差はなく、消費税率10%への段階的引き上げ時期を「2010年代半ばまで」とし経済状況の好転が条件とされ、消費税の国と地方の按分に関し現行部分の維持が盛られたものの、「社会保障改革の具体策、工程及び費用試算」などの基本的枠組みはほとんど変わっていない。総じて、社会保障の公助を否定し、共助・連帯を基本とする制度に変質させ、税と社会保障の「共通番号制」、つまりは社会保障個人会計制を導入し個人の負担の範囲内の給付管理を徹底し、給付外サービスの商品化、医療・社会保障の産業化、市場創出を企図している。また、消費税の社会保障財源化も、大方は財政再建に3%をあてる構図となっており、社会保障の機能強化は有名無実な改革案となっている。既に大半の問題点は6月15日の政策部長談話「公的責任否定と機能弱体化につながる社会保障改革案に反対する」で述べている。それ以外の問題について触れ、この改革案に改めて反対するとともに、関係方面に警鐘を鳴らしたい。

 

 この改革案は社会保障の安定財源の確保と財政再建の同時達成を目標とし、社会保障の公費調達財源先を消費税とした。2015年度までに税率10%とし、社会保障財源化を図り、社会保障4経費(医療・年金・介護・少子化)にあてることとし、これまでの高齢者3経費(医療・介護・年金)から充当する範囲を拡大し目的税化する。

 ただし、税率アップ5%分のうち3%分はプライマリーバランス(基礎的財政収支:PB)の改善、財政再建に回すとされ、これまでの一般財源からの公費調達を消費税に代替する構図となっている。これにより財政再建の「一里塚」が築かれるとされているが、それは財政運営戦略において基礎的財政収支赤字の対GDP比を2015年度までに2010年度水準の半減とする目標がこれにより可能となるからである。それは▲6.8%から▲3.4%に半減することであり、財務省試算では2015年度の必要額は7.4兆円と弾かれており、丁度、消費税3%分(7.5兆円)である。

 

 この「一里塚」は意味深長である。財政運営戦略は2020年度の基礎的財政収支の黒字化を見込んでおり、必要額25.8兆円は消費税率10%に相当する。改革案は消費税の使途を社会保障4経費としたことで、この必要額が確保される水準まで消費税率を引き上げることが可能となる。また4経費に限定しているので、今後、障害者福祉や生活保護など諸経費まで使途を拡大することにも道が開かれる。黒字化に向け、将来的に更に消費税率アップは透けており、税率アップに伴う給付増を勘案すると、消費税率20%水準への引き上げは既に射程に入っている。よって「一里塚」なのである。

 

 受診時定額負担は低所得者への配慮の文言が入ったが、これも制度論的に矛盾が大きい。難病患者救済から長期療養患者救済と目的が次々と変転され報じられているが、患者救済のために患者が更に上乗せで負担をしあって救済するというのは、本末転倒である。保険料なり公費の引き上げにより、制度全体により救済をはかるのが本筋であり、そもそも定率負担に定額負担を重ねるというのは諸外国にもありえず、過重な3割負担を超えた負担は皆保険を確実に形骸化させる。

 この定額負担は、免責制の代替として「集中検討会議」で矢崎委員より提案されたものであり、"上乗せ免責制"にほかならない。窓口負担割合の引き上げも席上、発言が出されており、昨年11月の協会けんぽ京都支部評議員会での4割負担発言など、受診中断、受診抑制の惨状は一顧だにされていない。

 

 改革案の「基本的考え方」は"安心の確保""安心感を高める"が強調されている。しかし改革メニューは、方法論を欠いた平均在院日数の20日から9日への半減、外来患者数の5%削減、要介護認定者の3%削減、医薬品の変動給付率の導入など、逆行する施策のオンパレードである。

 

 更にはこの改革を貫く「負担と給付の公平」にいたっては、大企業健保組合や共済組合など附加給付の手厚い保険組合については一言も言及がない。高額療養費の上限4万円水準への引き下げがいわれるが、これらの組合は上限2万円水準のところが数多く、保険料率も低く、事業主負担割合も欧州並みの7割と高い。この点の不公平の是正は何も織り込まれていない。

 しかも改革論議に隠れ世間の関心が薄らいでいるが、規定路線の医療保険の都道府県再編に関し大企業健保と共済組合は対象外とされており、負担と給付の水準統一の埒外にある。

 

 早期導入がいわれる税と社会保障の共通番号制は、各制度横断の利用者負担の総合合算制の担保装置として意義が強調されているが、その対象は「制度として確立した社会保障」、つまり国の制度のみが対象とされており、前述の附加給付部分を組み込んだ話では決してない。何も「負担と給付の公平」は担保されないのである。共通番号制を金科玉条のごとく囃し立てる根拠はなく、負担の範囲に給付抑制したい財政当局の焦りすら感じられる。

 

 改革案は社会保障に関する公費のみに焦点をあて論じられているが、給付増は保険料と自己負担・利用者負担の増加も当然ながら招来する。これは制度上、必至である。2015年度公費46兆円に対し、保険料は68兆円、自己負担16兆円と見込まれる。2011年度に比べ公費はプラス6兆円、保険料はプラス8兆円、自己負担はプラス2兆円の増加となる。生産年齢人口の減少局面にあり今後、更に減少を続けることを考えれば保険料の一人当たりの負担は重いものになっていく。いわんや自己負担をやである。

 

 社会保障給付の増加は、必ず負担増を伴う。しかし、以上にみるように改革案は負担増の覚悟を求めるものの、その内容は決して皆が期待する給付充実、社会保障の機能強化ではない。

 

 巧言令色のこの改革案に反対するとともに、真に機能強化となる改革案の練り直しを強く求める。

2011年7月7日

 

将来の消費税率は20%!? 

機能強化を反故にした改革案に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 政府・与党は6月30日、「社会保障・税一体改革成案」を社会保障改革検討本部でまとめ閣議報告とした。その内容は「集中検討会議」の「社会保障改革案」と大差はなく、消費税率10%への段階的引き上げ時期を「2010年代半ばまで」とし経済状況の好転が条件とされ、消費税の国と地方の按分に関し現行部分の維持が盛られたものの、「社会保障改革の具体策、工程及び費用試算」などの基本的枠組みはほとんど変わっていない。総じて、社会保障の公助を否定し、共助・連帯を基本とする制度に変質させ、税と社会保障の「共通番号制」、つまりは社会保障個人会計制を導入し個人の負担の範囲内の給付管理を徹底し、給付外サービスの商品化、医療・社会保障の産業化、市場創出を企図している。また、消費税の社会保障財源化も、大方は財政再建に3%をあてる構図となっており、社会保障の機能強化は有名無実な改革案となっている。既に大半の問題点は6月15日の政策部長談話「公的責任否定と機能弱体化につながる社会保障改革案に反対する」で述べている。それ以外の問題について触れ、この改革案に改めて反対するとともに、関係方面に警鐘を鳴らしたい。

 

 この改革案は社会保障の安定財源の確保と財政再建の同時達成を目標とし、社会保障の公費調達財源先を消費税とした。2015年度までに税率10%とし、社会保障財源化を図り、社会保障4経費(医療・年金・介護・少子化)にあてることとし、これまでの高齢者3経費(医療・介護・年金)から充当する範囲を拡大し目的税化する。

 ただし、税率アップ5%分のうち3%分はプライマリーバランス(基礎的財政収支:PB)の改善、財政再建に回すとされ、これまでの一般財源からの公費調達を消費税に代替する構図となっている。これにより財政再建の「一里塚」が築かれるとされているが、それは財政運営戦略において基礎的財政収支赤字の対GDP比を2015年度までに2010年度水準の半減とする目標がこれにより可能となるからである。それは▲6.8%から▲3.4%に半減することであり、財務省試算では2015年度の必要額は7.4兆円と弾かれており、丁度、消費税3%分(7.5兆円)である。

 

 この「一里塚」は意味深長である。財政運営戦略は2020年度の基礎的財政収支の黒字化を見込んでおり、必要額25.8兆円は消費税率10%に相当する。改革案は消費税の使途を社会保障4経費としたことで、この必要額が確保される水準まで消費税率を引き上げることが可能となる。また4経費に限定しているので、今後、障害者福祉や生活保護など諸経費まで使途を拡大することにも道が開かれる。黒字化に向け、将来的に更に消費税率アップは透けており、税率アップに伴う給付増を勘案すると、消費税率20%水準への引き上げは既に射程に入っている。よって「一里塚」なのである。

 

 受診時定額負担は低所得者への配慮の文言が入ったが、これも制度論的に矛盾が大きい。難病患者救済から長期療養患者救済と目的が次々と変転され報じられているが、患者救済のために患者が更に上乗せで負担をしあって救済するというのは、本末転倒である。保険料なり公費の引き上げにより、制度全体により救済をはかるのが本筋であり、そもそも定率負担に定額負担を重ねるというのは諸外国にもありえず、過重な3割負担を超えた負担は皆保険を確実に形骸化させる。

 この定額負担は、免責制の代替として「集中検討会議」で矢崎委員より提案されたものであり、"上乗せ免責制"にほかならない。窓口負担割合の引き上げも席上、発言が出されており、昨年11月の協会けんぽ京都支部評議員会での4割負担発言など、受診中断、受診抑制の惨状は一顧だにされていない。

 

 改革案の「基本的考え方」は"安心の確保""安心感を高める"が強調されている。しかし改革メニューは、方法論を欠いた平均在院日数の20日から9日への半減、外来患者数の5%削減、要介護認定者の3%削減、医薬品の変動給付率の導入など、逆行する施策のオンパレードである。

 

 更にはこの改革を貫く「負担と給付の公平」にいたっては、大企業健保組合や共済組合など附加給付の手厚い保険組合については一言も言及がない。高額療養費の上限4万円水準への引き下げがいわれるが、これらの組合は上限2万円水準のところが数多く、保険料率も低く、事業主負担割合も欧州並みの7割と高い。この点の不公平の是正は何も織り込まれていない。

 しかも改革論議に隠れ世間の関心が薄らいでいるが、規定路線の医療保険の都道府県再編に関し大企業健保と共済組合は対象外とされており、負担と給付の水準統一の埒外にある。

 

 早期導入がいわれる税と社会保障の共通番号制は、各制度横断の利用者負担の総合合算制の担保装置として意義が強調されているが、その対象は「制度として確立した社会保障」、つまり国の制度のみが対象とされており、前述の附加給付部分を組み込んだ話では決してない。何も「負担と給付の公平」は担保されないのである。共通番号制を金科玉条のごとく囃し立てる根拠はなく、負担の範囲に給付抑制したい財政当局の焦りすら感じられる。

 

 改革案は社会保障に関する公費のみに焦点をあて論じられているが、給付増は保険料と自己負担・利用者負担の増加も当然ながら招来する。これは制度上、必至である。2015年度公費46兆円に対し、保険料は68兆円、自己負担16兆円と見込まれる。2011年度に比べ公費はプラス6兆円、保険料はプラス8兆円、自己負担はプラス2兆円の増加となる。生産年齢人口の減少局面にあり今後、更に減少を続けることを考えれば保険料の一人当たりの負担は重いものになっていく。いわんや自己負担をやである。

 

 社会保障給付の増加は、必ず負担増を伴う。しかし、以上にみるように改革案は負担増の覚悟を求めるものの、その内容は決して皆が期待する給付充実、社会保障の機能強化ではない。

 

 巧言令色のこの改革案に反対するとともに、真に機能強化となる改革案の練り直しを強く求める。

2011年7月7日