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2007/4/5 政策部長談話「日本医療の特性を破壊する登録医制導入に反対する

 日本医療の特性を破壊する登録医制導入に反対する

 

神奈川県保険医協会

政策部長 森 壽生


 3月29日、厚労省の「後期高齢者医療の在り方に関する特別部会」は新高齢者医療制度の診療報酬構築の土台となる「基本的考え方(案)」をまとめ、(1)複数疾患を持つ高齢者を"総合的に診る医師"の必要性と、(2)頻回受診と検査・投薬の重複是正を打ち出した。

 これはオブラートに包んであるが、昨年12月に国保中央会が提案した「登録医制」を念頭においたものであり、この間の医療界の反対にもかかわらず、基本的な考え方は何も変わっていない。われわれは、フリーアクセスを阻害する、「登録医制」導入の企図を絶対に看過できない。

 

 登録医制とは、患者と医療機関を「1対1」の関係性に縛りつける制度であり、患者の登録数に応じて診療報酬を人頭払い(定額)する制度である。「考え方(案)」の複数疾患を総合的に診るとは、一人の医師が診ることであり、頻回受診・検査等の重複是正とは「1対1」の関係性の強要と、定額制による経済的な逆インセンティブによる担保を意味している。既に宮島厚労省総括審議官は登録医制の診療報酬のイメージとして「登録料」、「コーディネーター料」との自身の着想を1月に公にしている。

 

 ヨーロッパは基本的に登録医制を敷いているが、高い医療費水準と開業医報酬および、患者負担無料を前提とした制度であり、日本の状況とは異なっている。

 代表格はイギリスだが、ほかのヨーロッパ諸国と違い、日本と同様、低医療費政策の下で、総枠予算制の担保としてこの登録医制を運用した。その結果は、100万人の入院待ち、医師の公的保険からの撤退と私的保険への異動、医師の国外転出を招き、全体として医師の士気(モチベーション)が減退、回復不可能とさえ『ランセット』で報じられる事態となっている。

 

 この登録医制は、かつて80年代に「かかりつけ医」構想とし浮上、頓挫。最近では老人医療費の抑制策として01年に財務省から提案され、再燃した。いままた「かかりつけ医」「総合診療医」「主治医」「担当医」など厚労官僚や文部省出向官僚らが様々なネーミングで、いろんな口実をつけ導入しようとしているものは「登録医制」である。

 この提案は外部の国保中央会だが、理事長は元厚労省事務次官の多田宏氏である。しかも直接的に影響のない国保中央会が提案したのには理由がある。各県の国保連合会は県単位の医療保険再編の司令塔、「保険者協議会」の事務局を務めており、将来的に高齢者だけでなく一般患者への適用が想像に難くない。この登録医制にエールを送っている全国社会保険連合会理事長の伊藤雅治氏は元医政局長であり、政管健保の分割・公法人化の受け皿、全国健康保険協会の設立準備委員には現事務次官の辻哲夫氏が参加している。

 

 辻事務次官は昨秋、在宅分野5団体共催のシンポジウムで、今後30年で年間死亡数が100万人から170万人になるとし、在宅死を30年前の5割に近づけたいと講演。24時間対応の在宅療養支援診療所を倍化させ、在宅看取りをできる医師と在宅医療に取り組む医師を増やすと説き、経済誘導によらない方法を取りたいとした。「1対1」の関係性は必然的に在宅医療まで及ぶ。新高齢者医療制度は75歳以上だけでなく65歳以上の寝たきりを対象とした制度である。

 

 療養病床の23万床削減にとどまらず一般病床を42万床へ(つまり48万床削減)との中村秀一審議官(当時)の公言は誰も否定していない。多くは在宅での療養を強いられ開業医は対応に追われる。
国による終末期医療のガイライン策定の動きも見逃せない。かつて93年に医師の横内正利氏が指摘された「みなし末期」という危険性を孕む。

 厚労官僚の発言や動向を点と線で結んでいくと、末恐ろしい感がする。

 02年に健保3割が成立した直後、中村審議官(現社会援護局長)は「負担増のカードはもう切れない」とし、皆保険、現物給付、出来高、フリーアクセス、自由開業医制が医療制度のゆがみを生じさせていると断じ、この日本の医療の特性に手をつけることを宣言した。

 この間の、国保資格証明書義務化、保険外併用療養、株式会社経営診療所の認可、リハビリの給付日数制限は、その実行であり、この登録医制導入も一連の医療費抑制の新機軸である。

 高齢者は、1割、3割負担で受診手控え、治療中断が現場で目立っている。高齢者は複数の疾病を抱え、容態は簡単に急変もする。頻回受診を問題にするが、これは1医療機関単位の数字ではない。白内障は内科では診療できないように、疾病が違えば苦しい経済事情の下、複数の科目に受診をする。懲りずに作為的な情報操作で施策の方向を誘導することはやめにした方がよい。

 高齢者医療については、02年の「改革」の際に大量に配布された、横内氏と石井暎禧氏(中医協委員)、故・滝上宗次郎氏(有料老人ホームグリーン東京社長)による鼎談『正しい高齢者医療改革に向けて』(冊子)に学ぶべきである。

 

 官僚諸氏に問いたい。日本の医療は「いつでも、どこでも、誰でも」を基本とし世界一の健康度を非常に少ない医療費で達成した。そこには医療者の献身と犠牲がある。イギリスは既に方向転換をし、医療費水準は日本を追い抜いている。

 これ以上、医療費を抑制し、健康破壊と医療現場の荒廃を招来させ、どうしようというのだろうか?国の財政の責任をなぜ、医療者と国民がおしつけられなければいけないのか。

 

 われわれは日本の医療文化を破壊する登録医制導入に反対するとともに、憲法25条を遵守するよう厚労省に強く要望する。

2007年4月5日

 

 日本医療の特性を破壊する登録医制導入に反対する

 

神奈川県保険医協会

政策部長 森 壽生


 3月29日、厚労省の「後期高齢者医療の在り方に関する特別部会」は新高齢者医療制度の診療報酬構築の土台となる「基本的考え方(案)」をまとめ、(1)複数疾患を持つ高齢者を"総合的に診る医師"の必要性と、(2)頻回受診と検査・投薬の重複是正を打ち出した。

 これはオブラートに包んであるが、昨年12月に国保中央会が提案した「登録医制」を念頭においたものであり、この間の医療界の反対にもかかわらず、基本的な考え方は何も変わっていない。われわれは、フリーアクセスを阻害する、「登録医制」導入の企図を絶対に看過できない。

 

 登録医制とは、患者と医療機関を「1対1」の関係性に縛りつける制度であり、患者の登録数に応じて診療報酬を人頭払い(定額)する制度である。「考え方(案)」の複数疾患を総合的に診るとは、一人の医師が診ることであり、頻回受診・検査等の重複是正とは「1対1」の関係性の強要と、定額制による経済的な逆インセンティブによる担保を意味している。既に宮島厚労省総括審議官は登録医制の診療報酬のイメージとして「登録料」、「コーディネーター料」との自身の着想を1月に公にしている。

 

 ヨーロッパは基本的に登録医制を敷いているが、高い医療費水準と開業医報酬および、患者負担無料を前提とした制度であり、日本の状況とは異なっている。

 代表格はイギリスだが、ほかのヨーロッパ諸国と違い、日本と同様、低医療費政策の下で、総枠予算制の担保としてこの登録医制を運用した。その結果は、100万人の入院待ち、医師の公的保険からの撤退と私的保険への異動、医師の国外転出を招き、全体として医師の士気(モチベーション)が減退、回復不可能とさえ『ランセット』で報じられる事態となっている。

 

 この登録医制は、かつて80年代に「かかりつけ医」構想とし浮上、頓挫。最近では老人医療費の抑制策として01年に財務省から提案され、再燃した。いままた「かかりつけ医」「総合診療医」「主治医」「担当医」など厚労官僚や文部省出向官僚らが様々なネーミングで、いろんな口実をつけ導入しようとしているものは「登録医制」である。

 この提案は外部の国保中央会だが、理事長は元厚労省事務次官の多田宏氏である。しかも直接的に影響のない国保中央会が提案したのには理由がある。各県の国保連合会は県単位の医療保険再編の司令塔、「保険者協議会」の事務局を務めており、将来的に高齢者だけでなく一般患者への適用が想像に難くない。この登録医制にエールを送っている全国社会保険連合会理事長の伊藤雅治氏は元医政局長であり、政管健保の分割・公法人化の受け皿、全国健康保険協会の設立準備委員には現事務次官の辻哲夫氏が参加している。

 

 辻事務次官は昨秋、在宅分野5団体共催のシンポジウムで、今後30年で年間死亡数が100万人から170万人になるとし、在宅死を30年前の5割に近づけたいと講演。24時間対応の在宅療養支援診療所を倍化させ、在宅看取りをできる医師と在宅医療に取り組む医師を増やすと説き、経済誘導によらない方法を取りたいとした。「1対1」の関係性は必然的に在宅医療まで及ぶ。新高齢者医療制度は75歳以上だけでなく65歳以上の寝たきりを対象とした制度である。

 

 療養病床の23万床削減にとどまらず一般病床を42万床へ(つまり48万床削減)との中村秀一審議官(当時)の公言は誰も否定していない。多くは在宅での療養を強いられ開業医は対応に追われる。
国による終末期医療のガイライン策定の動きも見逃せない。かつて93年に医師の横内正利氏が指摘された「みなし末期」という危険性を孕む。

 厚労官僚の発言や動向を点と線で結んでいくと、末恐ろしい感がする。

 02年に健保3割が成立した直後、中村審議官(現社会援護局長)は「負担増のカードはもう切れない」とし、皆保険、現物給付、出来高、フリーアクセス、自由開業医制が医療制度のゆがみを生じさせていると断じ、この日本の医療の特性に手をつけることを宣言した。

 この間の、国保資格証明書義務化、保険外併用療養、株式会社経営診療所の認可、リハビリの給付日数制限は、その実行であり、この登録医制導入も一連の医療費抑制の新機軸である。

 高齢者は、1割、3割負担で受診手控え、治療中断が現場で目立っている。高齢者は複数の疾病を抱え、容態は簡単に急変もする。頻回受診を問題にするが、これは1医療機関単位の数字ではない。白内障は内科では診療できないように、疾病が違えば苦しい経済事情の下、複数の科目に受診をする。懲りずに作為的な情報操作で施策の方向を誘導することはやめにした方がよい。

 高齢者医療については、02年の「改革」の際に大量に配布された、横内氏と石井暎禧氏(中医協委員)、故・滝上宗次郎氏(有料老人ホームグリーン東京社長)による鼎談『正しい高齢者医療改革に向けて』(冊子)に学ぶべきである。

 

 官僚諸氏に問いたい。日本の医療は「いつでも、どこでも、誰でも」を基本とし世界一の健康度を非常に少ない医療費で達成した。そこには医療者の献身と犠牲がある。イギリスは既に方向転換をし、医療費水準は日本を追い抜いている。

 これ以上、医療費を抑制し、健康破壊と医療現場の荒廃を招来させ、どうしようというのだろうか?国の財政の責任をなぜ、医療者と国民がおしつけられなければいけないのか。

 

 われわれは日本の医療文化を破壊する登録医制導入に反対するとともに、憲法25条を遵守するよう厚労省に強く要望する。

2007年4月5日