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政策部長談話 「診療報酬のプラス改定を求める 医療の再生産と質の保障には必須」

診療報酬のプラス改定を求める

医療の再生産と質の保障には必須

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 次期20年度診療報酬改定を巡り早くも政府はマイナス改定の検討に入ったと報道がなされ(毎日新聞9月17日)、観測気球があげられた。前回18年度改定は10月末に財務省より「▲2%半ば以上」と提案され、医療界の総反発の結果、実質▲1.25%(公表▲1.19%+外枠分▲60億円)のマイナス改定で落着している。改定率は中医協の医療経済実態調査を踏まえ、医療機関の健全運営の観点から決定されるのが本来である。われわれは、過去20年のマイナス改定基調を改め、プラス改定に転じることを強く求める。

 

◆自然増1.6%の概算要求の医療費国庫負担と1,200億円圧縮

 厚労省が8月末に財務省に提出した次年度概算要求で、医療保険制度等に関する医療費の国庫負担は11兆8,599億円(前年度11兆6,692億円)で対前年度比1.6%増(1,907億円増)の自然増を見込み、診療報酬改定対応については予算編成過程で別途検討となっている。大枠の社会保障関係費の自然増は5,300億円であり、年末の予算編成に向け、ここから1,200億円超を削減し4,000億円台とする方向での攻防となる。

 仮に1,200億円超を診療報酬改定で吸収すると、改定率▲1.0%超となる。

 過日2018年度の概算医療費の動向が公表され、伸び率0.8%と示されたが、診療報酬改定のマイナス分(▲1.19%)を踏まえると約2%増で、過去数年の伸び率と同程度との見方が厚労省の担当官から示されている(内訳:人口減少▲0.2%、高齢化1.1%、診療報酬改定▲1.19%、医療の高度化等その他1.1%)。

 当年度(19年度)の医療費の国庫負担は対前年度比2%増だが、後期高齢者の増加率が今年度の約1/3に鈍化することを反映し、次年度概算要求の医療費の国庫負担は1.6%増に減少している。これをマイナス改定で下方修正となれば、医療機関経営は厳しいものとなる。

 

◆高水準の倒産件数は、医療経済実態調査を踏まえないマイナス改定の惨禍

 公表された18年度概算医療費で診療科別の診療所1施設当たり医療費は対前年度比で、内科▲0.3%、小児科▲1.6%、外科▲1.2%、整形外科▲0.0%であり、個人病院1施設当たり医療費は▲4.0%である。

 2018年の医療機関の倒産件数は40件と8年ぶりに高水準となり、歯科医院の倒産が23件に上っている。19年上半期の倒産は既に23件を数え過去20年間で4番目の高水準で昨年の40件に達する勢いを見せている(帝国データバンク調査)。

 診療報酬改定の基礎となる中医協の医療経済実態調査は11月に発表となる。前回調査では2016年度に「損益率」が「マイナス」(赤字)となった一般診療所は25.7%、歯科診療所は12.9%であり、その2年前より大きく悪化。また「損益率」が「対前年度増減」で「マイナス」(経営悪化)となった一般診療所が55.3%、歯科診療所が49.5%と半数を占めることが判明。一般病院も「損益率」の「マイナス」(赤字)が58.1%と半数以上を占め、その多くが民間病院であった。当協会は、調査は地域の医療機関の存立が危い、つまり医療提供に支障を招来すると「警告」していると指摘したが、マイナス改定が実施され、それが現実化した感がある。

 概算医療費の施設別階級分布の新たなもの(H29年度)が公表されているが、診療所では平均値が前々年度より下がり、歯科診療所では最頻値が下がっている。医療経済実態調査の結果に好転材料は少なく、近く出される結果を真摯に厚労省、財務省は受けとめるべきだと考える。

 

◆3割の診療所が院内処方 無視できない「薬価差」召し上げ改定

 診療報酬改定は、中医協の医療経済実態調査の結果報告に基づき行われる。改定率は12月中下旬に内閣で決定する。花粉症治療薬などの市販薬(OTC)類似品の保険外し(保険適用除外)の措置を講じる場合は、そのことや影響額も併せて示されることになる。その後、年明けに診療報酬の具体的な項目・点数の設定を中医協で行う段取りとなる。

 診療報酬は本体(技術料等)と薬価で構成され、双方合わせて全体(ネット)の改定率となる。薬価は市場の実勢価格との乖離分が引き下げとなる。この引き下げ分は、経営努力により経営原資となっていることを踏まえ、従来は潜在技術料として本体(技術料等)に振替えられていた。しかし、これが2014年度改定より、財務省の「フィクション」、「時点修正」との無理解な論理で、まるまる召し上げられ、しかも改定率に反映させない、薬価の「枠外」改定の奇手さえ常套手段として用いられてきている。薬価差益は往時に比べ僅少となり、院外処方を加速させたが、患者の利便や経済的負担を考慮して、現在でも院内処方が主(院外処方割合20%未満)の診療所は3割ある(19.9.25中医協資料)。薬価差の召し上げは、無視できない問題なのである。

 

◆医療内容と質の向上に逆行 財政審分科会の「診療報酬▲1%」で「国民負担の軽減」

 診療報酬は1981年以降、改定率は「自然増控除方式」を採り、自然増分を「前提」として改定分を上乗せする方式をとっている。当然、政府の予算化は診療報酬の全体(ネット)改定率でなされており、近年、本体(技術料等)のみを区分した議論や報道が繰り返されているが理がない。診療報酬は、医師・歯科医師・看護師等コメディカルの「技術」・「労働」と「諸経費」を「本体」で、医薬品等の「モノ」を「薬価」で点数表の分離評価をしているが、提供する医療は、「技術」「労働」「諸経費」「モノ」は一体的である。

 財政制度等審議会・財政制度分科会(19.4.23)では「診療報酬▲1%適正化した場合」に「約4,600億円の医療費を抑制」でき、「国民負担の軽減」と「医療機関の収入減」になるとの資料が出されている。しかし、そのことは「医療内容や質の低下」や「医療従事者の過重労働」、「医療機関の経営難」を来たし、「地域からの医療機関の消失」、「医療崩壊」を招く。これへの理解や想像が欠けている。あまりにも短絡的で乱暴すぎる。

 1998年度のマイナス改定以降、診療報酬のネット改定率の凋落は明白であり、プラス改定への転換は、医療の再生産を保障する上で必須であり道理である。われわれは、診療報酬のプラス改定を強く求める。

2019年10月1日

 

参考:1997年度を100としたときの診療報酬改定率・物価・公務員給与動向の推移

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