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2019/5/17 政策部長談話 「標準的な治療を逸脱した自由診療の浸透・波及を警鐘する」

標準的な治療を逸脱した自由診療の浸透・波及を警鐘する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


◆自由診療への懸念

 いまオンライン診療のシステム導入医療機関数と保険算定医療機関数に大きなギャップがあり、自由診療が広がっていると推測される。また保険診療病床を自由診療病床(日本人、外国人の)として運用している例もある。更には、自由診療でのインチキがん治療や美容医療での被害も看過できない状況になっている。保険診療は確立された「標準治療」であり、医師の多くが合意した最善の治療である。エビデンスが未確立、不存在となっている自由診療とは大きく違う。われわれは皆保険制度を守り、維持、発展させる上で、最近の自由診療の浸透・波及を強く懸念し、関係方面に警鐘する。

◆オンライン診療の不思議と混合診療

 保険診療でのオンライン診療料は、施設基準を届出した医療機関が全国で1,187施設(19年3月現在)あるが、そのシステム導入は、大手3社で約3,800施設となっており、乖離が2,600施設もある。<CLINICS(メドレー)約1,200施設、curon(MICIN)約1,000施設、YaDoc(インテグリティ・ヘルスケア)1,600施設>。  

 当協会は「curon」を運営するMICINに①施設数への疑問と、②同社HPでの検索で導入施設が280施設しかないこと、を照会したころ、①数は確かだが約半分は自費診療で運営、②導入を非公表とした医療機関が結構あるとした。つまりオンライン診療の自費診療施設が千単位で存在することになる。

 オンライン診療は日常診療を対象としているが、自費診療施設は保険診療の制約・制限を嫌い実施していることが分かっている(当協会調査)。ただ、急変時対応で保険診療対応をとれば、安定症状期と急変時で保険と自費のモザイク診療―混合診療となり療養担当規則に抵触することになる。疾病が異なっていようが、「療養の給付」原則から外れることとなる。この点の実態は問題視されていない。

◆保険病床の自費病床運用の疑念

 また医療目的の渡航外国人患者等の入院治療での保険病床の自費病床運用とは別に、買収した療養病床の一部を美容整形の入院病床(自費病床)として運用している例が聞かれる。これに類することは、よく考えればどこでも起こりうるし、ありうる話となっている。

 自由診療の美容整形に関しては、大手医療機関によるテレビCMが頻繁になっているが、医療被害が顕著ともなっている。4月25日には医政局が、非吸収性充填剤を豊胸術に使用すべきではないとする美容医療関連学会等の4団体声明を紹介する形で、異例の注意喚起の通知を出すまでになっている。

◆皆保険を守るため自由診療への抑制的対応を

 「審美」医療とは別に「疾病治療」目的の自由診療も巷にあるが、とりわけがん治療においてエビデンスのない「免疫療法」が数百万単位の高額ではびこっている。保険適用でエビデンスのある抗体治療の免疫チェックポイント阻害薬との一般での混同も手伝ってか後を絶たない。これらは、安全性・有効性など医学的検証のプロセスに乗っている臨床研究(試験)や、それらと保険診療とを接合した「先進医療」(保険外併用療養)と違い、エビデンスは確立されていない。

 医療経営の厳しさを背景に、「制度的」にも「医療内容」でも問題がある自由診療へ、医療機関が傾倒、進出していくことは、皆保険制度の点でも医療倫理の面でも禍根を残す。

 医学的な安全性・有効性などが確立され導入されてきた保険診療は、「標準治療」であり多くの医師が合意した「最善治療」である。また皆保険制度は、医療の最適保障を公平・公正に行う制度的枠組みとして歴史的に構築してきたものである。この形骸化は医療格差を激しくする。

 われわれは、皆保険制度の綻びに連動する動きを警鐘するとともに関係方面の自浄作用を強く望む。

2019年5月17日

標準的な治療を逸脱した自由診療の浸透・波及を警鐘する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


◆自由診療への懸念

 いまオンライン診療のシステム導入医療機関数と保険算定医療機関数に大きなギャップがあり、自由診療が広がっていると推測される。また保険診療病床を自由診療病床(日本人、外国人の)として運用している例もある。更には、自由診療でのインチキがん治療や美容医療での被害も看過できない状況になっている。保険診療は確立された「標準治療」であり、医師の多くが合意した最善の治療である。エビデンスが未確立、不存在となっている自由診療とは大きく違う。われわれは皆保険制度を守り、維持、発展させる上で、最近の自由診療の浸透・波及を強く懸念し、関係方面に警鐘する。

◆オンライン診療の不思議と混合診療

 保険診療でのオンライン診療料は、施設基準を届出した医療機関が全国で1,187施設(19年3月現在)あるが、そのシステム導入は、大手3社で約3,800施設となっており、乖離が2,600施設もある。<CLINICS(メドレー)約1,200施設、curon(MICIN)約1,000施設、YaDoc(インテグリティ・ヘルスケア)1,600施設>。  

 当協会は「curon」を運営するMICINに①施設数への疑問と、②同社HPでの検索で導入施設が280施設しかないこと、を照会したころ、①数は確かだが約半分は自費診療で運営、②導入を非公表とした医療機関が結構あるとした。つまりオンライン診療の自費診療施設が千単位で存在することになる。

 オンライン診療は日常診療を対象としているが、自費診療施設は保険診療の制約・制限を嫌い実施していることが分かっている(当協会調査)。ただ、急変時対応で保険診療対応をとれば、安定症状期と急変時で保険と自費のモザイク診療―混合診療となり療養担当規則に抵触することになる。疾病が異なっていようが、「療養の給付」原則から外れることとなる。この点の実態は問題視されていない。

◆保険病床の自費病床運用の疑念

 また医療目的の渡航外国人患者等の入院治療での保険病床の自費病床運用とは別に、買収した療養病床の一部を美容整形の入院病床(自費病床)として運用している例が聞かれる。これに類することは、よく考えればどこでも起こりうるし、ありうる話となっている。

 自由診療の美容整形に関しては、大手医療機関によるテレビCMが頻繁になっているが、医療被害が顕著ともなっている。4月25日には医政局が、非吸収性充填剤を豊胸術に使用すべきではないとする美容医療関連学会等の4団体声明を紹介する形で、異例の注意喚起の通知を出すまでになっている。

◆皆保険を守るため自由診療への抑制的対応を

 「審美」医療とは別に「疾病治療」目的の自由診療も巷にあるが、とりわけがん治療においてエビデンスのない「免疫療法」が数百万単位の高額ではびこっている。保険適用でエビデンスのある抗体治療の免疫チェックポイント阻害薬との一般での混同も手伝ってか後を絶たない。これらは、安全性・有効性など医学的検証のプロセスに乗っている臨床研究(試験)や、それらと保険診療とを接合した「先進医療」(保険外併用療養)と違い、エビデンスは確立されていない。

 医療経営の厳しさを背景に、「制度的」にも「医療内容」でも問題がある自由診療へ、医療機関が傾倒、進出していくことは、皆保険制度の点でも医療倫理の面でも禍根を残す。

 医学的な安全性・有効性などが確立され導入されてきた保険診療は、「標準治療」であり多くの医師が合意した「最善治療」である。また皆保険制度は、医療の最適保障を公平・公正に行う制度的枠組みとして歴史的に構築してきたものである。この形骸化は医療格差を激しくする。

 われわれは、皆保険制度の綻びに連動する動きを警鐘するとともに関係方面の自浄作用を強く望む。

2019年5月17日