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2019/5/15 政策部長談話 「医学的検証を欠いたオンライン診療『指針』の緩和に反対する」

医学的検証を欠いたオンライン診療「指針」の緩和に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


◆緩和ありきの検討会議論の不思議

 オンライン診療指針(ガイドライン)の緩和に向け、5月中に検討会「報告書」がまとめられる。医学的な検証やエビデンスもなく、緩和方向で議論が重ねられていくことに非常に違和感を覚えており、指針の緩和に反対するとともに、拙速な対応をしないよう強く求める。

◆実施届出は全国の医療機関の1% うち実用実績なしは6割 

 昨年4月にオンライン診療料などが保険点数化されたが、その施設基準を届出した医療機関は全国で1%にすぎず(1,187施設:2019年3月時点)、1年前と大きな変動はない。この実態を把握すべくこの全数を対象に当協会で調査を行なったところ(回答285施設、回答率27.0%)、その6割で実用実績がなく、実績のある医療機関の多くが月間の患者数が1名~2名と判明している。患者要望がない、安定症状の高齢患者はスマホを利用できないなどが理由として挙げられている。(「オンライン診療、届出機関の6割は『実用実績なし』」 オンライン診療に関する実態調査の結果について〈2019.4.12発表〉)。

 当協会調査は、「オンライン診療課題山積/都市部集中メリット薄く」(毎日新聞2019.5.1)、「全国153施設で患者ゼロ/1カ月当たりオンライン診療調査」(神奈川新聞2019.4.13)、「オンライン診療保険利用進まず/制度開始1年で調査」(日本経済新聞2019.4.13)などと報道もされている。

 この状況下で、オンライン診療の指針の緩和を急ぐ理由はないと思われる。中医協も診療報酬の改定結果検証部会による調査を行ない結果が出ているが、話題にすら上っていない。

◆不思議な前のめりの議論 医師によるオンライン介在緩和で診療との境界域は不明瞭に

 議論を重ねている「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」では、①初診対面の例外(禁煙)の拡大、②同一医師規定の例外(在宅診療)の拡大、③看護師における診療支援などが課題とされた。①に関し男性型脱毛症(AGA)など4疾病は不適切とされたものの緊急避妊薬は厳格運用で認める方向となり、②は「主に健康な人」の自由診療を例外の対象とした。

 また、併せてオンライン診療に該当しない、「オンライン受診勧奨」を最低限の医学的判断を伴う受診勧奨から、罹患可能性のある疾患名の列挙や、一般用医薬品等を用いた自宅療養を含む経過観察や非受診の勧奨も可能と緩和。「指針」が適用されない「遠隔医療相談」も一般的な医療情報の提供に止まっていたものを、患者個人に応じた「医学的助言」へと変更する方針となっている。

 この検討会と併走する形で、中医協ではオンライン診療料の算定要件の緩和や対象疾病の拡大が、支払い側より、生活習慣病管理や職業両立支援を理由に訴えられている。規制改革推進会議や自民党のデータヘルス推進特命委員会なども同じ基調にあり規制緩和に前のめりである。この4月の経団連の社会保障提言の医療分野の重点もオンライン診療の緩和である。

◆適用疾患拡大は疑問 既に50疾病以上と広範囲に対象 医師法20条のなし崩し解釈も問題

 中医協では日医が「利便性」のみに着目した議論は慎重にと釘を刺し、対面診療との同等性を示す学会ベースのエビデンスを求めている。医学的妥当性の論議であり、この指摘は至極当然である。

 適用疾病だが、既に高血圧、高脂血症、糖尿病、喘息、胃潰瘍、不整脈、心不全、結核など、現状でも幅広く50疾病を超えている。「対面診療の補完」をなし崩し解釈をし、従来の遠隔地での例外利用を「日常利用」へ変転させている時点で、医師法20条に抵触すらしている。

 それ以前に、診断学の否定になりかねない状況に、医学的検証は一切されず、医学的エビデンスの提示、蓄積もないままの「指針」の緩和は本末転倒である。不適切事例の頻発に医政局医事課は適正化通知を発出したが、医師が介在する「オンライン受診勧奨」や「遠隔医療相談」の緩和により、より融解が懸念される。保険診療の不自由さを嫌い、自由診療によるオンライン診療の実施医療機関の増加も見られるが、「指針」順守が危うく、皆保険制度の綻びとなる懸念も強い。

 われわれは、医学的検証を欠き、診断学を否定し医師法20条を形骸化していくオンライン診療の指針緩和、適用拡大の動きに改めて強く反対する。

2019年5月15日

医学的検証を欠いたオンライン診療「指針」の緩和に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


◆緩和ありきの検討会議論の不思議

 オンライン診療指針(ガイドライン)の緩和に向け、5月中に検討会「報告書」がまとめられる。医学的な検証やエビデンスもなく、緩和方向で議論が重ねられていくことに非常に違和感を覚えており、指針の緩和に反対するとともに、拙速な対応をしないよう強く求める。

◆実施届出は全国の医療機関の1% うち実用実績なしは6割 

 昨年4月にオンライン診療料などが保険点数化されたが、その施設基準を届出した医療機関は全国で1%にすぎず(1,187施設:2019年3月時点)、1年前と大きな変動はない。この実態を把握すべくこの全数を対象に当協会で調査を行なったところ(回答285施設、回答率27.0%)、その6割で実用実績がなく、実績のある医療機関の多くが月間の患者数が1名~2名と判明している。患者要望がない、安定症状の高齢患者はスマホを利用できないなどが理由として挙げられている。(「オンライン診療、届出機関の6割は『実用実績なし』」 オンライン診療に関する実態調査の結果について〈2019.4.12発表〉)。

 当協会調査は、「オンライン診療課題山積/都市部集中メリット薄く」(毎日新聞2019.5.1)、「全国153施設で患者ゼロ/1カ月当たりオンライン診療調査」(神奈川新聞2019.4.13)、「オンライン診療保険利用進まず/制度開始1年で調査」(日本経済新聞2019.4.13)などと報道もされている。

 この状況下で、オンライン診療の指針の緩和を急ぐ理由はないと思われる。中医協も診療報酬の改定結果検証部会による調査を行ない結果が出ているが、話題にすら上っていない。

◆不思議な前のめりの議論 医師によるオンライン介在緩和で診療との境界域は不明瞭に

 議論を重ねている「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」では、①初診対面の例外(禁煙)の拡大、②同一医師規定の例外(在宅診療)の拡大、③看護師における診療支援などが課題とされた。①に関し男性型脱毛症(AGA)など4疾病は不適切とされたものの緊急避妊薬は厳格運用で認める方向となり、②は「主に健康な人」の自由診療を例外の対象とした。

 また、併せてオンライン診療に該当しない、「オンライン受診勧奨」を最低限の医学的判断を伴う受診勧奨から、罹患可能性のある疾患名の列挙や、一般用医薬品等を用いた自宅療養を含む経過観察や非受診の勧奨も可能と緩和。「指針」が適用されない「遠隔医療相談」も一般的な医療情報の提供に止まっていたものを、患者個人に応じた「医学的助言」へと変更する方針となっている。

 この検討会と併走する形で、中医協ではオンライン診療料の算定要件の緩和や対象疾病の拡大が、支払い側より、生活習慣病管理や職業両立支援を理由に訴えられている。規制改革推進会議や自民党のデータヘルス推進特命委員会なども同じ基調にあり規制緩和に前のめりである。この4月の経団連の社会保障提言の医療分野の重点もオンライン診療の緩和である。

◆適用疾患拡大は疑問 既に50疾病以上と広範囲に対象 医師法20条のなし崩し解釈も問題

 中医協では日医が「利便性」のみに着目した議論は慎重にと釘を刺し、対面診療との同等性を示す学会ベースのエビデンスを求めている。医学的妥当性の論議であり、この指摘は至極当然である。

 適用疾病だが、既に高血圧、高脂血症、糖尿病、喘息、胃潰瘍、不整脈、心不全、結核など、現状でも幅広く50疾病を超えている。「対面診療の補完」をなし崩し解釈をし、従来の遠隔地での例外利用を「日常利用」へ変転させている時点で、医師法20条に抵触すらしている。

 それ以前に、診断学の否定になりかねない状況に、医学的検証は一切されず、医学的エビデンスの提示、蓄積もないままの「指針」の緩和は本末転倒である。不適切事例の頻発に医政局医事課は適正化通知を発出したが、医師が介在する「オンライン受診勧奨」や「遠隔医療相談」の緩和により、より融解が懸念される。保険診療の不自由さを嫌い、自由診療によるオンライン診療の実施医療機関の増加も見られるが、「指針」順守が危うく、皆保険制度の綻びとなる懸念も強い。

 われわれは、医学的検証を欠き、診断学を否定し医師法20条を形骸化していくオンライン診療の指針緩和、適用拡大の動きに改めて強く反対する。

2019年5月15日