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政策部長談話 「がん検診の企業連携と国保業務の民間委託が交錯する先 皆保険制度の民営化の危険を憂う」

がん検診の企業連携と国保業務の民間委託が交錯する先

皆保険制度の民営化の危険を憂う

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 いま、アフラックなどが全都道府県でがん検診受診の啓発で行政と事業連携をとっており、また厚労省の委託事業「がん対策推進企業アクション」には千社を超える企業等が参加している。この先に、市町村国保の都道府県への統合、その財政運営の生保・損保会社による受託があると考えているが、おりしも東京・足立区で国保業務の民間委託が報じられた(日経2014.2.28)。これは非常に象徴的、示唆的である。この二つの動きが交錯する先には、皆保険制度運営の民営化や二階建て保険による融解が容易に想起される。この事態の進行を憂うとともに、強く異を唱えるものである。

 

 ことの発端は川崎市との対市交渉の席上、アフラックとがん検診受診率向上で市が連携協定を締結したことが発覚。調べると同社は神奈川県はおろか、08年の福井県から始まり10年の沖縄県まで全都道府県と締結を終え、政令市など全国99自治体で提携していると判明した。提携はがん検診の受診率向上のため、販売代理店での広報・受診勧奨、自治体イベントへのノベルティーの提供など啓蒙活動が中心である。が、催事来場者へがん治療費や保険の備えに関し意識調査をとるなど周到である。

 無論、保険商品の販売への寄与、行政のお墨付き、推奨との錯覚など、利益相反、利益誘導の疑義があり、川崎市が右倣いとした神奈川県は当会のこの照会に「問題ない」と強弁。逆に複数社契約により、それにあたらないと詭弁を弄し挙げた東京海上日動火災も、全都道府県と事業提携していることが判明した。宮城、埼玉、兵庫県などは提携企業は数十社にのぼり、知事表彰もし活発である。

 しかも、厚生労働省はがん検診の受診率向上へ「企業との連携」を推進しており、09年より年間9千万円の「がん検診企業アクション」を予算事業化し民間に委託。これは受診率向上の機運の醸成が主眼。この事業と連携をとる「がんに関する普及啓発懇談会」が同時期、省内に設置され、アフラックのがん保険推進課長や電通出身の日本広告業協会専務理事が委員に就いている。この企業アクションは当初の賛同はアフラック、第一生命など16社で事務局は、これを企画提案した電通が担い、現在は賛同企業・団体は1,236社に膨れ上がり、事務局は監査法人トーマツが務めている。

 国はがん検診受診率50%を目標にしており、われわれも受診率向上に異論はない。ただ、がん検診は市町村とは違い、企業には実施の努力義務は法的にはない。実施している企業はあるものの、国から補助金はなく、よって受診率向上に限度、限界がある。この企業連携により受診率が顕著に向上したという実証分析的な報告はない。受診率向上への職域での実施を補助金と法で担保するのが本来だ。

 

 われわれはこの企業連携は、その先があると考えている。市町村国保は2017年度迄に都道府県単位に再編・統合され「県国保」が誕生し、県が財政運営を担うこととなっている。この件に関し、2002年に当時の厚労相私案として、医療保険を全て県単位に再編し、生保・損保会社を母体とする法人に運営を民間委託することが報じられている。都道府県には医療保険の運営ノウハウがなく、現実味を帯びており、06年からは公共サービス改革法、「市場化テスト」の下、コスト削減の民間委託が跋扈しているだけになおさらである。生保・損保会社と行政の提携による「実績作り」は、この受け皿、委託先の環境整備となる。TPPとの連動で、アフラックと日本郵政の業務提携が実現したが、この春よりアフラックのがん保険の販売郵便局が倍加3,000局となり、国民的な親和性は強くなっていく。

 

 これに重なる形で、東京・足立区で国保業務の民間委託が全国の先駆けとして2015年度から始まる。先に触れた国保の県への統合は、保険料の収納業務、保険証の交付業務は市町村のまま、財政運営が県となる。足立区は業務の繫閑期に応じた人員シフトによる行政コストの削減を理由にしており、全国に波及する可能性が高い。すでに窓口業務を民間委託している自治体も数少なくなく、厚労省も民間委託可能な範囲を07年に通知を発出している。

 

 足立区は過日、応募6社からNTTデータを選定。国保の保険料滞納世帯など複雑事例は職員が対応するとしているが、国保課長と各係長を残すのみで9割を民間委託としており、一律的・機械的な資格証明書発行などが非常に懸念される。先行実施で富士ゼロックスの子会社へ委託した戸籍・住民票・印鑑登録などの業務では区民からサービス低下、硬直的対応が指摘されている。この「専門定型業務の外部化」は介護保険業務でも行っており、人材派遣のテンプスタッフが落札となっている。

 

 民間への国保業務委託が一般化すれば、国保の財政運営の民間委託も社会的抵抗感が弱まりハードルは低くなっていく。この動きは非常に象徴的で、国保の今後を見る上で示唆的である。

 

 県国保の財政運営の民間委託は、生保・損保企業によるレセプト情報を基にした商品開発・販売、企業の自社商品の加入排除や制限、支払拒否への利用が射程にあがる。

 しかも「キャッシュレス」をうたい文句に準備中の、保険金の「直接支払いサービス」が一般化すると事態は大きく変わってくる。これは、保険金を契約者(患者)ではなく医療機関に支払う「代理受領」であり、「骨組み」はいまの健康保険と類似(公的医療保険の療養費の現物給付化)のシステムとなる。先進医療特約「商品」の保険金支払いで運用されているが、通常診療の患者負担の補填に適用されると擬似的に「窓口負担ゼロ」となる。

 このサービスは医療機関が契約者(患者)に代わって保険会社に請求するため、「医療機関と保険会社」の「紐帯」が強くなっていく。医科、歯科ともに自費・保険外への依存傾向を見せ、訪問診療ビジネスなどモラル崩壊の綻びが顕わとなり、実質▲1.26%診療報酬改定となったいま、危険である。

 県国保の保険会社による民間委託、患者負担の保険会社による補填は、いずれ公的医療保険と民間医療保険との境界域を曖昧なものとさせ、二階建て保険の商品化など、皆保険を浸蝕、瓦解させていく。県国保の先には、大企業健保と公務員共済を除く全ての公的医療保険の県単位統合が待っている。

 

 翻って、がん検診の企業連携だが、がん対策基本法による「がん対策推進基本計画」に、がん検診50%目標の達成へ、民間の叡智を活用するため「企業連携」の文言が盛り込まれたことが根拠とされている。この50%目標に関し、昨年、国の「がん検診の在り方に関する検討会」はアジアで達成している韓国視察を行い、韓国の医療保険制度と対比した資料をもとに審議している。韓国は、患者6割負担で給付範囲が狭く、混合診療解禁であり、検診受診が患者負担等の割り引き要件となっている。

 韓国の医療制度にならうのか、との当会の照会に対し健康局はさすがにストレートな導入はない、と応じたが、受診率向上を至上とした本末転倒、虫食いの皆保険とし、がん保険販売、補填用の保険商品開発など市場形成を図る「倒錯」は要警戒である。

 

 今次診療報酬改定で導入の、主治医制(「地域包括診療加算」)の要件に、療養の給付(健保法)の範囲外の健康相談と「検診受診の勧奨」が併せて要件づけられたことは、意味深長なのである。

 TPP交渉での米国研究製薬工業協会にみるように、医療の市場化勢力は、皆保険を生かさず殺さず「半官半民」保険の路線を念頭に置いている。

 1998年の構造改革から2012年までに国民の平均年収は60万円下落、非正規労働者が全体の3割から4割に増加し、患者負担は2割から3割へと拡大。経済的理由による受診抑制は250万人に及ぶ。厚労省「医療費の動向」でも医療機関の保険収益激減の主因は、延日数減、窓口負担の過重化による受診抑制であることが明白である。

 

 われわれは、「皆保険の危機」の濁流へ抗し、皆保険の本旨、現物給付原則に立ち戻った、「患者窓口負担ゼロ」の実現と、医療の「商品」化を砕く、医療界の叡智の結集を広く呼びかけるものである。

2014年3月5日