保険医の生活と権利を守り、国民医療の
向上をめざす

神奈川県保険医協会とは

開業医を中心とする保険医の生活と権利を守り、
国民の健康と医療の向上を目指す

TOP > 神奈川県保険医協会とは > 私たちの考え > 2014/2/3 政策部長談話「『地域包括診療加算』による"登録医"制度の陥穽を衝く 診療所機能の多様性の否定は方向転換を」

2014/2/3 政策部長談話「『地域包括診療加算』による"登録医"制度の陥穽を衝く 診療所機能の多様性の否定は方向転換を」

「地域包括診療加算」による"登録医"制度の陥穽を衝く

診療所機能の多様性の否定は方向転換を

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 1月29日、中医協は今次診療報酬改定の個別改定項目を議論。焦点の診療所の「主治医機能の強化」に関し、「地域包括診療加算」の導入を提示した。これは複数疾患への対応と健康管理、投薬やほかの医療機関受診の一元的把握・管理を担う、「主治医」、ホームドクターを念頭に置いている。しかし、他の医療機関でのこの加算のバッティング算定の排除など、事実上の「登録医」制度となっており、患者の治療の不自由や、医療機関相互の混乱を引き起こすことが容易に予見される。しかも地域包括ケアの拠点となるこの登録医制導入は、主治医・副主治医制の構築や、在宅に関与がない診療所への評価の軽視など問題を孕み、医療界や国民への周知やコンセンサス、十分な議論もないまま進められようとしている。われわれは改めてのこの策動の危険性や潜む問題について衝き、警鐘をする。

 中医協の改定議論は、国策の「地域包括ケアシステム」構築に向け旗幟鮮明にした。個別改定項目に「地域包括ケア病棟入院料」や「地域包括診療料」「地域包括診療加算」と、初めて"地域包括(ケア)"を冠した点数項目を盛り込むこととした。

 外来の焦点、「主治医機能の強化」を具体的な形にしたものが、「地域包括診療料」と「地域包括診療加算」である。「主治医へ定額報酬導入」と報道されたものは前者であり、これは24時間の在宅医療を展開する在宅療養支援診療所(「在支診」)向けのハードルの高い点数であり、原則的に在宅医療を除く総包括である。ポイントはそれ以外の一般の診療所が対象となる「地域包括診療加算」である。

 これは、出来高払いを維持したままの再診料への「加算」点数であり、急性増悪への対応が難しい包括定額点数と違いハードルが低く、値付けされる「点数水準」にもよるが"食指"が動きやすい。

 この算定要件は、(1)高血圧症、糖尿病、脂質異常症、認知症の4疾病のうち「複数を診る」、(2)関係団体主催の研修を修了した「担当医」の専任、(3)患者同意の下、計画的な医学管理、指導・診療、(4)連携により患者の他の受診医療機関の全ての把握と処方医薬品の全ての管理、(5)自院検査と院内処方、(6)健康管理・健康相談、(7)要介護認定の主治医意見書の作成と介護サービス提供などの介護保険への関与等―となっており、いずれも、一般・高齢者を問わず全ての患者が対象である。

 この点数は複数の慢性疾患をもつ患者に継続的かつ全人的な医療提供を評価するものとしており、算定要件からも、コンセプトは08年の後期高齢者診療料とほとんど同じである。今回は過去の"教訓"を踏まえ、(1)対象を全国民とし、(2)点数を在宅医療の力持ちと一般の診療所との二本立てにし、(3)前者を独立点数で費用の嵩む在宅医療を除外、後者を「加算」とし定額報酬への忌避感、抵抗感を和らげ、(4)7剤投与規制の解除など、モデルチェンジをしてきている。

 かつて原徳壽医療課長(08年当時)は「患者さんを全人的に診る、かかりつけ医機能を担ってほしい」(m3.com「医療維新」08.2.29)」と、頓挫した後期高齢者診療料に期待を込めていた。

 「地域包括診療加算」は「複数」疾患を診る診療所が算定し、患者が受診する医療機関を把握し、医薬品の一元管理をすることで成立する。つまり、他の医療機関への照会、調整、連携が必須であり、患者の医学管理の「主務」となる。これと重複または部分重複をする慢性疾患を診る医療機関はこの加算は算定できない。対象の4疾病以外の領域をみる眼科や整形外科の医療機関は、この加算の埒外となる。

 必然的に、この整理のため、生活習慣病管理料など医学管理料の算定を1医療機関に限定する「主病ルール」の本格的な稼働、保険審査の査定・減点が想定される。疾病に応じた専門医療機関での医学管理・治療が破綻する。すでに一部の県では、このルールの徹底で動き始めている。つまり、総合すれば、患者と医療機関を1対1の関係に縛る「登録医」制の導入である。

 しかも、この「地域包括診療加算」は、24時間自院対応の「時間外対応加算1」または夜間対応の同「加算2」を算定する診療所が対象で、各々9,197、1万5,555と対象数は絞られている。地域包括ケアシステムは人口1万人に1つ(中学校区単位)とされており、全国で1万か所程度となる。つまり拠点となる登録医は、24時間か夜間に何らかの対応(往診、電話指示、他院受診調整)をする診療所を中心に選抜され、24時間対応の在宅医療を行う医療機関群(359施設)との2頭立てになる。

 原勝則老健局長は地域支援事業の医療・介護連携事業に絡み、主治医・副主治医制について最近、触れているが、24時間体制を軸に地域包括ケアは、上記の医療機関相互による主治医・副主治医制を敷いたグループ化となっていく。既に大病院の多くは連携のため「医療機関」の登録制を敷いている。

 患者が「かかりつけ医」を自ら持つことは好ましく、当会は古くから推奨をしてきた(「かかりつけ医を持ちましょう」キャンペーン1986年)。しかしこれを経済誘導で、しかも各医療機関の連携に「楔」を打ち、医療機関相互の齟齬や不信を生じさせる点数誘導は、現場を混乱させることになる。

 また、この登録医制、地域包括システムに乗れない医療機関は、診療報酬での評価は軽視され、冷遇されていくことになる。在宅医療に関与がない診療所、とりわけビル診療所は置き去りにされる。「外来」診療への専念も診療所機能の多様性の一つであり、診療所の第一義的役割である。この重視を抜きには、在宅医療や、二次、三次、高度医療もままならない。ビル診療所は80年代の地価高騰を背景に「職住一体」が困難となり、低医療費政策が重なったが故の結果でもある。

 今後、民間保険は「キャッシュレス」を謳い文句に、保険金を医療機関に直接支払う医療保険商品の販売を展開していく方向にある。医療経済実態調査での保険外、自費収入への依存傾向や、問題視された訪問診療ビジネスにみるモラルの決壊にみるよう、公的保険で置き去りにされる医療機関と民間保険との結合、結託の危険性は高くなる。うがい薬の保険外しも、公的保険外サービスの産業育成・活性化を狙う産業界の地域包括ケア周縁の100兆円市場の"皮算用"、そのための医療と生活産業のグレーゾーンの整理・解消の先鞭となる。

 既に、保険外併用療養(混合診療)の先進医療は全国553の大学病院、基幹病院で実施され、この保険外の費用をカバーする商品、「先進医療特約」保険を保険会社が販売し、医学界の重鎮が広告塔を担っている。いま更に、この範囲の拡大に向け、商業性がなく治験実施に見込みのない先進医療、費用が膨大な先進医療など、患者の同意を前提とした保険外併用療養(混合診療)の恒常化、「第三のカテゴリー」創出が規制改革会議等から要望され6月には結論となる。

 当然ながら、地域包括ケアや保険会社との結託のこれらに与しない、与することができない医療機関も、多々存在することになる。

 「施設から地域へ、医療から介護へ」は医療・介護改革を貫くキーワードだ。歯科では今回、義歯調整が「歯科口腔リハビリテーション料」と「名称変更」がされる。かつて水野智彦前衆院議員が雑誌(『社会保険旬報』2011.8.1)で提言し問題となった、歯科の総義歯関連はリハビリゆえに医療から介護保険への移行へ、が透けている。介護保険は、医療での混合診療にあたる混合介護が認められた仕組みである。

 これら重層的な地域医療の変貌の企図が、仕掛けられている感が強い。覆水盆に返らず。高齢社会への対応に向けて医療体制作りの丁寧な政策手法を強く要望する。

2014年2月3日

「地域包括診療加算」による"登録医"制度の陥穽を衝く

診療所機能の多様性の否定は方向転換を

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 1月29日、中医協は今次診療報酬改定の個別改定項目を議論。焦点の診療所の「主治医機能の強化」に関し、「地域包括診療加算」の導入を提示した。これは複数疾患への対応と健康管理、投薬やほかの医療機関受診の一元的把握・管理を担う、「主治医」、ホームドクターを念頭に置いている。しかし、他の医療機関でのこの加算のバッティング算定の排除など、事実上の「登録医」制度となっており、患者の治療の不自由や、医療機関相互の混乱を引き起こすことが容易に予見される。しかも地域包括ケアの拠点となるこの登録医制導入は、主治医・副主治医制の構築や、在宅に関与がない診療所への評価の軽視など問題を孕み、医療界や国民への周知やコンセンサス、十分な議論もないまま進められようとしている。われわれは改めてのこの策動の危険性や潜む問題について衝き、警鐘をする。

 中医協の改定議論は、国策の「地域包括ケアシステム」構築に向け旗幟鮮明にした。個別改定項目に「地域包括ケア病棟入院料」や「地域包括診療料」「地域包括診療加算」と、初めて"地域包括(ケア)"を冠した点数項目を盛り込むこととした。

 外来の焦点、「主治医機能の強化」を具体的な形にしたものが、「地域包括診療料」と「地域包括診療加算」である。「主治医へ定額報酬導入」と報道されたものは前者であり、これは24時間の在宅医療を展開する在宅療養支援診療所(「在支診」)向けのハードルの高い点数であり、原則的に在宅医療を除く総包括である。ポイントはそれ以外の一般の診療所が対象となる「地域包括診療加算」である。

 これは、出来高払いを維持したままの再診料への「加算」点数であり、急性増悪への対応が難しい包括定額点数と違いハードルが低く、値付けされる「点数水準」にもよるが"食指"が動きやすい。

 この算定要件は、(1)高血圧症、糖尿病、脂質異常症、認知症の4疾病のうち「複数を診る」、(2)関係団体主催の研修を修了した「担当医」の専任、(3)患者同意の下、計画的な医学管理、指導・診療、(4)連携により患者の他の受診医療機関の全ての把握と処方医薬品の全ての管理、(5)自院検査と院内処方、(6)健康管理・健康相談、(7)要介護認定の主治医意見書の作成と介護サービス提供などの介護保険への関与等―となっており、いずれも、一般・高齢者を問わず全ての患者が対象である。

 この点数は複数の慢性疾患をもつ患者に継続的かつ全人的な医療提供を評価するものとしており、算定要件からも、コンセプトは08年の後期高齢者診療料とほとんど同じである。今回は過去の"教訓"を踏まえ、(1)対象を全国民とし、(2)点数を在宅医療の力持ちと一般の診療所との二本立てにし、(3)前者を独立点数で費用の嵩む在宅医療を除外、後者を「加算」とし定額報酬への忌避感、抵抗感を和らげ、(4)7剤投与規制の解除など、モデルチェンジをしてきている。

 かつて原徳壽医療課長(08年当時)は「患者さんを全人的に診る、かかりつけ医機能を担ってほしい」(m3.com「医療維新」08.2.29)」と、頓挫した後期高齢者診療料に期待を込めていた。

 「地域包括診療加算」は「複数」疾患を診る診療所が算定し、患者が受診する医療機関を把握し、医薬品の一元管理をすることで成立する。つまり、他の医療機関への照会、調整、連携が必須であり、患者の医学管理の「主務」となる。これと重複または部分重複をする慢性疾患を診る医療機関はこの加算は算定できない。対象の4疾病以外の領域をみる眼科や整形外科の医療機関は、この加算の埒外となる。

 必然的に、この整理のため、生活習慣病管理料など医学管理料の算定を1医療機関に限定する「主病ルール」の本格的な稼働、保険審査の査定・減点が想定される。疾病に応じた専門医療機関での医学管理・治療が破綻する。すでに一部の県では、このルールの徹底で動き始めている。つまり、総合すれば、患者と医療機関を1対1の関係に縛る「登録医」制の導入である。

 しかも、この「地域包括診療加算」は、24時間自院対応の「時間外対応加算1」または夜間対応の同「加算2」を算定する診療所が対象で、各々9,197、1万5,555と対象数は絞られている。地域包括ケアシステムは人口1万人に1つ(中学校区単位)とされており、全国で1万か所程度となる。つまり拠点となる登録医は、24時間か夜間に何らかの対応(往診、電話指示、他院受診調整)をする診療所を中心に選抜され、24時間対応の在宅医療を行う医療機関群(359施設)との2頭立てになる。

 原勝則老健局長は地域支援事業の医療・介護連携事業に絡み、主治医・副主治医制について最近、触れているが、24時間体制を軸に地域包括ケアは、上記の医療機関相互による主治医・副主治医制を敷いたグループ化となっていく。既に大病院の多くは連携のため「医療機関」の登録制を敷いている。

 患者が「かかりつけ医」を自ら持つことは好ましく、当会は古くから推奨をしてきた(「かかりつけ医を持ちましょう」キャンペーン1986年)。しかしこれを経済誘導で、しかも各医療機関の連携に「楔」を打ち、医療機関相互の齟齬や不信を生じさせる点数誘導は、現場を混乱させることになる。

 また、この登録医制、地域包括システムに乗れない医療機関は、診療報酬での評価は軽視され、冷遇されていくことになる。在宅医療に関与がない診療所、とりわけビル診療所は置き去りにされる。「外来」診療への専念も診療所機能の多様性の一つであり、診療所の第一義的役割である。この重視を抜きには、在宅医療や、二次、三次、高度医療もままならない。ビル診療所は80年代の地価高騰を背景に「職住一体」が困難となり、低医療費政策が重なったが故の結果でもある。

 今後、民間保険は「キャッシュレス」を謳い文句に、保険金を医療機関に直接支払う医療保険商品の販売を展開していく方向にある。医療経済実態調査での保険外、自費収入への依存傾向や、問題視された訪問診療ビジネスにみるモラルの決壊にみるよう、公的保険で置き去りにされる医療機関と民間保険との結合、結託の危険性は高くなる。うがい薬の保険外しも、公的保険外サービスの産業育成・活性化を狙う産業界の地域包括ケア周縁の100兆円市場の"皮算用"、そのための医療と生活産業のグレーゾーンの整理・解消の先鞭となる。

 既に、保険外併用療養(混合診療)の先進医療は全国553の大学病院、基幹病院で実施され、この保険外の費用をカバーする商品、「先進医療特約」保険を保険会社が販売し、医学界の重鎮が広告塔を担っている。いま更に、この範囲の拡大に向け、商業性がなく治験実施に見込みのない先進医療、費用が膨大な先進医療など、患者の同意を前提とした保険外併用療養(混合診療)の恒常化、「第三のカテゴリー」創出が規制改革会議等から要望され6月には結論となる。

 当然ながら、地域包括ケアや保険会社との結託のこれらに与しない、与することができない医療機関も、多々存在することになる。

 「施設から地域へ、医療から介護へ」は医療・介護改革を貫くキーワードだ。歯科では今回、義歯調整が「歯科口腔リハビリテーション料」と「名称変更」がされる。かつて水野智彦前衆院議員が雑誌(『社会保険旬報』2011.8.1)で提言し問題となった、歯科の総義歯関連はリハビリゆえに医療から介護保険への移行へ、が透けている。介護保険は、医療での混合診療にあたる混合介護が認められた仕組みである。

 これら重層的な地域医療の変貌の企図が、仕掛けられている感が強い。覆水盆に返らず。高齢社会への対応に向けて医療体制作りの丁寧な政策手法を強く要望する。

2014年2月3日