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政策部長談話 「疑問、迫井医療課長の『従来の診療形態にこだわることなく』発言 医療のあり方変える、『遠隔診療』を装った『スマホ診療』に反対する」

疑問、迫井医療課長の「従来の診療形態にこだわることなく」発言

医療のあり方変える、「遠隔診療」を装った「スマホ診療」に反対する

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 離島・僻地を対象とした「遠隔診療」が、都市部でのスマートフォンを通じた日常診療をも「遠隔診療」と拡大解釈し、普及・展開が構想されている。4月14日、政府の未来投資会議ではこのICTを活用した遠隔診療の診療報酬上の評価が必要と出され、厚労相も前向きな姿勢を示したとされている。これに関連し、日米のシンクタンクの専門家会合で迫井医療課長が「従来の診療形態にこだわることなく」と診療のあり方を考える必要性に触れ、踏み込んだ発言をしている。重ねて意味深長な、医療機関と保険者との連携にも言及している。

 診療は対面診療が基本であり、遠隔診療はあくまで補完手段である。身体所見を得て診療をする上で、その両者は対等関係にはなく、ましてやその比重の主客転倒は論外である。われわれは、医療のあり方を変え、保険診療の枠組みの改編、融解すら引き起こしかねない、この「スマホ遠隔診療」構想に強く反対する。

 

◆ 診療は対面診療が基本 

 診療は、問診の後に医師の診察(視診、触診、聴診、打診等)を行い必要な検査を加えて診断をした上で、医師の指示・管理下で、看護師などコ・メディカルとともに行われる。よって、対面診療が基本である。

 これが情報通信機器を用いた診療を「遠隔診療」と称し、医師法20条の「自ら診察をせずに治療をしてはならない」との関連で、解釈・運用が変化を見せたのは、IT化、情報化の流れに乗った97年の医政局の事務連絡である。これが、2003年に地方の病院での医師の名義貸し問題が顕在化する中、医師が不在の離島・山間僻地での医療の確保の観点から、森内閣のIT戦略を背景に通知改正される。そして2015年の「骨太の方針」での「遠隔医療の推進」の明記とともに、解釈を明確にする通知の発出となり、遠隔診療「解禁」と解され今日に至っている。

 

◆ 本当は、何も変わっていない遠隔診療の通知

 2015年の通知では、従来の通知の「基本的考え方」は、①遠隔診療が認められる「直接の対面診療を行うことが困難な場合」の「離島、僻地の患者」は例示であり、②遠隔診療の対象及び内容を示す「別表」の在宅医療患者の9類型も例示であること、③「対面診療を行った上で、遠隔診療を行わなければならないものではない」と記された。これにより、地理的・患者像の限定はされておらず、対面診療が先との順番は問題ないと解され、遠隔診療の大幅解禁と認識が広がっていく。

 しかしこの通知は、それまでの通知で示された範囲を超えていない。①初診や急性期疾患は原則、対面診療、②直接の対面診療ができる場合はこれによる、③ ①、②以外で遠隔診療が認められるのは、(1) これによらなければ当面必要な診療を行うことが困難、(2) 相当期間の診療継続による病状安定と療養環境向上、と原則は不変である。しかも診療報酬上、遠隔診療で「初診」を行った際、「初診料」の適用対象とはなっていない。

 昨年には東京都の疑義照会への回答の形で、電子メール、ソーシャルネットワーキングサービス等の文字及び写真のみによって得られる情報により診察を行い、対面診療を行わずに遠隔診療だけで診療を完結する事業について、医師法違反との医事課長通知(2016年3月18日)が出されている。

 

◆ なし崩し的な「スマホ診療」の進展、既成事実化が横行

 以上を機に、2016年の春頃より、「ポケットドクター」(オプティムとMRT)、「CLINICS」(メドレー)、「リモートドクター」(アイソル)など企業のお膳立てによる、スマホ診療の広告宣伝の横行と、実施医療機関の参加・獲得の動きが広がってきている。中には1,000医療機関の参加をうたう企業もある。

 この流通・拡大へ、「スマホ診療」の際に、保険診療の「再診料」と選定療養の「予約診察」とのドッキングによる、収入確保が指南されてもいる。つまり保険診療では「電話等による再診」の「再診料」(720円/回)のみの算定であり、収入補填のために差額料金が徴収できると「予約診察」の活用が説かれている。これは合法的な混合診療の枠組み、保険外併用療養の類型中の選定療養のメニューのひとつだが、懸念がある。

 予約診察とは、「時間」を軸にした制度であり、①予約以外の診療時間が各診療科ごとに外来診療時間の2割程度の確保、②予約患者の診療時間は1人10分程度以上、③医師1人につき1日の予約患者は概ね40人限度、④患者の自主選択であり、病院側の一方的都合での徴収は認められない等、制約が課せられている。収入補填のための自由度をもった“打出の小槌”ではないのであり、その乱用は問題となる。

 

◆ 遠隔診療の診療報酬評価に孕む危険/データ示さず厚労省が方向転換 医療への無理解も堂々と展開

 遠隔診療は、①「診察」と、②心臓ペースメーカーや在宅医療などの「遠隔モニタリング」、③医療機関(医師)相互の間での画像等の「遠隔診断」や情報提供などに分類されるが、対面がとりわけ問題となるのは診療の起点となる①「診察」である。

 中医協の基本問題小委(2015.7.22)では、「遠隔診療はあくまで補完的な役割であることから、診療報酬上の評価のためには、対面診療に比べて患者に対する医療サービスの質が上がるという科学的なデータが必要」という方針を踏まえ、有効性、安全性を個別に評価する必要があるとしている。

 これが一転、今年2月8日の中医協では、遠隔診療で「初診」を行った場合であっても、「初診料」を適用できるケースについて、2年に1度の診療報酬の改定時期まで待たずに期中改定も含め検討し、速やかに適用すべき、と課題に挙げた。科学的データも示さずに突如、方向転換したのである。

 しかも、初診料の適用ケースとして①かかりつけ医が登録済患者を診療する場合、②紹介患者を診療する場合など、③患者背景や診療録等による十分な患者情報を共有可能な場合、と具体的である。

 背景には、厚労大臣が未来投資会議でのAIやICT等を活用した診療支援、遠隔診療を診療報酬に組込むとした発言がある。診療側委員による批判、問題視に迫井医療課長は「大臣の方針でやっていく」としている。

 保険者側からは「自宅で血圧をはかって、それをスマートフォンで報告する。必要あれば電話で話す。このやり方と、直接受診はそれほど異なることなのか」と譲らず、医療への無理解が堂々と展開されている。

 

◆「スマホ遠隔診療」で「登録医」との連動も/錯綜化し同床異夢の「かかりつけ医」論議へ

 ICT活用による遠隔診療への診療報酬上の新たな評価となると、これを後押しする加算や点数項目の新設となり、従来の診療形態の対面診療を前提とした、初診料、再診料との差異化、差別化が図られることになる。

 また、登録済患者という話になると、患者の囲い込みによる登録医、イコール「かかりつけ医」となり、かかりつけ医以外への受診時「定額負担」の問題と連動していく。厚労省は「かかりつけ医」を地域包括診療料・加算等を算定する医療機関と位置付けているが、この施設基準の要件緩和を求める日医等の動きや、財務省が昨年提起した、①患者の指定、②保険者への登録、③他受診の際の「紹介状」を要件に、24時間対応や患者の特定疾病の有無や年齢要件は問わない、厚労省の想定と異なる「かかりつけ医」導入の動きもある。様々な思惑が錯綜し複層化、複雑化の様相を呈しており、その帰趨は予断を許さない。

 加えて、選定療養のメニューの多様化に向けた意見公募・検討は恒常化され、「スマホ遠隔診療」の収入補填の方策の正当化、保険診療のなし崩し的な融解さえ招きかねない。

 厚労省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」報告書は、医師需給・医師偏在の解決の文脈の中で、遠隔診療の積極的な推進による医師数減に触れており、医師の働き方のみならず、「医療のあり方」を変えることを提起している。この検討会とその報告書は、正当性含め物議を醸しているが、報告書の内容は、冒頭に述べた未来投資会議の動きや迫井医療課長の発言と呼応している。中医協(2017.3.29)では、データヘルス、健康経営の旗振り役の保険者側より、糖尿病等の保健指導との関連で保険者と医療機関の情報連携が重要とし、ICTを活用した遠隔管理も説かれており、すかさず日医は釘を刺している。

 われわれは、医療の基本、対面診療を混乱させ保険診療を揺るがす、「スマホ遠隔診療」の推進に反対する。

2017年5月1日