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政策部長談話 「健保法違反、財政対策の『定額負担』と患者に混乱もたらす『登録医』制に反対する」

健保法違反、財政対策の「定額負担」と

患者に混乱もたらす「登録医」制に反対する

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 財政制度等審議会・財政制度分科会は10月5日、社会保障費の概算要求6,400億円増を5,000億円へと1,400億円を削減するため、「改革工程表」の前倒し実施を提言。「医療」を全面的なターゲットとし、事実上の「登録医制」導入と、患者の「定額負担」導入を、従来以上に踏み込んで提案した。「定率負担」に上乗せする「定額負担」は患者3割負担が限度とした健保法附則違反であり、これと連動させた「登録医」制の導入は何ら道理がなく、患者に混乱と受診時の過重負担を強いるものである。われわれは、この導入に強く反対する。

 

◆1,400億円削減にむけ、次々と切られるカード 「医療」をターゲットに本腰の財務省 

 1,400億円の削減方策として複数の候補が挙げられている。各々、壁は高く、具体的には①高額療養費の後期高齢者の現役水準との一本化(▲1,400億円)、②国保の安定化財源の投入見送り(▲1,700億円)、③後期高齢者医療の保険料の軽減特例の廃止(▲970億円)プラスアルファ、そして④定額負担の導入であり、100円負担で▲1,400億円となる。

 年末の予算編成までに結論づけられ、場合によっては来年の通常国会に抱き合わせで関連法案の提出となる。この4つの選択肢を中心に、削減額の捻出のため次年度以降含みで、今回、社会保障費の中核、「医療」をターゲットにした全面展開の施策が提案されている。それは日本の医療の特質である、「皆保険」「出来高払い」「フリーアクセス」「自由開業制」を、費用増大を招来しやすいと「標的」にし論い、効率的提供体制、小リスクへの自助対応、負担の公平、包括化と改革の視点を対置した資料に、意気込みが強く現れている。

 

◆同床異夢の「かかりつけ医」 財務省は「1対1」関係、紹介状要件の他受診と定義 

 「定額負担」の導入は、過去2011年に問題となり頓挫している。過日10月6日の国会では、この違法性が追及され、厚労相は法令順守を言及したものの、財務相は定額負担の撤回は拒み、「いろんなことをやっていくのは当然」と開き直り、横紙破りを正当化した (*1) 

 この定額負担は「かかりつけ医」以外の受診の場合に課すとし、従来、診療報酬で評価された地域包括診療料・加算等の算定医療機関と解されていた「かかりつけ医」が、財務省により新たに再定義されている。

 具体的には、①患者の指定、②保険者への登録とし、この③かかりつけ医以外の受診の際に「紹介状」がない場合に「定額負担」とする。「かかりつけ医」は、他機関も含め受診状況の把握や紹介・連携、全人的な医療の提供などを満たすものとし、24時間対応や、患者の特定疾病の有無や年齢要件は問わない、地域包括診療料と異なる、緩やかな要件設定としている。

 しかも、診療報酬評価の「小児かかりつけ診療料」を例示。これは患者の「同意」で、1人の患者につき1カ所の算定である。よって、想定されている「かかりつけ医」は、医師と患者が「1対1」関係で他科受診は紹介状を要件とする、英国などでの「登録医」であり、包括報酬の「家庭医」、ホームドクターである。

 かつて、日本で1987年に「家庭医」構想が厚生省より示されたが、人頭登録医制との批判、反発が医療界より強く出され、怨嗟の的となった末、「家庭医」の文言は禁句となり、代わって「かかりつけ医」の文言が登場し現在に至っている。しかし、この「かかりつけ医」は、医療界と厚労省、財務省の間で「定義」や理解、想定が必ずしも一致はしておらず、同床異夢のままである。

 日医は、「なんでも相談できるうえ、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と、医療的機能とともに社会的機能を有するものと定義しているが、厚労省は主治医機能を経済的評価した地域包括診療料・加算の算定機関と同義としている。今回の財務省提案は、これらと違う、「登録医」の制度化である。

 

◆「かかりつけ医」の鋳型にはめる必要があるのか 西欧と違う日本の医療文化、歴史的文脈の寸断は危険。

 そもそも患者は日常生活で、「かかりつけの診療所」、「かかりつけのお医者さん(医師)」と口にするが、「かかりつけ医」とは多くは言わない。また患者は高血圧や腰痛症、うつ病、前立腺肥大などの病気に応じて、内科、整形外科、精神科、泌尿器科と、「かかりつけの診療所」「かかりつけの医師」を持っている。社会的役割として「かかりつけ医」の「機能」を果たす医療機関は存在しても、「かかりつけ医」というネーミングの「家庭医」的類型の「鋳型」にはまった医療機関は現実にはない。

 これを1カ所の「家庭医(登録医)」(=「かかりつけ医」)に、医療提供、健康管理、病歴管理などを集約する必要が果たしてあるのだろうか。患者に無用な混乱をもたらすだけである。

 財政審では、国際比較で日本の一人あたり受診回数12.8回(年)が世界2位と、その多さが指摘されるが、実は一人当たり医療費は、米国8,745ドル、ノルウェー6,140ドル、スイス6,080ドル、オランダ5,099ドル、オーストリア4,896ドルのベスト5に対し日本は3,649ドル (*2) と、スイスの6割水準でしかなく、OECD加盟国で15位と中位である。世界一の高齢化率を鑑みれば、極めて効率的なのであり、「医療保険制度維持のため」に財務省のいう「かかりつけ医」の導入は論拠も、道理もないのである。

 財政審は、「かかりつけ医」の普及の進展がないことを問題にしているが、国民の65.1%は「かかりつけ医」を持っている(2013年日医総研調査)。地域包括診療料の算定が広がりがないこととは別問題である。

 専門医が開業し、研修や自己研鑽を積み、対応領域・能力を拡充するスタイルは日本の医療の歴史的特徴である。第一線医療において、診療所、中小病院が、「かかりつけ医」機能を充実することは異論はないが、分野、領域での限度、限界はある。われわれは、「かかりつけ医」機能で重要なことは、自院で自己完結しない場合や領域外、救急などの場合に患者を突き放さずに、次の医療機関への紹介、連携など目鼻をきちんと「責任」をもってつけることであり、そのため診療にあたって患者の主訴、違和感、不安・心配・悩みを引出し的確・平易な説明で理解を得るなどの医療コミュニケーションにあると考えている。

 

◆財務省の「かかりつけ医」は定額負担導入の分断策 「受診」を理由の「受益者負担」論はトリック

 財務省の「登録医」提案は、受診時定額負担の導入のため、医療界を分断するための深謀遠慮である。全国で数%しか算定していない地域包括診料の算定医療機関を「かかりつけ医」とし、それ以外の受診に定額負担を課すとした場合に、医療界からの反発は一枚岩で強くなる。これを24時間、在宅医療の要件を外し、患者の指定する登録医とすることで、「早い者勝ち」での「患者の囲い込み」を誘うこととなる。知恵者がいたものである。医療界は罠にはめられては、いけない。

 また外来受診頻度が高く少額受診が多いとし追加的に「低額」の受診時定額負担を求める財政審の理論もおかしい。既に定率3割負担をしており、平均的外来医療費13,096円 (*3) の3割負担で3,928円である。財務省は外来患者の4割が5,000円未満というが、分岐点5,000円でも1,500円の負担である。ここに定額で100円、200円の追加が乗る理由は何もない。「少額免責」と民間保険に類似しいわれるが、定率負担は既に「免責」状態である。しかも民間保険の定額や日数の「免責」と違い、公的医療保険の「免責」には終わりがなく、患者負担(=免責)を伴わない給付がない。財務省の主張は錯覚や混同につけ入った詐術である。

 高額で定額な患者負担と結びつけた、外来の機能分化の主張、印象操作も同様である。機能分化・機能分担を錦の御旗にこの4月より500床以上の大学病院等で紹介状なし初診の場合に5,000円の追加負担が義務化された。しかし、全国の年間の初診2億5千万件に対し、紹介状のない初診は僅かに235件、該当病院平均で年間に1件しか存在しないことが過日発表の厚労省データで明るみになった (*4) 。「虚構」、「神話」により誘導されたのであり、当会の指摘どおり、診療所への定額負担導入の「布石」が作られる結果となっている。

 受益者負担、負担の公平が強調されるが、そもそも健康保険制度では受診が受益ではない。受益者は「保険に入っている人」(権丈善一氏) (*5) であり、給付財源を作る保険料や公費で、負担の公平を図るべきである。

 われわれは、道理も根拠もない、登録医制導入と定額負担の導入に強く反対する。

2016年10月17日

(*1) 参議院予算員会(小池晃参議院議員質問)

(*2) 厚労省HP:OECD加盟国の医療費の状況(2012年)

(*3) H27社会医療診療行為別統計

(*4) 厚労省:第1回NDBオープンデータ 医科診療行為 A基本診療料(H26年度)

(*5) 『月刊/保険診療』2008.1「特集「医療崩壊」から「医療再生」へ Part1座談会「医療崩壊」の先に何があるか」

 

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※ 2016年10月4日財政制度等分科会資料より

 

日本の一人当たり年間外来受診回数は多いが、実は一人あたり医療費は3,649ドルでOECD加盟国15位

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