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2016/9/12 地域医療対策部長談話 「在宅医療は救急医療や『治す医療』ではない 過度な期待や誤解で地域包括ケアを崩す報道を質す」

在宅医療は救急医療や「治す医療」ではない

 過度な期待や誤解で地域包括ケアを崩す報道を質す

神奈川県保険医協会

地域医療対策部長  鈴木 悦朗


 一部週刊誌で在宅医療を誤解、曲解した報道がなされ、関係する医療者が心を痛めている。この在宅医療への不理解、無理解による過度な期待が流布し、社会通念として定着していくと、日夜に渡り献身する医療者の心を挫き、在宅医療からの敬遠、撤退もおこりかねない。高齢社会での地域包括ケアの構築などは水泡と帰す。われわれは、在宅医療についての正確な理解を広く求めるとともに、報道の在り方を問うものである。

◆在宅医療は、「病院医療」の地域版ではない 急変時にすぐに駆けつけられない 実は「支える」医療

 在宅医療は、そもそも高度急性期、急性期の医療を自宅や福祉施設で行うものではない。慢性期の安定した病態の患者の医療を患家や施設で行うものである。当然、病院内での治療と違い、居住空間であり医療設備・医療機器に「限度」があり、提供する医療内容も「限界」がある。病院での「治す」医療ではなく、「支える」医療となる。救急医療ではない。その多くは、今まで外来通院していて加齢で通院できなくなった高齢患者やがんの終末期、障害児者となる。

 訪問診療など在宅医療に関わる診療所は20,597件で、全国の診療所の22.4%である。そのうち24時間365日対応型の在宅療養支援診療所(支援診)は14,397件と7割強を占め、その多く75%は医師1人の「従来型」であり、医師3人以上の「強化型」は1.3%、複数医療機関で対応する「連携強化型」は23.7%に過ぎない。

 訪問診療は全国で645,992件(月)であり、その8割強を「支援診」が担い、中心は1人医師の「支援診」が地域をカバーする体制となっている。 (*1) (*2)

(*1) H28.7.6第1回全国在宅医療会議資料 

(*2) 厚労省「在宅医療にかかる地域別データ集」

 病院医療とは違い、急変時に当直医が廊下を走って駆けつけるようにはいかず、地理的に距離があり渋滞や交通事情により患家への到着はどうしても時間を要す。容態の変化によっては救急車の要請が合理的な場合もある。また1人医師の体制で、24時間365日の「当直体制」なみの対応を暗黙に期待をされても、機械ではないので肉体的にも精神的にも無理である。24時間働き続けられないのは道理であり、労働安全上の配慮も必要である。

 基本的な生活があり、余暇がある。食事でお酒が入ることもある。医師とて人間である。その中での24時間の対応であり、必要性と合理性の判断で行動しており、誰しも何らかしらの生活の犠牲を払い献身している。

 在宅医療を行うにあたって、患者本人、患者家族に十分な説明と理解の上で実施されているが、まだまだ十分に「在宅医療」の限界への理解が社会的には十分に醸成されているとはいえない。そのような中、検証も定かではない一部の例を引き合いに出し、あげつらうような見出しの報道は残念である。

◆まだまだ足りない在宅医療の実施機関 在宅医療の歪曲を生む短絡的な看取り施策

 政府は地域包括ケアシステムの構築により、団塊の世代の高齢化で年間100万から年154万人へと増加する死亡者の一定数を、自宅・施設の在宅医療で看取ることを図ろうとしている。

 ただ現実は違っている。「支援診」が存在しない市町村が全国で28%(487市町村)あり、「支援診」と密接な連携関係となる訪問看護ステーションがない市町村も29.7%(517市町村)ある(*1)

 まずは在宅医療の裾野を広げることが先決であり、われわれも関与する医療機関を支援する公的な後方拠点の整備や、一次・二次・三次と関与の軽重による重層的な在宅医療の展開が可能な施策が必要と考えている。

 しかし、「支援診」に、「看取り」の数を診療報酬の支払いに要件づけたため、現場では「看取り」の争奪戦や支援診と救急病院による囲い込みなどの結果、患者が希望しない、主治医と違う医療機関での看取り、煽りを受けた「支援診」の撤退など、いびつな状況もうまれている。

 在宅患者の最期の場所は、本人・家族の選択に委ねるのが本来である。また、在宅医療の主治医と患者・家族の関係が大切にされるべきであり、納得のいく最期が何より大切である。看取りの数ではなく、病態としての「ターミナル」への適格・適切な関与を評価する方式に転換しないと、早晩、在宅医療の現場は歪んでいく。

 また、複数医師が勤務する在宅専門の医療機関を重視した政策では、現在の1人診療所が主体の実情から非現実的であり、様々な地域の軋轢も生みかねず、これまでの現場での努力が水泡に帰す。

 長年かかっている医師に最期を看取ってほしいという患者の希望をかなえることも出来ない。

 われわれは、在宅医療についての正しい理解が国民的に進むよう、厚労省に実効のある啓発・広報を求めるとともに、的確な政策を合わせて求める。また取材には常に応じる用意はあることを示し、マスコミに対し節度ある報道を改めて求めるものである。

2016年9月12日

在宅医療は救急医療や「治す医療」ではない

 過度な期待や誤解で地域包括ケアを崩す報道を質す

神奈川県保険医協会

地域医療対策部長  鈴木 悦朗


 一部週刊誌で在宅医療を誤解、曲解した報道がなされ、関係する医療者が心を痛めている。この在宅医療への不理解、無理解による過度な期待が流布し、社会通念として定着していくと、日夜に渡り献身する医療者の心を挫き、在宅医療からの敬遠、撤退もおこりかねない。高齢社会での地域包括ケアの構築などは水泡と帰す。われわれは、在宅医療についての正確な理解を広く求めるとともに、報道の在り方を問うものである。

◆在宅医療は、「病院医療」の地域版ではない 急変時にすぐに駆けつけられない 実は「支える」医療

 在宅医療は、そもそも高度急性期、急性期の医療を自宅や福祉施設で行うものではない。慢性期の安定した病態の患者の医療を患家や施設で行うものである。当然、病院内での治療と違い、居住空間であり医療設備・医療機器に「限度」があり、提供する医療内容も「限界」がある。病院での「治す」医療ではなく、「支える」医療となる。救急医療ではない。その多くは、今まで外来通院していて加齢で通院できなくなった高齢患者やがんの終末期、障害児者となる。

 訪問診療など在宅医療に関わる診療所は20,597件で、全国の診療所の22.4%である。そのうち24時間365日対応型の在宅療養支援診療所(支援診)は14,397件と7割強を占め、その多く75%は医師1人の「従来型」であり、医師3人以上の「強化型」は1.3%、複数医療機関で対応する「連携強化型」は23.7%に過ぎない。

 訪問診療は全国で645,992件(月)であり、その8割強を「支援診」が担い、中心は1人医師の「支援診」が地域をカバーする体制となっている。 (*1) (*2)

(*1) H28.7.6第1回全国在宅医療会議資料 

(*2) 厚労省「在宅医療にかかる地域別データ集」

 病院医療とは違い、急変時に当直医が廊下を走って駆けつけるようにはいかず、地理的に距離があり渋滞や交通事情により患家への到着はどうしても時間を要す。容態の変化によっては救急車の要請が合理的な場合もある。また1人医師の体制で、24時間365日の「当直体制」なみの対応を暗黙に期待をされても、機械ではないので肉体的にも精神的にも無理である。24時間働き続けられないのは道理であり、労働安全上の配慮も必要である。

 基本的な生活があり、余暇がある。食事でお酒が入ることもある。医師とて人間である。その中での24時間の対応であり、必要性と合理性の判断で行動しており、誰しも何らかしらの生活の犠牲を払い献身している。

 在宅医療を行うにあたって、患者本人、患者家族に十分な説明と理解の上で実施されているが、まだまだ十分に「在宅医療」の限界への理解が社会的には十分に醸成されているとはいえない。そのような中、検証も定かではない一部の例を引き合いに出し、あげつらうような見出しの報道は残念である。

◆まだまだ足りない在宅医療の実施機関 在宅医療の歪曲を生む短絡的な看取り施策

 政府は地域包括ケアシステムの構築により、団塊の世代の高齢化で年間100万から年154万人へと増加する死亡者の一定数を、自宅・施設の在宅医療で看取ることを図ろうとしている。

 ただ現実は違っている。「支援診」が存在しない市町村が全国で28%(487市町村)あり、「支援診」と密接な連携関係となる訪問看護ステーションがない市町村も29.7%(517市町村)ある(*1)

 まずは在宅医療の裾野を広げることが先決であり、われわれも関与する医療機関を支援する公的な後方拠点の整備や、一次・二次・三次と関与の軽重による重層的な在宅医療の展開が可能な施策が必要と考えている。

 しかし、「支援診」に、「看取り」の数を診療報酬の支払いに要件づけたため、現場では「看取り」の争奪戦や支援診と救急病院による囲い込みなどの結果、患者が希望しない、主治医と違う医療機関での看取り、煽りを受けた「支援診」の撤退など、いびつな状況もうまれている。

 在宅患者の最期の場所は、本人・家族の選択に委ねるのが本来である。また、在宅医療の主治医と患者・家族の関係が大切にされるべきであり、納得のいく最期が何より大切である。看取りの数ではなく、病態としての「ターミナル」への適格・適切な関与を評価する方式に転換しないと、早晩、在宅医療の現場は歪んでいく。

 また、複数医師が勤務する在宅専門の医療機関を重視した政策では、現在の1人診療所が主体の実情から非現実的であり、様々な地域の軋轢も生みかねず、これまでの現場での努力が水泡に帰す。

 長年かかっている医師に最期を看取ってほしいという患者の希望をかなえることも出来ない。

 われわれは、在宅医療についての正しい理解が国民的に進むよう、厚労省に実効のある啓発・広報を求めるとともに、的確な政策を合わせて求める。また取材には常に応じる用意はあることを示し、マスコミに対し節度ある報道を改めて求めるものである。

2016年9月12日