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政策部長談話 「『かかりつけ医以外』への受診時定額負担の導入に反対する 枕詞で幻惑し、『定率』に『定額』負担を上乗せする健保法違反をただす」

「かかりつけ医以外」への受診時定額負担の導入に反対する

枕詞で幻惑し、「定率」に「定額」負担を上乗せする健保法違反をただす

 

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島政臣


 「かかりつけ医以外を受診した場合における定額負担の導入」の結論が、社会保障審議会医療保険部会で検討され2016年末までに出される。これは政府の「経済・財政再生計画 改革工程表」に盛られ、今年1月20日の医療保険部会でその方向性が確認されたものである。5月26日の同部会には経団連の委員から検討要望が出され、参院選挙後7月27日には自民党の小委員会で、受診時定額負担を「制度化すべき」とされている。事態の急転に8月3日、日医の横倉会長は記者会見で、この受診時定負担に導入反対と、強い懸念を示している。われわれは、受診時定額負担は、患者負担は3割が限度とした健保法附則違反であり、受診抑制を深刻化させ、皆保険を弱体化させると、これまでも警鐘を鳴らしてきた。われわれはこの導入に強く反対する。

 

◆変転する定額負担の導入理由 「かかりつけ医」とは「地域包括診療料・加算」算定施設のこと

 受診時定額負担の導入は、これまでも議論、取り沙汰されてきた。それは①難病公費医療の対象拡大の財源として、また②高額療養費の負担上限の引き下げ(患者負担軽減)の財源として、更には③外来受診適正化のため、あるいは④病診の機能分担、直近では⑤大病院の勤務医の負担軽減、と、常に変転してきた。

 今回は「かかりつけ医普及」が、その理由として挙げられている。変な話である。いずれも一貫してないのは、本音、本当の理由はそこにないからであり、問題の本質は掟破りの定率負担への定額負担の上乗せにある。

 

 まずは、かかりつけ医の普及の矛盾と問題に触れる。かかりつけ医は本来、患者が「選択」し決めるものである。“かかりつけ”の行動主体は患者であり、胃潰瘍で膝関節痛の患者は内科と整形外科で「かかりつけ医」がおり、白内障や前立腺肥大があれば、眼科や泌尿器科で「かかりつけ医」をもつことになる。

 医療機関の側は、患者の期待に応えるべく、「かかりつけ医」の「機能」を研修などで向上させ、地域医療の中で「かかりつけ医」としての役割を「自認」「確認」する恰好となる。患者の選択と医師のプロフェッショナルオートノミー(専門家の規範自律)との相互関係が、「かかりつけ医」関係である。

 国民の65.1%は「かかりつけ医」を持っている(2013年日医総研調査)。しかし、政府・厚労省のいう「かかりつけ医」は、診療報酬で主治医機能を評価された「地域包括診療料」「地域包括診療加算」を算定する医療機関のことであり、厚労大臣も国会答弁で同義として扱っている。この医療機関は、患者の他科受診の把握、服薬医薬品の管理など、「継続的かつ全人的な医療を提供する医療機関」と定義され、患者と医療機関の「1対1」の関係性を前提とするいわばホームドクター、家庭医である。かつて「家庭医構想」(1987年)が怨嗟の的となった歴史からその名称を忌避し、「かかりつけ医」と称しているにすぎない。

 

 この「地域包括診療料」「地域包括診療加算」は複数名医師がいる24時間対応の在宅療養支援診療所であること等が要件とされハードルが高く、全国で届け出医療機関は各々、93施設、4,713施設(H27.7)しかない。全国の一般病院7,426施設、一般診療所10万461施設(H26医療施設調査)の5%にも満たない。

 

◆「かかりつけ医普及」の政策誘導は画餅 実質は定率負担への上乗せ定額負担の導入

 つまり、全国の医療機関の95%、圧倒的な大部分が政府の言う「かかりつけ医以外」であり、受診時定額負担が、従来の定率負担に上乗せになる。

 かつて、老人慢性疾患外来総合診療料の不算定の診療所に薬剤定額負担を課し、算定を政策誘導した過去があるが、「地域包括診療料・加算」は減少しており、簡単に政策誘導での収斂、「かかりつけ医の普及」とはならない。

 「かかりつけ医以外」の枕詞を凝らし、「かかりつけ医」をもつ患者や、「かかりつけ医」を自認する医療機関に無関係と錯覚させ、警戒感を弱らせ楽観を誘い、「定額負担」を導入する。この策略に医療界は幻惑されてはならない。

 

 健保法附則は将来に渡り「患者負担は3割限度」(「医療に係る給付の割合については、将来にわたり百分の七十を維持するものとする」)とされている。定率3割負担に100円や200円、500円などの定額負担を上乗せすることは、これに違反することになる。しかも、諸外国でも「定率負担+定額負担」は類例がない。

 

 旧内務省時代から現在まで使われている患者負担と受診行動の相関を表す「長瀬式」では、3割負担で医療需要の59.2%をみたすものの、4割負担で48.8%と病人の半分も受診出来なくなり、公的保険の意味をなさなくなる。平均的な一般医療費11,809円(実日数1.49日)(*1)で、定率負担に定額負担が上乗せとなると患者負担率、医療需要充足度は次のようになり、医療需要充足度は5割に近づいていく。 

 

  患者負担額 患者負担率 医療需要充足度 医療給付費削減額(1より推計)
100円の場合 3,691円 31.3% 57.7% ▲約1,446億円
200円の場合 3,840円 32.5% 56.4% ▲約2,892億円
500円の場合 4,287円 36.3% 52.4% ▲約7,229億円

* 患者負担額:11,809円×0.3+定額負担額×1.49日 患者負担率:患者負担額÷11,809円

* 長瀬式(Y=1-1.6X+0.8X2) Y:医療需要充足度 X:患者負担率

(*1) H27社会医療診療行為別統計 (第9表 医科診療(入院外 - 1 総数))

 

◆深刻な経済的理由での未受診 1,790万人 悲惨な受診抑制

 医療需要充足度が5割を超えてればいいという話ではない。既に日本の患者負担3割は過重であり、具合が悪いのに経済的理由で受診を控えた割合が、国際的に見てもやや高い水準にある (*2) ことが、10年前から指摘されている。政府機関の直近の調査(2012年)でも必要があるのに医療機関を受診しなかった国民は実に14.2%に上り(1,790万人)、その5年前の2%(105万世帯252万人)から急増しており、理由の多くは余力のない家計や多忙など暮らし向きの悪さによるものである (*3) 。患者負担が2割となった1997年の平均給与467万円から、平均給与は408万円(2012年)へと60万円も減少しており (*4) 、2003年の3割負担で患者負担の「過重感」は確実に増している。“受診せず”に至らなくとも、受診の手控えは当協会調査(10年)で39%、治療中断は9%と深刻である (*5) 

 

(*2) 日本医療政策機構「日本の医療に関する2007年世論調査報告」経済的理由での受診抑制 日本26% 米国24%

(*3) 国立社会保障・人口問題研究所「生活と支え合いに関する調査」(2012年)

(*4) 国税庁

(*5) 「医療費の患者負担に関する国民の意識調査」2010年

 

 この限界点の患者負担に、定額負担を上乗せするのは、皆保険制度の信頼を崩し、制度を形骸化する愚の骨頂である。長年取り沙汰されてきた免責制の変形導入、「上乗せ免責制」ともなる。

 しかも受診時定額負担の名称も奇妙であり、裏意図さえ感じる。患者負担は受診時に決まっており、あえて「受診時」と冠をつけた裏には定率負担部分の事後精算、マイナンバーを活用した給与天引きによる患者負担の未収金解決や、民間保険商品の保険金による補填、キャッシュレス化など、金融審議会などでの議論や事態の進展を重ね合わせ想起すれば、意味深長である。

 

 この春から実施された、大病院の紹介なし受診での5,000円負担は、選定療養の義務化と療養担当規則の責務規定の改定という合わせ技、荒技で、健保法附則への抵触を回避した格好での定額負担導入を図ったが、この方法が転用される公算が高い。しかも、定額負担導入で▲2,000億円~▲1,300億円と医療給付費の削減が皮算用されてきた経緯から、その際には初再診料の引き下げとセットとなる。

 われわれは、これ以上の患者負担増となる受診時定額負担の導入に改めて強く反対する。

2016年9月1日

 

*訂正

 小見出し「◆深刻な経済的理由での未受診 1,790万人 皆保険のない米国より悲惨な受診抑制」の「皆保険のない米国より」を削除し、また文中の「・・具合が悪いのに経済的理由で受診を控えた割合が、無保険者4,500万人で皆保険のない米国よりも多い」の読点以下を「国際的に見てもやや高い水準にある」と訂正いたしました(2016.9.5)。