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地域医療対策部長談話 「地に足の着いた『地域包括ケア』システムの具体的構築へ 奔走と商機が織りなす狂騒の『現場』から直言」

地に足の着いた「地域包括ケア」システムの具体的構築へ

奔走と商機が織りなす狂騒の「現場」から直言

神奈川県保険医協会

地域医療対策部長  鈴木 悦朗


 医療・介護・予防・生活支援・住まいを一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の策定に向け、各地で地域ケア会議が開催されている。"システム"とはいうものの定型化された体制や制度ができる可能性は低く、地域の医療・介護関係者の"ネットワーク"が出来るかどうかというところであろう。

 各地で地域ケア会議、在宅医療連携拠点事業など関係者が奔走させられている一方で、地域包括ケアシステム構築に向けた「公的介護保険外サービス」の参考事例集が、厚労省から堂々と発表され、介護関連企業がこれからが商機と準備していることであろう。行政がどれだけ介護保険外サービスに関与して行くかによって今後に大きな影響を与える。われわれは、現場の視点から以下直言する。

 

◆地域ケア会議の「問題解決型」への転換を

 地域包括ケアシステムはその言葉の響きから、在宅での療養生活に窮迫する家庭がどこかに相談すると、医療・介護・予防・生活支援・住まいが、ワンストップ・サービスで一体的に提供される、またはその段取りを誰かがしてくれるのではないかと思いがちだが、それは全く幻想に過ぎない。決まった方法論もない中、多職種連携で地域の医療・介護資源・人材・特性にあわせ、暗中模索で紡いでいくものとなっている。

 「地域包括支援センター」は、個別レベルの地域ケア会議、包括レベルの地域ケア会議を開催することになっている。個別レベルの地域ケア会議は、医療・介護従事者やボランティアなど十数人で構成される。地域包括支援センターのケアマネジャーが自ら関わった困難事例の利用者の中から選んだ人のケアカンファレンス(症例検討)を行う。個別レベルの地域ケア会議がいくつか開催されたところで、地域包括レベルの地域ケア会議が開催される。構成員は、医療・介護従事者の他、行政、地域の警察、消防、町内会、商店会など幅広い。この会議では個別レベルで上がってきた地域の問題について話し合うことになっている。「地域ケア会議」は、多職種、行政等による地域課題の把握とネットワークの構築、限定的な困難例の支援となるので厚労省は「有効なツール」と位置付けているが、実態は単なる関係者の交流に終わっており、問題解決にはつながらず「やっただけ会議」と揶揄されているのが現状だ。

 例えば、認知症の徘徊が問題となり、警察から衣服に名札の縫い付けの要望があっても、具体的対応策の答えがないまま終わってしまう。これに類することが多々ある。解決の処方箋が、会議で必ず出るよう運営ルールの工夫(解決策の決定・未決の場合の宿題など)が必要である。

 

◆非医師会員の包摂は「保険医」と枠を広げて イニシアは誰がとるのかも問題

 また、地域ケア会議において医療分野は医師会が主導となるきらいがある。しかし在宅医療が主となるため、それを主として担っている非医師会員が除外されがちとなる。しかし、地域包括ケアを形成するためには、非医師会員抜きには難しく、在宅医療に取り組む「保険医」を全て包摂し、議論とネットワークを作らなくては成り立たない。胸襟を開いた度量のある対応が医療関係者には強く望まれる。

 また、行政、自治体の主導権の発揮、積極的な関与への期待は大であるが、対応が追いついておらず焦りすら見える。専門職種の人事配置と重点化など、将来展望のある思い切った首長の裁断を期待したい。

 

◆餅は餅屋 在宅医療に精通した医師の役割発揮

 いま全国各地で医師会委託の在宅医療連携拠点事業が展開されており、地域包括ケアの基盤となっていくとみられている。しかし、その事業内容は主として在宅医紹介であるのが現状である。医療と介護のネットワーク形成や、営利的事業展開セクターとの調整・是正など地域包括ケアを実現するために、やらなくてはならない仕事が数多くある。ところが在宅医療担当役員が、実は自身が在宅医療に取り組んでいない場合が散見される。在宅医療・介護、周辺事業に通暁した役員、人材の積極的関与・登用なくして発展は困難であろう。餅は餅屋である、この人事配置は早急に改め再検討する必要があると考える。

 

◆介護報酬、診療報酬による政策誘導の矛盾の解消は不可欠

 その上で、国の施策の是正を求めたい。介護保険事業者による利用者の囲い込み、過剰なサービス提供の是正策として、「集中減算」規定が導入され強化されている。この規定は、ケアマネジャーが、ある特定の法人事業所を集中して(80%以上)採用するようなケアプランを作成した場合、ケアマネジャーの報酬が減算される仕組みだ。ケアマネジャーはそれを回避するためサービス提供事業所を分散させることになり、地域包括ケアシステムで厚労省が想定する「概ね30分以内のサービス提供」より広い地域から事業所を探さなければならない事態に遭遇する。そのための弊害も現実に起きている。 

 例えば、遠方の訪問看護ステーションを利用することとなった患者の場合、医師が薬液を2時間で500ml投与する点滴指示を出したにもかかわらず、訪問看護師が1時間しか滞在できず、半分の250mlの投与とされてしまうなどの事態が生じている。これが近接のステーションであれば、点滴を刺してから一旦戻り、2時間後に点滴針を抜くことが可能である。現実に不合理、非効率な事態が発生している。

 2016年3月に会計検査院より既に指摘がなされているが、サービス利用の集中度合の高い事業所において、他の事業所と利用者を紹介しあったり、ケアプランを変更したりと、減額とならないよう調整している実態があり、利益誘導のための「囲い込み」対策に実効があがってはいない。それどころか、先に見たように逆効果となっており、介護報酬、診療報酬での政策誘導の解消、見直しは必須である。

 

 以上、これらは、現場の声の一端である。現実は、もっと多岐に亘っている。

 

 国は2018年度から始まる第7次医療計画の作成指針に関する議論をはじめ、地域医療構想と地域包括ケアについてワーキンググループを設置し、検討を始めている。だが、これまでのように目標値の設定に終始せずに、実行のための「方法論」の具体化がこれからは肝要となっており、そのための腐心を求めたい。厚労省にはあらゆるチャンネルを通じ、現場実態、現場の声を把握し課題解決のための政策化を図り、地域包括ケアの構築に向け、技術的・財政的・政治的なバックアップをすることを、切に期待したい。

2016年6月3日