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政策部長談話 「『選定療養』の乱用、『医療技術』の差額徴収の画策を指弾する 『保険外』併用療養の際限なき拡張への、危険な導入提案」

「選定療養」の乱用、「医療技術」の差額徴収の画策を指弾する

「保険外」併用療養の際限なき拡張への、危険な導入提案

 

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 1月29日、中医協に、選定療養の新たな「類型の追加」として「治療中の疾病又は負傷とは直接関係しない検査」が提案された。これは従来の実費徴収項目の追加である。しかも現行の類型を「医療行為等の選択に関するもの」とすり替え、実費徴収通知の明確化、選定療養の性格の変更と併せた提案となっており、議論の混乱、錯綜を画策した感がある。狙いは「医療技術」への選定療養の導入であるとわれわれは考えている。医療保険の給付範囲の縮小と対を成す、医療技術の混合診療であり、先の「拡大治験」による、再生医療品、遺伝子治療薬などの未承認薬の混合診療に続き、皆保険を歪め形骸化させていく。われわれは選定療養の改編策動に強く反対する。

 

◆成長戦略に位置づけられた、選定療養の見直し 「医療行為等の選択」は旧来からの転換

 選定療養とは、「保険導入を前提としない」とする保険外併用療養(混合診療)である。療養の給付(治療)と関連するアメニティーが該当とされ10種類ある。代表的なものは差額ベッドであり、裏を返すと、個室、二人部屋の療養環境は、健康保険では対応せず、自費(差額料金)でとなる。

 ことの発端は、「日本再興戦略」(2014)である。選定療養の見直しが盛られ、その対応で昨年3月に「選定療養に導入すべき事例等に関する提案・意見募集」がなされた。その結果がやっと公表となり寄せられた91件の意見をもとに見直し案が中医協に提案されたというのが、経緯である。

 

 今回の中医協議論で、厚労省から10種類ある選定療養を (1) 「快適性・利便性に係るもの」(差額ベッド、予約診療、時間外診療) (2) 「医療機関の選択に係るもの」(大病院の初診、大病院の再診) (3) 「医療行為等の選択に係るもの」(制限回数を超える医療行為、180日超の入院、歯科の金合金等、金属床総義歯、小児う蝕の指導管理)と、3つのカテゴリーに大別した資料が出された。

 しかし、3番目の「医療行為等の選択に係るもの」は、本来、「制限回数を超える医療行為」であったはずであり、すり替えられている。そもそも、2004年の混合診療騒動を経、厚労大臣と規制改革担当大臣の、「いわゆる混合診療に関する合意」(2004.12.15)では、その文言で整理がなされている。(2004.12.22中医協資料)。これは、当時、医学的・医療的に意味はないが患者の不安心理の解消のためとし、最終的にこの内容が、制度化の対象となったものである。

 「医療行為等の選択」と「制限回数を超える医療行為」とでは、意味内容に雲泥の差がある。健康保険では検査、リハビリなど医療上の理由で制限回数が設定されている。中には不合理なものもあるが、これを超えたものを部分的に選定療養化するのと違い、「医療行為等の選択」は医療行為そのものを選定療養の対象とすることを含意した広い概念となる。

  

 実は、過去にも同様のことが起きている。2006年の保険外併用療養の制度化の直前、中医協診療報酬基本問題小委員会(2006.7.12&7.26)で選定療養を大別した資料の文言が「制限回数を超える医療行為」から突如、「医療行為等の選択に係るもの」へと、巧妙にすり替えられたのである。

 当時、当会はこの件を会報等で度々指摘し、その後、いつの間にか資料の文言が元のものになっている、ということがあったのである(別紙資料参照)。

 

◆不思議な、選定療養の追加項目の新提案 医療技術の混合診療の布石

 健康保険では、「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」との通知で、治療とは関係ないサービス、物で、患者からの実費徴収が可能なものが明確にされている。オムツ代や証明書代、在宅医療での交通費などと合わせ、「医療行為ではあるが治療中の疾病又は負傷に対するものではないものに係る費用」と明示。インフルエンザ等の予防接種、美容形成(しみとり等)、ニコチン依存症以外への禁煙補助剤処方が例示され、ほかに「等」とされている。

 今回、中医協で選定療養への追加が提案された「治療中の疾病又は負傷とは直接関係しない検査」は、まさしく実費徴収の通知で明示されている類と同じものであり、あえて追加導入する意義が極めて不思議である。

 

 いずれ、治療に関係ない検査や、処置、投薬、リハビリなど、「医療行為」を選定療養の項目に増やし、治療と関連する制限回数を超える医療行為と、なし崩し的に統合整理することが想定される。「医療行為等の選択」のカテゴリーの大別と重ね合わせると、尚更、その感が強い。

 今回、厚労省は選定療養の位置付けに関し、「医療を取り巻く状況の変化や技術の進展等に伴って保険導入の可能性が生じることがあり得る」と、「性格の変更」も合わせて提案している。

 しかし現在、選定療養は医療・医学的に意味がない制限回数を超える「腫瘍マーカー」の実施のほかは、制限日数を超えるリハビリや180日を超える入院など、政策的に保険給付を制限されたものしかなく、それ以外の医療技術はない。差額ベッドは、個室、二人部屋の保険給付はしないという線引きであり、連綿と続く医療費抑制、給付縮小の歴史を考えれば、現在、保険給付の対象となっている医療技術、医療行為がゆくゆくは給付対象から外れ選定療養の対象となると考えるのが妥当である。

 日医の中川副会長が、即座に釘を刺したのは、見識の高さである。

 

 もう一つの面もある。評価療養は2年に一度、保険導入の篩をかけているが、先進医療からの「削除」、いわゆる「落選」が生じる。かつて、行政刷新会議が保険外併用療養の範囲拡大の報告書(2010.6.7)をまとめ、「評価療養」(先進医療等)を事前承認から「届出制」(事後審査)に変更し、「選定療養」のうち「直接的な医療技術、医薬品、医療機器」に限定し届出範囲に加えるとした。つまり、保険導入を前提としない医療技術の混合診療の枠組み作りであり、「落選」組の受け皿、救済である。実施件数があり「落選」し自費診療となった医療技術が保険診療との併用で復活となる。

 この提案は実現していないが、2013年の規制改革会議の公開ディスカッションでも、「落選」組の救済、恒久的な医療技術の混合診療の枠組みが、執拗に求められ厚労省が「検討」を約束している。

 

◆選定療養への医療技術の対象化はパンドラの箱 保険給付充実が皆保険の筋

 今回の選定療養の提案は、医療技術の差額徴収への布石となる。かつて歯科では差額診療が認められ法外な費用徴収が社会的に問題にされ廃止となった。いま、その轍をふまえ、保険外併用療養も保険外部分の料金の掲示、領収書の発行と金額明示、厚労省での保険外の金額の把握・目安設定とコントロールを敷いているが、汎用技術の選定療養化となれば、医療モラルの決壊が非常に懸念される。

 今回の意見募集では7割方は歯科関連からであり、厚労省は殆どを「エビデンスに基づき診療報酬上の評価の是非を検討」と考え方を整理しているが文言は意味深長である。

 また、ピロリ菌の三次除菌のような医学的に未確立なものがいくつか寄せられてもおり、「選定療養」への医療技術の導入の方向は、医療・医学的にも問題が派生する。

 2004年の混合診療騒動の際、健康保険制度に理解を欠いた議論や医療・医学の進歩を承知していない議論、実費徴収通知に無知な議論と、無手勝流が横行した。

 今回の選定療養の議論では、実費徴収通知の明確化も合わせて提案されているが、先述の通り、議論の混乱、錯綜に乗じて、制度変質を狙った感がある。選定療養を3つのカテゴリーに分けたことを「新たに整理」(m3.com「医療維新」2016.1.30)とした報道は正鵠を射ている。

 

 患者の治療に必要な医療技術、モノ、療養環境は、保険給付されるのが皆保険の筋である。われわれは「選定療養」の見直しに潜む、医療技術の差額徴収の深謀遠慮に断固反対する。

2016年3月1日