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2013/8/27 政策部長談話「健康自己責任の具体策盛り込んだプログラム法案を衝く 機械的な外来受診の適正化の復活に反対する」

健康自己責任の具体策盛り込んだプログラム法案を衝く

機械的な外来受診の適正化の復活に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 政府は8月21日、社会保障改革の「プログラム法案」の骨子を閣議決定した。これは改革の「全体像」と「進め方」を定めるもので、臨時国会冒頭に法案が提出予定となっている。大方の内容は一体改革の「成案」、「閣議決定」とそこに盛られた「工程表」を下敷きにしたものである。ただ、制約条件の下で、思想転換を図った感がある国民会議が盛り込まなかった、「健康自己責任」への誘導策と外来受診適正化を、明確に位置付けている。社会保障改革をめぐる攻防はこれから展開されていくが、われわれはこの大きな変化に関し指摘をするとともに、この撤回を強く求める。

 国民会議報告書の一番の特徴は、それまで使われていた「受益と負担の均衡を図る」のキーワードが「ない」ことである。あるのは「給付に応じた負担」であり、社会保障の機能強化、つまり給付拡大には社会全体の「負担増は不可避」との財政原理の指摘である。

 医療や介護の給付を「受益」と捉えず、また一生涯の「負担」と「給付」を金額計算し差額の損得勘定を論じる「世代間の損得論」や、世代間対立を煽る、昨今の議論への戒めも盛り込んだ点は、思想転換である。

 しかも、社会保障制度改革推進法と財政の制約の下、一連の改革で幅を利かしてきた「受益者負担」論と決別し、「応能負担原則」の貫徹とまではいかなかったが、歴史的経緯と財政確保の観点で採用している「保険」方式の欠点是正へ、減免拡大など応能負担「主義」を徹底することを踏み込んだ点は趣を異にしている。「社会」原理の縮小、公費投入の縮小への一定の歯止めを置いたのである。

 しかし、「プログラム法案」骨子は医療制度改革の筆頭に、健康管理や疾病予防の「自助努力」にインセンティブの持てる仕組みの検討、健康増進維持の取組の奨励、を置いた。健康関連産業が6兆円となり国民の健康志向の高まるなか、米国のディジーズ・マネージメントを模したメタボ健診・指導の導入が図られたが、更に制度で自助努力を担保するとなると、これまでいわれた、がん検診の未受診者が受診した際の保険給付の削減など健康自己責任論によるペナルティー措置が有力視される。来年の診療報酬改定での療養担当規則の改定は要注意となる。

 また、改革の2番目に、ICT、レセプト活用した、多様な主体による保健事業の推進、後発医薬品の推進、外来受診の適正化を位置づけた。一体改革「成案」の工程表では外来患者数▲5%と大幅な削減が示されていたが、国民会議報告書はこの機械的な外来削減は排し盛り込んでいない。保健事業も保険者にのみ責務として健康寿命の延伸のために求めたのに対し、この法案骨子でいうところは、レセプトのデータベースの民間利用・活用による、健康作りビジネスの育成である。この外来削減の大鉈の裏には、医学管理料を1患者1医療機関算定と限定する「主病ルール」の本格稼働、患者整理が見て取れる。

 法案骨子のメニューは、通例に従い優先順位の高い順に並んでおり、難易度が高く団体調整や財源手当てを伴うものは後方の順位となっている。骨子は国民会議の「審議の結果等を踏まえ」と「等」の文言を入れ、巧妙な作為・不作為を図っており、国保の低所得者への保険料軽減の「拡充」、軽減判定所得の基準額「引き上げ」の明示は除かれている。

 このプログラム法案骨子は、健康自己責任を大きな柱として医療制度を貫き、「緩やか」ではない「自由度のない」、診診連携、病診連携を前提としない自己完結型の「登録医」制で組み替えることを基本においたものとなっている。すでに、紹介状のなしの大病院受診は保険給付外の「暴論」が厚労省から出始めてもいる。つまり、疾病自己責任の強化と、保険診療の限定化、保険外診療への誘導であり、「受益者負担」の徹底である。

 負担増メニューに多くが目を奪われがちだが、国民会議報告書とプログラム法案には、このように質的に大きな変化が生じている。

 無論、すでに報告書に盛られた、70~74歳の患者負担2割化や、入院給食の保険外しなどの負担増は、受診抑制を引き起こし、治療上、支障をきたし、われわれは与するものではない。

 しかし、国民会議報告書は「納得性」の高い社会保障制度のため、論理的、実証的に考え抜いた結論を、良識派の学識者の面々が「奴雁」としてまとめた。このことは無碍にはできない。20回にわたる会議では経済界の首脳をヒアリングし、その医療観・哲学の欠如を白日の下に晒し、財界の役割をある意味で諭すこともした。大方が、既にレールが敷かれ、限界のあるなか、報告書は、世代間の不公平が広がる土壌として、若年層の雇用環境が極めて厳しく、ゆえにそれへの留意が必要なことをはじめ、その指摘や思想など、「考慮」すべきことを多岐にわたり散りばめている。これは、「良心」だと考えている。

 国民会議の報告書が首相に手渡されたことの意味は重く無視はできない。プログラム法案は最大限、それを尊重すべきである。また、個別法案の論議において、これが活きるよう改めて強く求める。

2013年8月27日

 

健康自己責任の具体策盛り込んだプログラム法案を衝く

機械的な外来受診の適正化の復活に反対する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 政府は8月21日、社会保障改革の「プログラム法案」の骨子を閣議決定した。これは改革の「全体像」と「進め方」を定めるもので、臨時国会冒頭に法案が提出予定となっている。大方の内容は一体改革の「成案」、「閣議決定」とそこに盛られた「工程表」を下敷きにしたものである。ただ、制約条件の下で、思想転換を図った感がある国民会議が盛り込まなかった、「健康自己責任」への誘導策と外来受診適正化を、明確に位置付けている。社会保障改革をめぐる攻防はこれから展開されていくが、われわれはこの大きな変化に関し指摘をするとともに、この撤回を強く求める。

 国民会議報告書の一番の特徴は、それまで使われていた「受益と負担の均衡を図る」のキーワードが「ない」ことである。あるのは「給付に応じた負担」であり、社会保障の機能強化、つまり給付拡大には社会全体の「負担増は不可避」との財政原理の指摘である。

 医療や介護の給付を「受益」と捉えず、また一生涯の「負担」と「給付」を金額計算し差額の損得勘定を論じる「世代間の損得論」や、世代間対立を煽る、昨今の議論への戒めも盛り込んだ点は、思想転換である。

 しかも、社会保障制度改革推進法と財政の制約の下、一連の改革で幅を利かしてきた「受益者負担」論と決別し、「応能負担原則」の貫徹とまではいかなかったが、歴史的経緯と財政確保の観点で採用している「保険」方式の欠点是正へ、減免拡大など応能負担「主義」を徹底することを踏み込んだ点は趣を異にしている。「社会」原理の縮小、公費投入の縮小への一定の歯止めを置いたのである。

 しかし、「プログラム法案」骨子は医療制度改革の筆頭に、健康管理や疾病予防の「自助努力」にインセンティブの持てる仕組みの検討、健康増進維持の取組の奨励、を置いた。健康関連産業が6兆円となり国民の健康志向の高まるなか、米国のディジーズ・マネージメントを模したメタボ健診・指導の導入が図られたが、更に制度で自助努力を担保するとなると、これまでいわれた、がん検診の未受診者が受診した際の保険給付の削減など健康自己責任論によるペナルティー措置が有力視される。来年の診療報酬改定での療養担当規則の改定は要注意となる。

 また、改革の2番目に、ICT、レセプト活用した、多様な主体による保健事業の推進、後発医薬品の推進、外来受診の適正化を位置づけた。一体改革「成案」の工程表では外来患者数▲5%と大幅な削減が示されていたが、国民会議報告書はこの機械的な外来削減は排し盛り込んでいない。保健事業も保険者にのみ責務として健康寿命の延伸のために求めたのに対し、この法案骨子でいうところは、レセプトのデータベースの民間利用・活用による、健康作りビジネスの育成である。この外来削減の大鉈の裏には、医学管理料を1患者1医療機関算定と限定する「主病ルール」の本格稼働、患者整理が見て取れる。

 法案骨子のメニューは、通例に従い優先順位の高い順に並んでおり、難易度が高く団体調整や財源手当てを伴うものは後方の順位となっている。骨子は国民会議の「審議の結果等を踏まえ」と「等」の文言を入れ、巧妙な作為・不作為を図っており、国保の低所得者への保険料軽減の「拡充」、軽減判定所得の基準額「引き上げ」の明示は除かれている。

 このプログラム法案骨子は、健康自己責任を大きな柱として医療制度を貫き、「緩やか」ではない「自由度のない」、診診連携、病診連携を前提としない自己完結型の「登録医」制で組み替えることを基本においたものとなっている。すでに、紹介状のなしの大病院受診は保険給付外の「暴論」が厚労省から出始めてもいる。つまり、疾病自己責任の強化と、保険診療の限定化、保険外診療への誘導であり、「受益者負担」の徹底である。

 負担増メニューに多くが目を奪われがちだが、国民会議報告書とプログラム法案には、このように質的に大きな変化が生じている。

 無論、すでに報告書に盛られた、70~74歳の患者負担2割化や、入院給食の保険外しなどの負担増は、受診抑制を引き起こし、治療上、支障をきたし、われわれは与するものではない。

 しかし、国民会議報告書は「納得性」の高い社会保障制度のため、論理的、実証的に考え抜いた結論を、良識派の学識者の面々が「奴雁」としてまとめた。このことは無碍にはできない。20回にわたる会議では経済界の首脳をヒアリングし、その医療観・哲学の欠如を白日の下に晒し、財界の役割をある意味で諭すこともした。大方が、既にレールが敷かれ、限界のあるなか、報告書は、世代間の不公平が広がる土壌として、若年層の雇用環境が極めて厳しく、ゆえにそれへの留意が必要なことをはじめ、その指摘や思想など、「考慮」すべきことを多岐にわたり散りばめている。これは、「良心」だと考えている。

 国民会議の報告書が首相に手渡されたことの意味は重く無視はできない。プログラム法案は最大限、それを尊重すべきである。また、個別法案の論議において、これが活きるよう改めて強く求める。

2013年8月27日