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2015/11/9 政策部長談話「損益率『悪化』が半数と実態調査で判明 診療報酬マイナス改定に反対する 患者の『医療の質』と経営基盤確立は表裏一体」

損益率「悪化」が半数と実態調査で判明 診療報酬マイナス改定に反対する

患者の「医療の質」と経営基盤確立は表裏一体

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 医療経済実態調査が11月4日公表され、「損益率」が「マイナス」(赤字)となった一般診療所が17.8%、歯科診療所が7.9%、「対前年度増減」で「マイナス」(経営悪化)となった一般診療所が56.4%、歯科診療所が49.3%と半数を占めることが判明した。早くも財政制度等審議会で、診療報報酬の本体マイナスが提唱されたが、それでは皆保険で全国事業の医療提供に支障を来す。医療の再生産や、患者へ提供する医療の質、医療基盤の安定を保障するものが診療報酬である。われわれは医療の持続可能性を高め患者・医療者に希望の「灯」をともすためマイナス改定に反対しプラス改定を強く求める。

◆保険診療費の中央値(医科診療所5,000万円、歯科診療所2,500万円)周縁の損益差額の提示を

 医療経済実態調査は診療報酬の「改定率」の斟酌指標とするため実施される。そこで見られるべきは「保険診療収入」と「費用」、「損益差額」(=「医業等収入―医業等費用」)である。ただ、調査結果はいくつか問題がある。(1)前回の調査方法の変更で連続する事業年度対比となったが、事業年度終期が前回改定年度(H26年度)内に1カ月でもあればH26年度データと処理するため、実際の改定年度の影響は4割程度しか反映しない。(2)また疑義解釈の混乱や経営方針変更がある改定年度と落ち着きを見せている前年度の対比は妥当性に疑問が残る。(3)「全体」の損益差額は「個人立」の院長給与を含んだまま平均化した数値である。これらの点の考慮は最低限、必要がある。

 旧来にならい改定年度対比でみると、医科診療所(無床)は損益差額が232.4万円増(+13.5%)となる。保険診療収益を583.6万円増と伸ばし、医業等費用の306.8万円増を上回った結果であるが、注目は保険診療収益の1億573.8万円である。H25年度の医科診療所(無床と有床)の1施設あたり保険診療費は中央値で7,417万円、最頻値で5,000万円であり(厚労省「医療費の動向」)、現実との乖離が大きく「代表値」として相応しくない。損益率の悪化を示す内実が浮き彫りにならない。

 一方、歯科診療所は損益差額を170.9万円増(+17.3%)としているが、これは主に給与費や福利厚生費や消耗品費などその他の医業費用を▲127万円(▲3.3%)と切り詰めた結果である。前回指摘した自費診療などの「その他診療収益」や産業医などの「その他医業収益」への依存度はこれらの収益が減額しても15.5%と高い。保険診療収益の4,113.2万円は、医科同様に中央値3,242万円、最頻値2,500万円はおろか平均値3,883万円よりも遥かに高い。現実の経営悪化は推して知るべしとなる。

 損益差額の最頻値データにみる保険診療収益も医科診療所で8,040万円、歯科診療所で2,968万円と先の中央値よりも高く分散の平均である。中央値周縁の医療機関の集計データの提示は必須である。

◆骨太方針による▲3.5%改定?の懸念 中医協発表前の先行報道、財政審での路線づくりは言語道断

 医療は「生活圏」で提供される。損益率の悪化へのマイナス改定は医療機関のそこでの存立を危うくする。それだけにとどまらない。患者1人あたり医療費(月)は、医科外来で13,263円(H25年)から13,251円(H26年)へと▲0.1%、歯科で12,654円(同)から12,532円(同)へと▲1.0%下げている(「社会医療診療行為別調査」)。医科診療所は1施設の受診延べ日数が▲0.4%(H26年度)と患者数減少の中での医療資源の投入量の減となっている。診療報酬は患者に提供される医療の質と表裏一体であり、医療者の給与に議論は矮小化すべきではない。「骨太方針2015」で今後5年間1.9兆円の社会保障費の削減が示されている(二木立・日本福祉大学長)。単純平均で年3,800億円を次年度改定で実現するとすれば▲3.5%相当となる。地域包括ケアのネットワークの確立のためにも土台となる診療報酬はマイナス改定とすべきではない。この間の中医協発表前の先行報道、財政審でのマイナス改定提唱の既定路線作りは言語道断である。われわれは改めてプラス改定を求める。

2015年11月9日

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損益率「悪化」が半数と実態調査で判明 診療報酬マイナス改定に反対する

患者の「医療の質」と経営基盤確立は表裏一体

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 医療経済実態調査が11月4日公表され、「損益率」が「マイナス」(赤字)となった一般診療所が17.8%、歯科診療所が7.9%、「対前年度増減」で「マイナス」(経営悪化)となった一般診療所が56.4%、歯科診療所が49.3%と半数を占めることが判明した。早くも財政制度等審議会で、診療報報酬の本体マイナスが提唱されたが、それでは皆保険で全国事業の医療提供に支障を来す。医療の再生産や、患者へ提供する医療の質、医療基盤の安定を保障するものが診療報酬である。われわれは医療の持続可能性を高め患者・医療者に希望の「灯」をともすためマイナス改定に反対しプラス改定を強く求める。

◆保険診療費の中央値(医科診療所5,000万円、歯科診療所2,500万円)周縁の損益差額の提示を

 医療経済実態調査は診療報酬の「改定率」の斟酌指標とするため実施される。そこで見られるべきは「保険診療収入」と「費用」、「損益差額」(=「医業等収入―医業等費用」)である。ただ、調査結果はいくつか問題がある。(1)前回の調査方法の変更で連続する事業年度対比となったが、事業年度終期が前回改定年度(H26年度)内に1カ月でもあればH26年度データと処理するため、実際の改定年度の影響は4割程度しか反映しない。(2)また疑義解釈の混乱や経営方針変更がある改定年度と落ち着きを見せている前年度の対比は妥当性に疑問が残る。(3)「全体」の損益差額は「個人立」の院長給与を含んだまま平均化した数値である。これらの点の考慮は最低限、必要がある。

 旧来にならい改定年度対比でみると、医科診療所(無床)は損益差額が232.4万円増(+13.5%)となる。保険診療収益を583.6万円増と伸ばし、医業等費用の306.8万円増を上回った結果であるが、注目は保険診療収益の1億573.8万円である。H25年度の医科診療所(無床と有床)の1施設あたり保険診療費は中央値で7,417万円、最頻値で5,000万円であり(厚労省「医療費の動向」)、現実との乖離が大きく「代表値」として相応しくない。損益率の悪化を示す内実が浮き彫りにならない。

 一方、歯科診療所は損益差額を170.9万円増(+17.3%)としているが、これは主に給与費や福利厚生費や消耗品費などその他の医業費用を▲127万円(▲3.3%)と切り詰めた結果である。前回指摘した自費診療などの「その他診療収益」や産業医などの「その他医業収益」への依存度はこれらの収益が減額しても15.5%と高い。保険診療収益の4,113.2万円は、医科同様に中央値3,242万円、最頻値2,500万円はおろか平均値3,883万円よりも遥かに高い。現実の経営悪化は推して知るべしとなる。

 損益差額の最頻値データにみる保険診療収益も医科診療所で8,040万円、歯科診療所で2,968万円と先の中央値よりも高く分散の平均である。中央値周縁の医療機関の集計データの提示は必須である。

◆骨太方針による▲3.5%改定?の懸念 中医協発表前の先行報道、財政審での路線づくりは言語道断

 医療は「生活圏」で提供される。損益率の悪化へのマイナス改定は医療機関のそこでの存立を危うくする。それだけにとどまらない。患者1人あたり医療費(月)は、医科外来で13,263円(H25年)から13,251円(H26年)へと▲0.1%、歯科で12,654円(同)から12,532円(同)へと▲1.0%下げている(「社会医療診療行為別調査」)。医科診療所は1施設の受診延べ日数が▲0.4%(H26年度)と患者数減少の中での医療資源の投入量の減となっている。診療報酬は患者に提供される医療の質と表裏一体であり、医療者の給与に議論は矮小化すべきではない。「骨太方針2015」で今後5年間1.9兆円の社会保障費の削減が示されている(二木立・日本福祉大学長)。単純平均で年3,800億円を次年度改定で実現するとすれば▲3.5%相当となる。地域包括ケアのネットワークの確立のためにも土台となる診療報酬はマイナス改定とすべきではない。この間の中医協発表前の先行報道、財政審でのマイナス改定提唱の既定路線作りは言語道断である。われわれは改めてプラス改定を求める。

2015年11月9日

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