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2013/7/1 政策部長談話「『保険商品の現物給付解禁』に改めて抗議する 保険会社との提携、『集合契約』での皆保険の蚕食を警鐘する」

「保険商品の現物給付解禁」に改めて抗議する

保険会社との提携、「集合契約」での皆保険の蚕食を警鐘する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 金融庁は6月7日、報告書をとりまとめ、保険商品の事実上の現物給付の解禁を決めた。これは「直接支払いサービス」という。民間医療保険「商品」を例にとれば保険会社が「提携」する医療機関を顧客に「紹介」し、そこで治療した際に保険金を顧客ではなく、医療機関に支払うものだ。いわば、健康保険の「保険者」が「保険会社」となった民間版「健康保険」となる。われわれは、医療現場の混乱、皆保険の形骸化につながる、この金融庁の政策判断に断固抗議するとともに、今後、医療界がこれへの対応、判断で慎重を期すべきだと考え、警鐘する。

 金融庁は「直接支払いサービス」は保険金の「代理受領」であり、法律改定は不要と整理。財・サービスの現物ニーズはこれで「全て整理できる」「現物給付に近い方法で提供することが可能」との認識を示し、報告書はその旨の明確化のためのものとした。関連する顧客への情報提供とその体制整備を保険業法改定で盛り込み、2014年スタートにむけ環境整備を図るとした。

 6月11日には早速、金融庁はホームページに報告書の概要版を掲載。そこには「新しい保険商品の販売」として、「提携事業者による財・サービスの提供がキャッシュレスで受けられる保険」と露骨に明示された。これが、生保・損保業界が狙っていた「正体」であり、過去に頓挫した「現物給付」の復活、実現であることは明白である。「提携」と「紹介」により疑似的な現物給付商品を誕生させたのである。

 この「直接支払いサービス」は、財・サービスを約定せず、インフレリスクを保険会社がとる必要がなく、提携する医療機関の医療内容に言及しそれを「武器」に商品募集ができる。金融庁も複雑な監督責任を負わずにすむ。つまりは顧客が抱く、保険会社系列の医療機関からの「サービス提供」との「錯覚」と、この「新商品」登場へ膨らむ「期待」を逆利用するものである。トラブルの頻発は容易に想像できる。なお「現物給付は将来の課題」と報告書にあるが、金融庁がいうように無理に法改定の難題を負わずともこれで所期の目的が達成されており、「現物給付商品ではない」との医療関係者の誤解と楽観は禁物である。

 報道では、葬儀・介護の見出しが躍ったが、審議会作業部会の議論では初回に生命保険協会より、このスキームで医療の患者負担の補填をやらせてほしいと提案され、度々、医療への介入を明記した資料提案が続けられてきた。医療が本丸なのは疑いようがない。

 ひた隠しにされたのは、過去にわれわれの運動により、「療養の給付(医療や治療)」は現物給付商品の対象としないと07年11月に法制審議会で結論づけられ、国会答弁もなされているからである。

 実際の姿だが、患者は、保険会社のホームページで提携先医療機関を「検索システム」で確認し受診、病院で健康保険証と併せ「民間保険証」を提示、病院の側は取扱い民間保険のステッカーの貼付、病院と保険会社のオンラインでの受診報告と請求・支払い―等となる

 このシステム導入に際し生命保険協会は「キャッシュレス」を宣伝文句にしてきており、定額の保険金は患者負担を補填する医療費連動型に早晩シフトし、高額な通院への適応、新商品の開発も射程に入る。顧客の「便利」が強調され、新たな需要が喚起されることになる。

 保険会社は提携する病院の数を順次増やし「囲い込み」と「選別」を図り、ある段階で、保険ルールや審査に縛られない医療内容に応じた商品開発に進む。自由診療の商品化は何も保険外併用療養の先進医療に限定はされない。糖尿病などの生活習慣病治療、補綴治療も対象となる。前者は過去に損保商品で計画されている。先進医療は先進医療特約保険が全額カバーし、代理受領での運用もなされている。新たな展開が問題である。

 しかも、財政制度審議会委員が保険給付範囲を縮小・保険外化し、「選定療養」として民間医療保険が丸々補填することを提案しているだけに予断は禁物である。次期診療報酬改定に向け、保険収載の学会要望が出されているが、「落選」した医療技術等が「選定療養」でメニュー化された場合は、状況が違ってくる。現在、保険局医療課の課長補佐には、東京海上日動火災からの出向者が就いている。

 このように健康保険の給付範囲の縮少と補完関係となる。行き着く先は映画「シッコ」に見る管理医療だが、皆保険の日本で米国の惨劇がすぐ来るわけではない。

 公的保険・民間保険の混在による医療秩序の破壊がなされ、将来的には経済格差による患者間ならびに医療機関の間の分断と階層化が招来される危険性が高い。医療機関が保険会社の「系列下」として巻き込まれていく点が、これまでの動きと決定的に違う点である。

 つまり、医療機関の対応が将来の帰趨を決することになる。ただ民間医療保険は50社163商品と多岐にのぼり、個々の医療機関と保険会社が「個別契約」を結ぶのは現実的ではなく「集合契約」を結ぶとみられる。この点では既に先進医療特約保険との結合した医療機関や、医療費用の工面などを指南する「金融コンシェルジュ」の設置を決めた都内の病院もあり、保険会社と医療機関の「結託」「結合」にどう医療界が向き合うかが肝要である。

 民間医療保険は利益を得る「商品」であるが、健康保険は社会保障の「制度」であり、ここが決定的に違う。TPP襲来の前に、この民間版「健康保険」は、皆保険を蝕み、形骸化させる巧妙複雑な仕掛けである。この危険性の国民的周知、世論化とともに、医療界の賢明な判断と対応を期待したい。

2013年7月1日

 

「保険商品の現物給付解禁」に改めて抗議する

保険会社との提携、「集合契約」での皆保険の蚕食を警鐘する

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


 金融庁は6月7日、報告書をとりまとめ、保険商品の事実上の現物給付の解禁を決めた。これは「直接支払いサービス」という。民間医療保険「商品」を例にとれば保険会社が「提携」する医療機関を顧客に「紹介」し、そこで治療した際に保険金を顧客ではなく、医療機関に支払うものだ。いわば、健康保険の「保険者」が「保険会社」となった民間版「健康保険」となる。われわれは、医療現場の混乱、皆保険の形骸化につながる、この金融庁の政策判断に断固抗議するとともに、今後、医療界がこれへの対応、判断で慎重を期すべきだと考え、警鐘する。

 金融庁は「直接支払いサービス」は保険金の「代理受領」であり、法律改定は不要と整理。財・サービスの現物ニーズはこれで「全て整理できる」「現物給付に近い方法で提供することが可能」との認識を示し、報告書はその旨の明確化のためのものとした。関連する顧客への情報提供とその体制整備を保険業法改定で盛り込み、2014年スタートにむけ環境整備を図るとした。

 6月11日には早速、金融庁はホームページに報告書の概要版を掲載。そこには「新しい保険商品の販売」として、「提携事業者による財・サービスの提供がキャッシュレスで受けられる保険」と露骨に明示された。これが、生保・損保業界が狙っていた「正体」であり、過去に頓挫した「現物給付」の復活、実現であることは明白である。「提携」と「紹介」により疑似的な現物給付商品を誕生させたのである。

 この「直接支払いサービス」は、財・サービスを約定せず、インフレリスクを保険会社がとる必要がなく、提携する医療機関の医療内容に言及しそれを「武器」に商品募集ができる。金融庁も複雑な監督責任を負わずにすむ。つまりは顧客が抱く、保険会社系列の医療機関からの「サービス提供」との「錯覚」と、この「新商品」登場へ膨らむ「期待」を逆利用するものである。トラブルの頻発は容易に想像できる。なお「現物給付は将来の課題」と報告書にあるが、金融庁がいうように無理に法改定の難題を負わずともこれで所期の目的が達成されており、「現物給付商品ではない」との医療関係者の誤解と楽観は禁物である。

 報道では、葬儀・介護の見出しが躍ったが、審議会作業部会の議論では初回に生命保険協会より、このスキームで医療の患者負担の補填をやらせてほしいと提案され、度々、医療への介入を明記した資料提案が続けられてきた。医療が本丸なのは疑いようがない。

 ひた隠しにされたのは、過去にわれわれの運動により、「療養の給付(医療や治療)」は現物給付商品の対象としないと07年11月に法制審議会で結論づけられ、国会答弁もなされているからである。

 実際の姿だが、患者は、保険会社のホームページで提携先医療機関を「検索システム」で確認し受診、病院で健康保険証と併せ「民間保険証」を提示、病院の側は取扱い民間保険のステッカーの貼付、病院と保険会社のオンラインでの受診報告と請求・支払い―等となる

 このシステム導入に際し生命保険協会は「キャッシュレス」を宣伝文句にしてきており、定額の保険金は患者負担を補填する医療費連動型に早晩シフトし、高額な通院への適応、新商品の開発も射程に入る。顧客の「便利」が強調され、新たな需要が喚起されることになる。

 保険会社は提携する病院の数を順次増やし「囲い込み」と「選別」を図り、ある段階で、保険ルールや審査に縛られない医療内容に応じた商品開発に進む。自由診療の商品化は何も保険外併用療養の先進医療に限定はされない。糖尿病などの生活習慣病治療、補綴治療も対象となる。前者は過去に損保商品で計画されている。先進医療は先進医療特約保険が全額カバーし、代理受領での運用もなされている。新たな展開が問題である。

 しかも、財政制度審議会委員が保険給付範囲を縮小・保険外化し、「選定療養」として民間医療保険が丸々補填することを提案しているだけに予断は禁物である。次期診療報酬改定に向け、保険収載の学会要望が出されているが、「落選」した医療技術等が「選定療養」でメニュー化された場合は、状況が違ってくる。現在、保険局医療課の課長補佐には、東京海上日動火災からの出向者が就いている。

 このように健康保険の給付範囲の縮少と補完関係となる。行き着く先は映画「シッコ」に見る管理医療だが、皆保険の日本で米国の惨劇がすぐ来るわけではない。

 公的保険・民間保険の混在による医療秩序の破壊がなされ、将来的には経済格差による患者間ならびに医療機関の間の分断と階層化が招来される危険性が高い。医療機関が保険会社の「系列下」として巻き込まれていく点が、これまでの動きと決定的に違う点である。

 つまり、医療機関の対応が将来の帰趨を決することになる。ただ民間医療保険は50社163商品と多岐にのぼり、個々の医療機関と保険会社が「個別契約」を結ぶのは現実的ではなく「集合契約」を結ぶとみられる。この点では既に先進医療特約保険との結合した医療機関や、医療費用の工面などを指南する「金融コンシェルジュ」の設置を決めた都内の病院もあり、保険会社と医療機関の「結託」「結合」にどう医療界が向き合うかが肝要である。

 民間医療保険は利益を得る「商品」であるが、健康保険は社会保障の「制度」であり、ここが決定的に違う。TPP襲来の前に、この民間版「健康保険」は、皆保険を蝕み、形骸化させる巧妙複雑な仕掛けである。この危険性の国民的周知、世論化とともに、医療界の賢明な判断と対応を期待したい。

2013年7月1日