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政策部長談話 「倫理指針の遵守が危うい『患者申出療養』 未確立な再生医療・医療機器使用の跋扈を懸念する」

倫理指針の遵守が危うい「患者申出療養」

未確立な再生医療・医療機器使用の跋扈を懸念する

 

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 5月13日より医療改革関連法案の審議は参院に舞台を移す。衆院の国会論戦を通じても、患者申出療養への疑問や不安、懸念は一向に払拭されず、逆に混迷の度合いを深めている。管理された混合診療、保険外併用療養の第3類型となる「患者申出療養」は、臨床研究の倫理指針の遵守が形骸化し、未確立な医療の混合診療が跋扈する危険性が高い。この撤回を求めるとともに参院議論に期待したい。

 

◆「選択療養」から派生した「患者申出療養」の相違

 「患者申出療養」は、規制改革会議が提案した「選択療養」から派生したものである。当初の「選択療養」は、患者と医療機関が「診療計画」を策定し、何でも混合診療を認める「無謀」なものであった。これを、臨床研究中核病院の介在と、「実施計画」策定により、「実害」を極力最小限に留めようと、関係機関、関係団体が努力し「落着」したものが、「患者申出療養」である。

 これは従来の先進医療(評価療養)の延長線上にあり、「患者起点」と実施の「迅速化」が、異なる点である。先進医療は既に、未確立な医療、治験の俎上に載らない未承認薬との混合診療を「先進医療B」として臨床研究の倫理指針(現「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」)の範疇で認めている。よって患者申出療養でいう「実施計画」は臨床研究の倫理指針に基づく、科学的統計学的に安全性・有効性を「検証」するためにデザインされたプロトコル(実施計画)と当然、解され、国会論戦でも大臣ならびに局長答弁はそれを下敷きとした内容に基本的にはなっている。

 しかしながら、必ずしもそれに合致しない制度内容や事実が露見しており、倫理指針からの逸脱が非常に危惧される。

 

◆「実施計画」を巡る同床異夢への心配と自由診療の浸食の危険

 患者申出療養は、第一に、「実施計画」の被験者(患者)の選定基準に外れる、「適格基準外」の患者への実施が予定されている。この症例データは「実施計画」から逸れ、検証の対象とならない。実施計画の条件づけがない、混合診療となる。逆に対象とするには「実施計画」の修正が余儀なくされ、度重なると実施計画が杜撰なものとなる。

 第二に、同様に未承認薬を製品化するための治験(臨床試験)での、実施計画の適格基準外の被験者(患者)への実施である。これもまた実施計画の策定がない混合診療である。国会審議では人道的使用(コンパッショネートユース)にも該当しない例があるとされたが、狐につままれた感がある。

 第三に、先進医療で実施計画の作成に至らなかったものを対象としている。これは完全に論理矛盾を来しており、実施計画はどうするのか非常に不思議である。

 第四に、国立がん研究センターが、4月3日、患者申出療養の対象候補として抗癌剤42剤をホームぺージで公表したが、「実施計画」の策定が前提であるので、現在の「先進医療B」の枠組みでもそれは同様であり、とりたてて取り上げている意味合いが却って「実施計画」の差を想起させる。

 第五に、現在の先進医療の対象の医療技術であっても、この患者申出療養として対象とすることが可能となっている。これにより先進医療Bに比して、「実施計画」の審査の迅速化(ショート・カット)が図られ、また実施施設が厳格な「施設基準」に拘束されず数が増え、実施水準・質が変化し「実施計画」の複線化となる。

 第六に、実施計画の審査が6カ月から6週間に極端に短縮することで、その妥当性の判断が担保されるのか、「共同研究」名目での他施設実施の体制判断を2週間で行うことで第二例目以降に関し、安易な実施、拡散に連動し、「実施計画」の形骸化となる懸念が強い。

 第七に、初回実施例に関し、「実施計画」を策定し申請した臨床研究中核病院が必ずしも、実施しなくともよいと留保されており、この点でも疑問が尽きない。

 総じて、「実施計画」の位置付けが非常に軽んじられた立て付けとなっている感は否めない。

 そもそも、患者申出療養の前身の選択療養は、“安全性・有効性のない自由診療を政府が公認するもの”と難病患者団体に、その本質を鋭く衝かれ今日に至っている。しかし、上記の事実は、患者申出療養は、未確立な医療との混合診療であり、明らかに臨床研究の倫理指針からも外れる、自由診療の色合いがとても濃いものである。倫理指針の担保は、最低限あるべきだ。

 当初、規制改革会議が「診療計画」として提案したものが、「実施計画」と変わったが、これは全くの別物で、両者には雲泥の差がある。制度の鍵を握る、臨床研究中核病院は、これまでの予算事業から医療法に位置づけられるものとなった。過日、その要件が公表されたが、その中の実績要件は医師主導治験4件、多施設共同医師主導治験2件(以上、過去3年)、他施設支援での実施計画(プロトコル)作成・データ解析・モニタリング支援計15件(年)等であり、この水準は候補16病院にとって非常にハードルが高いとされている。

 

◆未承認薬に限定はされていない 国会議論の陥穽

 国会論戦では、未承認薬が患者申出療養の対象と想定した議論が展開されたが、必ずしも対象は限定されていない。既に先進医療Bは実施48種類のうち、未承認薬に関するものは半数以下であり、手術や治療法、手術支援ロボットの使用が並んでいる。また、国家戦略特区で保険外併用療養の特例措置として、先進医療の実施審査の迅速化(6カ月を3カ月に短縮)が行われているが、これも同様だ。特例は「米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ若しくはオーストラリアにおいて承認を受けている医薬品等であって、日本においては未承認の医薬品等又は日本において適応外の医薬品等を用いる技術すべてを対象として、保険外併用療養に関する特例を活用し、迅速に先進医療を提供できるようにする。」とあり、あたかも未承認薬・適応外薬の関連に重きがあるように読める。が、実際は▽画像下治療(がんの低侵襲治療)、▽生体電位駆動型ロボットを活用した身体機能回復、▽大腸腫瘍に対する腹腔鏡・内視鏡合同結腸楔状切除術、▽全身性エリテマトーデスに対するミコフェノール酸療法、▽難治性関節リウマチに対するリツキシマブ療法などが特例対象となっており、未承認薬以外のものが「等」の解釈で入っているのである。

 患者申出療養も審議会資料で未認薬を主に記載され、そこに議論が集中しているが、「枕詞」の感があり、実施内容は広がりをもっている。よって、再生医療製品や手術支援ロボットも対象となる。

 患者申出療養は安倍政権の経済政策の第三の矢、成長戦略の一環として提案されており、再生医療の重点化は2013年の日本再興戦略に位置づいており、世界一迅速に製品化、「実用化」ができるように法改定が一昨年行われている。規制改革会議の委員には再生医療製品の会社の創業者が就いている。

 再生医療製品は、有効性の「推定」レベルで一旦、条件付き・期限付き承認で製品化され、7年間の間に再度、正式承認の申請となる。有効性の「確定」と違い、数千例の症例データは不要で、数十例の症例データで製品化が可能となっており、迅速に実施が拡散される患者申出療養は最適となる。 

 また手術支援ロボットは、国家戦略特区の近未来技術実証特区検討会で前立腺以外の臓器への適応で議論が重ねられている。

 そのほか、国家戦略特区で病床規制の特例措置が講じられている、免疫細胞療法やバイオセラピー(がん免疫療法)なども、成長戦略の枠組みから患者申出療法の候補として浮上する可能性が高い。

 

◆医療秩序の破壊、混乱は修復不可能

 研究段階の医療はその性格、意味合いからも通常医療とは違う。皆保険のルールの下での保険診療と峻別すべきである。保険診療の延長の保険外併用療養の適応は、患者を眩惑させ、過度な期待や誤解などを生じさせかねない。医療事故調査制度の始動も控えるだけに、無用な秩序の混乱は、予想外の副次的作用、混乱を招きかねない。覆水盆に返らず、となる。

 われわれは改めて、患者申出療養の撤回を強く求める。

2015年5月11日