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2019/5/20 政策部長談話 「医師労働の『7%以上』効率化提案は疑問 働き方改革への逆行を問う」

医師労働の「7%以上」効率化提案は疑問

働き方改革への逆行を問う

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


◆厚労大臣が諮問会議で提案 医療費抑制の梃への懸念

 根本厚労相は4月10日、医師労働の7%以上の業務効率化を経済財政諮問会議に提案した。ICT活用等で代替を図るとし、その進捗評価の指標も示した。これは病院勤務医だけの話ではない。診療所の医師も対象としている。われわれは、現場実態を踏まえない、この提案は荒唐無稽であり、この業務効率化が医療費抑制と連動し、その梃となることを懸念している。実態を踏まえた再考を強く求める。

◆夏に「医療・福祉サービス改革プラン」 ICT利用等で効率化

 経済財政諮問会議の席上、根本厚労相は、夏にまとめる「医療・福祉サービス改革プラン」を説明。2040年時点で医師に関し「7%以上」の業務効率化を目指すとし、医療分野全体では「5%以上」の業務効率を図るとした。このプランは、労働力制約が強まる中での医療・福祉サービスの確保を命題としている。つまり、医師の働き方改革による、総労働時間の削減、圧縮への対応である。

具体的には、医師に関し、▽医療記録▽医療事務▽院内の物品運搬などが、「ICT、ロボットの活用」で代替可能とし、この業務時間が平均労働時間の4.8%。これに、▽患者説明・合意形成▽血圧等の基本的なバイタル測定・データ取得-などの「他職種移管」が想定されるものを含めて業務時間が平均労働時間の7.2%を占めると提示。厚労省はこれをもとに「7%以上」の業務効率化と打ち出した。

◆危険、労働強化の指標KPI

 あわせて厚労相は、医師の業務効率化の進捗の評価、時間単位の医療サービス提供の改善度合いを測る指標KPI(key performance indicator:重要業績評価指標)も提示。

 入院医療については<「1日平均新規入院患者数」÷「病院の医師数×労働時間」>とし、外来医療(在宅医療含む)については、<「診療所の外来患者数」÷「診療所の医師数×労働時間>とするとした。要は、医師1人の単位時間当たりの患者数増が効率化、改善度の指標となる。

 この業務効率7%の数値の根拠となっているのは厚労省の研究班による「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査研究」で、この調査対象は勤務医である。

 この実態値を診療所の開業医にも敷衍し、さらに企業同様の重要業績評価指標(KPI)の概念を医師労働に持ち込み、単位時間当たりの患者数の「増加分」で成績評価を想定しているのである。

◆医療の総需給が問題、開業医労働は不問の医師の働き方改革

 勤務医に関し、原則960時間の時間外労働を上限とし、2024年に向け、各病院が労働時間短縮計画を策定し取り組むことになっている。救急医療などの地域医療確保の暫定特例水準1860時間も2024年度に廃止の方向にある。2割が過労死ラインの倍の1920時間を越え、4割が過労死ラインを超える、勤務医労働、日本の医療の現状は大きく動くことになる。

 この医師労働の議論の前提である医師需給推計は時間外960時間で、2028年に均衡するとしている。ただこの推計の外来需給は開業医の数と労働時間で試算されている。医療の総需要と総供給の検討の話である。よって欠落している開業医の働き方に関し当協会は調査し1/4が過労死ライン超と明らかにした。マスコミの反響も大きく、医師の働き方改革検討会報告書には、この報告書の医師とは「勤務医」であると「脚注」が入ったが、開業医労働については依然と不問のまま、今回の業務効率化が提案されている。

◆業務効率の限界点 開業医労働の実態・実情把握が施策の前提

 開業医は他の自営業と同列に論じられない。医療は法律により、国家資格の医師を起点とした診察、診療により展開されなければならない。ほかの自営業と違う特殊性があり、社会保険医療の事業を制度的にも国から負託を受け、保険者から医療提供を準委任されている。地域密着で経営しており、患者を前に機械的に時間で診療所を閉めるとはなりにくい。このことの不理解は禁物である。

 診療所の開業医は、少人数経営であり、ICT、ロボット活用での医療記録や医療事務の業務効率化は簡単に進むとは考えにくい。他職種移管も、移管する人員がいない。現在も、ICT化や看護師の予診など、できることは大方、行われている。

 夥しい、診療報酬の算定要件での記録書類や、介護保険の主治医意見書、生命保険関連の診断書などの、簡素化、簡略化、代行作成などの措置がとられなければ効率化は無理である。

 また、疾病・治療の個別性が高く、患者の理解度・理解力、記憶力が一様ではない中、患者説明など業務移管も限度がある。

 まずは、開業医労働の実態と開業医の診療所経営の実情をよく把握することが先決である。

 更に言えば、いまガイドラインが見直しをされているオンライン診療(われわれはスマホ診療への劣化を心配している)が、医師労働の軽減になると考えているとすれば論外である。

◆角を矯めて牛を殺すに等しい、医師労働の業務効率化提案の撤回を

 その上で、KPIの導入は問題が大きい。医師1人の単位時間当たりの患者数増を業務効率化の指標とすることは、素直に考えれば労働密度があがることであり、労働強化となる。患者は生体であり、診療は個別対応サービスであり、商品生産や定型的サービスの提供とは違うのである。

 医師労働の改善のために、医師の人員を大幅に増やすのであれば、10年以上の時間を要し、また医師給与を保障する医療費増とそれが成り立つ保険料・税金・患者負担の負担増を国民に引き受けてもらう必要がある。

 一方、医師人員を大幅増員としないのであれば、医療需要を管理・縮小するため、患者の受療行動の交通整理とかかり方についての理解と制約が必要になる。

 このジレンマ、トリレンマの中で、医師の働き方改革が動き出している。方法論や方策、財源抜きの労働時間短縮議論はありえない。かといって、現実実態を無視した施策もありえない。

 厚労大臣の提案は、医師の働き方改革に水を差し、それに逆行し、角を矯めて牛を殺すに等しい。しかも、業務効率化指標の独り歩きや、診療報酬の算定要件への組み入れなどとなれば、より歪んだ形での医療費抑制となりかねない。

 われわれは、厚労相の医師の業務効率化提案とKPI指標導入に反対し、再考を強く求める。

2019年5月20日

医師労働の「7%以上」効率化提案は疑問

働き方改革への逆行を問う

神奈川県保険医協会

政策部長  桑島 政臣


◆厚労大臣が諮問会議で提案 医療費抑制の梃への懸念

 根本厚労相は4月10日、医師労働の7%以上の業務効率化を経済財政諮問会議に提案した。ICT活用等で代替を図るとし、その進捗評価の指標も示した。これは病院勤務医だけの話ではない。診療所の医師も対象としている。われわれは、現場実態を踏まえない、この提案は荒唐無稽であり、この業務効率化が医療費抑制と連動し、その梃となることを懸念している。実態を踏まえた再考を強く求める。

◆夏に「医療・福祉サービス改革プラン」 ICT利用等で効率化

 経済財政諮問会議の席上、根本厚労相は、夏にまとめる「医療・福祉サービス改革プラン」を説明。2040年時点で医師に関し「7%以上」の業務効率化を目指すとし、医療分野全体では「5%以上」の業務効率を図るとした。このプランは、労働力制約が強まる中での医療・福祉サービスの確保を命題としている。つまり、医師の働き方改革による、総労働時間の削減、圧縮への対応である。

具体的には、医師に関し、▽医療記録▽医療事務▽院内の物品運搬などが、「ICT、ロボットの活用」で代替可能とし、この業務時間が平均労働時間の4.8%。これに、▽患者説明・合意形成▽血圧等の基本的なバイタル測定・データ取得-などの「他職種移管」が想定されるものを含めて業務時間が平均労働時間の7.2%を占めると提示。厚労省はこれをもとに「7%以上」の業務効率化と打ち出した。

◆危険、労働強化の指標KPI

 あわせて厚労相は、医師の業務効率化の進捗の評価、時間単位の医療サービス提供の改善度合いを測る指標KPI(key performance indicator:重要業績評価指標)も提示。

 入院医療については<「1日平均新規入院患者数」÷「病院の医師数×労働時間」>とし、外来医療(在宅医療含む)については、<「診療所の外来患者数」÷「診療所の医師数×労働時間>とするとした。要は、医師1人の単位時間当たりの患者数増が効率化、改善度の指標となる。

 この業務効率7%の数値の根拠となっているのは厚労省の研究班による「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査研究」で、この調査対象は勤務医である。

 この実態値を診療所の開業医にも敷衍し、さらに企業同様の重要業績評価指標(KPI)の概念を医師労働に持ち込み、単位時間当たりの患者数の「増加分」で成績評価を想定しているのである。

◆医療の総需給が問題、開業医労働は不問の医師の働き方改革

 勤務医に関し、原則960時間の時間外労働を上限とし、2024年に向け、各病院が労働時間短縮計画を策定し取り組むことになっている。救急医療などの地域医療確保の暫定特例水準1860時間も2024年度に廃止の方向にある。2割が過労死ラインの倍の1920時間を越え、4割が過労死ラインを超える、勤務医労働、日本の医療の現状は大きく動くことになる。

 この医師労働の議論の前提である医師需給推計は時間外960時間で、2028年に均衡するとしている。ただこの推計の外来需給は開業医の数と労働時間で試算されている。医療の総需要と総供給の検討の話である。よって欠落している開業医の働き方に関し当協会は調査し1/4が過労死ライン超と明らかにした。マスコミの反響も大きく、医師の働き方改革検討会報告書には、この報告書の医師とは「勤務医」であると「脚注」が入ったが、開業医労働については依然と不問のまま、今回の業務効率化が提案されている。

◆業務効率の限界点 開業医労働の実態・実情把握が施策の前提

 開業医は他の自営業と同列に論じられない。医療は法律により、国家資格の医師を起点とした診察、診療により展開されなければならない。ほかの自営業と違う特殊性があり、社会保険医療の事業を制度的にも国から負託を受け、保険者から医療提供を準委任されている。地域密着で経営しており、患者を前に機械的に時間で診療所を閉めるとはなりにくい。このことの不理解は禁物である。

 診療所の開業医は、少人数経営であり、ICT、ロボット活用での医療記録や医療事務の業務効率化は簡単に進むとは考えにくい。他職種移管も、移管する人員がいない。現在も、ICT化や看護師の予診など、できることは大方、行われている。

 夥しい、診療報酬の算定要件での記録書類や、介護保険の主治医意見書、生命保険関連の診断書などの、簡素化、簡略化、代行作成などの措置がとられなければ効率化は無理である。

 また、疾病・治療の個別性が高く、患者の理解度・理解力、記憶力が一様ではない中、患者説明など業務移管も限度がある。

 まずは、開業医労働の実態と開業医の診療所経営の実情をよく把握することが先決である。

 更に言えば、いまガイドラインが見直しをされているオンライン診療(われわれはスマホ診療への劣化を心配している)が、医師労働の軽減になると考えているとすれば論外である。

◆角を矯めて牛を殺すに等しい、医師労働の業務効率化提案の撤回を

 その上で、KPIの導入は問題が大きい。医師1人の単位時間当たりの患者数増を業務効率化の指標とすることは、素直に考えれば労働密度があがることであり、労働強化となる。患者は生体であり、診療は個別対応サービスであり、商品生産や定型的サービスの提供とは違うのである。

 医師労働の改善のために、医師の人員を大幅に増やすのであれば、10年以上の時間を要し、また医師給与を保障する医療費増とそれが成り立つ保険料・税金・患者負担の負担増を国民に引き受けてもらう必要がある。

 一方、医師人員を大幅増員としないのであれば、医療需要を管理・縮小するため、患者の受療行動の交通整理とかかり方についての理解と制約が必要になる。

 このジレンマ、トリレンマの中で、医師の働き方改革が動き出している。方法論や方策、財源抜きの労働時間短縮議論はありえない。かといって、現実実態を無視した施策もありえない。

 厚労大臣の提案は、医師の働き方改革に水を差し、それに逆行し、角を矯めて牛を殺すに等しい。しかも、業務効率化指標の独り歩きや、診療報酬の算定要件への組み入れなどとなれば、より歪んだ形での医療費抑制となりかねない。

 われわれは、厚労相の医師の業務効率化提案とKPI指標導入に反対し、再考を強く求める。

2019年5月20日