スマートフォン版へ

  1. HOME
  2. 神奈川県保険医協会とは
  3. 私たちの考え
  4. 政策部長談話 「紹介状なし初診患者は大病院の外来患者の3%に過ぎない 5,000円徴収でも患者数に変化なし 選定療養の義務化に反対する」

政策部長談話 「紹介状なし初診患者は大病院の外来患者の3%に過ぎない 5,000円徴収でも患者数に変化なし 選定療養の義務化に反対する」

紹介状なし初診患者は大病院の外来患者の3%に過ぎない

5,000円徴収でも患者数に変化なし

選定療養の義務化に反対する

  

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 紹介状なしの大病院受診に関し、実際に5,000円以上を徴収している大学病院で外来患者数の大きな変動に繋がっていない実例が過日、全国医学部長大学病院長会議の調査として報告された。この大病院受診の5,000~1万円の徴収「義務化」が国会審議中だが、目的とする外来機能の分化、勤務医の負担軽減のための外来患者数の削減は、この方策では成しえないことが実証された格好だ。われわれは、過度な患者負担により受療行動の変容を強要し、患者の受療権を奪う、選定療養(差額徴収)の義務化に反対する。

 

◆5,000円以上の差額徴収でも、外来患者数は顕著な減少は見せず

 全国医学部長病院長会議が実施した、紹介状なしでの大病院受診の選定療養の実態調査によると、選定療養での徴収額を一定期間内で5,000円以上に引き上げた実際例で外来患者数が「横ばい」と大きな変動がないことが報告された。具体的には東邦大医療センター大森病院は、紹介状なし患者の選定療養を14年4月に3,150円から3,240円に、14年7月には5,400円に段階的に引き上げた。3,240円とした3カ月間の平均外来患者数(1日)は2,330人、5,400円に変更後は15年1月迄の7カ月間の平均外来患者数(1日)は2,317人で「横ばい傾向」となっている。選定療養の徴収件数は42.6件から32.9件の減少を見せているが、当該病院の病床数の倍近い外来患者数は不変である。(メディファクス2015.4.13)。厚労省が適正とする病床数の1.5倍への収斂策としての実効は甚だ疑問である。

 また、調査では5,000円以上徴収している大学病院本院が全施設の33.7%(80施設のうち27施設:今年3月時点)を占めており、これら先行例に関し顕著な外来患者数の減少については何も聞こえてこない。

 外来患者数は大学病院、大病院で経年的にみると減少傾向にあるが、それは各病院の紹介率、逆紹介率の向上に向けた広報や具体的取組み、診療報酬での減算措置の影響が大きく、これに重ねて患者3割負担以降の受診抑制が家計所得の減少と相まって作用しているのが現場実態である。

 

◆事実上の「受診時定額負担」導入、一体改革の規定路線

 2011年7月の「社会保障・税一体改革成案」(閣議報告)では、消費税10%を前提にした社会保障改革の具体策が示されている。「充実」と「重点化・効率化」の両面で各項目をメニュー化し、所要額を組み込んだ工程表となっている。この枠組みは「一体」であり、綻びは一体改革の頓挫、財政的欠損となる。2015年の「重点化・効率化」には「受診時定額負担」の導入とされ、▲1,300億円が見込まれている。

 今回の紹介状なしの大病院受診の5,000円~1万円の「定額」負担の「義務化」は、その先鞭である。しかも、患者負担は3割を限度とした健保法附則への抵触から、差額料金の選定療養を活用しており、いずれ初診料・再診料を引き下げ、保険給付の縮小へと連動することは現行の診療報酬から容易に想像がつく。つまり、保険給付からの外出しの差額での補填、「保険外し」プラス「差額徴収(選定療養)」の形をとった事実上の「受診時定額負担」である。

 

◆医療機関の「責務規定」の応用はパンドラの箱

 選定療養の「義務化」の難題も、健保法で保険医療機関の「責務規定」(健保法第70条)をいじる荒業でクリアした。大病院による患者の他への「紹介」と、「機能分担」、「業務連携」の「措置」を義務づけ、その措置内容を「療養担当規則」に盛り込み、それを圧して紹介状をもたずに受診する患者から“定率負担の額を超える(選定療養に定める)金額の支払いを受けるものとする”旨も療養担当規則で規定。保険外併用療養の「掲示事項告示」で選定療養のメニューを追加することとしている。

 一体改革成案では、2015年は外来受診の適正化等で▲1,200億円が予定されている。2025年には外来患者数が現行ベースより▲5%(=36.3万人/日:年間7800万人~1.3億人)と、膨大な数が予定されている。人口減少約800万人を勘案しても膨大な数であり、予防・保健活動の健康維持・回復には限界があり、自ずと経済制裁による健康保険からの「排除」が透けている。

 このツールとして、今回の手法はあらゆるタイプの受診時定額負担を際限なく展開するパンドラの箱となる。主治医がいない患者の受診、医療事故補償の保険に未加入者の受診など、あらゆる可能性が考えうる。

 今改定の本丸は、この新たな患者負担増、給付削減の仕組みの導入にあると思える

 

◆紹介状のない初診患者は外来患者の3%

すり替えられている紹介の議論 ポイントは再診患者

 実は病院の外来患者の90.2%は再診患者である(2011.10.5中医協資料)。初診患者は9.8%に過ぎず、その紹介率の多寡に重きをおき論じられているが、外来機能の分化、役割分担を図るのなら、本来は再診患者の縮小がポイントとならないとおかしい。特定機能病院、500床以上の病院の紹介率は各々40.6%、31.8%(2013.9.30中医協資料)であり、紹介状のない初診患者は外来患者の3%程度にすぎないのである。

 再診患者を縮小するためには、大病院から診療所への「逆紹介率」を上げていく必要があるが、中医協の調査(2013年度)で、逆紹介率が上がらない理由のトップは「医学的に逆紹介できる患者が少ない」(19.3%)である。次いで「地域に連携できる医療機関が少ない」(17.7%)、「患者数を確保するなど、経営上の理由があること」(15.4%)の順であり、軽症者云々という話ではない。

 ちなみに初診患者の紹介率を上げるための課題として「選定療養をとっていても、紹介状を持たない患者が多数受診すること」(30.6%)がダントツで挙げられており、経済的な枷での受療行動の変容は限界があることが示されている。

 この調査では紹介率、逆紹介率を高めるための新たな取り組みとして、「地域で広報活動をした」(38.0%)がトップ、「ほかの医療機関と事前に連携を行うようになった(33.3%)」が第2位で、この二つが多数を占める。第3位は「紹介状が必要な旨をホームページ等で情報提供した」(18.1%)であり、「選定療養を増額した」(4.5%)は第7位で少数となっている。

 つまり、選定療養の金額をいまの任意徴収で平均2,130円(最高8,400円:2013.7.1現在)のものを、5,000円に増額し固定化し、義務化することは、機能分担や外来患者の縮小、紹介率向上とは殆ど関係のない施策なのである。

 

 体調の異変の度合いやその後を考え、患者は医療機関を選択している。待ち時間や職場を休務すること、重症化した場合など判断には様々な要素がある。病診の診療単価の比較を挙げ低いものは診療所へという議論もあるが、これは「結果」論であり、大病院での治療の経過の中での「断面」の数値である。患者の多くは待ち時間が長く、診療単価が高い大病院を理由があって選択している。

 

 われわれは、患者・医療機関を欺き、受診の際の定額の差額料金を義務化する、紹介状なしでの大病院受診への選定療養の義務化に、医療者として強く反対する。

2015年4月24日