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2015/7/6 政策部長談話「骨太方針の社会保障費1.5兆円削減 受診時定額負担の拡大に反対する マイナス改定と受診抑制での給付圧縮は医療荒廃の道」

骨太方針の社会保障費1.5兆円削減 受診時定額負担の拡大に反対する

マイナス改定と受診抑制での給付圧縮は医療荒廃の道

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 骨太方針2015が閣議決定され、2018年度までの3年間の一般歳出増1.6兆円、社会保障費増1.5兆円を「目安」とし、歳出改革を断行するとした。公共サービス、社会保障の「営利産業化」を掲げるこの方針は、「削減額」が明示されないためか反発が目立ないが、実は小泉内閣時代を大幅に上回る規模となる。この間に2回の診療報酬改定を控えマイナス改定は必至であり、既に予告がなされている。しかも受診時定額負担の診療所での導入を念頭においており、医療機関、患者双方への「痛み」を強いることになる。われわれは医療荒廃をもたらす、この給付圧縮路線に強く反対する。

◆そもそも社会保障費の伸びの数字がオカシイ 消費税分の充実分は1.85兆円の筈

 骨太方針2015では、2012年度から15年度までの3年間の社会保障費(国庫負担)の実質的な「増額分」が、高齢化での増加分相当の「1.5兆円程度」であるとし、この基調を向こう3年間継続するとした。2015年度の社会保障費31.5兆円から12年度分28.9兆円を差し引き、その間の消費税増税による社会保障充実分を1.0兆円とし1.5兆円と弾いたものである。

 しかし、消費税での充実分は本来1.85兆円(14年度0.5兆円、15年度1.35兆円)である(社会保障制度改革推進本部・資料)。つまり、「真実」の増加分は「0.65兆円」(3年間)でしかない。これは単年度2,100億円と、これまでの高齢化を主とする1兆円~8千億円の増額基調を遥かに下回る。

 この間13年度は自立・自助を基調とする社会保障プログラム法制定、14年度は診療報酬実質▲1.36%改定、高齢者医療の患者2割負担導入、15年度は介護報酬▲2.27%改定、介護保険の利用者負担2割化(一部)とホテルコスト外しが行われてきた。これらに重ね個人所得の低迷の下で、従来の患者負担、利用者負担が、益々過重化していることが影響し、大幅な給付圧縮がなされたことになる。

 骨太方針により、この「基調」を15年度から18年度も踏襲される。つまり、これらと同類の施策の断行を意味する。今後の消費税の充実分(推定)は6兆円程度(16年度1.35兆円、17年度1.87兆円、18年度2.8兆円)となっており、この「充当」は一体改革の「約束」である。消費税率引き上げ5%分のうち1%分(2.7兆円)は社会保障の充実にあてることになっている(財務省HP)。

 しかし、既に見た通り、「充実分」を「過小」に見積り、数字の操作で社会保障費の実質増額分を誤魔化し圧縮の論拠とすることは想像に難くない。2月の「中長期の経済財政に関する試算」(経済財政諮問会議・資料)では、「充実分」は全て織り込まれておらず、逆に3年間で4兆円のマイナスギャップが生じている。消費税「充実分」と「補填分」を誤魔化した14年度診療報酬改定は、その典型である。3年間の高齢化伸び率10%分への対応が1.5兆円というのも過去の資料と齟齬がある。

 消費税による「充実分」の「中抜き」だが、法人税の20%台への引き下げが背景にある。今年度34.62%が32.11%へ引き下げられたが(影響額1兆2千億)、数年かけ20%台とする方向で当初税率から5%、2兆3,500億以上の減収となる。この穴埋めが浮上する。加えて、2020年度のプライマリーバランス黒字化への国債発行の減殺分への補填が働いている感がある。約束の「充実分」が、流用され、減らされていくということである。

◆診療報酬は▲5%超改定? 受診時定額負担は政策誘導の新たな「打ち出の小槌

 社会保障費の削減の主力は構成上、制度上から医療となる。この3年間に2度の診療報酬改定が控えるが、骨太方針2015に沿い報道観測の年5千億円削減だと、国庫で計1兆円(5千億円×2回)の▲10%改定に匹敵し、毎回ほぼ▲5%改定の壊滅的な打撃となる。正味の年8千億円なら1.6兆円で▲16%、毎回ほぼ▲8%であり、毎年1カ月分の保険収入が雲散霧消することになる。

 しかも、かかりつけ医の推進とセットでの受診時定額負担の導入が「検討」の文言ながら盛り込まれた。これは先般、国会で法律が成立し導入となった、紹介状なしでの大病院受診の際の定額負担(選定療養の義務化)の手法の応用が濃厚だ。健保法附則で患者負担は3割を維持とタガがはまっている中での荒技として考案されたが、法で「医療機関の責務」として紹介、連携を規定し、それを果たすために法定の定率負担を超えて、差額で定額負担の徴収を療養担当規則で義務づけたものだ。

 「かかりつけ医」とは、14年度診療報酬改定で導入された、「地域包括診療料」「地域包括診療加算」の算定医療機関であり、塩崎厚労大臣も次回改定に向け積極的な推進を明言している。この不算定の医療機関の場合に再診料を10点引き下げ、100円の受診時定額負担を選定療養として義務付ける。法の責務規定に診療所の役割を位置づけ、その要件を欠く場合の定額負担徴収が考えられる。

 「地域包括診療料」「地域包括診療加算」は、ゲートキーパー(振分け機能)型と違う"自己完結型"の「登録医」制である。受診医療機関の集約化の狙いも潜んでいる。この算定医療機関は、全診療所の6%(内科系診療所の10%)あり、診療所の初診・再診は年間109.5億回なので、定額負担100円とし再診料10円引き下げるとなれば、医療費1兆円弱(国庫で2,500億円)に相当する。この選定療養義務化は、実質的な受診時の定額負担、「上乗せ免責」であり、健保法を逸脱している。患者負担増の打ち出の小槌、政策誘導の新機軸ともなり受診抑制と医療機関の経営難を深化させるだけである。

◆産業化は医療からの「医師外し」路線 倒錯した政策は憲法25条の否定

 骨太方針2015は、これ以外にも、OTC類似薬の保険外し、生活習慣病薬への参照価格制導入、保険者によるデータヘルス(栄養士、理学療法士等による健康指導、介入)、健康ヘルス産業と結んだ健康作り(自助努力)による保険料の値引き(傾斜設定)やヘルスポイント(オマケ)付与、セルフメディケーションの推進、自己採血検査を医療機関以外に認める「検体測定室」の増加を睨んだ「かかりつけ薬局」との連結など、給付範囲見直し・縮小に止まらず、疾病リスクに応じた保険商品と同様の民間保険原理の導入・定着、医療からの医師の関与を部分的に外し、「企業」へと移譲させる布石も随所に見られる。ここで言われる「社会保障の産業化」は、「営利産業化」であり、社会保障費抑制が経済活性化に資するとする認識は、もはや「倒錯」以外の何ものでもない。憲法25条の否定である。

◆患者負担は限界 顕著な受診抑制窓口負担を解消し政策転換を

 社会保障費の極端な圧縮は、医療において顕著である。その主因は過重な患者負担による受診抑制にある。健保3割負担以降の受診延日数は一貫してマイナス基調であり、累積で、▲6.6%と大幅減である(03年度▲1.4%、04年度0.1%、05年度▲0.3%、06年度▲0.7%、07年度▲0.9%、08年度▲1.3%、09年度▲0.6%、10年度0.1%、11年度▲0.1%、12年度▲0.9%、13年度▲0.8%)。1施設あたりの受診延べ日数は同様の累積で医科診療所▲7.1%、歯科診療所▲6.5%と、第一線医療でより顕著である。患者の診療実日数(月単位)も診療所外来で03年度2.11日から14年度1.65日へと▲21.8%、歯科で03年度2.44日から1.92日へと▲21.3%と極端に落ち込んでいる。

 サラリーマンの平均給与は健保2割負担となった1997年の467万円がピークで、以降、凋落の一途で2013年度は414万円(非正規168万円)と50万円以上も下落(国税庁)。非正規労働者も当時の20%から37%に増加、1,962万人に上っている。日医調査(12年)では3割負担で66.5%、2割負担で58.3%の患者が過重感を訴え、経済的理由での過去一年間の未受診は双方で10%ずつあった。

 これ以上の受診時の負担増、保険給付縮小、民間保険化路線では早晩、医療荒廃は必至となる。内需の冷え込みは深刻となり財政再建は画餅に帰す。患者負担は受診の障壁、疾病自己責任の最たるものであり、貧困者はじめ経済的余裕のない層の病気を一層悪化させる愚策である。多くの先進国にならい、定率負担の撤廃、少額定額負担など痛痒を感じない水準も視野に、窓口負担を解消し、皆保険に相応しく、等しく受診の機会を保障すべきである。そのために応能負担の徹底、所得再分配の強化を図ることが王道であり、それこそが社会不安の解消、経済活性に繋がる道である。骨太方針2015は単なるコストシフティングと、社会保障への営利参入である。われわれは骨太方針2015の撤回、方針転換を強く求める。

2015年7月6日

骨太方針の社会保障費1.5兆円削減 受診時定額負担の拡大に反対する

マイナス改定と受診抑制での給付圧縮は医療荒廃の道

神奈川県保険医協会

政策部長 桑島 政臣


 骨太方針2015が閣議決定され、2018年度までの3年間の一般歳出増1.6兆円、社会保障費増1.5兆円を「目安」とし、歳出改革を断行するとした。公共サービス、社会保障の「営利産業化」を掲げるこの方針は、「削減額」が明示されないためか反発が目立ないが、実は小泉内閣時代を大幅に上回る規模となる。この間に2回の診療報酬改定を控えマイナス改定は必至であり、既に予告がなされている。しかも受診時定額負担の診療所での導入を念頭においており、医療機関、患者双方への「痛み」を強いることになる。われわれは医療荒廃をもたらす、この給付圧縮路線に強く反対する。

◆そもそも社会保障費の伸びの数字がオカシイ 消費税分の充実分は1.85兆円の筈

 骨太方針2015では、2012年度から15年度までの3年間の社会保障費(国庫負担)の実質的な「増額分」が、高齢化での増加分相当の「1.5兆円程度」であるとし、この基調を向こう3年間継続するとした。2015年度の社会保障費31.5兆円から12年度分28.9兆円を差し引き、その間の消費税増税による社会保障充実分を1.0兆円とし1.5兆円と弾いたものである。

 しかし、消費税での充実分は本来1.85兆円(14年度0.5兆円、15年度1.35兆円)である(社会保障制度改革推進本部・資料)。つまり、「真実」の増加分は「0.65兆円」(3年間)でしかない。これは単年度2,100億円と、これまでの高齢化を主とする1兆円~8千億円の増額基調を遥かに下回る。

 この間13年度は自立・自助を基調とする社会保障プログラム法制定、14年度は診療報酬実質▲1.36%改定、高齢者医療の患者2割負担導入、15年度は介護報酬▲2.27%改定、介護保険の利用者負担2割化(一部)とホテルコスト外しが行われてきた。これらに重ね個人所得の低迷の下で、従来の患者負担、利用者負担が、益々過重化していることが影響し、大幅な給付圧縮がなされたことになる。

 骨太方針により、この「基調」を15年度から18年度も踏襲される。つまり、これらと同類の施策の断行を意味する。今後の消費税の充実分(推定)は6兆円程度(16年度1.35兆円、17年度1.87兆円、18年度2.8兆円)となっており、この「充当」は一体改革の「約束」である。消費税率引き上げ5%分のうち1%分(2.7兆円)は社会保障の充実にあてることになっている(財務省HP)。

 しかし、既に見た通り、「充実分」を「過小」に見積り、数字の操作で社会保障費の実質増額分を誤魔化し圧縮の論拠とすることは想像に難くない。2月の「中長期の経済財政に関する試算」(経済財政諮問会議・資料)では、「充実分」は全て織り込まれておらず、逆に3年間で4兆円のマイナスギャップが生じている。消費税「充実分」と「補填分」を誤魔化した14年度診療報酬改定は、その典型である。3年間の高齢化伸び率10%分への対応が1.5兆円というのも過去の資料と齟齬がある。

 消費税による「充実分」の「中抜き」だが、法人税の20%台への引き下げが背景にある。今年度34.62%が32.11%へ引き下げられたが(影響額1兆2千億)、数年かけ20%台とする方向で当初税率から5%、2兆3,500億以上の減収となる。この穴埋めが浮上する。加えて、2020年度のプライマリーバランス黒字化への国債発行の減殺分への補填が働いている感がある。約束の「充実分」が、流用され、減らされていくということである。

◆診療報酬は▲5%超改定? 受診時定額負担は政策誘導の新たな「打ち出の小槌

 社会保障費の削減の主力は構成上、制度上から医療となる。この3年間に2度の診療報酬改定が控えるが、骨太方針2015に沿い報道観測の年5千億円削減だと、国庫で計1兆円(5千億円×2回)の▲10%改定に匹敵し、毎回ほぼ▲5%改定の壊滅的な打撃となる。正味の年8千億円なら1.6兆円で▲16%、毎回ほぼ▲8%であり、毎年1カ月分の保険収入が雲散霧消することになる。

 しかも、かかりつけ医の推進とセットでの受診時定額負担の導入が「検討」の文言ながら盛り込まれた。これは先般、国会で法律が成立し導入となった、紹介状なしでの大病院受診の際の定額負担(選定療養の義務化)の手法の応用が濃厚だ。健保法附則で患者負担は3割を維持とタガがはまっている中での荒技として考案されたが、法で「医療機関の責務」として紹介、連携を規定し、それを果たすために法定の定率負担を超えて、差額で定額負担の徴収を療養担当規則で義務づけたものだ。

 「かかりつけ医」とは、14年度診療報酬改定で導入された、「地域包括診療料」「地域包括診療加算」の算定医療機関であり、塩崎厚労大臣も次回改定に向け積極的な推進を明言している。この不算定の医療機関の場合に再診料を10点引き下げ、100円の受診時定額負担を選定療養として義務付ける。法の責務規定に診療所の役割を位置づけ、その要件を欠く場合の定額負担徴収が考えられる。

 「地域包括診療料」「地域包括診療加算」は、ゲートキーパー(振分け機能)型と違う"自己完結型"の「登録医」制である。受診医療機関の集約化の狙いも潜んでいる。この算定医療機関は、全診療所の6%(内科系診療所の10%)あり、診療所の初診・再診は年間109.5億回なので、定額負担100円とし再診料10円引き下げるとなれば、医療費1兆円弱(国庫で2,500億円)に相当する。この選定療養義務化は、実質的な受診時の定額負担、「上乗せ免責」であり、健保法を逸脱している。患者負担増の打ち出の小槌、政策誘導の新機軸ともなり受診抑制と医療機関の経営難を深化させるだけである。

◆産業化は医療からの「医師外し」路線 倒錯した政策は憲法25条の否定

 骨太方針2015は、これ以外にも、OTC類似薬の保険外し、生活習慣病薬への参照価格制導入、保険者によるデータヘルス(栄養士、理学療法士等による健康指導、介入)、健康ヘルス産業と結んだ健康作り(自助努力)による保険料の値引き(傾斜設定)やヘルスポイント(オマケ)付与、セルフメディケーションの推進、自己採血検査を医療機関以外に認める「検体測定室」の増加を睨んだ「かかりつけ薬局」との連結など、給付範囲見直し・縮小に止まらず、疾病リスクに応じた保険商品と同様の民間保険原理の導入・定着、医療からの医師の関与を部分的に外し、「企業」へと移譲させる布石も随所に見られる。ここで言われる「社会保障の産業化」は、「営利産業化」であり、社会保障費抑制が経済活性化に資するとする認識は、もはや「倒錯」以外の何ものでもない。憲法25条の否定である。

◆患者負担は限界 顕著な受診抑制窓口負担を解消し政策転換を

 社会保障費の極端な圧縮は、医療において顕著である。その主因は過重な患者負担による受診抑制にある。健保3割負担以降の受診延日数は一貫してマイナス基調であり、累積で、▲6.6%と大幅減である(03年度▲1.4%、04年度0.1%、05年度▲0.3%、06年度▲0.7%、07年度▲0.9%、08年度▲1.3%、09年度▲0.6%、10年度0.1%、11年度▲0.1%、12年度▲0.9%、13年度▲0.8%)。1施設あたりの受診延べ日数は同様の累積で医科診療所▲7.1%、歯科診療所▲6.5%と、第一線医療でより顕著である。患者の診療実日数(月単位)も診療所外来で03年度2.11日から14年度1.65日へと▲21.8%、歯科で03年度2.44日から1.92日へと▲21.3%と極端に落ち込んでいる。

 サラリーマンの平均給与は健保2割負担となった1997年の467万円がピークで、以降、凋落の一途で2013年度は414万円(非正規168万円)と50万円以上も下落(国税庁)。非正規労働者も当時の20%から37%に増加、1,962万人に上っている。日医調査(12年)では3割負担で66.5%、2割負担で58.3%の患者が過重感を訴え、経済的理由での過去一年間の未受診は双方で10%ずつあった。

 これ以上の受診時の負担増、保険給付縮小、民間保険化路線では早晩、医療荒廃は必至となる。内需の冷え込みは深刻となり財政再建は画餅に帰す。患者負担は受診の障壁、疾病自己責任の最たるものであり、貧困者はじめ経済的余裕のない層の病気を一層悪化させる愚策である。多くの先進国にならい、定率負担の撤廃、少額定額負担など痛痒を感じない水準も視野に、窓口負担を解消し、皆保険に相応しく、等しく受診の機会を保障すべきである。そのために応能負担の徹底、所得再分配の強化を図ることが王道であり、それこそが社会不安の解消、経済活性に繋がる道である。骨太方針2015は単なるコストシフティングと、社会保障への営利参入である。われわれは骨太方針2015の撤回、方針転換を強く求める。

2015年7月6日