各科交流会 テーマ「児童虐待」

「先入観が虐待を見逃す」 参加者から"気づきの声"続々と

 2月8日に行った第14回日常診療経験交流会(2月25日号に掲載)における各科交流会は、『児童虐待』をテーマに開催。伊勢原市で児童虐待に関するNPOを立ち上げ精力的に活動する山田内科胃腸科クリニック・副院長の山田不二子氏が「一次医療機関としての児童虐待への対応」をテーマに講演した。

 協会では04年秋以降、虐待の早期発見・通報が義務付けられている医療機関としての基礎知識の習得・啓発を目的とし、7回の研究会と2回のシンポジウムを開催してきた。今回はこれまで研究会等に参加したことのない層の参加が多く見られ、自身の日常診療における経験として、"虐待を疑った"事例がフロアから多く出された。講演内容を紹介するとともに、当日の参加者より参加記をお寄せいただいたので掲載する。

明らかな虐待は児相、疑わしいケースは市町村へ

 山田氏は冒頭、先輩医師の言葉を引き「子どもを診るときわれわれは、肺炎よりも虐待のケースを多く診ている可能性があることを心に留めてほしい」と虐待を疑う目を持つことの重要性を訴えた。身体的虐待を疑うべき状況として、①外傷所見と保護者の説明が矛盾、②保護者の説明がコロコロ変わる、③受傷後の受診が遅い-等の特徴を挙げた上で、「明らかな外傷がある場合はなるべく児童相談所へ、"怪しい"という段階なら市町村の児童相談担当へ通報を」と呼びかけた。また鑑別診断のテキストとして、「日本小児科学会子ども虐待診療手引き」を紹介した。

入院させて子どもを保護する

 また明らかな虐待事例に遭遇した場合の診療所の対応として、「子どもの身柄を安全なところに確保するため、病院に入院させることが有効」と言及。関係者が集まってのケース検討会に参加するよう言われたが外出が負担となる場合は、自院にて開催してもらう方法もあると紹介した。

"医療ネグレクト"は医療関係者が扱う特殊な虐待

 写真を用いた鑑別診断では、"スラッピングマーク(平手打ちの跡)"、"シガレットバーン(たばこの押し付け)"、"らせん状骨折(雑巾絞りをすることによって起こる骨折)"など、虐待の特徴的な外傷について詳述。加害行為に使われたもの(凶器)の形体がわかるような痣や傷が複数存在する場合は、虐待を疑うことができると解説した。

 乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)については、激しく揺さぶられることにより頭蓋内出血、脳浮腫、網膜出血を起こすと説明。このほか、医療者が関わる特殊な虐待の種類として、親が子どもに必要な医療を受けさせない"医療ネグレクト"、子どもに手を加え病気を捏造する"代理によるミュンヒハウゼン症候群"を紹介し、後者については「医療従事者は加害親の共犯者にされうるので要注意」と警鐘を鳴らした。

障害児は虐待のリスク大

 質疑応答では、参加者から自らの経験談や質問が多く出された。ある在宅医は寝たきりの子どもが骨折を繰り返した例について、「栄養障害なのか、虐待なのか判断しかねた」と報告。またある皮膚科医からは毛髪をむしる児童を診察したところ、性的虐待が判明した事例が報告された。

 このほか座長を務めた三宅捷太氏(みどりの家診療所所長)は「障害児は健常児と比較し虐待を受けるリスクが10倍」と、自身が児童相談所所長を務めた当時の横浜市のデータを示し、最近の傾向として発達障害など軽度の障害が親に理解されず、虐待に繋がるケースが多いことが紹介された。

参加者からの感想

『虐待の問題点を再認識』  鎌倉市 濱名哲郎

 私達がまず眼が行くのは、講演の最後に見せていただいた親による子どもに対する虐待の症例写真です。これらは道具に依って叩かれた皮膚の傷や、大人が平手で打った子どものやわらかい頬に残った手の痕、眼部を殴打後の結膜出血や眼窩底骨折、そして子どもの体幹を持ってゆさぶる事で起る頭蓋内出血やその時に体感を強く押えたことでの肋骨骨折がある。この様な虐待に特徴的な障害写真を見ていると、虐待を行った側の親にも問題があると気付かされる。親が自らの両親から受け継がれた体罰を当然と考える教育観や、逆に子どもに対しての無関心、子育てで自らの感情を制御不良な親もある。私達が普段に漠然と考えていた児童虐待について、わかりやすく整理していただきました。ご講演有難うございました。

 

『親がそんなことをするはずない』先入観あった  南区 鵜養宏

 児童虐待をテーマにした分科会に初めて参加しました。そこで映し出された子供たちの虐待のキズを見て「ひどいことをするなあ」というのが第一の感想です。

 小児の外来に感冒・腹痛便秘・湿疹・発疹などを訴えてくる子どもたちを毎日診ていても、今までは暴行を受けた傷痕に遭遇していないように思っていました。

 しかし山田先生の話を聴いたり記事を拝見したりしてみると、児童相談所の児童虐待相談件数が4万件を突破しているのに医療機関からの通告はほんのわずかであるということには何らかの問題があるのかもしれないと思いました。先生が書いていらっしゃるように「親が子どもに対してそんなひどいことをするはずがない」という先入観と理想があり、それが大前提で医療を行なっていると気づきました。今後は虐待を念頭において注意しながら診療していこうと思います。


 (事前の案内文)

 医科の各科、歯科の先生方がひとつのテーマで意見交換できる場として各科交流会を開催いたします。

  

 今回の交流会テーマは「児童虐待」です。

 子どもが犠牲になる事件が後を絶ちません。児童虐待は、社会全体、地域全体で予防していく必要があるのではないでしょうか。今回の交流会では、医療機関において児童虐待を疑うポイント、また虐待事例に遭遇した場合、どの関係機関と、どのように連携をとっていけばよいのかなど、山田不二子先生に話題提供していただきます。

 「この外傷は不自然だな」「あの親子、何だかおかしいな」など感じたことはありませんか。子どもたちの健やかな成長のために、明日から私たちに出来ることを探したいと思います。

 医師・歯科医師の先生のみならず、コ・メディカルの方など、是非ご参加下さい。

時 間  16:00~16:50 

会 場  演題発表ゾーン(会場レイアウトを参照

話題提供  医療法人三彦会 山田内科胃腸科クリニック副院長  山田 不二子氏

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